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吸血鬼、その弱点。

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 始まった詠唱。それを察知した東方あがたは迷いなく駆け出した。

「やらせるわきゃねぇ――――」

「『――――銀粒砲アルゲントゥム』」

 飛び掛かる東方に銀の奔流が襲い掛かる。

「チッ、危ねぇな」

 回避した東方はメイアを睨みつけるが、その瞬間にメイアは霧となって消える、

「無駄だ。俺は吸血鬼の位置が分かる」

「『黄金の光は貴方の為に、紅い罅は貴方の為に』」

 姿を現したメイアに即座に襲い掛かる東方。

「『何でも、耐えて見せるから』」

「チッ、不味いな」

 振り下ろされる鉤爪を回避したメイアから魔力が溢れ、黄金色の髪が美しく輝く。

「『月紅紋』」

 月明かりのように光り輝く黄金色の髪、身体中に走る紅の紋様。その身を駆け巡る苦痛を代償に発動された魔術は、メイアの身体能力を何倍にも引き上げる。

「さぁ、観念しなさい」

「ぐッ」

 メイアは東方の爪を回避し、お返しに拳を叩き込む。東方は膝を突き、メイアはすかさず拘束しようと血を伸ばす。

「下がってくださいッ、メイアッ!」

「チッ」

 ステラの言葉に動きを止め、後ろへと飛び退いたメイア。東方は舌打ちをして起き上がる。

「何で分かりやがった?」

「さぁ? 種も仕掛けもありませんよ」

 不敵な笑みを浮かべるステラ。その背から展開された武装が火を噴き、東方を襲う。

「……もう良い」

 東方は銃弾の雨を霧となって避け、木の上で姿を現した。

「本気で殺す」

 東方の体から黄金色の光が溢れる。同時に、その手に鍔の無い黄金色の剣が握られた。

「太陽の力……ってところかしら?」

「そうだ。ダンピールの俺に日光は効かないからな」

 吸血鬼の血を引きながら太陽によるダメージを受けないダンピール。月の力と太陽の力を併せ持つ東方は、吸血鬼でありながら吸血鬼の天敵だ。

「焼け死ね」

 東方がその剣を天高く掲げる。すると、剣が光を放ち……空がキラリと光った。

「メイアさん、アレを使ってくださいッ!」

「ふふ、なるほどね」

 メイアは空を見上げて笑った。そこから、その身を焼き焦がす陽光が降り注いでいることに気付いているにも関わらず。

「先ず、一人だな」

 黄金色に輝く陽光の柱。それに呑み込まれたメイアを見て、東方は小さく呟いた。

「……いや」

 東方は眉を顰めて言う。ダンピールである東方には、吸血鬼の位置が分かる。その力によって、メイアがまだ生きていることにも気付いた。

「どうやった? 霧になってもアレからは逃れられない。位置が動いてない以上、転移したって訳でも無い……耐えるなんざ、更に有り得ねぇ」

 黄金色の柱が消える。そこから現れたのは、無傷で微笑むメイアだった。

「ふふ、無意味よ」

 メイアの左の手の甲、黒い光で逆向きの五芒星が輝いていた。

「……作戦変更だな」

 東方は黄金の剣を横に振り抜く。すると、黄金色の光の斬撃が放たれ、ステラに迫る。

「ッ、危ないですね」

 凄まじい速度で飛来するそれを、ステラは予知能力によって回避した。

「やっぱり、お前……な?」

「ッ!」

 光を放ちながらステラの目の前に転移した東方。そのまま黄金の剣を振るうが、ステラは予知によって回避する。

「だったら、どう足掻いても死ぬくらい剣を振るえば良いだけだ」

「ほぼ必殺の剣、ですか……!」

 黄金の剣は振るわれる度に光の斬撃が放たれ、それに触れれば容易く切断されてしまう。太陽と月の力によって強化された東方だが、その身体性能は拮抗している。

「さぁ、どうだ。耐え切れるか?」

「ッ!」

 打ち合えば負ける以上、ステラは回避に徹するしか出来ない。そんな中、赤い血の鞭が東方の体を拘束した。

「好き放題出来るなんて思わないことね」

「くッ、邪魔くせぇ」

 東方は血の鞭を引きちぎり、そのままメイアに向けて陽光の斬撃を放った。しかし、その斬撃はメイアの体をすり抜けて行く。

「やっぱり、効かねえか。だったら……」

 いつの間にか姿を消していたステラ。周囲を探すと、木の上から右手をこちらに向けているのが見つかった。

「隙有りだ」

「ッ!」

 ステラの眼前に転移し、男は一瞬でステラの体を真っ二つに切り裂いた。

「さぁ、これで……」

 驚愕に染まった表情のまま、ステラの体は二つに分けられ、ぐらりと揺れて……黒い影のように崩れた。

「……は?」

 一瞬の思考の空白。その瞬間に男の体を影が拘束し、天から雷が降り落ちた。

「ぐ、ぉ……ッ!」

 雷撃によって意識を揺らされた男。体を拘束する影からは、絶え間なく電流が流れている。麻痺した体ではその拘束を解くことは出来ず、黄金の剣も地面に取り落とした。


「――――カァ、暇だったぜ」


 月光の下、羽ばたくのは黒い翼……カラスだ。

「なん、ら……」

 痺れによって回らない呂律。それでも、東方はそのカラスを見上げた。

「隠し札ですからね。危機的状況になるまでは切らないものです」

「オレはお前みたいに未来までは見えねえからな。流石に冷や冷やした」

 さて、とカラスは一息置いて東方を見た。

「お話しの時間だな?」

 自分の置かれた状況を理解した東方は、諦めたように項垂れた。
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