【R18】ギルティ~クイーンの蜜は罪の味~

クロキ芽愛

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 両手で顔を覆い、深く溜息を吐く。
 覚悟はしていたつもりだった。ファビオ以外の人に抱かれることも。その相手が義兄ニーノになるだろうということも。

 けれど、まさかその日がこんなに早くくるなんて……しかも

「気持ちよかったなんて」
 背徳感より先に蘇った感情に項垂れる。

「それはよかった」

 不意に聞こえてきた声に驚いて顔を上げた。部屋の入口付近で佇んでいるニーノと目があう。サラの表情が目まぐるしく変化した。ニーノは気にせずサラに近づく。

「そんなに気に入ったのならアレはおまえにやろう」
『アレって何のこと?』と尋ねようとして、例のボール型の愛玩具だと気付く。
「い、いい! いらない!」

 サラは顔を真っ赤に染め、激しく首を横に振った。が、本心では違うと感じ取ったのかニーノはそれには返答せず、もうその話は終わったとばかりにサラの顔を覗き込んだ。狼狽えるサラの顔をじっと見つめ、手を伸ばす。サラは咄嗟に目を閉じた。

「閉じるな」

 ピシャリと叱られ、恐る恐るサラは目を開く。ニーノはサラの様子をじっと観察した後、手首で脈を計り一つ頷いた。
「多少脈が速い気もするが、ほぼ正常だな。起き上がれそうか? 無理ならここにファビオを呼ぶが」
「いい。私が行く」

 情事後を想像させるような場所にファビオを呼びたくない。急いでベッドから降りようとして身体が前に倒れそうになった。ニーノがさっと支える。思わず身体がビクリと反応したが、そのことについてニーノは何も言わなかった。勝手に気まずくなったサラは完全に床の上に立つとニーノからさっと離れた。

「行くぞ」
「はい」

 ニーノの後に続いて部屋を出る。移動した部屋にはすでにファビオが待っていた。目と目が合い足が止まりそうになるが、ニーノに促され椅子に腰かける。

 気まずげな雰囲気を垂れ流す二人を無視して、ニーノがサクッと本題に入った。

「今後のことについてだが」
「あ、ああ」「う、うん」

 二人の視線がニーノに向く。ニーノはおもむろに小石のようなものを取り出し、ファビオに放り投げた。急だったがファビオは難なくキャッチする。
 親指程の大きさの石。コレは?と首を傾げたファビオ。

「使用済みの魔石だ。ファビオはソレに余分な魔力を移すようにしてくれ」
「……そんなことができるのか?」

 言われて見ればただの小石ではなく使用済の魔石だった。「ああ」と頷き返すニーノ。

「数回試してみたが、使用済の魔石に魔力を注入すれば通常の魔石として利用できた」
「再利用できるのか。それは……すごいな」

 感心しているファビオにニーノが説明を続ける。

「ソレに魔力を注ぎこんだ分だけ空き容量ができる。それを続ければしばらくはサラの相手はファビオだけでも充分だろう」
「そういうこと、か。……しばらくってどういう意味だ? ずっとは無理なのか?」

 ファビオとニーノが見つめ合う。先に視線を逸らしたのはニーノ。モノクルを外し、机の上に置いてあったクロスで拭きながら告げる。

「ずっとは無理……というより『しない方がいい』だな。時と場合にはよるが、使わない期間を設けた方がいい」
「それは使用済みの魔石がいずれ足りなくなる可能性があるからか? でも、適当な理由をつけて色んなところから回収すれば手に入るんじゃないか?」
「ああ。だが……それをして困るのはサラだぞ」
「え?」

 察しの悪いファビオに嘆息するニーノ。

「使用済みの魔石を大量に定期的に集めるとどうなると思う?」
「それは……」
「そのうち誰かが気づくだろう。『使用済みの魔石には利用価値がある』って。それで、もし魔石が再利用できると王家に知られたらどうなる?」
「どうって……」

 口を閉ざし、青ざめるファビオ。途中から気づいていたサラは握った拳に力を入れ俯いていた。そんな二人を見ながらもニーノは続ける。

「王家は国中から使用済みの魔石を集めるだろうな。そして、サラは間違いなく監禁されるだろう。おそらく、ファビオも私も。監禁してナニをさせるかは……さすがに言わなくてもわかるだろう? 全く興味がないとは言わないが、さすがに私もそれは避けたい。まだ人間を辞めたくはないからな」

 完全に口を閉ざした二人を横目に、ニーノは再びモノクルをかけなおす。

「だから、魔石を再利用する方法についてはここだけの話にするつもりだ。おまえたちも口外はしないように」

 サラが顔を上げる。

「いいの?」

 国のお抱え魔術具師なのにと言外に問いかける。ニーノは苦笑した。

「前にも言っただろう。私は従順な家臣ではないと。国とサラならサラの方が大事だ」

 まさか、ニーノからそんな言葉がでるとは思っていなかったサラは嬉しくなって破顔する。ニーノの瞳もいつもより温かい。何となくいい雰囲気が二人の間に流れる。耐え切れなくなったファビオは思わず大声を上げた。

「っていうことはさあ! 魔石を使わない期間はどうするんだ?」
「それは私が相手をするしかないだろう」

 何を当たり前のことをという感じに言われ、ファビオの顔がムッとなる。ニーノは肩を竦めた。

「とはいえ、私の出番は随分先になるはずだ。手元にある使用済みの魔石はまだまだたくさんあるし、効率は悪いが魔力を消費する方法は他にもある。問題は今後サラがどれほどの魔力量を作れるようになるかだが……それはその時になってみないとわからないしな。一応、他にも効率の良い方法がないか探してみる」
「頼んだ」
「ああ」
「二人とも」

 サラに声をかけられ、男二人が視線を向ける。サラは申し訳なさそうな顔で、深く深く頭を下げた。
「本当にありがとう」
 サラの頭を二人分の大きな手が撫でる。その瞬間涙が零れたのは……多分二人にはバレていたと思う。


 ◇


 王宮のアルベルトの私室にアルベルトとパオロ、ロベルトの三人が集まっていた。極秘の話し合い。その内容は新しい『クイーン』について。

「で、どうだったの新しい『クイーン』の蜜は?」
「すごい、の一言だな。経口だけでコレだ」

 そう言って、アルベルトが手から光魔法を放つ。その光は部屋全体を包み込んだ。

「ちょっ、する前に言ってよ。眩しすぎ!」
 ロベルトがぎゅっと目を閉じて騒ぎ立てた。パオロは目を閉じたまま首を傾げる。
「経口だけ、ですか?」
「ああ。最後まではしていない。……拒まれた」

 その言葉を聞いてロベルトは目をかっぴらいた。その目は何故か光り輝いている。

「へえ! サラはあの薬に耐えたんだ! っていうか、アルベルト様を拒んだんだ?! すっご! ミレーナは簡単に落ちたのにねっ。ミレーナがビッチだっただけなのか、それともサラが特別なのかなあ? まあ、俺としては拒んでくれた方が助かるけど~」
「ロベルト」

 パオロに鋭い口調で名前を呼ばれ、ロベルトが肩を竦ませる。

「わかってる。だから、嫌々ミレーナを抱いたんじゃないか」

 むくれ顔のロベルトを見てパオロは嘆息する。そして、アルベルトへ視線を向けた。

「王家の秘薬が効かないとなると困りますね……どうしますか?」
「もう一度だけ試してみるつもりだ。高位貴族教育で毒や媚薬に耐性をつけている可能性を加味していなかったからな。ミレーナの時より濃度を濃くして使ってみる。後は、他の媚薬と併用するのもありか……」
「わぁっ。それサラ大丈夫かな~壊れちゃわない?!」
「もちろん、壊れない量を確かめた上で使う」
「ならいいけどさ。さすがに二人目はね~」
「ロベルト。いくらアルベルト様の私室とはいえ先程から口を滑らしすぎですよ」
「すみませ~ん」
 と言いながらもどうせ誰も聞いていいじゃないかという表情を浮かべている。

「ロベルト。言うぞ」

 アルベルトの一声でロベルトは青褪めた。慌てて背筋を正す。

「き、気をつける! だから言わないでっ!」

 ようやく静かになったロベルトにアルベルトは満足げに息を吐き、次の作戦を二人に告げた。
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