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星の魔術師
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星空の下に広がる荒野。吹き抜ける涼しい風に乗り、足元を砂が通り抜けて行く。
「どうだ、素晴らしいだろぉ!」
「あぁ、素晴らしいな」
実際、素晴らしい。固有魔術では無く、施設としてこの世界を確立できるレベルの技術力がこの世界にあるとは、驚きだ。
「でも、師匠が一人で作った訳じゃないんですよね?」
「むっ、まぁそうだが……始源の奴に手を貸してもらった」
始源。二つ名か何かだろうか。瑠奈が黒き海、アステラスが星天。同じように、順位付きの魔術士なのだろう。
「それで、何をやるんだ?」
半ば察しつつも、俺は尋ねた。
「貴様は知らぬだろう。貴様が居らぬ間に成長した瑠奈の強さを……そして、偉大なる闇の魔術師であるこの吾輩の強さをなぁ!!」
「……まぁ、そうだな」
瑠奈に関してはそこそこ力の一端を見せて貰っているが、まぁ良いだろう。
「故に、ここで戦って見せてやるのだ! そこいらの凡才には許されぬ幸運、そして光栄……有り難く目に焼き付けるが良いっ!」
「分かった」
俺の反応にアステラスはジトッとした目を向ける。
「盛り上がりに欠けるな貴様は……まぁ良い、保護をかけておく」
アステラスが指を鳴らすと、俺の体が一瞬だけ光った。この空間限定の無敵状態と言ったところだろうか。仮想実験室と言うだけあって色々と好き勝手出来るようだ。
「色々と悪用できそうだな」
「ふん、騙し討ちのような狡い真似はせん。吾輩は誰であろうと正面から打ち勝てる天才魔術師だからな!」
恐らくこの空間の中で物理的に相手を殺害することは不可能だが、魔術も何もかもを使用不可にしてこの空間に幽閉するくらいのことは出来るだろう。
「さて、準備は良いな……我が弟子よ」
「いつでもオッケーです」
アステラスはニヤリと笑い、夜空に杖を向けた。
「アレが落ちた瞬間が開始の合図だ。よいか?」
「分かりました!」
答えると、瑠奈は即座にそこから逃げ出し、アステラスはその反対方向へと移動する。
「……随分と、派手な合図だな」
空から近付いて来るそれは、星だ。炎を纏いながら大地へと迫る、隕石。
段々と大きくなるそれは、遂にこの荒野に着弾した。
「『星招き・小輝星』」
「『魔砲閃』」
魔法陣が開き、そこから眩しく輝く巨大な岩石が放たれるも、瑠奈の放った魔力の光線が貫いて星は砕け散った。
「『星遊び・極小虹星弾』」
「『風雲乱土』」
魔法陣が無数に展開され、そこから虹色の小さな星が放たれる。しかし、その瞬間に雲を纏う風が吹き荒れ、標的となっていた瑠奈は巻き起こった砂埃と雲に紛れて隠れてしまった。
虹色の小さな星は瑠奈を見失い、大地を撃ち抜いていく。
「『ゆらりゆらり、揺れて沈んで曼陀羅華』」
「『暗き宙の果て、回り唸り、迫るは輝星』」
詠唱を始めた瑠奈。しかし、その位置は特定できない。気配すらも見つからないところを見るに、自身の位置を隠す為の魔術なのだろう。アステラスも迷うことなく、瑠奈に合わせて詠唱を始めた。
「『天上は落ちる。黄金の火種も呑み込んで』」
「『闇を照らし、虚空を進み、天蓋を裂く』」
二人の姿は見えない。巻き起こった砂埃は砂嵐となり、雲は霧のように広がっている。肌を切り裂ける程の速度で飛ぶ砂粒は、保護された俺の体を傷付けない。
「『星は揺蕩う。懊悩の海、倦むは孤独』」
「『輝く鉄の星よ、燃え殻となっても降り注げ』」
突如空が唸り声を上げるが、それをさざ波のような穏やかな音が掻き消した。
「『黒星海』」
「『輝炎星群』」
瑠奈の足元から、黒い海が溢れた。向こう側の見えない黒い液体の波は、その内側に無数の星のような煌めきが浮かび、まるで液状の宇宙のようだ。
そして、空からは真っ赤に燃え輝く砕けた岩石の群れが迫っていた。一つ一つが数十メートルはある隕石の群れは全てが重い鉄の塊で、数百と並ぶそれらは夜空を目が焼けんばかりに照らしていた。
「これは……」
迫る隕石の群れ。流星群とでも呼ぶべきそれらは、範囲が広ければ街どころか県を丸ごと吹き飛ばせるだろう。
「フハハハハハッッ!!! どうだ我が弟子よッ!!」
隕石が降り注ぐ中、高笑いを上げるアステラス。相次ぐ爆発は隕石同士に影響を与えることは無く、同じようにアステラスにも被害を及ぼすことは無い。
「勿論、生きてるよ!」
爆炎が止み、クレーターだらけとなった荒野から現れたのは、瑠奈だ。黒星海で自身を覆い隠していた瑠奈は、一切のダメージを受けていなかった。
「フハハッ、やはりそうかッ!」
「笑ってる場合かな、師匠!」
黒い海が星々の煌めきを引き連れて、切り立った地面の上に立つアステラスを呑み込もうとする。
「その通り、吾輩は師匠だ!」
アステラスの姿が掻き消え、瑠奈の背後に現れる。
「故に、弟子の術の弱点も知り尽くしている」
「ッ!」
振り下ろされる漆黒の杖。その先端から煌めく光の刃が伸び、瑠奈に迫る。
「あ、危ない……」
「その海は動きが遅いのだ。それが唯一にして最大の弱点だろう!」
転移で刃を避け、黒き海の下まで逃れた瑠奈。直後、この荒野を埋め尽くすように大量の魔法陣が現れる。
「『星遊び・閃光虹星弾』」
大量の魔法陣から、一斉に虹の光弾が放たれた。
「どうだ、素晴らしいだろぉ!」
「あぁ、素晴らしいな」
実際、素晴らしい。固有魔術では無く、施設としてこの世界を確立できるレベルの技術力がこの世界にあるとは、驚きだ。
「でも、師匠が一人で作った訳じゃないんですよね?」
「むっ、まぁそうだが……始源の奴に手を貸してもらった」
始源。二つ名か何かだろうか。瑠奈が黒き海、アステラスが星天。同じように、順位付きの魔術士なのだろう。
「それで、何をやるんだ?」
半ば察しつつも、俺は尋ねた。
「貴様は知らぬだろう。貴様が居らぬ間に成長した瑠奈の強さを……そして、偉大なる闇の魔術師であるこの吾輩の強さをなぁ!!」
「……まぁ、そうだな」
瑠奈に関してはそこそこ力の一端を見せて貰っているが、まぁ良いだろう。
「故に、ここで戦って見せてやるのだ! そこいらの凡才には許されぬ幸運、そして光栄……有り難く目に焼き付けるが良いっ!」
「分かった」
俺の反応にアステラスはジトッとした目を向ける。
「盛り上がりに欠けるな貴様は……まぁ良い、保護をかけておく」
アステラスが指を鳴らすと、俺の体が一瞬だけ光った。この空間限定の無敵状態と言ったところだろうか。仮想実験室と言うだけあって色々と好き勝手出来るようだ。
「色々と悪用できそうだな」
「ふん、騙し討ちのような狡い真似はせん。吾輩は誰であろうと正面から打ち勝てる天才魔術師だからな!」
恐らくこの空間の中で物理的に相手を殺害することは不可能だが、魔術も何もかもを使用不可にしてこの空間に幽閉するくらいのことは出来るだろう。
「さて、準備は良いな……我が弟子よ」
「いつでもオッケーです」
アステラスはニヤリと笑い、夜空に杖を向けた。
「アレが落ちた瞬間が開始の合図だ。よいか?」
「分かりました!」
答えると、瑠奈は即座にそこから逃げ出し、アステラスはその反対方向へと移動する。
「……随分と、派手な合図だな」
空から近付いて来るそれは、星だ。炎を纏いながら大地へと迫る、隕石。
段々と大きくなるそれは、遂にこの荒野に着弾した。
「『星招き・小輝星』」
「『魔砲閃』」
魔法陣が開き、そこから眩しく輝く巨大な岩石が放たれるも、瑠奈の放った魔力の光線が貫いて星は砕け散った。
「『星遊び・極小虹星弾』」
「『風雲乱土』」
魔法陣が無数に展開され、そこから虹色の小さな星が放たれる。しかし、その瞬間に雲を纏う風が吹き荒れ、標的となっていた瑠奈は巻き起こった砂埃と雲に紛れて隠れてしまった。
虹色の小さな星は瑠奈を見失い、大地を撃ち抜いていく。
「『ゆらりゆらり、揺れて沈んで曼陀羅華』」
「『暗き宙の果て、回り唸り、迫るは輝星』」
詠唱を始めた瑠奈。しかし、その位置は特定できない。気配すらも見つからないところを見るに、自身の位置を隠す為の魔術なのだろう。アステラスも迷うことなく、瑠奈に合わせて詠唱を始めた。
「『天上は落ちる。黄金の火種も呑み込んで』」
「『闇を照らし、虚空を進み、天蓋を裂く』」
二人の姿は見えない。巻き起こった砂埃は砂嵐となり、雲は霧のように広がっている。肌を切り裂ける程の速度で飛ぶ砂粒は、保護された俺の体を傷付けない。
「『星は揺蕩う。懊悩の海、倦むは孤独』」
「『輝く鉄の星よ、燃え殻となっても降り注げ』」
突如空が唸り声を上げるが、それをさざ波のような穏やかな音が掻き消した。
「『黒星海』」
「『輝炎星群』」
瑠奈の足元から、黒い海が溢れた。向こう側の見えない黒い液体の波は、その内側に無数の星のような煌めきが浮かび、まるで液状の宇宙のようだ。
そして、空からは真っ赤に燃え輝く砕けた岩石の群れが迫っていた。一つ一つが数十メートルはある隕石の群れは全てが重い鉄の塊で、数百と並ぶそれらは夜空を目が焼けんばかりに照らしていた。
「これは……」
迫る隕石の群れ。流星群とでも呼ぶべきそれらは、範囲が広ければ街どころか県を丸ごと吹き飛ばせるだろう。
「フハハハハハッッ!!! どうだ我が弟子よッ!!」
隕石が降り注ぐ中、高笑いを上げるアステラス。相次ぐ爆発は隕石同士に影響を与えることは無く、同じようにアステラスにも被害を及ぼすことは無い。
「勿論、生きてるよ!」
爆炎が止み、クレーターだらけとなった荒野から現れたのは、瑠奈だ。黒星海で自身を覆い隠していた瑠奈は、一切のダメージを受けていなかった。
「フハハッ、やはりそうかッ!」
「笑ってる場合かな、師匠!」
黒い海が星々の煌めきを引き連れて、切り立った地面の上に立つアステラスを呑み込もうとする。
「その通り、吾輩は師匠だ!」
アステラスの姿が掻き消え、瑠奈の背後に現れる。
「故に、弟子の術の弱点も知り尽くしている」
「ッ!」
振り下ろされる漆黒の杖。その先端から煌めく光の刃が伸び、瑠奈に迫る。
「あ、危ない……」
「その海は動きが遅いのだ。それが唯一にして最大の弱点だろう!」
転移で刃を避け、黒き海の下まで逃れた瑠奈。直後、この荒野を埋め尽くすように大量の魔法陣が現れる。
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