上 下
24 / 27
番外編

IFノアーク編【前編】

しおりを挟む
「俺を前の家に戻してください」

事の始まりはノアークのこの発言が発端だった。
ユリクス家当主の部屋に、男が二人真剣な表情を浮かべて向き合っていた。一人はティアーヌの実父でもある現当主。もう一人は次期当主であるノアークだ。

順当にいけば間違いなく次の当主はノアーク。
けれど、ここにきてノアークはいずれ手に入るであろう地位や名誉も捨てるような発言をした。現当主はノアークの真意を探ろうとノアークを見つめる。
一方の問題発言をしたノアークはと言えば、飄々とした表情を浮かべていた。
全く読めない顔。いったい誰に似たのだと嘆息する現当主。この場にティアーヌがいたのなら「それはお父さまでしょう」と呆れた顔で言ったことだろう。

現当主はキリッとした顔でノアークに告げる。

「それはできん。何のためにお前を我が家に引き取ったと思っている。いまさら、私は当主を他の者に譲る気はない」

話は以上だ、と現当主が半ば強制的に切り上げようとしたところでノアークが訂正した。

「もちろん当主は私が引き継ぎますよ。ただ、一旦私の籍を他に移してほしいだけです」

現当主は眉根を寄せ、ハッと目を開く。

「おまえ、まさか……。っ本気なのか?」
「はい。お義父さんの計画通り次の当主には俺がなります。婿として。愛娘を外に出さずにすみますし、いい話だとは思いますが?」

あくまで提案だという体で話しながらも、現当主がこの提案を断るわけがないという自信がノアークにはあるようだった。悔しいが、その通りだ。威厳を保つ為にも現当主は感情を表には出さずにそっけなく言い放った。

「ティアーヌが同意しているのならば構わん」
「わかりました。では、説得し終わりましたら二人で報告しにきますね」
「え?」

――――まだ同意を得ていなかったのか?!

待ったをかけようとする前に、ノアークは頭を下げさっさと退出してしまった。
はあ、と思い溜息が口から漏れる。机の上に肘をつき、両手を組み、その上に己の顎をのっけた。思案する時のお決まりポーズだ。

確かにノアークの提案は当主としても一人の父親としても魅力的だ。
不安は多少あるが、昔からティアーヌに思いを寄せていたノアークのことだ。きっと酷いことはしないだろう……多分。

それに……どうしても嫌ならティアーヌは断るだろう。ティアーヌには結婚相手を自由に選ぶ権利があるのだから。

……今までのノアークの言動が頭を過る。――――一応、ダメだった場合の案も考えておくか。
現当主はいそいそとペンと紙を取り出して唸り始めた。

――――――――

「ノアーク。ふざけてないでここから出して頂戴!」

ユリクス家の一室。その部屋の存在を知るものは少ない。使用人達ですら極一部の者しか知らないくらいだ。窓一つなくドアも認証魔法で開けられる人物は限られている特別な部屋。
ティアーヌはその部屋に閉じ込められていた。

訳もわからず閉じ込められたティアーヌはノアークに対して激しい怒りを覚えていた。
感情を露わにして睨みつけるが、ノアークは全く怯みもしない。
むしろ、この状況を楽しんでいるかのように、おもむろに手を伸ばしてティアーヌの髪の毛を掬い上げると口づけを落とした。

眉根を寄せるティアーヌに熱い視線を向ける。

「ティアーヌが俺のモノになると言うならここから出してあげるよ」
「だから、そんなの無理よ! 私はノアークのことをにみたことないもの! だいたいこんなことをしておいて私が快諾するとでも思ってたの?! こんなのたとえ家族だとしても許されないわよ!」
「なら、ここからは一生出してあげられないね」
「あんたおかしいわよ。いったい何を企んでるの? だいたい何日も姿が見えなかったらお父様にもバレるわよ」 

疲れたように呟くティアーヌにノアークはニッコリと微笑みかける。そして、ティアーヌの髪を耳にかけると、残酷な言葉を囁いた。

「俺はただティアーヌが欲しいだけだよ。それと、お義父さんには先に許可をとってあるから大丈夫」

ティアーヌの思考がピタリと止まる。ゆっくりと信じられないものを見るようにノアークを見上げた。ノアークはティアーヌの反応に愉快そうに笑いを溢した。

「ふふ。後はティアーヌが俺を受け入れてくれるだけなんだよ」

何となく身の危険を感じたティアーヌは暴れて逃げ出そうとしがあっさり捕まえられた。腕をベッドの上で括られ、口には猿ぐつわまでされてしまった。

「あーあ。素直に受け入れてくれたらこんなことまでしなくてもよかったのに。俺だって本当は好きな子には優しくしたいんだよ?」

胡散臭い笑みを浮かべながらティアーヌの柔肌を撫でるノアーク。すでに服は剥ぎ取られているので直に感触が伝わってくる。生理的な涙がこみあげてきてせめてもの抵抗で睨みつけたが、ノアークはそんなティアーヌの態度にさえうっとりと頬を染めた。

ゾクリと背筋が凍る。異常なまでの執着心が透けてみえてこの場から一刻も早く逃げ出したかった。
けれど、残念ながら逃げられそうもない。
熱い視線がティアーヌをとらえ、ゆっくりと近づいてくる。ギュッと目を閉じれば、唇に熱い吐息がかかり、逃げる間もなく唇を塞がれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】白と黒の執着 ~モブの予定が3人で!?~

茅野ガク
恋愛
コメディ向きの性格なのにシリアス&ダークな18禁乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私。 死亡エンドを回避するためにアレコレしてたら何故か王子2人から溺愛されるはめに──?! ☆表紙は来栖マコさん(Twitter→ @mako_Kurusu )に描いていただきました! ムーンライトノベルズにも投稿しています

【R18】悪役令嬢(俺)は嫌われたいっ! 〜攻略対象に目をつけられないように頑張ったら皇子に執着された件について〜

べらる@R18アカ
恋愛
「あ、やべ。ここ乙女ゲームの世界だわ」  ただの陰キャ大学生だった俺は、乙女ゲームの世界に──それも女性であるシスベルティア侯爵令嬢に転生していた。  シスベルティアといえば、傲慢と知られる典型的な“悪役”キャラ。だが、俺にとっては彼女こそ『推し』であった。  性格さえ除けば、学園一と言われるほど美しい美貌を持っている。きっと微笑み一つで男を堕とすことができるだろう。 「男に目をつけられるなんてありえねぇ……!」  これは、男に嫌われようとする『俺』の物語……のはずだったが、あの手この手で男に目をつけられないようにあがいたものの、攻略対象の皇子に目をつけられて美味しくいただかれる話。 ※R18です。 ※さらっとさくっとを目指して。 ※恋愛成分は薄いです。 ※エロコメディとしてお楽しみください。 ※体は女ですが心は男のTS主人公です

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

悪役令嬢、肉便器エンド回避までのあれこれ。

三原すず
恋愛
子どもの頃前世が日本人の記憶を持つイヴァンジェリカがその日思い出したのは、自分が18禁乙女ゲームの悪役令嬢であるということ。 しかもその悪役令嬢、最後は性欲処理の肉便器エンドしかなかった! 「ちょっと、なんでこんなタイムロスがあるの!?」 肉便器エンドは回避できるのか。 【ハピエンですが、タイトルに拒否感がある方はお気をつけ下さい】 *8/20、番外編追加しました*

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

18禁乙女ゲーム…ハードだ(色んな意味で)

ヴィオ
恋愛
高校3年、見た目よし、パッと見大人しめ、中身はテンション高めの主人公。でも、周りからは妬まれ、虐められていた。 ある日、実の父親に母親と一緒に殺されてしまう。 変な女神から哀れまれ転生させられたのは前世でやっていた乙女ゲームの悪役令嬢で… ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※作者は心が弱いです ※ご都合主義です ※内容はほぼ無いです ※頭を空っぽにして読んでください ※カメさんです 感想聞くのやめます。

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

処理中です...