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第五話
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最近の優はドラマの撮影でスケジュールが埋まっていた。帰宅時間が深夜になることもあり、叶とはすれ違いが続いていた。顔をあわせて会話をしたのは一週間以上も前だ。
おかげで叶は健やかな毎日を送ることができた。
ただ、その日々はいつまで続くのかという不安もある。油断していたら、すぐ傍にやつが……なんてホラーのような状況になっているかもしれない。
今日のバイトは休みで、叶は予定通りかかりつけの産婦人科を訪れていた。
さすがに普段通りの男装では入り辛いので、女装をしている。とはいえ、服装はさほど変わらない。白のシャツに、スリムジーンズ。上に黒のジャケットを羽織っている。シンプルだがその分素材の良さが引き立っていた。
ヘアスタイルはそのままだが、メイクは女性らしい柔らかい印象で仕上げている。今の叶を見て、男だと思うものは少ないだろう。
軽く診察を受け、アフターピルをもらう。去り際に小言を少々言われてしまった。叶もゴムの必要性は理解している。実際に優にも何度も言っている。それでも優は隙あらば中に出そうとする。
自衛していなければ今頃子供の二人くらいは産まれていたかもしれない。
考えただけでゾッとする話だ。
会計をしていると、受付のお姉さんが内緒話をするように声を潜めて囁いた。
「今、このすぐ近くで撮影してるらしいですよ」
「そうなんですか?」
「はい。私も見に行きたいけど……さすがに行けなくて……」
「なら、私が見ておいて今度来る時にどんな様子だったか教えますよ」
忘れていなければ、と心の中で付け加えつつ社交辞令のつもりで告げた。しかし、受付のお姉さんは目を輝かせて喜んでいる。叶の頬がひくついた。言ってしまったものはもう取り消せない。
叶は後悔しつつ産婦人科を出た。そのタイミングで念の為、鞄に入れていた折りたたみ式のキャップを取り出し被る。
人が集まっている公園を横切る際、少し覗いてみることにした。撮影クルーがバタバタと動いているのが見える。ちょうど役者は休憩中らしく、ドリンク片手に談笑しているのが見えた。
「げっ……」
思わず声に出してしまい慌てて口を塞ぐが、もう遅い。たった一言発しただけなのに優の耳はどうなっているのだろう。相手役の女優と話していたのをピタリと止め、何かを探すように野次馬に視線を送った。
目深にキャップを被った叶を目敏く見つけて笑顔を零した。さらには手まで振っている。周りの野次馬達がきゃーきゃー叫んで振り返している。
もちろん叶は気づいていないフリをして、背中を向けると歩き始めた。
数メートル歩いたところで肩を叩かれた。まさか、追いかけてきたなんてことは……ないよね。と内心ハラハラしながら振り向く。
そこにはどこか幸も影も薄そうなひょろっとした男性が立っていた。顔を何度も合わせたことがある相手だった。優を担当しているマネージャーだ。
「あの?」
「あ、すみません。優から頼まれまして。川上さんに聞いてきて欲しいって。今日はここが最後の仕事なんで待っていてくれるなら一緒に帰りたいと言っているのですが……」
「あいつ……すみません。また、軽率なことを。わざわざ田中さんまで使って。あいつには先に帰ってるって伝えておいてください」
言うだけ言うと叶は挨拶もそこそこにさっさとその場を後にした。
その後ろ姿を見つめていた者が一人。優は周囲の人々と会話をしながらも、遠ざかっていく叶の背中を見ていた。
そして、そんな優の様子をつぶさに観察していたのが共演者の一人。
夜並 海斗だ。
金髪ウエーブにピアスも開けているやんちゃ系アイドル。見た目だけでいうなら、正統派アイドルの優とは真逆だが、実は優の隠れファンでもあり、この業界に入ったきっかけはまさに優だった。
そんな海斗のアンテナが叶を見逃すことはなかった。
海斗が戻ってきた優のマネージャーにさり気ないタイミングで先程の人物について尋ねた。
「彼は……優の幼馴染ですよ。一般人の方なので不用意に近づいて迷惑をかけないようにしてくださいね」
そう言いながらも『絶対に近づくな』というの無言を感じた。ちらちらと優の様子を気にしているところをみると、これ以上聞くのは避けた方がよさそうだ。
海斗は素直に「了解っす」といい、特段気にもかけていないように振舞った。彼には何かある。海斗の直感がそう告げていた。
――――――――――
玄関を開けて「ただいまー」とやや千鳥足の優が言うが、叶からの返事はない。
リビングにはいない。ふらふら、と寝室へと向かう。ベッドですでに叶は横になって寝ていた。
優はベッド脇に座り込み、叶の寝顔を眺める。
可愛い。いつ見ても可愛い。微かな寝息すら可愛い。
ピンク色の脳内にふと海斗の存在が割り込んできた。嫌なやつのことを思い出してしまった。あの現場で唯一、叶に目を向けていた。少々、いや、かなり嫌な目付きで見ていた気がする。
苛立ちが募り、優は叶の上に跨った。叶が寝ていることを気遣う気持ちと本能を天秤にかけ、結局本能が勝つ。
ゆっくりと味わうように何度も唇を重ねる。
「んー」
空気を求めて開いた隙間から舌をねじ込む。押し返そうとする弱々しい手を握り、指を絡める。
ねっとりと舌を絡みつかせると苦しげな息が聞こえてきた。その声が色っぽく聞こえて下半身に響く。
そっと唇を離す。うっすらと開いた目と視線が合う。
叶の目が不快げに細められた。
「な、に」
「いちゃいちゃしたい」
「むり、ねむたい」
「やだ。もう、ずっと叶に触れてない。もう、無理」
「……」
「ちょ! 寝ないで叶!」
再び目を閉じ寝息を立てようとする叶の身体を揺すった。嫌々ながらも叶が目を開く。その目には怒りがこもっている。
優がたじろいだ隙に叶は足で優をロックすると身体を回転させ、上下を入れかわった。
叶が優の腰に跨ると、ナニカに気づき不快げに顔を顰めさせた。
「へんたい」
「っ、だって」
滅多に見られないS気のある叶に興奮してすでに優の分身は戦闘態勢に入っている。がしりと叶の手がソレを握った。
「コレ、挿れたいの?」
「挿れたいです」
「誰の中に?」
「叶の、叶のあったかいぐちょくちょのおまんこの中に挿れて奥で出したいですっ!」
思わず自分の願望を叫べば、力いっぱい握られ、痛みで呻き声を上げた。
「生はダメ」
「ご、ごめんなさい。ゴムつけます。だから、挿れさせてください!」
「さっさと、つけて」
叶が傲然と頷いて、優の上から退く。優はこのチャンスを逃してなるものかといそいそとゴムを装着し始めた。手早くつけ、振り向くと叶が服を自分で脱いでいるところだった。普段脱がされてばかりの叶が自分から脱いでいる。思わず優は食い入るように見つめた。
ブラが外され、程よい大きさの胸がぷるんと零れる。残すところショーツ1枚になったタイミングで叶が優の視線に気づき身体を隠した。
思わず優の口から「あっ」と残念そうな声が漏れる。
「えっち」
まだ寝ぼけ気味なのか舌っ足らずな喋り方、恥ずかしそうな表情。優の理性の糸が完全に切れた音がした。飛びつくように押し倒す。勢いのまま、深く口付けると叶も首の後ろに手を回して抱きつくように返した。叶の身体を撫で回し、指に引っかかったショーツは脱がせる。
密着して口付けを交わしたまま指で胸を、秘部を弄る。
久しぶりだからか、最初は頑なだった中もすぐに解れ、三本も入る。イイところを集中的に責めると、叶の嬌声が漏れた。
腕を叩かれ、愛撫を一旦止める。
顔を見ると掠れ声で叶が言った。
「もう、挿れて」
「っ……」
優は無言で指を引き抜くと、かわりにビクンビクンと震えている熱いモノを入口に当てた。ゆっくりと中を押し広げていく。
奥まで入ると息を吐いた。叶が早く動いて欲しそうに手を伸ばす。
優が苦笑しながら小さく何かを呟くと、叶を抱きしめるように身体を密着させ律動を始めた。
耳元で叶の喘ぎ声が絶え間なく聞こえる。
優はすぐにでもイキそうになるのを耐え、ひたすら叶の中を突いた。しっとりとした肌が互いに吸い付くように重なり合い、不思議と心が満たされた。
いつもの叶も愛おしいが、今日はさらに愛おしい。
優は叶のタイミングに合わせて己も薄い膜越しに叶の中に欲望を吐き出した。
おかげで叶は健やかな毎日を送ることができた。
ただ、その日々はいつまで続くのかという不安もある。油断していたら、すぐ傍にやつが……なんてホラーのような状況になっているかもしれない。
今日のバイトは休みで、叶は予定通りかかりつけの産婦人科を訪れていた。
さすがに普段通りの男装では入り辛いので、女装をしている。とはいえ、服装はさほど変わらない。白のシャツに、スリムジーンズ。上に黒のジャケットを羽織っている。シンプルだがその分素材の良さが引き立っていた。
ヘアスタイルはそのままだが、メイクは女性らしい柔らかい印象で仕上げている。今の叶を見て、男だと思うものは少ないだろう。
軽く診察を受け、アフターピルをもらう。去り際に小言を少々言われてしまった。叶もゴムの必要性は理解している。実際に優にも何度も言っている。それでも優は隙あらば中に出そうとする。
自衛していなければ今頃子供の二人くらいは産まれていたかもしれない。
考えただけでゾッとする話だ。
会計をしていると、受付のお姉さんが内緒話をするように声を潜めて囁いた。
「今、このすぐ近くで撮影してるらしいですよ」
「そうなんですか?」
「はい。私も見に行きたいけど……さすがに行けなくて……」
「なら、私が見ておいて今度来る時にどんな様子だったか教えますよ」
忘れていなければ、と心の中で付け加えつつ社交辞令のつもりで告げた。しかし、受付のお姉さんは目を輝かせて喜んでいる。叶の頬がひくついた。言ってしまったものはもう取り消せない。
叶は後悔しつつ産婦人科を出た。そのタイミングで念の為、鞄に入れていた折りたたみ式のキャップを取り出し被る。
人が集まっている公園を横切る際、少し覗いてみることにした。撮影クルーがバタバタと動いているのが見える。ちょうど役者は休憩中らしく、ドリンク片手に談笑しているのが見えた。
「げっ……」
思わず声に出してしまい慌てて口を塞ぐが、もう遅い。たった一言発しただけなのに優の耳はどうなっているのだろう。相手役の女優と話していたのをピタリと止め、何かを探すように野次馬に視線を送った。
目深にキャップを被った叶を目敏く見つけて笑顔を零した。さらには手まで振っている。周りの野次馬達がきゃーきゃー叫んで振り返している。
もちろん叶は気づいていないフリをして、背中を向けると歩き始めた。
数メートル歩いたところで肩を叩かれた。まさか、追いかけてきたなんてことは……ないよね。と内心ハラハラしながら振り向く。
そこにはどこか幸も影も薄そうなひょろっとした男性が立っていた。顔を何度も合わせたことがある相手だった。優を担当しているマネージャーだ。
「あの?」
「あ、すみません。優から頼まれまして。川上さんに聞いてきて欲しいって。今日はここが最後の仕事なんで待っていてくれるなら一緒に帰りたいと言っているのですが……」
「あいつ……すみません。また、軽率なことを。わざわざ田中さんまで使って。あいつには先に帰ってるって伝えておいてください」
言うだけ言うと叶は挨拶もそこそこにさっさとその場を後にした。
その後ろ姿を見つめていた者が一人。優は周囲の人々と会話をしながらも、遠ざかっていく叶の背中を見ていた。
そして、そんな優の様子をつぶさに観察していたのが共演者の一人。
夜並 海斗だ。
金髪ウエーブにピアスも開けているやんちゃ系アイドル。見た目だけでいうなら、正統派アイドルの優とは真逆だが、実は優の隠れファンでもあり、この業界に入ったきっかけはまさに優だった。
そんな海斗のアンテナが叶を見逃すことはなかった。
海斗が戻ってきた優のマネージャーにさり気ないタイミングで先程の人物について尋ねた。
「彼は……優の幼馴染ですよ。一般人の方なので不用意に近づいて迷惑をかけないようにしてくださいね」
そう言いながらも『絶対に近づくな』というの無言を感じた。ちらちらと優の様子を気にしているところをみると、これ以上聞くのは避けた方がよさそうだ。
海斗は素直に「了解っす」といい、特段気にもかけていないように振舞った。彼には何かある。海斗の直感がそう告げていた。
――――――――――
玄関を開けて「ただいまー」とやや千鳥足の優が言うが、叶からの返事はない。
リビングにはいない。ふらふら、と寝室へと向かう。ベッドですでに叶は横になって寝ていた。
優はベッド脇に座り込み、叶の寝顔を眺める。
可愛い。いつ見ても可愛い。微かな寝息すら可愛い。
ピンク色の脳内にふと海斗の存在が割り込んできた。嫌なやつのことを思い出してしまった。あの現場で唯一、叶に目を向けていた。少々、いや、かなり嫌な目付きで見ていた気がする。
苛立ちが募り、優は叶の上に跨った。叶が寝ていることを気遣う気持ちと本能を天秤にかけ、結局本能が勝つ。
ゆっくりと味わうように何度も唇を重ねる。
「んー」
空気を求めて開いた隙間から舌をねじ込む。押し返そうとする弱々しい手を握り、指を絡める。
ねっとりと舌を絡みつかせると苦しげな息が聞こえてきた。その声が色っぽく聞こえて下半身に響く。
そっと唇を離す。うっすらと開いた目と視線が合う。
叶の目が不快げに細められた。
「な、に」
「いちゃいちゃしたい」
「むり、ねむたい」
「やだ。もう、ずっと叶に触れてない。もう、無理」
「……」
「ちょ! 寝ないで叶!」
再び目を閉じ寝息を立てようとする叶の身体を揺すった。嫌々ながらも叶が目を開く。その目には怒りがこもっている。
優がたじろいだ隙に叶は足で優をロックすると身体を回転させ、上下を入れかわった。
叶が優の腰に跨ると、ナニカに気づき不快げに顔を顰めさせた。
「へんたい」
「っ、だって」
滅多に見られないS気のある叶に興奮してすでに優の分身は戦闘態勢に入っている。がしりと叶の手がソレを握った。
「コレ、挿れたいの?」
「挿れたいです」
「誰の中に?」
「叶の、叶のあったかいぐちょくちょのおまんこの中に挿れて奥で出したいですっ!」
思わず自分の願望を叫べば、力いっぱい握られ、痛みで呻き声を上げた。
「生はダメ」
「ご、ごめんなさい。ゴムつけます。だから、挿れさせてください!」
「さっさと、つけて」
叶が傲然と頷いて、優の上から退く。優はこのチャンスを逃してなるものかといそいそとゴムを装着し始めた。手早くつけ、振り向くと叶が服を自分で脱いでいるところだった。普段脱がされてばかりの叶が自分から脱いでいる。思わず優は食い入るように見つめた。
ブラが外され、程よい大きさの胸がぷるんと零れる。残すところショーツ1枚になったタイミングで叶が優の視線に気づき身体を隠した。
思わず優の口から「あっ」と残念そうな声が漏れる。
「えっち」
まだ寝ぼけ気味なのか舌っ足らずな喋り方、恥ずかしそうな表情。優の理性の糸が完全に切れた音がした。飛びつくように押し倒す。勢いのまま、深く口付けると叶も首の後ろに手を回して抱きつくように返した。叶の身体を撫で回し、指に引っかかったショーツは脱がせる。
密着して口付けを交わしたまま指で胸を、秘部を弄る。
久しぶりだからか、最初は頑なだった中もすぐに解れ、三本も入る。イイところを集中的に責めると、叶の嬌声が漏れた。
腕を叩かれ、愛撫を一旦止める。
顔を見ると掠れ声で叶が言った。
「もう、挿れて」
「っ……」
優は無言で指を引き抜くと、かわりにビクンビクンと震えている熱いモノを入口に当てた。ゆっくりと中を押し広げていく。
奥まで入ると息を吐いた。叶が早く動いて欲しそうに手を伸ばす。
優が苦笑しながら小さく何かを呟くと、叶を抱きしめるように身体を密着させ律動を始めた。
耳元で叶の喘ぎ声が絶え間なく聞こえる。
優はすぐにでもイキそうになるのを耐え、ひたすら叶の中を突いた。しっとりとした肌が互いに吸い付くように重なり合い、不思議と心が満たされた。
いつもの叶も愛おしいが、今日はさらに愛おしい。
優は叶のタイミングに合わせて己も薄い膜越しに叶の中に欲望を吐き出した。
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