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狂想曲
─27─それぞれの思惑
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先鋒隊からの奇襲失敗の報告を受けたロンドベルトは、怒りを通り越して呆れ果て、苦笑を浮かべることしかできなかった。
無紋の勇者という絶対的な指揮官を欠いた上、その数をも減らしている敵に対し、こちらは圧倒的に有利な立場にある。
にも関わらず不用意な奇襲を仕掛け、挙句に返り討ちにされるとは。
たちの悪い冗談以上に笑えない
「……勝利を自らの手で確実にしようと思われたのでしょうが……」
報告を読み上げたヘラも、戸惑いの色を隠せない。
「あの件に関しては、罪は不問と言ったのだがな。参謀殿の生真面目な性格が裏目に出たというところか」
ややもすれば状況を楽しんでいるようなロンドベルトの口調に、ヘラは返す言葉がない。
そんな副官の様子にロンドベルトは苦笑を収めると、決戦の地ランスグレン地方の地図を広げた。
どうやら絶対的な司令官を欠いた蒼の隊にも、それなりに戦況を見る目が有る人物がいるようだ。
あれほど見たくもないと思っていた蒼の隊の内部を、今はなぜか見てみたい。
興味をそそられて、ロンドベルトは地図の上に手をかざし、視線をランスグレンに飛ばす。
見えて来たのは、敵の撃退成功に沸き立つ蒼の隊だった。
が、歓喜の輪からやや離れたところに、神妙な面持ちで何やら話し合う面々がいる。
どうやら、敵の中にも物事を楽観視せずに正確に見定めようという人物がいるらしい。
恐らくは今回の司令部と言ったところだろうか。
ロンドベルトがそちらに意識を集中すると、彼らの姿が鮮明に浮かび上がる。
一人は、小柄だが体格の良い、察するにこの隊の古参。
いま一人は、少々頼り無げに見えるくすんだ金髪の青年。
最後の一人は、戦場にはいささか不似合いな、赤茶色の髪の高貴な雰囲気を持つ女性だった。
ロンドベルトの唇の端に、わずかに笑みが浮かぶ。
他でもない、あの敵国の神官をルウツに繋ぎ止めている人物達が、一同に介しているのである。
「閣下、いかがなさいました? 」
わずかに小首をかしげるヘラに、ロンドベルトは軽く片手を上げて答える。
「……いや、何でもない。なかなか面白いことになったと思っただけだ」
そう言ってからロンドベルトはヘラに対し、彼直属の精鋭部隊を招集するよう命じた。
※
「……と言うわけで、向こうが包囲して来たら囲まれる前に強行突破する。坊ちゃんと殿下は、先程の……」
そこまでシグマが言った所で、ミレダは不機嫌そうに話を遮った。
「つまり、私達は戦力にならないと言うことか?」
「いえ……その、そういう訳ではなくて……」
言いさして、シグマは気まずそうに咳払いすると、頭をかき回す。
一方ユノーは、不安げに両者を見つめていた。
「総大将が討たれたら、戦は負けです。残念ながら今回は、オレ達も自分が生き残るのに手一杯で、殿下をお守りするまでの余力が……」
「だから、一緒に戦うと言ってるじゃないか。自分の身を守るくらい……」
「失礼ながら、戦闘は型の決まった打ち合いじゃありません。場合によっては、一対多数になることもある。そうなったら……」
「ひよこの僕では、到底生き残れませんね。残念ながら」
シグマが言わんとしていることを理解して、ユノーは寂しげに微笑む。
確かに、初陣を生き残れたとは言え、彼の武術の腕では明らかに力不足だ。
あまつさえ、実戦経験の無いミレダは、言わずもがなである。
現実を突きつけられ悔しそうに唇を噛むミレダに対して、だがシグマはある事を提案した。
「その代わりと言っては何ですが、殿下と坊ちゃんには全体の戦況と布陣を見ていて欲しいんです」
死神の千里眼には及ばないまでも、相手の陣の薄いところを伝令を使って伝えてくれれば、勝機があるかもしれない。
そう言うシグマに、ミレダは不承不承うなずいた。
それを見てシグマは、ユノーの肩をぽんと叩く。
「坊ちゃん、頼む。殿下を……」
「最初からそのつもりです。命に変えてもお守りします」
こちらに向けられてくる両者の視線を、ミレダは受け止めることができなかった。
けれど、ややあって意を決したかのように顔を上げる。
「縁起でもないことを言うな。私達は必ず生きて帰る。そうだろう?」
そう言う声はやや震えていたが、ユノーは丁重に無視して恭しく一礼し、シグマは力強くうなずいた。
「そのとおりです。では後ほど、笑ってお会いしましょう」
言い終えると、シグマは隊の中へと歩み去る。
その後ろ姿を見送ってから、ユノーはミレダに向き直った。
「では、参りましょう、殿下」
戦いが、始まろうとしていた。
無紋の勇者という絶対的な指揮官を欠いた上、その数をも減らしている敵に対し、こちらは圧倒的に有利な立場にある。
にも関わらず不用意な奇襲を仕掛け、挙句に返り討ちにされるとは。
たちの悪い冗談以上に笑えない
「……勝利を自らの手で確実にしようと思われたのでしょうが……」
報告を読み上げたヘラも、戸惑いの色を隠せない。
「あの件に関しては、罪は不問と言ったのだがな。参謀殿の生真面目な性格が裏目に出たというところか」
ややもすれば状況を楽しんでいるようなロンドベルトの口調に、ヘラは返す言葉がない。
そんな副官の様子にロンドベルトは苦笑を収めると、決戦の地ランスグレン地方の地図を広げた。
どうやら絶対的な司令官を欠いた蒼の隊にも、それなりに戦況を見る目が有る人物がいるようだ。
あれほど見たくもないと思っていた蒼の隊の内部を、今はなぜか見てみたい。
興味をそそられて、ロンドベルトは地図の上に手をかざし、視線をランスグレンに飛ばす。
見えて来たのは、敵の撃退成功に沸き立つ蒼の隊だった。
が、歓喜の輪からやや離れたところに、神妙な面持ちで何やら話し合う面々がいる。
どうやら、敵の中にも物事を楽観視せずに正確に見定めようという人物がいるらしい。
恐らくは今回の司令部と言ったところだろうか。
ロンドベルトがそちらに意識を集中すると、彼らの姿が鮮明に浮かび上がる。
一人は、小柄だが体格の良い、察するにこの隊の古参。
いま一人は、少々頼り無げに見えるくすんだ金髪の青年。
最後の一人は、戦場にはいささか不似合いな、赤茶色の髪の高貴な雰囲気を持つ女性だった。
ロンドベルトの唇の端に、わずかに笑みが浮かぶ。
他でもない、あの敵国の神官をルウツに繋ぎ止めている人物達が、一同に介しているのである。
「閣下、いかがなさいました? 」
わずかに小首をかしげるヘラに、ロンドベルトは軽く片手を上げて答える。
「……いや、何でもない。なかなか面白いことになったと思っただけだ」
そう言ってからロンドベルトはヘラに対し、彼直属の精鋭部隊を招集するよう命じた。
※
「……と言うわけで、向こうが包囲して来たら囲まれる前に強行突破する。坊ちゃんと殿下は、先程の……」
そこまでシグマが言った所で、ミレダは不機嫌そうに話を遮った。
「つまり、私達は戦力にならないと言うことか?」
「いえ……その、そういう訳ではなくて……」
言いさして、シグマは気まずそうに咳払いすると、頭をかき回す。
一方ユノーは、不安げに両者を見つめていた。
「総大将が討たれたら、戦は負けです。残念ながら今回は、オレ達も自分が生き残るのに手一杯で、殿下をお守りするまでの余力が……」
「だから、一緒に戦うと言ってるじゃないか。自分の身を守るくらい……」
「失礼ながら、戦闘は型の決まった打ち合いじゃありません。場合によっては、一対多数になることもある。そうなったら……」
「ひよこの僕では、到底生き残れませんね。残念ながら」
シグマが言わんとしていることを理解して、ユノーは寂しげに微笑む。
確かに、初陣を生き残れたとは言え、彼の武術の腕では明らかに力不足だ。
あまつさえ、実戦経験の無いミレダは、言わずもがなである。
現実を突きつけられ悔しそうに唇を噛むミレダに対して、だがシグマはある事を提案した。
「その代わりと言っては何ですが、殿下と坊ちゃんには全体の戦況と布陣を見ていて欲しいんです」
死神の千里眼には及ばないまでも、相手の陣の薄いところを伝令を使って伝えてくれれば、勝機があるかもしれない。
そう言うシグマに、ミレダは不承不承うなずいた。
それを見てシグマは、ユノーの肩をぽんと叩く。
「坊ちゃん、頼む。殿下を……」
「最初からそのつもりです。命に変えてもお守りします」
こちらに向けられてくる両者の視線を、ミレダは受け止めることができなかった。
けれど、ややあって意を決したかのように顔を上げる。
「縁起でもないことを言うな。私達は必ず生きて帰る。そうだろう?」
そう言う声はやや震えていたが、ユノーは丁重に無視して恭しく一礼し、シグマは力強くうなずいた。
「そのとおりです。では後ほど、笑ってお会いしましょう」
言い終えると、シグマは隊の中へと歩み去る。
その後ろ姿を見送ってから、ユノーはミレダに向き直った。
「では、参りましょう、殿下」
戦いが、始まろうとしていた。
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