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五
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「どうして、ファビオが?」
そう言ったのには特に深い意味はなかった。単にこんな時間にファビオがいるとは思っていなかっただけだ。
けれど、ファビオはそうは思わなかったらしい。傷ついたように表情を歪める。いつもの余裕があるファビオからは想像できない反応。
「いない方がよかった?」
ギョッと目を丸くするサラ。ゆるゆると首を横に振る。
「違う。今日は実家に帰ると思っていたから」
ホッとして表情を緩めるファビオ。次いでファビオが口を開こうとしたタイミングでニーノが口を挟んだ。
「サラ、こんな時間にここにきたということはヒートか?」
ハッとファビオはサラの顔を見る。薄暗くて気づかなかったが、サラの頬は紅潮している。その表情には見覚えがあった。
サラは理性を保つ為に、ずっと右手で己の左腕を掴んでいた。そうでもしないと、目の前にいるファビオに手を伸ばしそうだったから。
けれど、我慢も限界に近付いている。そっと内股をすりあわせる。先程から子宮が疼いている。ゆっくりとサラは頷いた。ファビオの眉間に皺が寄る。
「こんなに間隔が短いのか」
「前任はもっと短かったぞ」
ニーノの言葉にファビオは目を見開いた。下唇を噛み、サラに近づく。そんなファビオをニーノが呼び止めた。
「隣の仮眠室を使え、もう限界だろう」
「……わかった。サラ、触れるぞ」
「? ひゃっ! んっ!」
いきなり抱きかかえられ驚いた。同時に身体が反応して余計な声まで出た。ここにはニーノもいるのに。微かに残っている理性がサラの羞恥心を刺激する。
サラはニーノと視線を合わせたくなくてファビオの胸元に顔を寄せた。ファビオの腕に力が入る。
ニーノは黙って二人を見守っている。いや、正しくは観ている。もちろんファビオはその視線に気づいているが、止めることはできない。
「ファビオ」
「ん?」
「熱い」
「大丈夫だ。今楽にしてやるから」
「ん」
ニーノが仮眠室の扉を開け、サラを姫抱きしたファビオが中へと入っていく。そして、サラを固いベッドの上に優しく降ろした。
「っあ」
服が擦れただけで声が漏れた。身体が熱い。すでに服の下で乳首が起ち上がっている。
「ファビオっ」
「っサラ」
助けを求めるように伸ばしたサラの手を握り、ファビオはサラに覆いかぶさり唇を重ねた。最初から口づけは深く、舌と舌が触れた先からぴりぴりと甘い刺激が広がっていく。
性急に大きな手がサラの胸に触れた。
「ああっ」
嬉しそうなサラの声が艶やかな唇から漏れる。薄い夜着のおかげかファビオはすぐにサラの起ち上がった乳首を見つけることができた。指先でクリクリといじるとサラの身体がびくんびくんと反応する。その反応が嬉しくて自然とファビオの口角が上がった。
サラの中に微かに残っていた理性はファビオと口づけした瞬間弾けて消えた。子宮の中に蜜が貯まってきているのがわかる。それに伴って身体の熱が上昇していく。
「あ、熱いの、はやく、はやく」
「あ、ああ。でも、もう少し」
そう言ってファビオはサラの身体に口づけを落としていく。はだけたところに痕を残しながら、サラの入口をほぐしていく。ファビオの指をくわえているサラの秘部はもっと奥への刺激を強請るように締め付けてくる。
――――ああ。早くこの中に俺のを入れたい。
衝動的な欲求に襲われながらも、サラに無体なことはできないという理性が働く。
ファビオは上半身を起こし、サラの下半身へと顔を近づけた。
「ファ、ビオ?」
視界から消えたファビオを探してサラの視線が彷徨う。
「なにをして、ああっ!」
サラから止められる前にとファビオはサラの秘裂に舌を這わせた。急な強い刺激にサラはビクッ!と仰け反る。
「いやっ! ああっ! ああーっ!」
嬌声が止まらない。チロチロと秘裂を舐められたかと思ったら、ツンツンと舌先で入口をほじくられる。
最奥からタラタラと蜜が溢れ出す。ファビオは夢中でサラの秘部を貪った。
――――まだだ。もっと、もっとだ。
目に入ったのは赤くぷっくりと膨れ上がった秘芽。無意識にその秘芽に舌を伸ばした。コリコリと舌先で弄り、ときおりちゅーっと吸い上げる。
「それっ! ダメっー!」
激しく仰け反るサラ。強すぎる快感から逃げようと必死だったが、ファビオの両手に抱え込まれて逃げられない。ソコがイイと学んだファビオは執拗に口で責め、同時に指で中を刺激し始めた。
「ひぃいいっ! イくっ! またいっちゃう! またっ!」
何度達したかわからない。何度も何度も身体を震わせ絶頂する。耐え切れなくなって涙が零れた。
「ひっく、っく」
「ご、ごめん。やりすぎた」
ようやく我に返ったファビオが責めるのを止めた。ホッとしてファビオに視線を向ける。そして、ギョッとした。ファビオの瞳は未だギラギラとしていたからだ。
そんなファビオの欲を見て、何故かサラは怖がるでもなく興奮を覚えた。
――――アア。コノオスハモウワタシノモノダ。
気づかないうちに笑みが浮かんだ。サラはファビオに両手を伸ばす。
「大丈夫だから、ファビオ、きて」
「ああ、サラ」
誘われるようにファビオはサラに顔を近づけ口づけを落とした。
そして、秘部に熱い塊が触れる。くちゅり、と音が鳴る。ゴクリと喉を鳴らしたのはどちらだったか。ゆっくりと入口を押し広げて入ってくる。ファビオを歓迎するようにぎゅっぎゅっと膣が締め付ける。
「くっ」
「ああっ」
うっとりした声がサラの口から零れる。足先がぴんと伸びた。
「サラ、サラ」
「ああっ! あんっ! いいっ! もっと!」
理性を失った二人は一時の快楽に夢中になった。
激しい律動にあわせて、卑猥な水音が室内に響き渡る。サラの嬌声も止まらない。
ファビオはひたすら奥にある蜜を求めて熱いモノを最奥に打ち付けた。そのたびにサラが喜びの声を上げる。互いの限界は近かった。
「くっ出すぞ!」
「んぅっ!」
最奥めがけ、ドクドクとファビオの熱いモノが注がれる。代わりにサラの中の蜜がファビオに吸い取られていく。あわせて身体の奥でくすぶっていた異様な熱が引いていくのがわかった。とはいえ、火照った身体はそのままだ。荒い息はおさまらない。そんなサラを労わるかのようにファビオの大きな手が撫でた。
「寝てていいぞ」
「ん」
誘われるようにサラの意識が沈む。完全に寝たのを確認してファビオは身体を起こした。ずるりと、サラの中から己を引き抜く。途中、もう一度押し込みたいという欲求に襲われながらも耐えた。
「もういいのか?」
「ちっ……ああ」
余韻に浸っていたファビオはニーノの声を聞いて我に返り舌打ちをした。
今更だが己の上着をサラにかける。じっとサラの顔を覗き込み、ハニーブロンドの髪をひと房手に取ると口づけをして放した。名残惜しいが仕方ない。
「そうか」
それだけ言い、ニーノは手にもっている紙に視線を落とした。サラとファビオがしている間、ニーノはずっと何かを書き留めていた。その紙にはいったい何が書かれているのか。
ファビオは知りたくもないと顔ごと視線を逸らした。
「シャワー、浴びてくる」
「ああ、勝手につかってくれ」
――――これくらいで動揺してちゃダメだ。早く慣れないと。これから先もサラの側にいる為に。
ファビオはぎゅっと握った拳に力をいれた。
◇
目を覚ますといつの間にか自室にいた。既視感に襲われながら上半身を起こし、己の身体を見た。
一瞬昨日のことは夢かと思ったが……違ったらしい。寝着が変わっている。
メイドを呼び、支度を終えるとニーノの研究室へと向かった。二人は起きていた。実験室にいたのでどうやら何かの研究をしていたらしい。残骸がそこら中に散らばっていた。
部屋を変えて改めて昨晩のことについて尋ねた。意識が飛び飛びだった為、記憶が定かではない。
「昨晩の話の続きだが……簡潔に言うとファビオはうちの居候になった」
「居候?」
ニーノの説明に首を傾げ、ファビオに視線を向ける。
「ああ。俺がお願いして、フランさんが俺の両親に話をつけてくれた」
「お父様が?」
驚いてもう一度ニーノを見る。ニーノは頷き返した。嘘をついているようには見えない。というより、元々ニーノは嘘をつくような人間ではない。正義感が強いとかではなく、嘘をつくことに必要性を感じないタイプの人間だからだ。
――――お父様、ファビオに対してすごく怒っていたみたいだったのに。
サラの気持ちをくんでくれたのだと思い至る。
「そっか」
「ああ、それとサラ」
「はい?」
ニーノに呼ばれ首を傾げる。
「後日改めて登城するようにと国王陛下からのお言葉だ」
「わ、わかった」
わかっていたことだとはいえ緊張する。ニーノはそんなサラの不安を見透かしていたらしい。珍しく気にかけるような言葉を続けた。
「まあ、そう緊張することはない。非公式の場だからな。私もついている」
「え? お父様ではなくニーが?!」
驚いて声が裏返った。普段研究室から出ようとしない義兄が……と困惑したサラだが、次の言葉で納得した。
「私はサラの担当だからな。後はまあ……父上がいると話が進まない……と国王陛下から言われてな……」
遠い目で疲れた様に息を吐くニーノと、苦笑するファビオ。二人の反応になんとなく想像ができた。
ふとファビオの顔を見て気づく。
「あれ? ファビオそれどうしたの?」
「それ?」
「頬」
昨日は気づかなかったが、ファビオの片方の頬が酷く内出血をしていた。ファビオの視線が逸れた。
「あ、ああ、これは大丈夫だから気にしなくていい」
「大丈夫って……結構すごいことになっているけど。何があったの?」
何も言わないファビオ。視線を合わせようとしないニーノ。
ハッと気づいた。犯人に一人だけ心当たりがある。額に手を当てて唸った。
「も、もしかして、それって……」
「そ、そんなことよりサラ!」
「な、なに?!」
ファビオに強引に遮られ驚く。ファビオは小さな箱をサラに差し出した。
「コレを受け取ってほしい」
受け取り、開けると中にはピンキーリングが入っていた。
「え?」
困惑して顔を上げる。ピンキーリングは恋人がいる人達の間で流行っている魔術具の一つだ。付与されている魔術は前世でいうところのGPS。浮気防止として人気のアイテムだが……なぜそんなものを自分に?と戸惑っているサラにニーノが説明を始めた。
「そのピンキーリングには魔術ではなく魔法が付与されている。位置情報共有の魔法と転移魔法の二つが」
「二つも?! っていうか転移魔法って……」
基本的に転移が付与されている魔術具は王族しか持てない。つまり、それほど貴重な魔法なのだ。そんな魔法が付与されたピンキーリング。サラの身体が震え始める。
「魔法を付与したのはファビオだが、提案したのは私。そして、その許可を出したのは国王陛下だ。それだけこの国にとって『クイーン』が重要な存在だということだ」
真剣な顔で告げるニーノに同じく真剣な顔でサラが頷き返す。が、次の瞬間ニーノの表情が和らいだ。
「とはいいつつも、その転移魔法は限定的なものなんだけどな」
「限定的?」
どういうことかと尋ねる。
「王族が持っている転移の魔術具は自分の意志でどこにでもいける代物だが、そのピンキーリングは違う。ペアになっていて、互いの場所にしか転移できない」
「なる、ほど?」
「……たとえば、サラが誰かに攫われたとする。そんな時はそのピンキーリングに願えばファビオの元に転移できる。逆も然り。そういうことだ」
「なるほど!」
「だから、絶対に外すなよ」
横から口を挟み、ファビオはサラの手をとった。そして、ケースからピンキーリングを取り出し、サラの左手の小指にはめる。
すでにファビオの右手の小指にはピンキーリングが輝いていた。そのピンキーリングを見た瞬間、深い意味はないとわかっているのに心臓がドキドキし始めた。
そんな自分に驚き、サラは二人には気づかれないように淑女らしい笑みを繕って頷き返した。
そう言ったのには特に深い意味はなかった。単にこんな時間にファビオがいるとは思っていなかっただけだ。
けれど、ファビオはそうは思わなかったらしい。傷ついたように表情を歪める。いつもの余裕があるファビオからは想像できない反応。
「いない方がよかった?」
ギョッと目を丸くするサラ。ゆるゆると首を横に振る。
「違う。今日は実家に帰ると思っていたから」
ホッとして表情を緩めるファビオ。次いでファビオが口を開こうとしたタイミングでニーノが口を挟んだ。
「サラ、こんな時間にここにきたということはヒートか?」
ハッとファビオはサラの顔を見る。薄暗くて気づかなかったが、サラの頬は紅潮している。その表情には見覚えがあった。
サラは理性を保つ為に、ずっと右手で己の左腕を掴んでいた。そうでもしないと、目の前にいるファビオに手を伸ばしそうだったから。
けれど、我慢も限界に近付いている。そっと内股をすりあわせる。先程から子宮が疼いている。ゆっくりとサラは頷いた。ファビオの眉間に皺が寄る。
「こんなに間隔が短いのか」
「前任はもっと短かったぞ」
ニーノの言葉にファビオは目を見開いた。下唇を噛み、サラに近づく。そんなファビオをニーノが呼び止めた。
「隣の仮眠室を使え、もう限界だろう」
「……わかった。サラ、触れるぞ」
「? ひゃっ! んっ!」
いきなり抱きかかえられ驚いた。同時に身体が反応して余計な声まで出た。ここにはニーノもいるのに。微かに残っている理性がサラの羞恥心を刺激する。
サラはニーノと視線を合わせたくなくてファビオの胸元に顔を寄せた。ファビオの腕に力が入る。
ニーノは黙って二人を見守っている。いや、正しくは観ている。もちろんファビオはその視線に気づいているが、止めることはできない。
「ファビオ」
「ん?」
「熱い」
「大丈夫だ。今楽にしてやるから」
「ん」
ニーノが仮眠室の扉を開け、サラを姫抱きしたファビオが中へと入っていく。そして、サラを固いベッドの上に優しく降ろした。
「っあ」
服が擦れただけで声が漏れた。身体が熱い。すでに服の下で乳首が起ち上がっている。
「ファビオっ」
「っサラ」
助けを求めるように伸ばしたサラの手を握り、ファビオはサラに覆いかぶさり唇を重ねた。最初から口づけは深く、舌と舌が触れた先からぴりぴりと甘い刺激が広がっていく。
性急に大きな手がサラの胸に触れた。
「ああっ」
嬉しそうなサラの声が艶やかな唇から漏れる。薄い夜着のおかげかファビオはすぐにサラの起ち上がった乳首を見つけることができた。指先でクリクリといじるとサラの身体がびくんびくんと反応する。その反応が嬉しくて自然とファビオの口角が上がった。
サラの中に微かに残っていた理性はファビオと口づけした瞬間弾けて消えた。子宮の中に蜜が貯まってきているのがわかる。それに伴って身体の熱が上昇していく。
「あ、熱いの、はやく、はやく」
「あ、ああ。でも、もう少し」
そう言ってファビオはサラの身体に口づけを落としていく。はだけたところに痕を残しながら、サラの入口をほぐしていく。ファビオの指をくわえているサラの秘部はもっと奥への刺激を強請るように締め付けてくる。
――――ああ。早くこの中に俺のを入れたい。
衝動的な欲求に襲われながらも、サラに無体なことはできないという理性が働く。
ファビオは上半身を起こし、サラの下半身へと顔を近づけた。
「ファ、ビオ?」
視界から消えたファビオを探してサラの視線が彷徨う。
「なにをして、ああっ!」
サラから止められる前にとファビオはサラの秘裂に舌を這わせた。急な強い刺激にサラはビクッ!と仰け反る。
「いやっ! ああっ! ああーっ!」
嬌声が止まらない。チロチロと秘裂を舐められたかと思ったら、ツンツンと舌先で入口をほじくられる。
最奥からタラタラと蜜が溢れ出す。ファビオは夢中でサラの秘部を貪った。
――――まだだ。もっと、もっとだ。
目に入ったのは赤くぷっくりと膨れ上がった秘芽。無意識にその秘芽に舌を伸ばした。コリコリと舌先で弄り、ときおりちゅーっと吸い上げる。
「それっ! ダメっー!」
激しく仰け反るサラ。強すぎる快感から逃げようと必死だったが、ファビオの両手に抱え込まれて逃げられない。ソコがイイと学んだファビオは執拗に口で責め、同時に指で中を刺激し始めた。
「ひぃいいっ! イくっ! またいっちゃう! またっ!」
何度達したかわからない。何度も何度も身体を震わせ絶頂する。耐え切れなくなって涙が零れた。
「ひっく、っく」
「ご、ごめん。やりすぎた」
ようやく我に返ったファビオが責めるのを止めた。ホッとしてファビオに視線を向ける。そして、ギョッとした。ファビオの瞳は未だギラギラとしていたからだ。
そんなファビオの欲を見て、何故かサラは怖がるでもなく興奮を覚えた。
――――アア。コノオスハモウワタシノモノダ。
気づかないうちに笑みが浮かんだ。サラはファビオに両手を伸ばす。
「大丈夫だから、ファビオ、きて」
「ああ、サラ」
誘われるようにファビオはサラに顔を近づけ口づけを落とした。
そして、秘部に熱い塊が触れる。くちゅり、と音が鳴る。ゴクリと喉を鳴らしたのはどちらだったか。ゆっくりと入口を押し広げて入ってくる。ファビオを歓迎するようにぎゅっぎゅっと膣が締め付ける。
「くっ」
「ああっ」
うっとりした声がサラの口から零れる。足先がぴんと伸びた。
「サラ、サラ」
「ああっ! あんっ! いいっ! もっと!」
理性を失った二人は一時の快楽に夢中になった。
激しい律動にあわせて、卑猥な水音が室内に響き渡る。サラの嬌声も止まらない。
ファビオはひたすら奥にある蜜を求めて熱いモノを最奥に打ち付けた。そのたびにサラが喜びの声を上げる。互いの限界は近かった。
「くっ出すぞ!」
「んぅっ!」
最奥めがけ、ドクドクとファビオの熱いモノが注がれる。代わりにサラの中の蜜がファビオに吸い取られていく。あわせて身体の奥でくすぶっていた異様な熱が引いていくのがわかった。とはいえ、火照った身体はそのままだ。荒い息はおさまらない。そんなサラを労わるかのようにファビオの大きな手が撫でた。
「寝てていいぞ」
「ん」
誘われるようにサラの意識が沈む。完全に寝たのを確認してファビオは身体を起こした。ずるりと、サラの中から己を引き抜く。途中、もう一度押し込みたいという欲求に襲われながらも耐えた。
「もういいのか?」
「ちっ……ああ」
余韻に浸っていたファビオはニーノの声を聞いて我に返り舌打ちをした。
今更だが己の上着をサラにかける。じっとサラの顔を覗き込み、ハニーブロンドの髪をひと房手に取ると口づけをして放した。名残惜しいが仕方ない。
「そうか」
それだけ言い、ニーノは手にもっている紙に視線を落とした。サラとファビオがしている間、ニーノはずっと何かを書き留めていた。その紙にはいったい何が書かれているのか。
ファビオは知りたくもないと顔ごと視線を逸らした。
「シャワー、浴びてくる」
「ああ、勝手につかってくれ」
――――これくらいで動揺してちゃダメだ。早く慣れないと。これから先もサラの側にいる為に。
ファビオはぎゅっと握った拳に力をいれた。
◇
目を覚ますといつの間にか自室にいた。既視感に襲われながら上半身を起こし、己の身体を見た。
一瞬昨日のことは夢かと思ったが……違ったらしい。寝着が変わっている。
メイドを呼び、支度を終えるとニーノの研究室へと向かった。二人は起きていた。実験室にいたのでどうやら何かの研究をしていたらしい。残骸がそこら中に散らばっていた。
部屋を変えて改めて昨晩のことについて尋ねた。意識が飛び飛びだった為、記憶が定かではない。
「昨晩の話の続きだが……簡潔に言うとファビオはうちの居候になった」
「居候?」
ニーノの説明に首を傾げ、ファビオに視線を向ける。
「ああ。俺がお願いして、フランさんが俺の両親に話をつけてくれた」
「お父様が?」
驚いてもう一度ニーノを見る。ニーノは頷き返した。嘘をついているようには見えない。というより、元々ニーノは嘘をつくような人間ではない。正義感が強いとかではなく、嘘をつくことに必要性を感じないタイプの人間だからだ。
――――お父様、ファビオに対してすごく怒っていたみたいだったのに。
サラの気持ちをくんでくれたのだと思い至る。
「そっか」
「ああ、それとサラ」
「はい?」
ニーノに呼ばれ首を傾げる。
「後日改めて登城するようにと国王陛下からのお言葉だ」
「わ、わかった」
わかっていたことだとはいえ緊張する。ニーノはそんなサラの不安を見透かしていたらしい。珍しく気にかけるような言葉を続けた。
「まあ、そう緊張することはない。非公式の場だからな。私もついている」
「え? お父様ではなくニーが?!」
驚いて声が裏返った。普段研究室から出ようとしない義兄が……と困惑したサラだが、次の言葉で納得した。
「私はサラの担当だからな。後はまあ……父上がいると話が進まない……と国王陛下から言われてな……」
遠い目で疲れた様に息を吐くニーノと、苦笑するファビオ。二人の反応になんとなく想像ができた。
ふとファビオの顔を見て気づく。
「あれ? ファビオそれどうしたの?」
「それ?」
「頬」
昨日は気づかなかったが、ファビオの片方の頬が酷く内出血をしていた。ファビオの視線が逸れた。
「あ、ああ、これは大丈夫だから気にしなくていい」
「大丈夫って……結構すごいことになっているけど。何があったの?」
何も言わないファビオ。視線を合わせようとしないニーノ。
ハッと気づいた。犯人に一人だけ心当たりがある。額に手を当てて唸った。
「も、もしかして、それって……」
「そ、そんなことよりサラ!」
「な、なに?!」
ファビオに強引に遮られ驚く。ファビオは小さな箱をサラに差し出した。
「コレを受け取ってほしい」
受け取り、開けると中にはピンキーリングが入っていた。
「え?」
困惑して顔を上げる。ピンキーリングは恋人がいる人達の間で流行っている魔術具の一つだ。付与されている魔術は前世でいうところのGPS。浮気防止として人気のアイテムだが……なぜそんなものを自分に?と戸惑っているサラにニーノが説明を始めた。
「そのピンキーリングには魔術ではなく魔法が付与されている。位置情報共有の魔法と転移魔法の二つが」
「二つも?! っていうか転移魔法って……」
基本的に転移が付与されている魔術具は王族しか持てない。つまり、それほど貴重な魔法なのだ。そんな魔法が付与されたピンキーリング。サラの身体が震え始める。
「魔法を付与したのはファビオだが、提案したのは私。そして、その許可を出したのは国王陛下だ。それだけこの国にとって『クイーン』が重要な存在だということだ」
真剣な顔で告げるニーノに同じく真剣な顔でサラが頷き返す。が、次の瞬間ニーノの表情が和らいだ。
「とはいいつつも、その転移魔法は限定的なものなんだけどな」
「限定的?」
どういうことかと尋ねる。
「王族が持っている転移の魔術具は自分の意志でどこにでもいける代物だが、そのピンキーリングは違う。ペアになっていて、互いの場所にしか転移できない」
「なる、ほど?」
「……たとえば、サラが誰かに攫われたとする。そんな時はそのピンキーリングに願えばファビオの元に転移できる。逆も然り。そういうことだ」
「なるほど!」
「だから、絶対に外すなよ」
横から口を挟み、ファビオはサラの手をとった。そして、ケースからピンキーリングを取り出し、サラの左手の小指にはめる。
すでにファビオの右手の小指にはピンキーリングが輝いていた。そのピンキーリングを見た瞬間、深い意味はないとわかっているのに心臓がドキドキし始めた。
そんな自分に驚き、サラは二人には気づかれないように淑女らしい笑みを繕って頷き返した。
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