泡沫

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ざわつき

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「あっ、お金。」

食べ終わって会計をしようとすると

「もう、俺払っといたから。」

そう言ってピースをする。

「え?潤のおごり?やべー俺が出そうとしたのに俺の立場ねぇじゃん笑。」

そう言って悔しそうな顔をする亜季ちゃん。


「潤さんご馳走さまでした。」

玲奈がお辞儀をする。

「うん。今度は亜季さんに奢って貰うから笑。」


そう言って彼は笑った。


あっ、お礼…そう思って後を追いかける。

「今日はご馳走さまでした。」

あたしが彼の隣に並びそう言った。

「今日はじゃなくていつもご馳走するから遠慮なく言ってね」

とあたしの頭にポンッとてをおいた。

いつも…?

それって…。


いや、ただの社交辞令だ。

そう言い聞かせて高鳴る胸を抑えた。


「潤、愛結ちゃん送ってね~。家近いから二人とも」

そう言って亜季ちゃんはヒラヒラと手を振りながら玲奈と帰っていった。


「あ…あたし一人でも帰れますので…」

そう言うと

「え?なんで?俺送ってくよ?家どの辺?」

そう言って顔を覗き込まれる。

「いやでも…。」

「さ、行こう」

そう言って先に歩き出す。

「ホントに一人でも…」

あたしが慌てて追いかけると

「女の子だからだめだよ。」

そう言って笑った。

あたしの歩幅にあわせて歩いてくれる。

夏の夜のせいで少し汗ばむ。

「ねぇ、愛結ちゃん?」

あたしの名前を優しく呼ぶから

彼を見上げると

「また、会おうね。」

そう言って笑った。


「うん…。」

あたしは恥ずかしくて少し照れ臭くて

うつむいてそう言った。


「あの…もうここで。」

あたしがそう言うと


「え?ここ?俺の家とすげー近い」

そう言って2つ先のマンションを指す。


「え?」

凄いというか、なんというか。

偶然というものなのだろうか。


「じゃあ、また」

そう言ってあたしの頭をポンッと撫でる。


「ありがとう。」

そう言ってあたしはエントランスへ入っていった。

エレベーターへ乗るとドキドキしている
自分の心臓がやけにうるさい。


あたし、どうしちゃったんだろう。

潤くんに頭を触られただけでドキドキする。

胸が締め付けられる。


でも、きっとこの感情はこの時だけ。

自分の部屋を開けると

深いため息をはいた。


それから、何事もなく1週間、2週間と月日は過ぎた。


潤くんからは連絡がたまにくるだけで。


仕事が忙しいとあたしは返さないときもあった。

ここ1週間、潤くんに連絡を返していない。

時間がたちすぎて…返せないでいた。

「愛結!今日飲み行こう!」

仕事終わり、玲奈があたしに抱きつきそう言う。


「えぇ?今日は疲れたよ。」

あたしがそう言うと

「なにいってんの~咲花も一緒にいくんだよ~ほらはやく!」

そう言って急かされ、外へと出る。


「どこいくの?」

あたしが聞くと


「亜季のとこ~」


そう言ってピースをする。

「いや、お金そんなに持ってないしおろしてないからさ…」

あたしがそう言うと


「なにいってんの?お金なんて心配ないさー!」


何故か大西ライオンの真似をしながら

愉快に歩き出す。


そりゃあ亜季ちゃんの彼女だし、咲花は翔くんの彼女だからお金かからないけど。

あたしは…違うじゃん。

お客さんとして行くのに…それはまずいよね?

凄く行きづらくなって…やっぱり帰ろうかななんて思ってる間に…着いてしまった。


まぁ、足りなかったらカードで支払えばいいかな。

そうやって自己完結をした。

「あれ?今日は亜季ちゃんきてないね?」

下に迎えにくるはずの亜季ちゃんの姿がない


「行くとか言うとうるさいから内緒できたんだよ!」

そう言ってベロを出した。


それ、喧嘩になるやつじゃ…?


そんなこと思ってると玲奈は普通に店のドアをあける。


いらっしゃいませー!

という声とともに

ホストたちが焦りながら裏へ駆け込む。

そりゃ、そうだよね。

困るわ亜季ちゃん知らないんだもん。

「おい玲奈!」

亜季ちゃんは焦って裏から飛び出してくる。

「でへへ~ごめん!来ちゃった笑。」

そう言って軽くあしらう。


「V空いてないっすよ亜季さん。」

ホストのこがそう言って辺りを見回す。


「ん~…じゃあ、そこで。」

亜季ちゃんは渋々あたし達をホールへつれてく。

「なんでまた急になんだよおまえ。」

少し怒ったように亜季ちゃんは言った。

「だってさ行くとか言うと~だめだとか言うじゃん~」

「咲花もなんでまた…」


呆れながら翔くんも言った。


「他のホスト行ったら怒るでしょ?だから、ここに来たのよ!」


玲奈がそう言っていたずらそうに笑う。


「だからってなー…」

ブーブー言いながら亜季ちゃんはお酒を作り出した。


「あれ?愛結ちゃんどーする?」

あたしの方を亜季ちゃんは見て言う。


「潤くんに決まってんでしょ」


そう言ったのは玲奈で。


「わかった。」

そう言って亜季ちゃんは席をたった。

迷惑じゃないかな?

行きなり来て…。

それにしてもお客さんいっぱいだな~…

そんなこと思ってると奥のホールから

潤くんが来るのがわかった。

あっ、お客さんいたんだ。

いるよねそりゃ。

いきなり来ちゃって仕事増やしにきたみたいになっちゃってる。


「なんできたの?」

いつもと違う低い声であたしの目の前に立つ。

「え…?」

あたしが驚いてると

「いや、ごめん!潤さん!あたしが無理矢理連れてきてさ」

玲奈が慌てて間にはいる。

「はぁ…」

そうため息をはいてあたしの横に座る。

なんか…怒ってる…?

「あの…」

あたしが聞こうとしたら

「連絡ないし、いつまでたっても返してくれないし。」

こっちを見ずに潤くんは話し出す。

「それは…」

「かと思えばいきなりくるし。俺さ…店になんて別に来てほしいわけじゃないし…店じゃなくて普通に外で会いたいんだけど。」

そう言われて潤くんをみた。

「あの…ごめんなさい…連絡は忙しくて…なんか日が経ってから返しづらくて…」

そう言うとまた深いため息をはいた。

「ちょっとまってて。」

そう言って行ってしまった。

外で会いたいんだけど…?

それは…どういう意味?

意味なんてないよね…ただ普通に

意味がない言葉だよね。

カッと熱くなる顔を抑えるように

自問自答を繰り返した。

「あいつキレてるなー…」

亜季ちゃんがボソッと言ったのがこのでかい音量が流れている場所でも聞こえた。

怒ってるんだ…。

迷惑かけたからかな…。

「お客さんお帰りです。」

その声が聞こえるほうに目をやると

潤くんがお客さんの鞄を持っていた。

その女の子は凄く怒ってて。

潤くんはその子を無視して出口へと向かう。

「あちゃー…」

亜季ちゃんがそれを見て頭を抱える。

「あいつバカだなほんと。」

そう言ってグラスをあたしに傾けた。

テキーラの味に慣れているのに

酔いがまわるのが早く感じる。

どれくらいたったかな。

多分五分ぐらいなのにあたしには
10分ぐらいに感じた。

「ごめん。」

そう言って潤くんが隣に座る

「いや…あたしが勝手に来てそれで仕事増やしちゃってごめんね…」

そう言うと

「はぁ…違うそうじゃなくて…。あんまり仕事してるの見せたくなくて…。仕事にならねぇってゆうか…」

そう言って下を向く。

そうだよね…ごめんなさい…。

仕事してるのに、邪魔しに…。

あたしが黙ってると

「今日はもうお客さん来ないしきにしないで。」

そう言って笑った。

「でも…」

「連絡…待ってるから、だからちゃんと返してほしい。」

そう言ってあたしを見た。

「うん…。」


「うん。じゃあ俺もテキーラ飲むね。」

そう言ってグラスを合わせる。

「違うの飲んでもいいのに…」

「いや、これでいい。」

そう言ってまた笑った。

隣にいると…何故だか落ち着く…。

ずっと忘れていた…この感覚が

やっぱり潤くんのとなりにいると

蘇ってくる。

あたしは…もうしないって決めているのに
心はざわついていた。

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