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第十夜

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雲一つない月夜。こんな夜、いつもなら寮の自室でリリア彼女のことを思い出しては浸っていたはず。
けれど、今日のノアークは違った。ユリクス家にある自室で抑えきれなくなった苛立ちをぶつけるように机を叩いていた。

「絶対、アイツが何かしたんだ!」

皆が可笑しくなったのはアイツの……ティアーヌのせいに違いない。そう考えたノアークは寮ではなく久しぶりに実家へと足を運んだ。ティアーヌを問い詰めるつもりだった。

それなのに、使用人から止められ、ティアーヌと顔を合わせることすらできなかった。
自分がいない間に使用人達もティアーヌに洗脳されてしまったのかと焦りと、もはや恨みにも似た気持ちが込み上げてくる。

「皆、昔の俺みたいにあの女に騙されてるんだ」

ノアークの脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。
幼少期のティアーヌは、優しくて、頭もよくて、気高くて……まさにノアークにとって理想の女性だった。
そんなティアーヌと姉弟になった時はそれはもうショックだった。いつかティアーヌをお嫁さんにする……誰にも言ったことはないが、少なくともノアークはそのつもりだった。けれど、そんな夢はティアーヌがユーリウスと婚約した時に壊され、ティアーヌの本性を知った後は淡い恋心も消え去った。
自分にとっての黒歴史だ。

「俺が守ってやらないと」

他のやつらが頼りにならない今。リリアを守れるのは自分だけだ。心もとないがやるしかない。
ティアーヌのせいか、最近ずっと胸の奥で黒いものがグルグルしていて気分が悪い。
きっと、この不快感はティアーヌをどうにかしないと治まらないのだろう。
ノアークは重い身体をベッドに横たえ、襲ってくる眠気に任せて意識を手放した。


――――――――


シュベルツのおかげで先手を打つことができたティアーヌは安心してベッドへと入った。
同じ屋根の下にいるであろうノアークのことを思い浮かべて目を閉じる。

――――ノアークが先に寝たことは使用人を通して確認済みだから、後は夢渡りをするだけ……無事、できますように。

意識が沈み、浮上する。ティアーヌは辺りを見渡してどうやら夢渡りができたようだとホッと息を吐いた。
ただ、扉を開けてすぐ足を止めた。今回の夢はいつもとは違ったのだ。部屋の中には何故かのノアークがいた。
今までにはなかったことだ。様子を伺いながら入室する。

ノアークは何かに夢中になっていてティアーヌが入室したことにすら気づいていないようだ。
ずっと何かを手にして呟いている。そっと近づいて覗き込んだ。ノアークが手にしていたのは何も映っていない真っ白な写真だった。

戸惑っていると、ふと室内の異様さに気づく。
部屋の壁にも真っ白な写真が貼り付けられていたのだ。それも、隙間なくびっしりと。
ゾクリ――としたものがティアーヌの背中を這う。その時、悲痛な叫び声が聞こえてきた。

「これも、これも、これも、これも、俺の――――が写っていない!」

狂気的に見えるノアークの言動に思わず後退りそうになったが、それでは意味がないと静かに距離を詰める。できるだけ刺激しないようにと、ティアーヌは優しく声をかけた。

「ノアーク?」
「……ティー?」

今にも泣き出しそうな顔でティアーヌを見上げるノアーク。ハッと息を呑む。その表情には見覚えがあった。
反射的にノアークを抱き締める。

――――このノアークは、のノアークだ。

ティアーヌの後を追いかけてばかりいたノアーク。ティアーヌが側を離れるだけで泣いていたノアーク。可愛い弟分。
けれど、いつからかノアークはティアーヌへの興味を無くしてしまった。むしろ距離を取るようになってしまった。そんなノアークに戸惑いながらも素直ではないティアーヌは『ノアークがそのつもりなら』とノアークを無視するようになったのだ。

「俺の、俺の―――――がっ」
「大丈夫。大丈夫よ」

ノアークの小さな呟きはティアーヌの耳にハッキリとは聞こえなかったが、それでもノアークが悲しんでいる事はわかった。ティアーヌは昔のように語りかける。

「安心して。いつものように私がノアを守ってあげるから」

ティアーヌは婚約者であるユーリウスから冷たくされてもなんとも思わなかったが、実の弟のように可愛がっていたノアークから敵意を向けられたのはそれなりに……いや、正直に言うと結構ショックだった。
だからこそ、ノアーク相手の夢渡りはいろんな意味で気が引けていた。けれど、しなければノアークは救えない。それに、事が済めば以前のようにノアークと仲良くできるかもしれない……そんな淡い期待もあった。

押し寄せて来る背徳感に気づかないフリをして、ティアーヌは幼いノアークに向き合う。

「ノア……ゴメンね」

一言謝罪を告げると、ティアーヌはノアークの唇にそっと自分の唇を重ねた。驚いたように目を見開くノアーク。

「テ、ティー?」
「ノア、後からいくらでも私を罵っていいから……できれば嫌わないでほしいけど」
「何を言って……んんっ!」

ノアークの言葉を遮るようにもう一度唇を塞ぐ。
最初は戸惑っていたノアークだったが、雰囲気にのまれたのかティアーヌの首に腕を回して口づけを楽しみだした。
これなら大丈夫そうだと内心ホッとする。

「ノア。もっと、気持ちよくなりたい?」

そっと身を離して聞けば、ノアークは素直にコクリと頷く。ティアーヌはそっとノアークの手を取りベッドへと誘導した。真っ白な写真を避けて歩き、ノアークをベッドの上へと押し倒した。

ノアークは潤んだ瞳でティアーヌを見上げる。ティアーヌは安心させるように微笑み、ノアークの下半身へと手を伸ばした。
幼いとはいえ中身は大人だからか、それとも元々ませた子だったのかはわからないがすっかりノアークの肉棒は立ち上がっている。

下着を剥ぎ取るとぶるんと勢いよく飛び出してきた。立派なソレは大人のモノと変わらないように見える。思わずティアーヌはごくりと喉を鳴らした。
ちらりとノアークを見れば、恥ずかしそうに、けれど期待した目をティアーヌに向けている。

ティアーヌは思い切って肉棒に触れた。正直、自信はない。けれど、年上としてのプライドから今更できないとも言えない。
ゆっくりと肉棒をしごきながら、考える。これで合っているのかな……と。

ふいにノアークがティアーヌの手の上から己の手を重ねた。そして、力を加えてしごき始める。刺激が足りなかったのだろう。望んでいた刺激に喜んでいるかのように、ノアークの先端から先走りが溢れてきた。

少しの敗北感はティアーヌを奮い立たせた。ノアークの手を止め、意を決して、パクリとノアークの先端を咥える。
びくりとノアークが震えた。驚いた様子でティアーヌを見つめる。ティアーヌは勢いに任せてノアークの先端に舌を這わせ、吸い、一生懸命舐め回した。技術的には拙いはずのティアーヌのソレは、ノアークを異常なくらい高ぶらせた。

「うっあ!」

あっという間に達してしまう。ティアーヌの口内に熱いものが発射された。驚いて口を離すティアーヌ。両手で口を押さえ、どうしていいかわからず、迷った末にゴクリと飲み込んだ。

一連の動作を信じられないものを見るような目で見ていたノアーク。頬を真っ赤にして、熱い眼差しをティアーヌに向ける。
どうして、そんな目で見てくるのかと戸惑ったティアーヌだったが、ノアークの肉棒を見て固まった。

出したばかりだというのに、先程よりも大きく反り立っている。しかも、我慢できないというようにビクビクと震えている。

――――これが若さなの?!

ティアーヌはわざとらしく咳ばらいをして、次の行動に出た。
まだ目的は果たしていない。これなら無事に遂行できそうだ……と割り切ることにした。

ガウンを脱ぎ、パンティーも素早く脱ぎ捨てる。今身に纏っているのは透け透けのネグリジェだけだ。驚いて固まっているノアークの下半身を跨ぐようにして膝立ちになり、ノアークの肉棒に擦り付けるように自分の秘部を密着させた。さすがにいきなり挿れる勇気はなかった。

ノアークの先走りを潤滑油にしてゆっくりと腰を振り始めると徐々に水音が大きくなっていく。これだけで、敏感なティアーヌの身体は反応して愛液を垂らし始めた。
必死に声を抑えながら腰を振り続ける。
互いに呼吸が乱れていく。堪らずノアークが熱に浮かされたような声を漏らした。

「ティー、気持ちいいよ。ティーは? ティーも気持ちいい?」
「私も気持ちいい、よっ。あっ……んっ、今、入りそうだったね。ノアのおっきくなったのが入り口に引っかかって、きもちっ」

入りそうで入らない、ハラハラ感と期待に襲われる。ふるふると身体が震えるのに合わせてティアーヌの胸が揺れた。誘われるようにノアークの手が伸びる。
ノアークがちらりとティアーヌを見れば、「いいよ」とでもいうようにティアーヌは微笑んで頷いた。ノアークは唾を飲み込み、ティアーヌの胸をやわやわと揉むと、上半身を起こして唇をよせた。

「あっ、え? 噛んじゃだめぇ!」
「でもっこうすると、ティーのココ赤く立って気持ちが良さそうだよ?」
「うっ」

恥ずかしいが、否定できない。程よい痛みはティアーヌに快感を与える。
ノアークは巧みに痛みと快感を調節しながらティアーヌを翻弄する。すっかり主導権はノアークのものになっていた。余裕のなくなったティアーヌはノアークの雰囲気が変わったことにも気づいていない。

ノアークは楽しそうにティアーヌを見つめながら、乳首をカリッと噛み、ペロリと嘗めあげる。かと思えば吸い付き、固くさせた舌で弄りたおす。ティアーヌは胸への執拗な攻めだけでイキそうだった。ノアークはそれを感じとり、ピタリと愛撫をやめた。ティアーヌは快楽に浸り閉じていた瞳を開け、責めるようにノアークを見た。ノアークは情欲を含んだ熱い視線を返す。

「ダメだよ。イクなら俺のじゃないと」

そう言って、止まっていた腰を大きく振る。何度も入口に引っかかり、そのたび声をあげてしまう。もどかしい。無意識に腰が動いてしまう。

何度目かの引っかかりの際、我慢できなくなったノアークがティアーヌのお尻を掴み、一気に下に引き寄せた。
急に襲ってきた快感に二人は身体を震わせ仰け反る。限界が近かったからかいれただけで達してしまった。

息を整えながら、ぼんやりとする頭でノアークを見る。ノアークはティアーヌと目が合った瞬間、ニヤリと笑った。
ティアーヌの背中にゾクリとしたものが走り、慌てて逃げようとした。けれど、それを予期していたかのようにノアークの手がティアーヌの身体を掴んで放さない。

「やっと、手にいれた。ティー……ティアーヌ」

ティアーヌは困惑した。目の前の男は本当にノアークなのだろうか。
ティアーヌが知るノアークはこんな雰囲気を持つ人ではなかった。幼少期のノアークも最近のノアークとも違う。顔は全く一緒だが……それでもやっぱりナニカが確実に違う。

そして、ふと気づいた。
壁一面に貼ってあった真っ白な写真がいつの間にか真っ白ではなくなっている。
更に驚くことに、どの写真にもティアーヌが映っていた。小さい頃のものから最近のものまで。頭の中で警報が鳴る。
ティアーヌは信じられない気持ちで改めて目の前の男を見た。男は……ノアークはティアーヌを見てうっそりと微笑んだ。

「やっと取り戻した。ティアーヌへの気持ち。あのくそ女のせいで……いや、もうそんなものはどうでもいいか。せっかく、こうしてティアーヌが俺の腕の中にいるんだから。もっと楽しまないと、ねえティアーヌ?」

慌てて距離を取ろうと伸ばした腕を後ろで一つに纏められ、下から容赦なく打ち付けられる。ティアーヌは嬌声を上げながら、心の中では悲鳴を上げていた。

――――まさか……まさか、ノアークがヤンデレだったなんて!

「あっ。ああ! っああ! もう、やめてっ、おねがいっ!」
「嫌だよ。全然足りないんだから。もっと、もっとだよ。俺無しじゃあ生きていられなくなるくらい身体に教え込まないとっ!」

ティアーヌの力により、無事リリアの魅了の術から解放されたノアーク。だが、その反動で今まで押さえつけていた本能まで解放してしまった。

結局、ノアークとティアーヌが眠りから覚めたのは二日後の朝であった。
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