82 / 162
#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 02-01
しおりを挟む
時間は少々さかのぼり、朝六時三十分。日乃栄高校翠明寮、男子棟三○一号室。
この日、辰巳は最悪な気分で目を覚ました。
「……あー」
眠れなかった訳では無い。身体の調子はすこぶる良好、いつも通りのコンディションだ。
だというのに、どうにも調子がおかしい。
理由は辰巳自身、分かりきっている。昨日風葉と話した事柄が、心のどこかで尾を引いているのだ。
そう遠くないうちに、風葉はフェンリルを抜き取られる。その上で、凪守に関わった記憶は全て改竄される。そう珍しくも無い、何かの拍子でこちら側と接点を持った一般人から秘密を守るための措置だ。
だから程なく風葉との関係は、事件が起きる前の顔見知りレベルに戻るだろう。
それからギノアに関するいざこざを終わらせてしまえば、この一件は全て終わりだ。世は全て事も無く、日乃栄高校には平凡な日常が戻ってくる。
だというのに。
「引っかかりがあるのは、何でかね……」
らしくない。
ぐしぐしと寝癖頭をかきながら、取りあえず辰巳はジョギングするために部屋を出た。
いつもの日課だという事もあるが、それ以上にとにかく何か、気晴らしをしたかったのだ。
午前七時三十分。
気分はさっぱり晴れなかった。
「ああもう」
それでも日常生活をこなすべく、辰巳は食堂で黙々と朝食をかきこんだ後、自室に戻って速やかに着替えを済ませる。
気付け代わりに冷蔵庫から牛乳を取り出してガブ飲みし、忘れ物が無いか確認し、さほど必要性を感じない鍵をかけて学校を目指す。
まったくもっていつもと変わらない、五辻辰巳の登校風景。
それを、一人の女生徒が途中で阻んだ。
「……やっほう」
霧宮風葉である。
「……やぁ」
知らず、辰巳は廊下の真ん中で足を止めた。
昨日と同じ事務室が見える窓の脇、昨日と同じ黒髪のポニーテール姿の風葉。
違うのは制服を着ている事と、鞄を提げている事。
それから何よりも、微妙な表情をしている事だろう。
怒っているような、悲しんでいるような。そんな顔だ。
何故そうしているのか。理由は薄々検討はつくが、あえて辰巳は知らぬふりをした。
この日、辰巳は最悪な気分で目を覚ました。
「……あー」
眠れなかった訳では無い。身体の調子はすこぶる良好、いつも通りのコンディションだ。
だというのに、どうにも調子がおかしい。
理由は辰巳自身、分かりきっている。昨日風葉と話した事柄が、心のどこかで尾を引いているのだ。
そう遠くないうちに、風葉はフェンリルを抜き取られる。その上で、凪守に関わった記憶は全て改竄される。そう珍しくも無い、何かの拍子でこちら側と接点を持った一般人から秘密を守るための措置だ。
だから程なく風葉との関係は、事件が起きる前の顔見知りレベルに戻るだろう。
それからギノアに関するいざこざを終わらせてしまえば、この一件は全て終わりだ。世は全て事も無く、日乃栄高校には平凡な日常が戻ってくる。
だというのに。
「引っかかりがあるのは、何でかね……」
らしくない。
ぐしぐしと寝癖頭をかきながら、取りあえず辰巳はジョギングするために部屋を出た。
いつもの日課だという事もあるが、それ以上にとにかく何か、気晴らしをしたかったのだ。
午前七時三十分。
気分はさっぱり晴れなかった。
「ああもう」
それでも日常生活をこなすべく、辰巳は食堂で黙々と朝食をかきこんだ後、自室に戻って速やかに着替えを済ませる。
気付け代わりに冷蔵庫から牛乳を取り出してガブ飲みし、忘れ物が無いか確認し、さほど必要性を感じない鍵をかけて学校を目指す。
まったくもっていつもと変わらない、五辻辰巳の登校風景。
それを、一人の女生徒が途中で阻んだ。
「……やっほう」
霧宮風葉である。
「……やぁ」
知らず、辰巳は廊下の真ん中で足を止めた。
昨日と同じ事務室が見える窓の脇、昨日と同じ黒髪のポニーテール姿の風葉。
違うのは制服を着ている事と、鞄を提げている事。
それから何よりも、微妙な表情をしている事だろう。
怒っているような、悲しんでいるような。そんな顔だ。
何故そうしているのか。理由は薄々検討はつくが、あえて辰巳は知らぬふりをした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
読まれるウェブ小説を書くためのヒント
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
エッセイ・ノンフィクション
自身の経験を踏まえつつ、読まれるための工夫について綴るエッセイです。
アルファポリスで活動する際のヒントになれば幸いです。
過去にカクヨムで投稿したエッセイを加筆修正してお送りします。
作者はHOTランキング1位、ファンタジーカップで暫定1位を経験しています。
作品URL→https://www.alphapolis.co.jp/novel/503630148/484745251

愚者の箱庭
marvin
SF
シンは極度の人嫌いだった。見た目の良さが災いし、却って人付き合いが悪いと悪評の立つタイプだ。生まれながらの債務に翻弄されながらも唯一無二の資質を見出されたシンは、怪しげな資産家のもとで異星由来の転移装置の開発に従事していた。
そんなある日、シンは何者かに実験装置に突き飛ばされ、見知らぬ世界に放り出されてしまう。飛び出したのは空の上、ネットワークは繋がらず、転送装置も消えしまった。墜落した瀕死のシンがそこで出会った(あるいは食べられかけた)のは、ニアベルという名の少女だった。
人には見えるが所々に獣めいたニアベルには、シンの言葉も常識も通じない。シンにインプラントされたアシスタントAIはニアベルを異種族と断定。たまたま持ち合わせた書籍からゴブリンと命名するのだが――。
異世界などあり得ないと主張するシンは、なるべく人との係わりを避けつつも、この世界の正体と帰還手段を探すべく行動を開始する。だがそこは、三つの種族の特異な生態と奇妙な因習が絡んだ戦乱の前夜だった。

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~
うみ
ファンタジー
馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。
錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。
スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。
冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。
俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。
ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。
居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。
爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!
一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。
でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。
そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

僕の魂修行の異世界転生
蓮月銀也
SF
何故に生まれたのか? 生きる意味とは? ある者が語る。人生とは、魂の修行だと。その者は、己の魂の修行の異世界へと転生した話しを語りだした。その修行の終わりの結末とは……?これは、久遠転生の物語。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。

禁煙所
夜美神威
SF
「禁煙所」
ここはとある独裁国家
愛煙家の大統領の政策で
公共施設での喫煙
電車・バス内での喫煙
歩きたばこまで認められている
嫌煙家達はいたる所にある
「禁煙所」でクリーンな空気を吸う
夜美神威 ナンバリングタイトル第6弾

NEOの風刺ジョーク集
夜美神威
SF
世の中のアレやコレを面白おかしく笑い飛ばせ!
クスッと笑える世相を切る風刺ジョーク集
風刺ジョークにおいて
ご気分が害される記事もあるかと思いますが
その辺はあくまでジョークとして捉えて頂きたいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる