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第3章「迷宮へ行こう!」
第27話「チーム消滅の危機?」
しおりを挟む「次はいつ行くの?」
「次は、とは?」
「迷宮だよ、迷宮!」
顔見知りでもそれなりに会話はあるが、友人関係になるとさらに会話の質も量も増える。
チーム疾風怒濤と友好関係を結んだチーム夜明けの星は、ギルドで顔を合わせる度に話し込んでいたりした。あちらとしては可愛い後輩であり、こちらとしては指導鞭撻を受けられる先輩なのだ。しかも気安い相手だし。
「迷宮でも思ったけど、お前ら結構強いんだろ? 一緒に10層目指そうぜ?」
「そうは言ってもねぇ‥‥」
確かにシンジのお陰でチームの財貨は潤っている。最近だと、とあるこそ泥からの収益だが。
迷宮での鍛錬は実に効果的だった。しかし前回の迷宮からまだひと月経っていないし、今はギルドでのランクを上げたいところなのだ。
そうジミーが説明すると、あちらも無理は言えない。ランクを上げておくのはチームにとって生命線だとわかり切っているからだ。
「いっそのこと、俺ら7人で一緒のチームにしねぇ?」
これは本来ならば非常に魅力的な提案だ。ランクの高い先輩だし、何より気安いし、チームで挑むなら上位ランクの依頼を受けることができるからだ。人数が増えるということは色んな依頼に対して対応力も増えるという事だし。
例えば規模の大きい依頼を、他のチームとパーティーを組むことなく1チームで受けられるのは、かなり魅力的。
本来ならば、である。
しかし夜明けの星は、シンジという爆弾を抱えていた。ジミーとしても頭を抱えたくなる事案だ。
(疾風怒濤になら、正体明かしても良いんじゃね?)
お気楽なシンジの耳打ちに、さらに頭を抱えるジミー。
知る人数が増えるということは、それだけ秘密が漏れやすくなるという事だが、シンジ自身が軽く考えてしまっているので、手に負えない。
まずは相談だ。報・連・相はここでも有用。
「‥‥と、いう訳なんですが」
「あぁ、疾風怒濤の連中か。デニスは惜しいことをしたのう」
ジミーはちょっとビックリ。
エルゲの冒険者ギルドだけでも数千人規模の冒険者が居る。いくらかは出入りがあるけれど、まさか支部長が末端の冒険者を知っているとは、だ。
「はっはっは、冒険者の管理をするのもギルドの仕事じゃからな」
それにしても、と唸る支部長。
「あやつらは確かに冒険者の中でも真面目な連中じゃ。おそらく秘密を明かしても内緒にしてくれるとは思うが、やはり秘密を知る人数は少ない方が良いのは確かじゃな」
「僕としては、もう全員にぶっちゃけても良いんですけどね?」
「それはいささか乱暴さね。冒険者と言えど末端は単なるゴロツキ、そんな奴らがしゃべるスライムを捕らえて売ろうとか、襲ってきたらどうする?」
「全員返り討ちにしてやります!」
しっかり、はっきり、ドきっぱり。
いやいやいや、と全員からのツッコミ。
「いやマジで、殺さずに無力化できれば良いし」
「‥‥例えば?」
「痺れ薬で全員昏倒、とか?」
いやいやいや、と全員からのツッコミ、その2。
「ヒト族を害するスライムとか言われたら、ワシでもかばいきれんぞ?」
「なら人目のないところで、証拠も残さず‥‥」
いやいやいや、と全員からのツッコミ、その3。
「でもその結果、素行の悪い冒険者が一掃できたりして?」
「‥‥‥‥」
「ちょっと! 支部長がそこで考え込まないで下さい! 恐いです!」
結局、相談の甲斐もなく、保留にすることになった。
疾風怒濤には、もう少しランクが上がるまで自分たちでやりたいと、やんわりお断り。その気持ちもわかると、待ってくれる構えだった。
諦めた訳では無いようで。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それからしばらく後。
今日はシンジの料理を振舞う日。ギルドの施設のひとつ、調理場を借りての実演もある。
ちなみに今日のメニューは天ぷら、から揚げ、各種カツという揚げ物尽くし。
魚やエビ(残念ながら淡水産!)などは天ぷらに、野菜はかき揚げに、鳥肉はから揚げ、イノシシ肉と玉ねぎっぽいのはトンカツとフライにした。茶色イノシシは高かったので、普通の白イノシシにしたが、品質の差は技術でカバー。
具体的にはパパイヤっぽい果実でお肉を柔らかく処理。
驚いたのは食用油の価格。けっこう高価で、揚げ物をする量だけでかなりの散財だった。半分くらいは獣脂から取ったラードで代用したが、これはいつか植物油脂を集める方法を考えなくてはならないかも、とシンジは思った。
ともかく、見たこともない調理法で、サンドラは始終目を丸くしていたけれど。
まぁ、そんな場でのこと。
「詳しくは言えないんだけどさー」
「ん? 何が?」
「うちのチームには、他人に知られたくない秘密があるんだよねー」
「ああ、同じチームにできない理由?」
「そうそう」
ジュワー。
トンカツを油に入れると派手な音を立てて、油が跳ねる。フライに使うパン粉も、サンドラの驚きを誘っていた。保存性の高い乾燥パンをすりおろして作った自家製である。
そして驚きはシンジの番。
「そりゃ普通は言えないよね? スライムが冒険者やってるとか?」
「‥‥‥‥え?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして皆で実食の席で。
「ごめん、なんかバレてた」
「えっ?」×3
「お前らの宿の向かいに泊まってる奴が居てな?」
「そうそう、そいつが向かいの宿に変なのが居るって話でな」
「それでよくよく調べてみたら、あなたたちだったって訳」
「ギルドでも静かに広まってるぞ?」
「あれ何なの? スライムに包まれて‥‥」
バレてたという後悔よりも、あのスライムマッサージを見られていたという方が、先に皆の羞恥を刺激したようで各々の悲鳴が上がった。絵面を想像して欲しい、恥ずかしいことこの上ない。
まあ説明は後で、とシンジは料理を勧めた。
確かに料理は大好評。
食用油が高価なこともあり、揚げ物はこの世界では無かったようで、さらにパン粉による食感は未知の領域。カツレツ風のものはあったけれど、あれは粒の小さい粟のような穀物をまとわせたもので、揚げ物というより焼き付けだったし。
「これはエールが欲しくなるな!」
「あの煮つけにするしかなかったドジョウが! こんな上品な味に!」
「から揚げが! から揚げがあああ! シンジ、次の弁当、これ作って!」
「おおっ! カツレツとも違うこのボリューム! トンカツ美味ぇ!」
「サクサクだし、ジュワ~だし!」
「野菜も食べてみなよ! 素朴な味がこんな美味しいなんて!」
と、大好評でした。
それなりに量は用意したはずなんだけど、皆のもう無いの?って目を誤魔化すようにシンジは。
「それじゃ、どこから話しますかねぇ」
と生い立ちについて説明を始めた。
支部長にも説明してなかったけれど、生まれ変わりからを語る。
やっぱり転生という概念は無かったので、死んで生まれ変わるところから。
「生まれ変わったらスライムとか‥‥ププっ、大変だったんだねぇ‥‥ククッ」
「いや、いっそ笑ってください」
「しかし吸収したら技術が得られるとか、スライムってみんなそうなの?」
「どうだろう? こんな変なスライムが他にも居るとは思えないけど‥‥」
「変だって自覚はあるんだ?」
「人に化けても変な奴ですよ、こいつは」
「そうよねぇ、普通なら迷宮で他人は見捨てるわよね?」
「ま、それが出来ないのがシンジですけど、ね」
「なあ、スライムの姿ってどんなの? 見せてはくれない?」
「かまいませんよ?」
シンジは椅子の上でポヨンとスライムに戻り、そしてまた人間に化けた。椅子の上なので全体ではない、4分の1ほどの分量で。それでもバランスボールくらいの大きさはあるけれど。
おお~、と驚嘆の声が上がる。
青い大きなスライム。緑色でグニャグニャしていなくて、プルンと丸い水風船のようなフォルム。それが1秒もかからず人の姿になるのだ、不思議で仕方がない。
「ちょっと‥‥その服もスライムなの?」
「服は一旦、内部に納めているんですよ。さすがに人の姿で裸っていうのも、ねぇ?」
「中に? ネバネバにならない?」
「あ、表面はサラサラのツルツルで、ネバネバしてないですよ」
「そういうところも、普通のスライムとは違うのね」
「え? 迷宮のスライムも緑でしたけど、サラサラのツルツルでしたよ?」
「アレってネバネバじゃないの!?」
ヘビやコウモリなどと同じか、気持ち悪い生物に触ったことがない人の、勝手なイメージなのだろう。ヘビはヌルヌルしていないし、どちらかというとスベスベのツヤツヤ。そしてコウモリはザラザラではなく、ハムスターのようなフワフワの毛玉なのだけど。
スライムもその形態から粘液状の生物だと思われているようだ。
皆もそうなんだ、と認識を改める。だからって襲ってくる迷宮のスライムを触るなんて、さすがに危険でオススメはしないけれど。
「で? スライムに包まれてた、アレはナニ?」
ちょっと言い辛そうなメンバーに代わり、シンジが答える。
「あれはマッサージと言って、疲れを癒すものです」
「‥‥やってもらっても?」
「良いですよ、どなたが?」
「じゃ、俺が」
しばらく顔を見合わせていたが、思い切りの良いのはインディだったようだ。
「うう‥‥ああっ、うぐぐ‥‥はあはあ‥‥」
「こ、これは‥‥」
「これはちょっと‥‥」
痛いような気持ち良いような、そんな声を上げるインディにドン引きの2人。
見目は悪いけれど、その気持ち良さを知っている3人は顔を伏せる。
事後、これは良いぞと勧めるインディに、尻すぼみなジェンドとサンドラ。そしてジェンドがその餌食に。
「ええっ?」
ジェンドの様子に自分もこうだったのかと、初めて気付くインディ。こっそりと逃げ出そうとするサンドラを笑顔で捕まえる。
「見た目はアレだが、確かに気持ち良い! 騙されたと思ってやってみろ!」
「いーーーやーーー!」
まあ気持ちはわかるが、と思いながらも容赦の無いシンジは、最後のサンドラにも全身マッサージフルコース。アフンアフン、イヤンアハン、アアーッと、女性として何かを失った気のするサンドラに、男2人は笑顔。
経験者の3人はサンドラに合掌するしかない。
「これは‥‥確かに、恥ずかしいけどクセになりそう‥‥」
「なあ、思い出したんだが、ハンスの野郎が言ってたアレって」
サンドラが床にへたり込んでいると、インディが何かに気付いたようで。
ハンス?と首をひねったジェンドも、何かに思い当たった感じ。
意味の見えない夜明けの星の4人は、4日後にギルドで会おうと約束させられたのだった。
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