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#1 レツオウガ起動
Chapter02 凪守 04-02
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翠明寮の食堂は結構広い。普通の教室の三倍以上はあるだろうか。
入り口は男女どちらの寮からも入れるよう東西にあり、室内には大きなテーブルが一ダース、整然と並んでいる。
北の壁は奥にある調理室の配膳カウンターとなっており、寮生や職員達はここから今日の献立を受け取っていくわけだ。
が、今はまだ誰も居ない。午後四時になったばかりなのだから当然だ。
晩ご飯は六時からであり、寮生どころかカウンター向こうの厨房すらまだ無人だ。
一応申し訳程度に小さなテレビはあるが、地デジに対応していない砂嵐を眺めに来る物好きなど居るはずも無い。
そんな、食事の時間以外はほぼ無人となっている食堂の一角。
向かい合わせに座りながら、テーブルの上の筆記用具を片付けている男女が一組。
言わずもがな、辰巳と風葉である。
つい五分前、ようやく古文の宿題が終わったのだ。
「な、何とかなったか……」
絞り出す事すら億劫だったため息を、辰巳はようやく吐き出した。
「毎度の事だが、何でこう昔の人間ってのは言い回しが面倒なんだ……」
「平安時代の流行だったからじゃない?」
ぐったり気味な辰巳とは対照的に、風葉の顔は実に涼しげだ。
「でも意外だなぁ。昨日の戦いとかで五辻くん、相手のことをすぐに見抜いてたじゃない? その流れで古文もスラスラっといけるクチだと思ってたんだけど」
「凪守の知識で応用が利くのは歴史と地理くらいなもんさ。技術開発系の連中はむしろそっちのが得意だろうけどな、祝詞やら呪禁やらを編纂するから」
「へぇ。でも確かにそういうのってむつかしい言葉でしゃべってるよね。えーと、はなをあつめてじんくにとけばー、とか?」
「それは花づくしだろ。まぁ俺も凪守に入って二年目だから、ってのもあるんだろうがな」
「ん、高校入学と一緒なんだ? そういや五辻くんってどこ出身?」
それは何気ない、ごく当たり前の世間話。
だがその瞬間、辰巳の表情は色を失った。
「――さぁて、な」
目を逸らす辰巳。
言葉にこそしない、けれども明確な拒絶の意志に、風葉は尚も食い下がる。
「県内? それとも県外? 東京とか、兵庫とか、鹿児島とか?」
「てんでばらばらな位置だな。というか、なぜそんな事を聞く」
露骨に鬱陶しそうな辰巳の目を、風葉はまっすぐに見つめ返す。
入り口は男女どちらの寮からも入れるよう東西にあり、室内には大きなテーブルが一ダース、整然と並んでいる。
北の壁は奥にある調理室の配膳カウンターとなっており、寮生や職員達はここから今日の献立を受け取っていくわけだ。
が、今はまだ誰も居ない。午後四時になったばかりなのだから当然だ。
晩ご飯は六時からであり、寮生どころかカウンター向こうの厨房すらまだ無人だ。
一応申し訳程度に小さなテレビはあるが、地デジに対応していない砂嵐を眺めに来る物好きなど居るはずも無い。
そんな、食事の時間以外はほぼ無人となっている食堂の一角。
向かい合わせに座りながら、テーブルの上の筆記用具を片付けている男女が一組。
言わずもがな、辰巳と風葉である。
つい五分前、ようやく古文の宿題が終わったのだ。
「な、何とかなったか……」
絞り出す事すら億劫だったため息を、辰巳はようやく吐き出した。
「毎度の事だが、何でこう昔の人間ってのは言い回しが面倒なんだ……」
「平安時代の流行だったからじゃない?」
ぐったり気味な辰巳とは対照的に、風葉の顔は実に涼しげだ。
「でも意外だなぁ。昨日の戦いとかで五辻くん、相手のことをすぐに見抜いてたじゃない? その流れで古文もスラスラっといけるクチだと思ってたんだけど」
「凪守の知識で応用が利くのは歴史と地理くらいなもんさ。技術開発系の連中はむしろそっちのが得意だろうけどな、祝詞やら呪禁やらを編纂するから」
「へぇ。でも確かにそういうのってむつかしい言葉でしゃべってるよね。えーと、はなをあつめてじんくにとけばー、とか?」
「それは花づくしだろ。まぁ俺も凪守に入って二年目だから、ってのもあるんだろうがな」
「ん、高校入学と一緒なんだ? そういや五辻くんってどこ出身?」
それは何気ない、ごく当たり前の世間話。
だがその瞬間、辰巳の表情は色を失った。
「――さぁて、な」
目を逸らす辰巳。
言葉にこそしない、けれども明確な拒絶の意志に、風葉は尚も食い下がる。
「県内? それとも県外? 東京とか、兵庫とか、鹿児島とか?」
「てんでばらばらな位置だな。というか、なぜそんな事を聞く」
露骨に鬱陶しそうな辰巳の目を、風葉はまっすぐに見つめ返す。
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