18 / 27
番外編
IFシュベルツ編【前編】
しおりを挟む
シュベルツにとって昔から勉強は容易いことだった。小さな時から一度見聞きしたことは覚えることができたし、理解することも呼吸するのと同じくらいに簡単にできていた。そのせいで周りから神童だと言われたこともあったが、本人にとってはどうでもいいことであった。
だが、今シュベルツはそのことに感謝を覚えていた。
空き教室で一人、ティアーヌは座って教師が来るのを待っていた。数日休んだ分を取り戻すための補講を受けないといけないからだ。
ガラリと開いたドアに反射的に立ち上がり挨拶をしようとしたが、入ってきた人物はティアーヌが想像する人物ではなかった。思わず驚きと戸惑いで固まる。
現れたのは先生ではなく、何故かシュベルツだった。
『何故?』と首を傾けたティアーヌにシュベルツは微笑み、その理由を教えてくれた。
どうやら、本来ティアーヌに教えてくれるはずだった教師は急に外せない予定が入ったらしく、教師と遜色ない知識を持っているシュベルツが代わりに教えてくれることになったらしい。
個人的には先生より年の近いシュベルツに教えてもらった方が緊張せずにすむので助かる。
ただ、少し敗北感も覚える。けれど、実際ティアーヌの学力はシュベルツの足元にも及ばないから仕方ない。
「そうだったんですね。私のために手間を取らせてしまい申し訳ありません」
「とんでもない。むしろ、役得ですよ」
シュベルツはティアーヌに席に座るよう促し、隣の机をくっつけ、横に座った。一瞬身構えてしまったティアーヌだが、シュベルツがただ真面目に教えてくれようとしているだけだということにすぐに気づき姿勢を正す。――――自意識過剰だったわ。あまりにも真剣なので反省すら覚えた。
シュベルツの説明は教師以上にわかりやすく要点をついておりティアーヌは感心した。しかも、シュベルツはティアーヌ用にノートまで作ってきてくれていたのだ。もちろん、ここまでするのは相手がティアーヌだからこそなのだが。そんなことは知らないティアーヌは終始シュベルツに感謝し通しだった。
「これで休んでいた分は一通り終わりましたね。お疲れ様です」
シュベルツは一度眼鏡を外してレンズを拭きながら笑いかけた。ティアーヌは『いえ』と微笑みながらシュベルツをジッと見つめる。シュベルツは小首を傾げた。
ハッと我に返って頬が熱くなる。
ティアーヌがシュベルツの素顔を見るのはこれが初めてだった。だから、その美貌につい見惚れてしまったのだ。
――――シュベルツ様って少女漫画を地で行く人だったのね! さすが乙女ゲームの攻略対象者! 眼鏡を外すと美人さんなんて……女の私より綺麗だし……。
そこまで考えて軽く落ち込んでしまう。
目ざとくティアーヌの変化に気づいたシュベルツが尋ねる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、すみません。ジロジロ見たりして……不愉快でしたよね」
「いえ、あなたから見つめられるのは嬉しい限りですよ。あ、そうでした。ティア、紅茶をどうぞ。実はこの紅茶は我が領で取れた茶葉を使って作ったものでして、うちの特産品にしようか検討しているものなんです。ぜひ、ティアにも感想をお聞かせ願いたいと思って持ってきました」
「そうなんですね。私でよければもちろん、協力いたします。それにしてもいい香りですね。通常のものより香りが濃い気がします。……いただきます」
ティアーヌはゆっくりと時間をかけて、紅茶を堪能した。
香り高い紅茶は癖が強いのかと思えば、想像していたものとは違い、むしろ癖がなく飲みやすい。これなら売れるだろう。
「素晴らしいですね。とても飲みやすく美味しかったです。ただ、匂いに敏感な方は苦手かもしれませんね」
思案しながらティアーヌは率直に感じたことを述べた。シュベルツは嬉しそうに微笑む。
「なるほど。私はこの匂いが良いと考えていましたが、確かに一般受けする匂いとは言い難いかもしれませんね。匂いをもう少し抑えられないか試してみます。貴重な意見ありがとうございました」
「いえいえ! …………っ?」
「……どうか、されましたか?」
「あ、いえ……あったかい紅茶をいただいたからかいたら、少々暑くなってしまって……」
ティアーヌは行儀悪いと思いながらも、耐え切れずシュベルツに一言断ってから教科書で自分を扇ぐ。風がひやりと感じて身体がぶるりと震えた。
――――風邪でも引いたのかしら。シュベルツ様には移さないようにしないと。
シュベルツはティアーヌをジッと観察するように見つめていたがティアーヌは頭の奥がぼんやりとして気づかなかった。そっと離れようとして身体がぐらりと揺れ、シュベルツがティアーヌの身体を支える。
「……大丈夫ですか?」
「あ、すみませ……ん」
シュベルツの胸元にもたれかかるティアーヌ。支える腕に力が入ったが、すでに意識が朦朧としているティアーヌには気づくことも抵抗することもできなかった。落ちてくる瞼にあらがえない。
すぐ傍に捕食者の目をした獣がいることにも気づかずティアーヌは意識を失った。
だが、今シュベルツはそのことに感謝を覚えていた。
空き教室で一人、ティアーヌは座って教師が来るのを待っていた。数日休んだ分を取り戻すための補講を受けないといけないからだ。
ガラリと開いたドアに反射的に立ち上がり挨拶をしようとしたが、入ってきた人物はティアーヌが想像する人物ではなかった。思わず驚きと戸惑いで固まる。
現れたのは先生ではなく、何故かシュベルツだった。
『何故?』と首を傾けたティアーヌにシュベルツは微笑み、その理由を教えてくれた。
どうやら、本来ティアーヌに教えてくれるはずだった教師は急に外せない予定が入ったらしく、教師と遜色ない知識を持っているシュベルツが代わりに教えてくれることになったらしい。
個人的には先生より年の近いシュベルツに教えてもらった方が緊張せずにすむので助かる。
ただ、少し敗北感も覚える。けれど、実際ティアーヌの学力はシュベルツの足元にも及ばないから仕方ない。
「そうだったんですね。私のために手間を取らせてしまい申し訳ありません」
「とんでもない。むしろ、役得ですよ」
シュベルツはティアーヌに席に座るよう促し、隣の机をくっつけ、横に座った。一瞬身構えてしまったティアーヌだが、シュベルツがただ真面目に教えてくれようとしているだけだということにすぐに気づき姿勢を正す。――――自意識過剰だったわ。あまりにも真剣なので反省すら覚えた。
シュベルツの説明は教師以上にわかりやすく要点をついておりティアーヌは感心した。しかも、シュベルツはティアーヌ用にノートまで作ってきてくれていたのだ。もちろん、ここまでするのは相手がティアーヌだからこそなのだが。そんなことは知らないティアーヌは終始シュベルツに感謝し通しだった。
「これで休んでいた分は一通り終わりましたね。お疲れ様です」
シュベルツは一度眼鏡を外してレンズを拭きながら笑いかけた。ティアーヌは『いえ』と微笑みながらシュベルツをジッと見つめる。シュベルツは小首を傾げた。
ハッと我に返って頬が熱くなる。
ティアーヌがシュベルツの素顔を見るのはこれが初めてだった。だから、その美貌につい見惚れてしまったのだ。
――――シュベルツ様って少女漫画を地で行く人だったのね! さすが乙女ゲームの攻略対象者! 眼鏡を外すと美人さんなんて……女の私より綺麗だし……。
そこまで考えて軽く落ち込んでしまう。
目ざとくティアーヌの変化に気づいたシュベルツが尋ねる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、すみません。ジロジロ見たりして……不愉快でしたよね」
「いえ、あなたから見つめられるのは嬉しい限りですよ。あ、そうでした。ティア、紅茶をどうぞ。実はこの紅茶は我が領で取れた茶葉を使って作ったものでして、うちの特産品にしようか検討しているものなんです。ぜひ、ティアにも感想をお聞かせ願いたいと思って持ってきました」
「そうなんですね。私でよければもちろん、協力いたします。それにしてもいい香りですね。通常のものより香りが濃い気がします。……いただきます」
ティアーヌはゆっくりと時間をかけて、紅茶を堪能した。
香り高い紅茶は癖が強いのかと思えば、想像していたものとは違い、むしろ癖がなく飲みやすい。これなら売れるだろう。
「素晴らしいですね。とても飲みやすく美味しかったです。ただ、匂いに敏感な方は苦手かもしれませんね」
思案しながらティアーヌは率直に感じたことを述べた。シュベルツは嬉しそうに微笑む。
「なるほど。私はこの匂いが良いと考えていましたが、確かに一般受けする匂いとは言い難いかもしれませんね。匂いをもう少し抑えられないか試してみます。貴重な意見ありがとうございました」
「いえいえ! …………っ?」
「……どうか、されましたか?」
「あ、いえ……あったかい紅茶をいただいたからかいたら、少々暑くなってしまって……」
ティアーヌは行儀悪いと思いながらも、耐え切れずシュベルツに一言断ってから教科書で自分を扇ぐ。風がひやりと感じて身体がぶるりと震えた。
――――風邪でも引いたのかしら。シュベルツ様には移さないようにしないと。
シュベルツはティアーヌをジッと観察するように見つめていたがティアーヌは頭の奥がぼんやりとして気づかなかった。そっと離れようとして身体がぐらりと揺れ、シュベルツがティアーヌの身体を支える。
「……大丈夫ですか?」
「あ、すみませ……ん」
シュベルツの胸元にもたれかかるティアーヌ。支える腕に力が入ったが、すでに意識が朦朧としているティアーヌには気づくことも抵抗することもできなかった。落ちてくる瞼にあらがえない。
すぐ傍に捕食者の目をした獣がいることにも気づかずティアーヌは意識を失った。
1
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
悪役令嬢、肉便器エンド回避までのあれこれ。
三原すず
恋愛
子どもの頃前世が日本人の記憶を持つイヴァンジェリカがその日思い出したのは、自分が18禁乙女ゲームの悪役令嬢であるということ。
しかもその悪役令嬢、最後は性欲処理の肉便器エンドしかなかった!
「ちょっと、なんでこんなタイムロスがあるの!?」
肉便器エンドは回避できるのか。
【ハピエンですが、タイトルに拒否感がある方はお気をつけ下さい】
*8/20、番外編追加しました*
R18、アブナイ異世界ライフ
くるくる
恋愛
気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。
主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。
もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。
※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。
贖罪の悪役令嬢 ~66回の処刑の果てに、なぜか監禁束縛ルートに入りました~
空月
恋愛
マーガレットは、65回処刑された記憶のある『悪役令嬢』だ。
神が――世界がさだめた筋書きに従って、『悪役令嬢』を演じ、処刑されてきた。
しかし、国外追放の刑になった66回目は何かおかしくて――?
「ただ、お前がほしかったからだ――と言って信じるか?」
帝国の皇子に身柄を引き渡されたマーガレットは、その先で組み敷かれ、強姦される。
皇子の執着も、その理由も知らぬままに。
転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。
シェルビビ
恋愛
明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。
いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。
監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。
元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。
しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。
「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】白と黒の執着 ~モブの予定が3人で!?~
茅野ガク
恋愛
コメディ向きの性格なのにシリアス&ダークな18禁乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私。
死亡エンドを回避するためにアレコレしてたら何故か王子2人から溺愛されるはめに──?!
☆表紙は来栖マコさん(Twitter→ @mako_Kurusu )に描いていただきました!
ムーンライトノベルズにも投稿しています
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる