異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

文字の大きさ
上 下
221 / 335

真祖を超えるのは

しおりを挟む
 一瞬にして身体能力が強化された俺は、先ず背後から襲ってきた吸血鬼を聖なる力を帯びた剣で斬り殺し、続けて魔術を詠唱した。

「『過速マキシマムヘイスト時間移転タイムシフト』」

 瞬間、俺の速度が何十倍にも加速する。周囲の時間が止まったかのような錯覚に陥りながらも、俺は真祖達の首を一つずつ斬り落とした。

「ぐッ」

「なッ」

 驚愕の声を短く上げながら死んでいく真祖の吸血鬼達。その様子を見ながら、俺の視界は黒く染まった。



 十秒後、そこには崩壊した館と二体の吸血鬼が立っていた。

「……選択を誤ったな」

 使い魔達が生きているのは魂の繋がりを通じて分かるが、通信などが来ないところを見るに異空間や結界の中に居る可能性が高い。

「何故突っ立っているのかは分かりませんが、その障壁については分かってきました」

「起きたようだ。警戒しろ、セプティーニ」

 時間移転タイムシフト。この魔術は、言わば時間の前借りだ。真祖を相手に何か行動されるのは不味いと考え、この魔術を使ったんだが……結果から言えば、失敗だったな。失った十秒の間に、仲間達は全員何処かに消えていた。

「真祖、か?」

「答える必要はありませんね」

 白い髪の少年と少女、感じる気配は真祖を超えている。

「アストアニ、これを使って下さい。障壁を突破出来ます」

「分かった」

 どうやら、俺が止まっている間にこいつらは俺の背理の城塞ゼノン・アルチスの解析を進めていたらしい。赤く平べったい血の剣が渡される。表面には青い紋様が走っている。

「速いな」

 過速マキシマムヘイストの副作用である効果終了後のデバフもあるが、それを抜きにしても速い。

「チッ、攻撃が当たらなければ障壁を突破出来ても無意味だ」

「支援します、アストアニ」

 セプティーニと呼ばれた少女が腕を伸ばすと、少年の体に青い紋様が走った。

「これでどうだ、人間」

「……急がないとな」

 速度を増した少年の剣を躱しつつ、俺は呟いた。

「『冥死線グラミサナト』」

「ぐ、ッ」

 黒紫色の光線が、少年の胸を貫いた。効果は即死だが、高い生命力からか抵抗出来ている。しかし、死に至るのは時間の問題で……

「ッ、アストアニッ!」

「言ってる場合か?」

 少女によって死亡効果が解除された少年。しかし、その間に俺は少女の下に迫り、聖なる力を帯びた剣を振り下ろす。


「――――やめてもらおうか」


 俺の剣を受け止めていたのは、白髪を生やした老年の男だった。

「あぁ、アンタが……」

「そうとも、私がニオス・コルガイだ」

 やっぱり、そうか。間違いない。こいつは、世界の敵だ。

「『大敵の滅殺アーチエネミー』」

「ふふ、心外だな」

 世界の敵。目の前のそれが、人々にとっての大敵であれば、俺はより強い力を発揮することが出来る。

「お父様、私達にお任せください。さっきので相手の速度は理解しました」

「俺も、今のは油断していただけだ」

 前に出ようとする二人の肩をニオスは引き留める。

「やめておきなさい。この男は、君たちでは勝てない」

「何故ですか? 私達は真祖をも超える真の吸血鬼です。それを一番理解しているのはお父様では……」

 俺は会話する三人を前に、小声で魔術を紡いだ。

「『無限加速アンリミテッドブースト』」

「おっと、また魔術を使われてしまったか」

 ニオスは目を細めて俺を見る。

「『冥死線グラミサナト』」

「言っておくが、ここは私の場所だ」

 黒紫色の光線が、空中で散り果てた。

「『血の世界ブラッドミア』」

 赤色が広がり、白く凍えた世界を塗り替えていく。

「あぁ、ここ以上に私が有利な場所は無いだろうな。強いて言うなら、月の上くらいだろう」

「……魔術は使えないか」

 とは言え、無限加速アンリミテッドブーストは既に発動できている。常に速度が上昇していく以上、ジリ貧にはならない筈だ。

「しかし、出てきて良かったのか? 何か小細工でもしているのかと思っていたが」

「ふふ、セプティーニとアストアニには死んで貰う訳にはいかないからね。私の可愛い子供で、私の大事な研究成果だ」

 やっぱり、そういう奴か。お父様なんて呼び方は相当臭いと思ったが。

「という訳だ。二人とも、休眠槽で眠っていなさい。それに……根源との同化は、もう少しで完了するからね」

「……分かりました」

 ニオスが指を鳴らすと、二人の姿が消え去った。完全に、一対一の構図になる。

「聞き捨てなら無い言葉があったな」

「根源との同化かな?」

 俺は頷き、剣を向ける。

「ふふ、血の根源には凄まじい力がある。あの二人も、根源を利用して作ったんだ。生後数週間で真祖以上の強さだ。凄いだろう?」

「確かに凄いが、それと同化するっていうのは見過ごせないな」

 根源との同化、それはつまり、アカシアの死を意味する可能性がある。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ダンジョン配信スタッフやります!〜ぼっちだった俺だけど、二次覚醒したのでカリスマ配信者を陰ながら支える黒子的な存在になろうと思います〜

KeyBow
ファンタジー
舞台は20xx年の日本。 突如として発生したダンジョンにより世界は混乱に陥る。ダンジョンに涌く魔物を倒して得られる素材や魔石、貴重な鉱物資源を回収する探索者が活躍するようになる。 主人公であるドボルは探索者になった。将来有望とされていたが、初めての探索で仲間のミスから勝てない相手と遭遇し囮にされる。なんとか他の者に助けられるも大怪我を負い、その後は強いられてぼっちでの探索を続けることになる。そんな彼がひょんなことからダンジョン配信のスタッフに採用される。 ドボルはカリスマ配信者を陰ながら支えようと決意するが、早々に陰謀に巻き込まれ危険な状況に陥る。絶体絶命のピンチの中で、ドボルは自分に眠る力を覚醒させる。この新たな力を得て、彼の生活は一変し、カリスマ配信者を陰から支え、奮闘する決意をする。果たして、ドボルはこの困難を乗り越え、配信を成功させることができるのか?

処理中です...