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#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 05-04
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理論上、これが今のオウガに繰り出せる最大の攻撃だ。音速で振るわれる一閃は鋼鉄の塊だろうとバターのように両断し、仮に避けられとしても衝撃波の追い打ちが待っている。
接近戦における、王手積み。
「――エイワズ」
それを、ギノアのオーディン・シャドーは、たった一言で止めた。
出現位置は掲げられた左手の前。恐らくは厚さ一ミリにも満たない、透明な光の壁。
丸く、大きく、オーディン・シャドーを守るように現れたその盾に、オウガは必殺の斬撃を弾かれた。
音速と防護壁。二つの負荷に耐えきれず、ガラスのように砕け散るオウガの二刀。制御を失い、霊力となって霧散していく己の得物に、辰巳は目を剥く。
「な」
時間にすれば僅か一秒。だがその一秒の空白は、手を伸ばせば届くこの至近距離に置いて、あまりにも致命的な隙であった。
「遅いですよ――! ハガラズ!」
解除された防護壁と入れ替わり、オーディン・シャドーの左腕から放たれたのは雹の嵐。
ヴォルテック・バスターよりも熾烈な渦となって襲い来る雹嵐に、辰巳は切磋に防御姿勢を取る。
「ち、ぃっ!」
コクピットを庇い、X字に交差するオウガの両腕。だが放たれた雹嵐は、オウガを包み込んで全方向から装甲を削り始める。
腕、足、腹、背中。機関砲のような雹があらゆる部位に弾痕を穿ち、うち一発が胸部の霊力装甲を貫いて辰巳の足下に着弾。更に荒ぶる霊力の嵐が、オウガそのものを磨り潰さんと荒れ狂う。
「ぐ――! セット! ジャンプ!」
『Roger Rebounder Etherealize』
半ば叫ぶような辰巳の指令に答え、足首のEマテリアルが跳躍ユニットを生成。辰巳はそれを即座に起動、大きく跳躍して雹嵐の中から脱出する。
「おや。そういえばそんなものもありましたねぇ」
対するギノアはエイワズの照射を止めるのみで、ただ悠然と遠ざかるオウガの姿を見据えている。追撃する仕草すら見せない辺り、まったくの余裕綽々という訳だ。
百メートルほどの距離をとり、オウガは着地。
「……ち」
同時に辰巳は舌打つ。
さもあらん。ギノアの余裕もさることながら、立体映像モニタに表示された機体コンディションが、散々なものだったからだ。
駆動系統にこそ辛うじて異常は無いが、それ以外の部分はボロボロだ。
装甲はヒビが入ったガラスのように粉々で、指でつつけば弾けてしまいそうな有様だ。
Eマテリアルそのものは傷一つ無いが、そこに繋がる術式は所々断線している。今はどうにかバイパスを繋いで持たせているが、それもいつまでもつやら。
戦力差は、予想以上に大きい。
そして、何よりも問題なのが――。
「ご、ふ」
辰巳の腹から流れる、赤い液体だろう。
接近戦における、王手積み。
「――エイワズ」
それを、ギノアのオーディン・シャドーは、たった一言で止めた。
出現位置は掲げられた左手の前。恐らくは厚さ一ミリにも満たない、透明な光の壁。
丸く、大きく、オーディン・シャドーを守るように現れたその盾に、オウガは必殺の斬撃を弾かれた。
音速と防護壁。二つの負荷に耐えきれず、ガラスのように砕け散るオウガの二刀。制御を失い、霊力となって霧散していく己の得物に、辰巳は目を剥く。
「な」
時間にすれば僅か一秒。だがその一秒の空白は、手を伸ばせば届くこの至近距離に置いて、あまりにも致命的な隙であった。
「遅いですよ――! ハガラズ!」
解除された防護壁と入れ替わり、オーディン・シャドーの左腕から放たれたのは雹の嵐。
ヴォルテック・バスターよりも熾烈な渦となって襲い来る雹嵐に、辰巳は切磋に防御姿勢を取る。
「ち、ぃっ!」
コクピットを庇い、X字に交差するオウガの両腕。だが放たれた雹嵐は、オウガを包み込んで全方向から装甲を削り始める。
腕、足、腹、背中。機関砲のような雹があらゆる部位に弾痕を穿ち、うち一発が胸部の霊力装甲を貫いて辰巳の足下に着弾。更に荒ぶる霊力の嵐が、オウガそのものを磨り潰さんと荒れ狂う。
「ぐ――! セット! ジャンプ!」
『Roger Rebounder Etherealize』
半ば叫ぶような辰巳の指令に答え、足首のEマテリアルが跳躍ユニットを生成。辰巳はそれを即座に起動、大きく跳躍して雹嵐の中から脱出する。
「おや。そういえばそんなものもありましたねぇ」
対するギノアはエイワズの照射を止めるのみで、ただ悠然と遠ざかるオウガの姿を見据えている。追撃する仕草すら見せない辺り、まったくの余裕綽々という訳だ。
百メートルほどの距離をとり、オウガは着地。
「……ち」
同時に辰巳は舌打つ。
さもあらん。ギノアの余裕もさることながら、立体映像モニタに表示された機体コンディションが、散々なものだったからだ。
駆動系統にこそ辛うじて異常は無いが、それ以外の部分はボロボロだ。
装甲はヒビが入ったガラスのように粉々で、指でつつけば弾けてしまいそうな有様だ。
Eマテリアルそのものは傷一つ無いが、そこに繋がる術式は所々断線している。今はどうにかバイパスを繋いで持たせているが、それもいつまでもつやら。
戦力差は、予想以上に大きい。
そして、何よりも問題なのが――。
「ご、ふ」
辰巳の腹から流れる、赤い液体だろう。
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