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第十一夜
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リリアは嬉々として廊下を歩いていた。最近冷たかったユーリウスから生徒会室へとお誘いがあったからだ。他の皆もリリアの為に集まってくれるという。
すっかりシナリオが崩壊したと思っていたリリア。けれど、あることに気づき、それは自分の早とちりだったのだという考えに思い至った。
最近イライラしていたせいですっかり忘れていたけど……数日後には私の誕生日があるじゃない。きっと、私の為にサプライズでお祝いの準備をしてくれていたのね。そんなことだとは知らなかったから、皆に酷い態度を取っちゃってた……。せめてものお詫びに、まだ何も気づいてないフリしていっぱい驚いたフリをしてあげなくっちゃ! 皆が私の為にどんなサプライズを用意してくれているのか楽しみだわ。
生徒会室の扉の前に立つ。にやけそうになる顔を抑えてリリアは普段しないノックをして返事がくるのを待った。
しばらくしてから中からユーリウスの声が聞こえてくる。
入室許可が出たので、さっそくリリアはいつも通りを意識して扉を開いた。
中にいたのは攻略対象達。リリアの予想通りだ。
ユーリウスが微笑みを浮かべながらリリアを招く。
促されるままリリアはソファーに腰かけた。いつから用意していたのか、シュベルツがさっとリリアの好きな紅茶を出してくれる。
リリアは目を輝かせて口をつけた。――――ああ、やっぱり美味しい。
この紅茶を飲むのも久しぶりだ。自分ではとても買えない茶葉なので、ここでしか味わえない代物。
ホルンはユーリウスとは反対のリリアの隣に座り、面白おかしい話題を提供してくれる。
ノアークとアーベルトは向かいに座って、にこにことリリアの話に耳を傾けている。
――――そう! これよこれ!
求めていた逆ハーにリリアは高揚する気持ちを抑えられなかった。
――――やっぱり、私はヒロインなのよ!
リリアが自信を取り戻して悦に浸っている隙に、シュベルツは時間を確かめ、ユーリウスに目配せをした。
ユーリウスは軽く頷くと、リリアの話を遮り、手を取った。不意打ちをくらったリリアはピタリと喋りを止める。
「リリア、正直に答えてほしい」
「うん? なあに」
「君の……目的は何だ?」
突然のユーリウスからの質問をリリアは理解できなかった。戸惑い、助けを求めるように周りへと視線を向ける。しかし、誰一人としてリリアに応える者はいない。それどころか、皆リリアを観察するようにじっと見つめていた。
言い様の無い不安に襲われる。
「な、何? どうしたの? なんで皆、そんな目でリリアを見るの?!」
「リリア、君は『魅了の術』を使えるね? 俺達を手駒にして何をするつもりだったんだ?」
「魅了の術? 何それ知らない! 私、そんなもの知らないよ」
必死になって首を横に振るリリア。事実、リリアは乙女ゲームの知識を持っているだけで、そのストーリーの背景にある詳細な内容は覚えていなかった。頭の中に残っていたのは攻略に必要な知識だけ。
けれど、そんなことは知らない男達は責めるようにリリアを見ている。耐え切れなくなったリリアは叫ぶように弁解を始めた。
「私はただ、ヒロインに相応しい行動を選択しただけ! 魅了の術なんて使ってない。皆が私を好きになるのは当然のことでしょう?! なんで皆そんな怖い顔してるの? 意味わかんない。私は何も悪いことなんてしてないよ!」
息を切らして涙目になっているリリアを男達は各々複雑な心境で見つめる。その顔に浮かんでいるのは困惑や警戒、憐み、とリリアにとっては全く望んでいないものばかりだった。
「はあ。無自覚の上、精神疾患を患っているのか? ……やっかいだな」
ユーリウスがリリアの手を放し、溜め息を吐く。ホルンは首をかしげてシュベルツに確認した。
「おまえ、ちゃんと自白剤入れたんだろ?」
「ええ。一番効き目の良いものを使いましたから、少なくとも彼女にとって本心かと」
「はー。なおさら、野放しにはできねぇな」
「危なかったね。このまま放置してたら被害が拡大してたかも」
アーベルトは眉をしかめてリリアへと冷たい視線を向けた。ビクリとリリアは震える。
思わず、救いの目をノアークに向けた。この中では一番仲良くしているつもりだったし、今だってノアークだけはリリアに何も言ってこない。だからきっと助けてくれる……そう思っていた。
けれど、ノアークの目を見て、その考えが甘かったことに気づく。
無感情な目はリリアを見ているようで見ていない。
いや、無感情というよりこれは……リリアが後退ろうとした瞬間、ノアークが瞳孔の開いた眼でリリアを捕らえた。
「何もしてない? 俺が何も知らないとでも思っているのか? おまえは俺達を手に入れるためにティアーヌにいくつもの濡れ衣をかけただろう。おまえは決して犯してはいけない罪を犯したんだよ」
飲み込まれそうな殺意にリリアは息の仕方を忘れ、ガタガタと震え始める。そんなリリアを見てこれ以上聞き出すのは無理だと判断したユーリウスは右手を上げた。
「もういい。連れていけ。俺達もすぐに別の馬車で城へと向かう」
待機させていた王国騎士がリリアを捕らえて連れて行く。リリアは涙でぐしゃぐしゃになった顔で何かを喚き散らしているが誰もその言葉に耳を傾けようとはしなかった。
リリアが連れていかれた後、ユーリウスが立ち上がったのを機に皆も立ち上がる。
自然に各々の視線がぶつかり合い、火花が散った。
今、ここにいる全員がティアーヌを巡る恋のライバルだということを自覚している。
シュベルツから『夢渡りの巫女』について聞かされた時に、ティアーヌが夢の中で全員と関係を持ったことを聞かされたのだ。たとえ、夢の中とはいえ、理由があったといえ、その事実は衝撃をもたらした。耐え難い嫉妬を覚え、淡くもない恋心を自覚させるには充分だった。
男達は互いに牽制し合いながら、一言も喋ることなく、生徒会室を後にした。
すっかりシナリオが崩壊したと思っていたリリア。けれど、あることに気づき、それは自分の早とちりだったのだという考えに思い至った。
最近イライラしていたせいですっかり忘れていたけど……数日後には私の誕生日があるじゃない。きっと、私の為にサプライズでお祝いの準備をしてくれていたのね。そんなことだとは知らなかったから、皆に酷い態度を取っちゃってた……。せめてものお詫びに、まだ何も気づいてないフリしていっぱい驚いたフリをしてあげなくっちゃ! 皆が私の為にどんなサプライズを用意してくれているのか楽しみだわ。
生徒会室の扉の前に立つ。にやけそうになる顔を抑えてリリアは普段しないノックをして返事がくるのを待った。
しばらくしてから中からユーリウスの声が聞こえてくる。
入室許可が出たので、さっそくリリアはいつも通りを意識して扉を開いた。
中にいたのは攻略対象達。リリアの予想通りだ。
ユーリウスが微笑みを浮かべながらリリアを招く。
促されるままリリアはソファーに腰かけた。いつから用意していたのか、シュベルツがさっとリリアの好きな紅茶を出してくれる。
リリアは目を輝かせて口をつけた。――――ああ、やっぱり美味しい。
この紅茶を飲むのも久しぶりだ。自分ではとても買えない茶葉なので、ここでしか味わえない代物。
ホルンはユーリウスとは反対のリリアの隣に座り、面白おかしい話題を提供してくれる。
ノアークとアーベルトは向かいに座って、にこにことリリアの話に耳を傾けている。
――――そう! これよこれ!
求めていた逆ハーにリリアは高揚する気持ちを抑えられなかった。
――――やっぱり、私はヒロインなのよ!
リリアが自信を取り戻して悦に浸っている隙に、シュベルツは時間を確かめ、ユーリウスに目配せをした。
ユーリウスは軽く頷くと、リリアの話を遮り、手を取った。不意打ちをくらったリリアはピタリと喋りを止める。
「リリア、正直に答えてほしい」
「うん? なあに」
「君の……目的は何だ?」
突然のユーリウスからの質問をリリアは理解できなかった。戸惑い、助けを求めるように周りへと視線を向ける。しかし、誰一人としてリリアに応える者はいない。それどころか、皆リリアを観察するようにじっと見つめていた。
言い様の無い不安に襲われる。
「な、何? どうしたの? なんで皆、そんな目でリリアを見るの?!」
「リリア、君は『魅了の術』を使えるね? 俺達を手駒にして何をするつもりだったんだ?」
「魅了の術? 何それ知らない! 私、そんなもの知らないよ」
必死になって首を横に振るリリア。事実、リリアは乙女ゲームの知識を持っているだけで、そのストーリーの背景にある詳細な内容は覚えていなかった。頭の中に残っていたのは攻略に必要な知識だけ。
けれど、そんなことは知らない男達は責めるようにリリアを見ている。耐え切れなくなったリリアは叫ぶように弁解を始めた。
「私はただ、ヒロインに相応しい行動を選択しただけ! 魅了の術なんて使ってない。皆が私を好きになるのは当然のことでしょう?! なんで皆そんな怖い顔してるの? 意味わかんない。私は何も悪いことなんてしてないよ!」
息を切らして涙目になっているリリアを男達は各々複雑な心境で見つめる。その顔に浮かんでいるのは困惑や警戒、憐み、とリリアにとっては全く望んでいないものばかりだった。
「はあ。無自覚の上、精神疾患を患っているのか? ……やっかいだな」
ユーリウスがリリアの手を放し、溜め息を吐く。ホルンは首をかしげてシュベルツに確認した。
「おまえ、ちゃんと自白剤入れたんだろ?」
「ええ。一番効き目の良いものを使いましたから、少なくとも彼女にとって本心かと」
「はー。なおさら、野放しにはできねぇな」
「危なかったね。このまま放置してたら被害が拡大してたかも」
アーベルトは眉をしかめてリリアへと冷たい視線を向けた。ビクリとリリアは震える。
思わず、救いの目をノアークに向けた。この中では一番仲良くしているつもりだったし、今だってノアークだけはリリアに何も言ってこない。だからきっと助けてくれる……そう思っていた。
けれど、ノアークの目を見て、その考えが甘かったことに気づく。
無感情な目はリリアを見ているようで見ていない。
いや、無感情というよりこれは……リリアが後退ろうとした瞬間、ノアークが瞳孔の開いた眼でリリアを捕らえた。
「何もしてない? 俺が何も知らないとでも思っているのか? おまえは俺達を手に入れるためにティアーヌにいくつもの濡れ衣をかけただろう。おまえは決して犯してはいけない罪を犯したんだよ」
飲み込まれそうな殺意にリリアは息の仕方を忘れ、ガタガタと震え始める。そんなリリアを見てこれ以上聞き出すのは無理だと判断したユーリウスは右手を上げた。
「もういい。連れていけ。俺達もすぐに別の馬車で城へと向かう」
待機させていた王国騎士がリリアを捕らえて連れて行く。リリアは涙でぐしゃぐしゃになった顔で何かを喚き散らしているが誰もその言葉に耳を傾けようとはしなかった。
リリアが連れていかれた後、ユーリウスが立ち上がったのを機に皆も立ち上がる。
自然に各々の視線がぶつかり合い、火花が散った。
今、ここにいる全員がティアーヌを巡る恋のライバルだということを自覚している。
シュベルツから『夢渡りの巫女』について聞かされた時に、ティアーヌが夢の中で全員と関係を持ったことを聞かされたのだ。たとえ、夢の中とはいえ、理由があったといえ、その事実は衝撃をもたらした。耐え難い嫉妬を覚え、淡くもない恋心を自覚させるには充分だった。
男達は互いに牽制し合いながら、一言も喋ることなく、生徒会室を後にした。
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