上 下
195 / 215

相伝、秘伝、その奥義。

しおりを挟む
 宙を舞う九尾の狐。それに追い縋るように手を伸ばす大嶽丸。その目に最早理性は無い。

「『神妖術・白炎牢縛』」

 玉藻が空中でくるりと振り向きながら術を行使する。白い炎が大嶽丸の足元から起こり、その全身に絡み付いて行く。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 しかし、その身から溢れる緑の神力が白い炎を破り、消し飛ばす。

「『神妖術・天穿神白剣』」

 その直後に生み出された巨大な白い炎の剣が、大嶽丸の胸を目掛けて真っ直ぐ迫る。

「ォオオオオオオオオオオッ!!」

 思い切り拳を振りかぶる大嶽丸。巨大な剣の先端に拳がぶつかり、白い炎が爆発する。

「ッ、これでもダメじゃと……!」

 大嶽丸の拳は消滅し、その断面からは白い炎が燃え上がっているが、炎は緑の神力によって掻き消され、消滅した拳は一瞬で再生した。

「ォオオオオオオ……ッ!」

 大嶽丸が腕を真っ直ぐ横に伸ばす。すると、その手から神力が溢れ、剣の形を構築していく。

「こやつ……力の使い方を学んでおるッ!」

 その巨人には、理性は無いが知性はある。故に、己に宿る力を理解し、学習しているのだ。

「グォオオ……」

 巨大な緑の神力で象られた半透明の剣。それは、凄まじいエネルギーの集合体だ。

「ォオオ」

 そして、学習する巨人はこそこそと何かをしている陰陽師二人を見た。

「ッ、不味いぞ天明!」

「『南より来たるは赤き凶将』」

 焦る行道。しかし、天明は汗を垂らしながらも詠唱を止めようとはしない。

「ォオオオオオオオオッ!!」

「『神妖術・地壊噴焔』」

 天明に向けて振り下ろされる神力の剣。同時に、地面に大きな穴が開き、そこから白い炎が噴き出して大嶽丸の剣を直撃し、その斬撃を食い止める。


「――――奥義、天照」


 その瞬間、眩い光が閃いた。その斬撃は紅蓮の炎と共に大嶽丸の剣を持つ腕を斬り落とした。

「ォオオッ」

 分かたれた腕。しかし、離れた腕と胴の腕から溢れる神力同士が繋がり、斬り落とされた腕が繋がろうとする。

「『五行・夜叉斬、暴れ蜘蛛』」

 それを阻止せんと宙を駆けた鬼一。振り回された刃は五行の光と共に斬撃を蜘蛛の巣のように撒き散らし、繋がっていた神力を切断した。

「これだけやったのだッ、相応のものを見せろよ陰陽師!」

 叫ぶ鬼一。地面に落ちる神力の剣。それは地面に突き刺さると、そのまま大地を削って下に落ちていく。だが、大嶽丸の攻勢はまだ終わっていない。

「グォオオオオオオオオオオオオッ!!」

 大嶽丸は天明の方に走りながら、思い切りその身を投げ出した。このままでは、天明も行道も潰されてしまう。

「ッ、儂では止められぬぞッ!」

「吾でも止められぬッ!」

 叫ぶ霧生。白い炎が大嶽丸を襲うが、それを掻き消しながら大嶽丸は天明に倒れ落ちる。

「『壬来転行』」

 しかし、その身が天明を圧し潰す寸前、天明と行道の体がその場から消え失せた。

「ふぅ……何とか、何とか成功させたぞ天明ッ!」

 精密な儀式を中断させず、展開された陣をそのまま丸ごと転移した行道。それは、正に神業と言える技術だ。陰陽師達の中でも歳を重ねている行道だからこその成功と言えるだろう。

「『十二天将、己換招来』」

 天明は行道の言葉には答えず、代わりにただ詠唱を紡ぎ、手印を結んだ。


「『――――天戒羅刹』」


 現れたのは、鎧を纏い両手に刀を握った鬼武者。頭からは緑と金の角が一本ずつ生えており、背からは赤く美しい翼が炎を纏って生えている。刀は白い刃と黒い刃のものを一本ずつだ。

「これは……成る程な。上手く創ったものだ」

 鬼一が感心するように言う。その正体を、元陰陽師である鬼一は察したからだ。

「土御門家相伝、十二天将……聞こえは良いが、言ってしまえば劣化版のレプリカだ」

 土御門家には安倍晴明が残した十二天将を再現する術式が受け継がれている。しかし、それはオリジナルの十二天将には遥かに劣るものでしかない。

「故に、俺は考えたのだ」

 力の劣るレプリカ。だからこそ、利用できる手段がある。

「混ぜてしまえ、とな」

 劣化版十二天将、その混合体である式神。口で言うには簡単だが、実際にそれを創るとなると凄まじい知識量とセンスが必要になる。だが、天明にはその両方が備わっていた。

「朱雀、青龍、玄武、白虎、太裳、天后、匂陳」

 七体の十二天将を混ぜ合わせた、天明の最高傑作。それが、今解き放たれた。

「天戒羅刹よ、あの巨鬼を殺せ」

「相分かった」

 武者は頷き、大嶽丸の方に駆け抜ける。その間に、大嶽丸の片腕は復活し、その手にはまた神力の剣が握られていた。

「ォォオ……!」

「『白虎・凶猛駆け』」

 大嶽丸の体から緑の神力が溢れ、無数の刃となって武者に放たれるが、白い気を纏い、凄まじい速度で走る武者はそれらを回避しながら大嶽丸へと距離を詰める。

「『朱雀・炎柱昇』」

 大嶽丸の足元、炎の柱が天へと立ち昇り、その中から武者が大嶽丸の眼前に現れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

元探索者のおじいちゃん〜孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、軟弱な若造を叱りつけたらバズりおったわい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
夏休み。それは、最愛の孫『麻奈』がやって来る至福の期間。 麻奈は小学二年生。ダンジョン配信なるものがクラスで流行っているらしい。 探索者がモンスターを倒す様子を見て盛り上がるのだとか。 「おじいちゃん、元探索者なんでしょ? ダンジョン配信してよ!」 孫にせがまれては断れない。元探索者の『工藤源二』は、三十年ぶりにダンジョンへと向かう。 「これがスライムの倒し方じゃ!」 現在の常識とは異なる源二のダンジョン攻略が、探索者業界に革命を巻き起こす。 たまたま出会った迷惑系配信者への説教が注目を集め、 インターネット掲示板が源二の話題で持ちきりになる。 自由奔放なおじいちゃんらしい人柄もあってか、様々な要因が積み重なり、チャンネル登録者数が初日で七万人を超えるほどの人気配信者となってしまう。 世間を騒がせるほどにバズってしまうのだった。 今日も源二は愛車の軽トラックを走らせ、ダンジョンへと向かう。

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...