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#1 レツオウガ起動
Chapter03 魔狼 01-05
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そんな光に照らし出されているギノアは、外見だけ見れば三十代半ば前後くらいだろうか。丁寧に撫でつけたアッシュブロンドに、彫りの深い顔立ちを称えた白人男性である。
服装は、所々に青い刺繍の紋様が施された白いロングコート。生前、彼が自らの魔術を刻み込んだ物のレプリカだ。
どこか修験者のような雰囲気を漂わせるギノアは、もう一度椅子に身を沈めて瞑目する。
眠っている訳では無い。とうの昔に人間を止めたギノアは、そもそも眠りを必要としない。
いつもそうだ。暇さえあれば、ギノアはこうして記憶を掘り返している。
さもあらん。今も未来も無い彼にとって、愛に満ちた過去だけが唯一の真実だからだ。
それを、取り戻す。
その為に、ギノアは僅かに残された自分の全てを残さずなげうった。
死霊術師としての技法、北欧神話の知識、まだ残っていた手付かずのプール金、等々。
もはやギノアには自分の身一つすら遺っていないが、当人に悔いは無い。
全ては凪守の大鎧装、オウガを倒すために。
自らの願いを、かなえるために。
「失礼しますよ」
そんな折、唐突に開いたドアが静寂を破った。
「……お待ちしていましたよ、サトウさん」
指一本動かさぬまま、ギノアはゆっくりと目を開けた。精彩に欠ける青い瞳が、来客者を見据える。
ぎし、と床を鳴らしながらギノアのアジトにやって来たのは二人。
一人は黒い男だ。
黒いスーツ、黒いコート、黒縁のメガネ、黒髪の七三分け。
更には大きな黒いトランクを携えた、明らかに日本のビジネスマンとしか見えないその男こそ、ギノアが名を呼んだ人物、サトウだ。
――第一次Rフィールド殲滅作戦に失敗し、時間だけが無為に過ぎたあの日。
再起動したギノアが最初に出会ったのが、このあからさまな偽名を名乗るビジネスマン、サトウなのだ。
安楽椅子に揺れるギノアをレンズ越しに眺めながら、サトウは微笑む。
「フリードマンさん。具合はどうです?」
「良好そのものですよ。あなた方から貰った術式も、私自身のコンディションもね」
「それは重畳」
頷き合うギノアとサトウ。その背後でひとしきり室内を眺めていたもう一人が、おもむろに口を開いた。
「で、オレはソイツを前みてえに跳ばせば良いワケだろ? サトウさんよ」
「ええ、そうです。今回は室内の術式も一緒にお願いしますよ」
サトウが振り向く先に居たのは、奇妙な男だった。
服装は、所々に青い刺繍の紋様が施された白いロングコート。生前、彼が自らの魔術を刻み込んだ物のレプリカだ。
どこか修験者のような雰囲気を漂わせるギノアは、もう一度椅子に身を沈めて瞑目する。
眠っている訳では無い。とうの昔に人間を止めたギノアは、そもそも眠りを必要としない。
いつもそうだ。暇さえあれば、ギノアはこうして記憶を掘り返している。
さもあらん。今も未来も無い彼にとって、愛に満ちた過去だけが唯一の真実だからだ。
それを、取り戻す。
その為に、ギノアは僅かに残された自分の全てを残さずなげうった。
死霊術師としての技法、北欧神話の知識、まだ残っていた手付かずのプール金、等々。
もはやギノアには自分の身一つすら遺っていないが、当人に悔いは無い。
全ては凪守の大鎧装、オウガを倒すために。
自らの願いを、かなえるために。
「失礼しますよ」
そんな折、唐突に開いたドアが静寂を破った。
「……お待ちしていましたよ、サトウさん」
指一本動かさぬまま、ギノアはゆっくりと目を開けた。精彩に欠ける青い瞳が、来客者を見据える。
ぎし、と床を鳴らしながらギノアのアジトにやって来たのは二人。
一人は黒い男だ。
黒いスーツ、黒いコート、黒縁のメガネ、黒髪の七三分け。
更には大きな黒いトランクを携えた、明らかに日本のビジネスマンとしか見えないその男こそ、ギノアが名を呼んだ人物、サトウだ。
――第一次Rフィールド殲滅作戦に失敗し、時間だけが無為に過ぎたあの日。
再起動したギノアが最初に出会ったのが、このあからさまな偽名を名乗るビジネスマン、サトウなのだ。
安楽椅子に揺れるギノアをレンズ越しに眺めながら、サトウは微笑む。
「フリードマンさん。具合はどうです?」
「良好そのものですよ。あなた方から貰った術式も、私自身のコンディションもね」
「それは重畳」
頷き合うギノアとサトウ。その背後でひとしきり室内を眺めていたもう一人が、おもむろに口を開いた。
「で、オレはソイツを前みてえに跳ばせば良いワケだろ? サトウさんよ」
「ええ、そうです。今回は室内の術式も一緒にお願いしますよ」
サトウが振り向く先に居たのは、奇妙な男だった。
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