異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

文字の大きさ
上 下
250 / 335

異界と老日

しおりを挟む
 アステラスとの話は、面倒臭そうな喋り方の割に中々面白かった。

「と、言う訳だ。吾輩の崇高な理論は理解できたか?」

「なるほどな……あぁ、現代の魔術も中々面白いな」

 異世界の魔術と比べると、その考え方に大きな違いがある。向こうの魔術はあらゆる事象に備えられるように対策を持って置き、敵の手札を全て潰すのが一般的だが……こちらの魔術は何というか、自由だ。どれだけ自分の強みを押し付けられるかというところに重点を置いている感じがする。
 恐らく、その違いは魔術戦の有無が大きいだろう。こっちの魔術士は魔術士同士で戦うことが余り多くない。高度な魔術を使用する魔物はかなり少ないし、相手の魔術に対する対策をする必要性が薄いんだろう。

「……ん、どうした?」

 アステラスは僅かな笑みを浮かべ、こちらを見ている。

「いやぁ、面白い言い方をするなと思ってな?」

「……何だ」

 その笑みに嫌な予感を覚え、瑠奈を見るとどこか呆れたような目をしていた。

「現代の魔術、貴様は面白い言い方だと思わぬか?」

「あぁ……言葉の綾だ」

「吾輩の調べた限り、過去に貴様は居なかった。だが未来に関しては詳しく調べることも出来ぬからな……もしかすれば、貴様は未来に飛んでいたのではないか?」

 畳み掛けるように言ったアステラスだが、その考察は間違っている。

「それは、間違いだ。これ以上は何も答えない」

「ふむ。過去にも未来にも居ないとなれば、当初の考え通り世界の外か……だが、その場所には魔術の概念があった。しかも、この現代とは異なる体系の……ふむ、面白い」

 考え込むように玉座の上で顎に手を当てるアステラス。

「まさか、異界か?」

 閃いたように言うアステラス。

「貴様が消えた時期と異界接触現象の時期は一致している。異界はその名の通り別の世界がこちら側に何らかの原因で浸蝕してきているものだという考察が主流だが……その異界に、逆に送り込まれたのが貴様では無いのか?」

「俺は何も答えないと言ったぞ」

 アステラスは頷き、更に考察に耽る。

「しかし、それが可能なのであれば何故同じ人間が向こうから送り込まれてこないのかは疑問だな……全く同じ見た目の人間が存在していないにしても、ある程度進んだ魔術の概念があり、その場所の魔術を老日勇が習得しているということは人間と共存が可能な程度の友好的知性体は居て然るべきだ。だが、殆ど敵性体しか送り込まれない異界と言う存在は更に謎が深まるな……目的は侵攻なのか? それにしては偶然性の高い事象が多すぎるが……何が起こればこちらから異界側に入り込める? その試み自体はあった筈だが……いや、現象の発生当時だからか? 異界と現世のパスが最も不安定な瞬間に何らかの要因で老日勇が転送された、か?」

 ぶつぶつと呟くアステラスに、思わず俺は瑠奈を見る。

「こいつは、いつもこうなるのか?」

「ふふっ、可愛いよね」

 あぁ、駄目だ。完全に小動物を見る目だ。師匠を何だと思ってるんだこいつは。

「いや、面白い。中々面白い。あぁ、興味深いぞ老日勇」

「何も言わないぞ」

 アステラスはしかし、満足気に頷いた。

「それで構わん。謎に包まれていた異界を解き明かす為の、僅かな切っ掛けが見えた」

「……そうか」

 もう俺が異世界に行ってたことはこいつの中で確定らしい。何も問い詰めてこないなら、まぁ放置で良いだろう。俺が異世界に行った証拠も無いしな。

「すまぬが、吾輩はここから色々と試し考える時間が必要になった。またいつか会いたいところだが……最後に、何か話したいことはあるか?」

「そうだな……結社は何をしてるんだ? ニュースを見ても結社の活躍ってのは見えてこないんだが」

 俺が尋ねると、アステラスはふむと頷いた。

「確かに外からは良く分からん組織でしか無いだろうな、結社は。単なる魔術士程度ならそこら中に居る上に、ハンターとして活動して居る者も多いだろうが……オリジナルを使える上澄み、魔術師は日本に居らぬ者が多い。第一位の始源すらも居らぬからな。残りの日本に居る奴らは、まぁ大抵何かはしておると思うが」

「日本に居ないってのは、全員どこに居るかすら分からないって感じなのか? 何かが起きたら帰って来るくらいしても良さそうだが」

 アステラスは俺の問いに首を振る。

「今は中東か、アイスランドに居る奴が多いだろうな。日本は大災害が起きたという感じだったが、中東は地獄、アイスランドは最前線だな」

「つまり、何が起きてるんだ?」

「中東は原油の価値が暴落した影響で色々と、なりふり構わなくなったのだ。悪魔の召喚やら、戦争やら、禁じられた魔術やら、出来ることは全て手を出すと言った具合でな」

「……成る程な」

 魔力によってエネルギー資源の価値が下がったのが原因だろう。石油と言えばアラブとかそこら辺な印象あったからな。依存していた収入源が潰れれば、確かに苦しくなるだろう。

「禁忌に手を出した影響で生じたマイナスを取り返す為に、更に尋常ならざる手段を取る……その悪循環が地獄を生み出したのだろう。その地獄は、最早中東に収まらぬ勢いだ。流石に看過できぬ惨状を納める為に、結社の魔術師も何人か赴いていると聞く」

「アンタは行かないのか?」

「吾輩はそういうのには向いておらん」

 まぁ、そうか。

「そういえば、日本で色々起きた時にアンタは何をしてたんだ?」

「吾輩はそういうのには向いておらん」

 こいつ、さては使えないな?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...