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襲撃への対策
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鋭く放たれた黒い血がステラの体に傷一つ付けられなかったのを見て、男は目を見開いた。
「……馬鹿な」
「『魔力活性』」
様々な魔物の素材を組み合わせて疑似筋肉に魔力が駆け巡り、その肉体の性能を最大限に引き出していく。
「クソッ、やれシルドッ!」
「ギャハハハハハハハッ!!」
狂った様子でどこからか飛び出して来た狼男。その体には黒い血のラインが迸っており、魔術的な効果が齎されていることが分かる。
「『完全戦闘形態』」
魔力炉が起動し、その身に刻まれた術式が起動していく。
「ッ、待てシルドッ!」
「ギャハ――――」
狼男の体が一撃で粉砕される。足と手だけを残して消し飛ばされた肉体は再生しない。彼には吸血鬼のような再生能力は無いのだ。
「そうだッ、ヴィエンネは……ッ!?」
赤いドレスの女を探す男。その視界に入ったのは、燃えながら地面を這い蹲る女の姿だった。
「ふざけるな……ふざけるなよ、汚らわしい獣風情がッ! 吸血鬼の面汚しが、調子に――――」
「――――不快です」
混乱する男の頭部をステラの拳が破壊した。続けてその拳は胸を貫き、胴体を半分以上崩壊させた。
「そっちも終わったみたいね」
「えぇ、余裕でした」
ステラはメイアの足元で燃え盛る女へと視線を向ける。
「ぐッ、ぬ、ぅォ……穢れた獣めッ、幾ら取り繕ったところでッ、獣の血を啜ったお前の穢れは――――」
「『銀粒砲』」
吠える女の全身を、銀の奔流が消し飛ばした。
「……尋問する相手が消えちゃったわね」
「すみません、失念していました」
不機嫌そうに言うステラに、メイアは呆れたように微笑んだ。
♦
という訳で、事のあらましは分かった。
「しかし、態々襲撃に来た奴らがそのレベルとは意外だったな」
『恐らく、向こうでも統率が取れている訳では無いかと。実際、今回の襲撃は相当雑だったので』
『そもそも、彼らも弱い吸血鬼ではありませんでした。もっと強い吸血鬼は居ますが、彼らの間に伝わっている私の風評的には彼らで十分だったのでしょう』
確かに、最初はボロボロもボロボロだったからな。メイアの過去については良く知らないが、相当舐められていてもおかしくない。
「そろそろ仕掛けてくるかと思っては居たが……少し、警戒を強めるか」
今までは成長の為に過度に武器や道具を与えることはしていなかったが、少し考える必要があるかも知れない。
『どうしますか? 外出の予定を全てキャンセルすることも出来ますが』
「いや、今それをすれば印象が悪いだろう」
ステラが取り付けたであろうインタビュー等の予定。それをいきなり全て取り消してしまえば折角積み上げた好印象が台無しになってしまうかも知れない。
「単純に襲われても勝てるようにすれば良いだけだ。それに、今日からはカラスを常に護衛に付ける」
「カァ、オレならずっと影に隠れとくことも出来るしな」
カラスは護衛としてかなり優秀だろう。眼も良いし、隠密性能も高い。
『カラスは分かりますが、勝てるようにすると言うのは?』
「まぁ、ちょっと強化アイテムを渡すくらいの話だ」
ステラの言葉にそう返し、俺は玄関の方に歩く。
「カァ、どこ行くんだ?」
「そのアイテムを作りに行く」
最近、良いものが手に入ったからな。
♢
暗い異界の奥深く。一人で潜るには危険なその場所で俺は結界を展開し、人が来ないようにした上で作業をしていた。
「バルバリウス」
赤い宝石の埋め込まれた黒い剣。その赤い輝きの中には幾つもの魂が閉じ込められている。
前回封じたのは……こいつらか。
バラム、アスモデウス、プルソン、ベレト、パイモン、バエル、ルキフグス。ソロモンが操っていた七体の悪魔だ。
こいつらは向こうでもそこそこ通用するような強敵だったので、魂は良い素材になる筈だ。
「先ずは……」
メイアだな。メイアのを作ろう。使う魂は……ベレトだな。アスモデウスもアリだったが、戦った時にアイツは飽くまでソロモンの支配下であり、悪意のようなものは無かった。素材として消費するのは可哀想だろう。
悪魔である以上、警戒は必要だが……いつか解放しても良いかもしれない。
それと、ルキフグスも良いだろう。闇を操るあの悪魔の本質は、光を避けることだ。太陽が天敵であるメイアには必要な能力だ。
「カラスは……プルソン、それとバエルだな」
プルソンの力は使い魔の創造に関して強い効果を発揮することが可能で、相手の詠唱を妨害することも出来る。既にある程度の操作が可能な影の鴉だが、更に柔軟性を持たせることが出来るかも知れない。使い魔に関しては眷属を生み出せるメイアにも相性が良い力だが、既に音に関する能力を持っているカラスの方が詠唱妨害との相性が良いので、カラスで良いだろう。
それと、バエルの操る嵐。これと最も親和性が高いのはカラスだ。カラスは即効性のある攻撃手段を持っていないので、そこも相性が良いと言えるだろう。
「残ったのは……」
バラムとパイモン。ステラとの相性は悪くない。バラムは不可視と予知、パイモンは解析と支配。高い演算能力を持つステラには良い力となるだろう。
「……やるか」
魔道具の類いを作るのは久し振りだが、知識は抜け落ちていない。きっと、良いものが作れる筈だ。
「……馬鹿な」
「『魔力活性』」
様々な魔物の素材を組み合わせて疑似筋肉に魔力が駆け巡り、その肉体の性能を最大限に引き出していく。
「クソッ、やれシルドッ!」
「ギャハハハハハハハッ!!」
狂った様子でどこからか飛び出して来た狼男。その体には黒い血のラインが迸っており、魔術的な効果が齎されていることが分かる。
「『完全戦闘形態』」
魔力炉が起動し、その身に刻まれた術式が起動していく。
「ッ、待てシルドッ!」
「ギャハ――――」
狼男の体が一撃で粉砕される。足と手だけを残して消し飛ばされた肉体は再生しない。彼には吸血鬼のような再生能力は無いのだ。
「そうだッ、ヴィエンネは……ッ!?」
赤いドレスの女を探す男。その視界に入ったのは、燃えながら地面を這い蹲る女の姿だった。
「ふざけるな……ふざけるなよ、汚らわしい獣風情がッ! 吸血鬼の面汚しが、調子に――――」
「――――不快です」
混乱する男の頭部をステラの拳が破壊した。続けてその拳は胸を貫き、胴体を半分以上崩壊させた。
「そっちも終わったみたいね」
「えぇ、余裕でした」
ステラはメイアの足元で燃え盛る女へと視線を向ける。
「ぐッ、ぬ、ぅォ……穢れた獣めッ、幾ら取り繕ったところでッ、獣の血を啜ったお前の穢れは――――」
「『銀粒砲』」
吠える女の全身を、銀の奔流が消し飛ばした。
「……尋問する相手が消えちゃったわね」
「すみません、失念していました」
不機嫌そうに言うステラに、メイアは呆れたように微笑んだ。
♦
という訳で、事のあらましは分かった。
「しかし、態々襲撃に来た奴らがそのレベルとは意外だったな」
『恐らく、向こうでも統率が取れている訳では無いかと。実際、今回の襲撃は相当雑だったので』
『そもそも、彼らも弱い吸血鬼ではありませんでした。もっと強い吸血鬼は居ますが、彼らの間に伝わっている私の風評的には彼らで十分だったのでしょう』
確かに、最初はボロボロもボロボロだったからな。メイアの過去については良く知らないが、相当舐められていてもおかしくない。
「そろそろ仕掛けてくるかと思っては居たが……少し、警戒を強めるか」
今までは成長の為に過度に武器や道具を与えることはしていなかったが、少し考える必要があるかも知れない。
『どうしますか? 外出の予定を全てキャンセルすることも出来ますが』
「いや、今それをすれば印象が悪いだろう」
ステラが取り付けたであろうインタビュー等の予定。それをいきなり全て取り消してしまえば折角積み上げた好印象が台無しになってしまうかも知れない。
「単純に襲われても勝てるようにすれば良いだけだ。それに、今日からはカラスを常に護衛に付ける」
「カァ、オレならずっと影に隠れとくことも出来るしな」
カラスは護衛としてかなり優秀だろう。眼も良いし、隠密性能も高い。
『カラスは分かりますが、勝てるようにすると言うのは?』
「まぁ、ちょっと強化アイテムを渡すくらいの話だ」
ステラの言葉にそう返し、俺は玄関の方に歩く。
「カァ、どこ行くんだ?」
「そのアイテムを作りに行く」
最近、良いものが手に入ったからな。
♢
暗い異界の奥深く。一人で潜るには危険なその場所で俺は結界を展開し、人が来ないようにした上で作業をしていた。
「バルバリウス」
赤い宝石の埋め込まれた黒い剣。その赤い輝きの中には幾つもの魂が閉じ込められている。
前回封じたのは……こいつらか。
バラム、アスモデウス、プルソン、ベレト、パイモン、バエル、ルキフグス。ソロモンが操っていた七体の悪魔だ。
こいつらは向こうでもそこそこ通用するような強敵だったので、魂は良い素材になる筈だ。
「先ずは……」
メイアだな。メイアのを作ろう。使う魂は……ベレトだな。アスモデウスもアリだったが、戦った時にアイツは飽くまでソロモンの支配下であり、悪意のようなものは無かった。素材として消費するのは可哀想だろう。
悪魔である以上、警戒は必要だが……いつか解放しても良いかもしれない。
それと、ルキフグスも良いだろう。闇を操るあの悪魔の本質は、光を避けることだ。太陽が天敵であるメイアには必要な能力だ。
「カラスは……プルソン、それとバエルだな」
プルソンの力は使い魔の創造に関して強い効果を発揮することが可能で、相手の詠唱を妨害することも出来る。既にある程度の操作が可能な影の鴉だが、更に柔軟性を持たせることが出来るかも知れない。使い魔に関しては眷属を生み出せるメイアにも相性が良い力だが、既に音に関する能力を持っているカラスの方が詠唱妨害との相性が良いので、カラスで良いだろう。
それと、バエルの操る嵐。これと最も親和性が高いのはカラスだ。カラスは即効性のある攻撃手段を持っていないので、そこも相性が良いと言えるだろう。
「残ったのは……」
バラムとパイモン。ステラとの相性は悪くない。バラムは不可視と予知、パイモンは解析と支配。高い演算能力を持つステラには良い力となるだろう。
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魔道具の類いを作るのは久し振りだが、知識は抜け落ちていない。きっと、良いものが作れる筈だ。
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