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第1章:本物の魔女だった?

第3話 王都を見学しますか!

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「王都の街を見て回りたい」
 そう希望すると、ミラが戻るまで待てと秘書のソートンに引き止められた。
「置いて行くと、泣きますから」
 そして確認された。
「ユージ様が、ミラ様の求めていた方なんでしょう?」
 本人は隠していたらしいが、ミラが乞い求める相手が居るらしいとは割と有名な話だそうで、これまでアタックして玉砕された男性も多く、適齢期を越えてもそういった相手が居ないことはそういう事なのだろうと。
 普段は寡黙なミラが、あれだけはしゃいでいるのも珍しいことだと、ソートンは笑っていた。
「あ~~~、そこは正式発表を待て、という事で」
 祐二もそう誤魔化すしかない。たとえバレバレであっても。
 ちなみにミラの年齢は設定上では78歳である。魔族は400歳くらい生きるので、まだまだ若輩者という年齢層だ。それに魔族の子供は親の能力の影響を受けるので、ある程度能力が伸びてから子を成すのが一般的だそうで。
 能力の低い市井の者たちのこともあり、いちおう15歳から婚姻できるけれども。

 まあそんな雑談をしているとそこそこの時間も経ち、ミラが戻ってきた。
 週に1回の魔王軍定例会議だそうで、第7軍は団長が遠征に出ていることもあり、副団長であるミラが代理出席していたらしい。
 そりゃ魔王に始まり、軍事閣僚、各軍団長、副団長と、この国で4番目に偉い人という事になるし。実際にはもうちょっと下の立場らしいけど。
「ミラ様、ユージ様は街の様子を見て回られたいそうです」
「そうか。なら警邏けいらついでに回ってくるとしよう」
 連絡の取次ぎをソートンに任せ、ミラと祐二は軍団施設を出た。
 警邏と称してミラはよく街を巡っているのだと、ソートンは苦笑しながら教えてくれていたのだが、その通りのようだ。もちろん、通常の職務にそのようなものはない。


 街中に出た。
 ミラはお堅い軍の制服ではなく、麻のシャツにキュロットといういでたち。カーキ色という華やかなものではないが、女性らしくはある。
 門兵が似たような男性用だったことから、兵卒の一般的な服装なのだと思われる。
 一般的に思い浮かぶような探検隊の服装、といって良いだろう。サファリハットの代わりに鉄製のヘルメットを被り、帯剣しているが。
 あと有尾種たちは尻尾を出す穴もあるようだ。ミラには残念ながら尻尾は無い。
「おや、ミラさん。今日はお連れが居るんだね?」
「異国からの客人だ。何か変わったことは無いか?」
 どうやら街では親しまれているようで、露店の人々が男女関わりなく気軽に声をかけてくる。中には興味津々に尋ねてくるおばちゃんも居た。
「ほほぉ? ミラちゃんにもとうとう春がきたかねぇ?」
 そういうのではない、とか平静を保っているが、やはり少し嬉しそうだ。勘の良い人は「おや?」と思ったかも知れない、そんな感じ。
 平民出身のミラだからこそ、街の様子は気になって見回っているのだろう。そしてつっけんどんな言動ではあるが、それなりに親しまれているようで祐二もちょっと嬉しく感じていた。

「わあぁ~~~!」
「おねーちゃーん!」
 市場の一角で急に子供達に囲まれた。
 小学生くらい、中にはけっこう幼い子も混じっている。
「皆、元気にしているか?」
 口々にうんとか、元気~とか返す子供達。しかし一部は口ごもる。
「みーちゃんがお熱出したの‥‥」
「そうか、後で見舞っておこう」
 ひとしきり会話をした後、子供達は元居た場所らしき路地へと戻っていく。
「‥‥戦災孤児たちだ。親族に引き取られる者も居るが、身寄りのない者は孤児施設に暮らし、ああいった雑用を勤めながら生活している」
 子供にまで慕われているのかと感心していたら、そう説明された。改めて子供達を見ると、路地の端で洗濯をする子や野菜の皮むきをする子などが居る。
「国や軍部も支援はしているが、なかなか財政も手も足らん。早く戦争を終わらせないとな」
 なるほど、と祐二は悟った。
 街は賑わっているけれど、やはり戦争中なのだ。人族の国との。

 その後も市場や商店を訪ね、宿屋や商業組合、冒険者組合などを巡った。
 気付いたのは魔王の国であるから当然なのだが、魔族や魔人、獣人などが大多数である。しかし人族もそれなりに居るということ。パッと見、魔人と人族は見分けが付かないのだけれども。
 その事をミラに尋ねたら。
「人族の国との交易もある。間諜の危険もあるが、特に人族の出入りも規制していないしな」
 それどころか貴族の中にも人族が居るとミラは語った。
 大昔は魔族だけの国だったが、魔人や獣人を受け入れるようになって異種差別なども無くなったのだそうだ。
「私自身、魔人の血族だしな」
「なるほど」
 とは頷いたものの、祐二には魔族と魔人の区別がつかないのであるが。

 お昼が近くなったので、市場でサンドイッチ風のものと肉の串焼きを求め、2人で食べた。
 そして果物をいくつか買い、孤児院の病気だという女の子を見舞って街を後にした。


「お疲れ様です。街はいかがでした?」
 第7軍の施設、そのミラの執務室に戻るとミラは着替えに別室へ、秘書のソートンがお茶を淹れてくれた。
「予想以上に賑わっていて、皆の顔も明るくて、この国は良い国なんだと思いましたね」
 そして祐二はため息ひとつ。
「‥‥戦争中でなければ、ですけど」
「そうですね、ユージ殿は賢者とのことですが、戦争に関して何かご指導いただけるのですか?」
「申し訳ありませんが、戦争にはあまり関われそうにありません」
 今のところは、そう言っておく。
 そして「ですが」と続けた。
「あなたの魔法への進言はできると思います」
「えっ? 魔法‥‥ですか?」
 祐二がソートンについて気になったことは、ミラにも話してある。
 そしてそれを本人に伝えても良いか、許可ももらっていたのだ。




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