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陰陽少女(仮)
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数日後。
京子は翔子、千夏と連れ立って、久保田和美の見舞いに病院を訪れた。
笑顔で三人を迎えた和美は、思いのほか元気そうだった。頭を強く打ったものの、検査の結果は脳波にこれといった異常は見つからず、幸いにも特に怪我もなかったので、あと数日で退院出来そうだという。
「親善試合は、散々だったよ」
翔子が大袈裟な溜め息をつく。
「やっぱりエースが抜けちゃったらね。早く治って、剣道部に復帰してくんなくちゃ、久保田さん」
「でも、外見と違って、和美嬢って、意外とドジなんだね。階段から足を踏み外すなんてさ」
千夏が、見舞いに持ってきたケーキを頬張りながら言う。三つ目に延ばされた千夏の手を払いのけながら、京子と和美は顔を見合わせ、こっそりと笑い合った。例の件は、二人だけの秘密にしておこうと決めたのだ。
翔子と千夏が手洗いに立った隙に、京子はペンダントのことを尋ねてみた。
「あれは、別れたときに田倉くんに送り返したの。でも、それを芝川さんが持っていたなんて、驚きだわ」
その優香は、あれ以来、学校に姿を見せていない。娘の怪我で早々に旅行を切り上げて帰国した優香の両親から担任教師に入った連絡によると、どうやら転校させるつもりらしい。
たとえどれ程捻じれた、歪んだ愛情であったとしても、優香の和美への想いは一途なものだったに違いない。多分、優香は、決して自分のものにはならない和 美のせめてもの身代わりのつもりで、和美が身に着けていたペンダントを大切にしていたのだ。そう考えると、優香が憐れな気がした。
一方、バイク事故を起こした田倉のほうは、全治三か月の重傷ながら命に別状はなく、同じ病院に入院している。これだけ酷い目に遭ったのだ、和美へのストーカー行為も今後はなくなるだろう。
恋バナ好きな流咲は、この結末まで予想していただろうか。
流咲のことを考えていた京子は、横顔を盗み見るようにしている和美の冷めた視線に気が付いた。
「なにをニヤけてんのよ。気持ち悪い。おおかた、ヤラしいことでも考えてたんでしょ」
「はあ?そういう口のききかた、なんとかならないの?そういう性格だから、悪人と勘違いされるのよ、あんたは」
負けじと京子も言い返す。
「よく言うじゃない。勝手に私を毛嫌いしてワルモノ扱いしていたのは、自分のほうだっていうのに」
お互い、怒った顔を突き合わせて睨みあう。次の瞬間、二人は同時に吹きだした。今回の事件も、あながち悪いことばかりではなかったのかも知れない。こうして和美と友達になれたのだから。
「十二月だっていうのに、いいお天気だね」
病室のカーテンを開け放って、京子は午後の陽ざしを体いっぱいに受けた。
「ねえ、怪我が治ったらさ、翔子と千夏とあんたとあたしの四人で、どこか旅行でも行こうよ。暗いこととかイヤなこととか全部忘れて、パーっとやろ」
照れたように笑みを浮かべ、和美が頷く。翔子と千夏がなにやらはしゃぎながら、病室に戻って来た。
一枚ガラスの窓の向こうに、雲一つない青空が広がっている。京子は空に向かって、大きく伸びをした。
こんなにいいお天気なんだもの、流咲はまたどこかの校舎の屋上に紛れこんで日向ぼっこでもしているのもしれないな、などと考えながら。
《FIN》
京子は翔子、千夏と連れ立って、久保田和美の見舞いに病院を訪れた。
笑顔で三人を迎えた和美は、思いのほか元気そうだった。頭を強く打ったものの、検査の結果は脳波にこれといった異常は見つからず、幸いにも特に怪我もなかったので、あと数日で退院出来そうだという。
「親善試合は、散々だったよ」
翔子が大袈裟な溜め息をつく。
「やっぱりエースが抜けちゃったらね。早く治って、剣道部に復帰してくんなくちゃ、久保田さん」
「でも、外見と違って、和美嬢って、意外とドジなんだね。階段から足を踏み外すなんてさ」
千夏が、見舞いに持ってきたケーキを頬張りながら言う。三つ目に延ばされた千夏の手を払いのけながら、京子と和美は顔を見合わせ、こっそりと笑い合った。例の件は、二人だけの秘密にしておこうと決めたのだ。
翔子と千夏が手洗いに立った隙に、京子はペンダントのことを尋ねてみた。
「あれは、別れたときに田倉くんに送り返したの。でも、それを芝川さんが持っていたなんて、驚きだわ」
その優香は、あれ以来、学校に姿を見せていない。娘の怪我で早々に旅行を切り上げて帰国した優香の両親から担任教師に入った連絡によると、どうやら転校させるつもりらしい。
たとえどれ程捻じれた、歪んだ愛情であったとしても、優香の和美への想いは一途なものだったに違いない。多分、優香は、決して自分のものにはならない和 美のせめてもの身代わりのつもりで、和美が身に着けていたペンダントを大切にしていたのだ。そう考えると、優香が憐れな気がした。
一方、バイク事故を起こした田倉のほうは、全治三か月の重傷ながら命に別状はなく、同じ病院に入院している。これだけ酷い目に遭ったのだ、和美へのストーカー行為も今後はなくなるだろう。
恋バナ好きな流咲は、この結末まで予想していただろうか。
流咲のことを考えていた京子は、横顔を盗み見るようにしている和美の冷めた視線に気が付いた。
「なにをニヤけてんのよ。気持ち悪い。おおかた、ヤラしいことでも考えてたんでしょ」
「はあ?そういう口のききかた、なんとかならないの?そういう性格だから、悪人と勘違いされるのよ、あんたは」
負けじと京子も言い返す。
「よく言うじゃない。勝手に私を毛嫌いしてワルモノ扱いしていたのは、自分のほうだっていうのに」
お互い、怒った顔を突き合わせて睨みあう。次の瞬間、二人は同時に吹きだした。今回の事件も、あながち悪いことばかりではなかったのかも知れない。こうして和美と友達になれたのだから。
「十二月だっていうのに、いいお天気だね」
病室のカーテンを開け放って、京子は午後の陽ざしを体いっぱいに受けた。
「ねえ、怪我が治ったらさ、翔子と千夏とあんたとあたしの四人で、どこか旅行でも行こうよ。暗いこととかイヤなこととか全部忘れて、パーっとやろ」
照れたように笑みを浮かべ、和美が頷く。翔子と千夏がなにやらはしゃぎながら、病室に戻って来た。
一枚ガラスの窓の向こうに、雲一つない青空が広がっている。京子は空に向かって、大きく伸びをした。
こんなにいいお天気なんだもの、流咲はまたどこかの校舎の屋上に紛れこんで日向ぼっこでもしているのもしれないな、などと考えながら。
《FIN》
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