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悪魔の気配
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玉座の間の無駄に重い扉を開け、来た道を戻っていく。
「楽しかったね!」
「まぁ、面白かったな」
色々と話は聞けたし、瑠奈の実力も見れた。割と、満足感はある。
「こっちだよ~、勝手にどこそこ行くと本気で怒られちゃうからね」
「……俺が勝手に探索を始めると思うのか?」
先導する瑠奈は、くすりと笑った。
「勇は結構自由だからさ、やっちゃいそう」
「まぁ、協調性とかは無い方だと思うが……かと言って、常識が無い訳じゃない」
他人の家を勝手に漁らない程度のモラルは持ち合わせている。
「じゃあ、この後どうする?」
瑠奈は、移動用の魔法陣に乗りながら尋ねた。
「何でも良い。暇だしな」
「ふふ、じゃあどっか遊びに行こうよ」
瑠奈が一階と呟いたのを聞き、俺もそう唱えた。すると、景色が一瞬にして入れ替わる。
「どこ行く? カラオケとか?」
「カラオケは……無理だな。歌の魔術は苦手だ」
巨大な魔法陣の上を歩き、チラチラとこちらを見る魔術士達とすれ違いながら出口へと向かう。
「んー、じゃあ遊園地! 帰って来てから行ったことある?」
「無いな」
「ほんと!? 凄いよ、今の遊園地! 何でもアリって感じで楽しいよ!」
「確かに、魔道具とか平気であるもんな」
現代の遊園地は昔よりも大きく進歩していることだろう。冗談でも何でも無く、魔法のような体験が出来るかも知れない。
「……ぁ?」
漸く結社の出口に差し掛かるという時、俺は優雅にコーヒーを飲む白い髪の女を見つけた。長い髪は地面に触れんばかりで……そして、その女もこちらに気付いたのか、ブラウンの瞳が俺を見た。浮かぶ微笑に、俺は視線を逸らす。
「行くぞ」
「へ? ちょっ、どうしたの?」
俺は瑠奈の腕を掴み、そのまま直ぐに出口から出た。
「気にしなくていい」
「だって、そんな急に……もしかして、好きになっちゃった?」
世迷い事を言う瑠奈の腕を離し、その頭を軽く小突いた。
「いだっ」
「悪いが、後で話す」
この距離じゃ、聞かれる可能性もある。向こうも、こちらを見ていたからな。
暫く離れたところで、俺は路地裏に結界を張り、口を開いた。
「悪魔が居た」
「え、悪魔?」
瑠奈の表情は、そんな訳はないとでも言いたげだった。
「有り得ないと思うけど……結社に悪魔が入り込むなんて、無理だよ。絶対バレちゃうから」
「確かに、完璧な隠蔽ではあった。俺が気付けたのは……勇者だからだ」
勇者である俺が、ああいう偽装や隠蔽に騙される訳にはいかなかった。故に、女神の加護によって誰かに化けてるような奴や、幻の類いには一目で気付けるようになっていた。
「勇者……すご!」
「まぁ、勇者というか加護が凄いんだ」
他にも洗脳に対する耐性等の搦め手は大体が女神に与えられた加護で対策されている。
「でも、悪魔だとしてもそんなに警戒する程の悪魔だったの? 正直、私と勇なら大体余裕だと思うよ」
「そりゃ、勝てるのは間違いないだろうが……あの隠蔽が出来る時点で、相手はかなり強い悪魔だ。それに特化した権能を持っている可能性もあるが、恐らくそうじゃない」
俺の勇者としての勘が、あの女は只者ではないと告げていた。
「俺が対峙した王の位を持つ悪魔達よりも、上である可能性もある」
流石にソロモンや大嶽丸程の強さは無いと思うが、それでもあの場で戦闘になれば厄介なことになるのは目に見えていた。
「それに……多分だが、俺が気付いたことにも気付かれている」
あの女の目線、明らかにこちらを見ていた。他の魔術士が向けていたような興味や嫉妬の視線じゃない。他の何かを感じ取っていた視線だ。
「じゃあ、口封じに来るかもってこと?」
「あぁ、有り得るな」
「んー、どんな見た目の人だった?」
「足元まで届くくらいに長い白髪と、目は茶色だったな」
瑠奈は何かに気付いたように眉を顰めた。
「もしかして……結構、美人な人?」
「まぁ、そうだな」
かなり美人な部類に入るだろうな。
「ミステリアスな雰囲気がある?」
「そう言われれば、そうかも知れない」
髪が長くて微笑を浮かべていれば取り敢えずミステリアスになる説はあるが、確かにそんな雰囲気はあった。
「佐藤さん……かも」
「誰だ?」
佐藤だけ言われても、一番多い名前だからな。
「佐藤 甘美さん。土って言うか、地面とか大地に精通した魔術士の人で、私も何回か話したことあるよ。あんまり悪い人って感じはしなかったけど……」
「固有魔術は使えないのか?」
瑠奈はこくりと頷く。
「じゃあ、そこまで警戒する必要は……いや、単純に隠しているだけの可能性もあるか」
それに、固有魔術は使えなくとも危険な能力を持っている可能性はある。俺も不意打ちで殺されれば、流石に聖剣が起動してしまう。それは可能な限り避けたい。
「向こうから仕掛けてくるか、それとも何もしてこないのか……それは分からんが」
「どうする? 魔術で調べて見る? 星の魔術なら占いとかも出来るよ?」
瑠奈の言葉に、俺は少し悩んだ。
「……いや、やめておこう。魔術で調べれば向こうにもバレるだろうからな。それをきっかけに敵視されれば確実に瑠奈も狙われる」
「私、別に大丈夫だよ?」
「俺の方が大丈夫だ。奇襲されても、最悪何とかなる」
俺が言うと、瑠奈はじとっとした目で俺を見た。
「むぅ……信じるけど」
「あぁ、信じてくれ」
「でも、一回見てみたいな」
「何をだ?」
「勇が、ちゃんと戦ってるところ」
俺が、戦ってるところか。
「勇が強いって、話では分かってるけど……ちゃんと、見れては無いし」
「まぁ、そうだな……機会があればな」
異界で共に戦いはしたが、相手にならない程度の魔物しか居なかったからな。
「うーん……ま、今日は遊園地行こっか!」
「あぁ、どこにあるかすら知らんが」
あの悪魔……佐藤甘美か。何も仕掛けて来なければ良いんだが。
「楽しかったね!」
「まぁ、面白かったな」
色々と話は聞けたし、瑠奈の実力も見れた。割と、満足感はある。
「こっちだよ~、勝手にどこそこ行くと本気で怒られちゃうからね」
「……俺が勝手に探索を始めると思うのか?」
先導する瑠奈は、くすりと笑った。
「勇は結構自由だからさ、やっちゃいそう」
「まぁ、協調性とかは無い方だと思うが……かと言って、常識が無い訳じゃない」
他人の家を勝手に漁らない程度のモラルは持ち合わせている。
「じゃあ、この後どうする?」
瑠奈は、移動用の魔法陣に乗りながら尋ねた。
「何でも良い。暇だしな」
「ふふ、じゃあどっか遊びに行こうよ」
瑠奈が一階と呟いたのを聞き、俺もそう唱えた。すると、景色が一瞬にして入れ替わる。
「どこ行く? カラオケとか?」
「カラオケは……無理だな。歌の魔術は苦手だ」
巨大な魔法陣の上を歩き、チラチラとこちらを見る魔術士達とすれ違いながら出口へと向かう。
「んー、じゃあ遊園地! 帰って来てから行ったことある?」
「無いな」
「ほんと!? 凄いよ、今の遊園地! 何でもアリって感じで楽しいよ!」
「確かに、魔道具とか平気であるもんな」
現代の遊園地は昔よりも大きく進歩していることだろう。冗談でも何でも無く、魔法のような体験が出来るかも知れない。
「……ぁ?」
漸く結社の出口に差し掛かるという時、俺は優雅にコーヒーを飲む白い髪の女を見つけた。長い髪は地面に触れんばかりで……そして、その女もこちらに気付いたのか、ブラウンの瞳が俺を見た。浮かぶ微笑に、俺は視線を逸らす。
「行くぞ」
「へ? ちょっ、どうしたの?」
俺は瑠奈の腕を掴み、そのまま直ぐに出口から出た。
「気にしなくていい」
「だって、そんな急に……もしかして、好きになっちゃった?」
世迷い事を言う瑠奈の腕を離し、その頭を軽く小突いた。
「いだっ」
「悪いが、後で話す」
この距離じゃ、聞かれる可能性もある。向こうも、こちらを見ていたからな。
暫く離れたところで、俺は路地裏に結界を張り、口を開いた。
「悪魔が居た」
「え、悪魔?」
瑠奈の表情は、そんな訳はないとでも言いたげだった。
「有り得ないと思うけど……結社に悪魔が入り込むなんて、無理だよ。絶対バレちゃうから」
「確かに、完璧な隠蔽ではあった。俺が気付けたのは……勇者だからだ」
勇者である俺が、ああいう偽装や隠蔽に騙される訳にはいかなかった。故に、女神の加護によって誰かに化けてるような奴や、幻の類いには一目で気付けるようになっていた。
「勇者……すご!」
「まぁ、勇者というか加護が凄いんだ」
他にも洗脳に対する耐性等の搦め手は大体が女神に与えられた加護で対策されている。
「でも、悪魔だとしてもそんなに警戒する程の悪魔だったの? 正直、私と勇なら大体余裕だと思うよ」
「そりゃ、勝てるのは間違いないだろうが……あの隠蔽が出来る時点で、相手はかなり強い悪魔だ。それに特化した権能を持っている可能性もあるが、恐らくそうじゃない」
俺の勇者としての勘が、あの女は只者ではないと告げていた。
「俺が対峙した王の位を持つ悪魔達よりも、上である可能性もある」
流石にソロモンや大嶽丸程の強さは無いと思うが、それでもあの場で戦闘になれば厄介なことになるのは目に見えていた。
「それに……多分だが、俺が気付いたことにも気付かれている」
あの女の目線、明らかにこちらを見ていた。他の魔術士が向けていたような興味や嫉妬の視線じゃない。他の何かを感じ取っていた視線だ。
「じゃあ、口封じに来るかもってこと?」
「あぁ、有り得るな」
「んー、どんな見た目の人だった?」
「足元まで届くくらいに長い白髪と、目は茶色だったな」
瑠奈は何かに気付いたように眉を顰めた。
「もしかして……結構、美人な人?」
「まぁ、そうだな」
かなり美人な部類に入るだろうな。
「ミステリアスな雰囲気がある?」
「そう言われれば、そうかも知れない」
髪が長くて微笑を浮かべていれば取り敢えずミステリアスになる説はあるが、確かにそんな雰囲気はあった。
「佐藤さん……かも」
「誰だ?」
佐藤だけ言われても、一番多い名前だからな。
「佐藤 甘美さん。土って言うか、地面とか大地に精通した魔術士の人で、私も何回か話したことあるよ。あんまり悪い人って感じはしなかったけど……」
「固有魔術は使えないのか?」
瑠奈はこくりと頷く。
「じゃあ、そこまで警戒する必要は……いや、単純に隠しているだけの可能性もあるか」
それに、固有魔術は使えなくとも危険な能力を持っている可能性はある。俺も不意打ちで殺されれば、流石に聖剣が起動してしまう。それは可能な限り避けたい。
「向こうから仕掛けてくるか、それとも何もしてこないのか……それは分からんが」
「どうする? 魔術で調べて見る? 星の魔術なら占いとかも出来るよ?」
瑠奈の言葉に、俺は少し悩んだ。
「……いや、やめておこう。魔術で調べれば向こうにもバレるだろうからな。それをきっかけに敵視されれば確実に瑠奈も狙われる」
「私、別に大丈夫だよ?」
「俺の方が大丈夫だ。奇襲されても、最悪何とかなる」
俺が言うと、瑠奈はじとっとした目で俺を見た。
「むぅ……信じるけど」
「あぁ、信じてくれ」
「でも、一回見てみたいな」
「何をだ?」
「勇が、ちゃんと戦ってるところ」
俺が、戦ってるところか。
「勇が強いって、話では分かってるけど……ちゃんと、見れては無いし」
「まぁ、そうだな……機会があればな」
異界で共に戦いはしたが、相手にならない程度の魔物しか居なかったからな。
「うーん……ま、今日は遊園地行こっか!」
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あの悪魔……佐藤甘美か。何も仕掛けて来なければ良いんだが。
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