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魂
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三度目の死を迎え、再び蘇る玉藻。その瞬間を目掛けて刃を振り下ろすが、玉藻は青白い炎となって消えた。
「そっちか」
後方、天井付近。現れた炎は玉藻となり、こちらを睨みつけた。
「『一魂消費』」
瞬間、玉藻の体から青白い炎が溢れ、その服に纏わりつきながらたなびく。その身から溢れる妖力は倍以上に膨れ上がっている。
「……そういう使い方もあるんだな」
「其方は、何者じゃ」
呟く俺に、玉藻は問いかけた。
「今は、何者でも無いな」
「……今は、か」
玉藻は空中からゆっくりと扇子をこちらに向けた。
「『集雷連雨』」
瞬間、扇子が青白い光を放ち、空気がピリッと痺れた。
「その程度じゃ、無駄だ」
数秒の間に何十発もの雷が落ちる。その全ては俺に命中したが、同時に障壁に阻まれた。背理の城塞だ。
「『妖炎轟襲』」
巨大な青白い炎が左右から迫り、轟音を上げて俺を焼き尽くそうとする。
「それでも、足りないな」
しかし、ただの火力じゃ俺は殺せない。この障壁は超えられない。
「『点尖金針』」
妖力を纏う黄金の針が高速で射出され、障壁に突き刺さる。適応障壁まで貫通したそれは、背理障壁に受け止められる。
「惜しいな」
俺は剣を空中の玉藻に向ける。
「『虚落天崩』」
玉藻の体が一気に浮力を失い、凄まじい重力に襲われたかのように一瞬で地面に叩き付けられる。
「『蒼穹の矢』」
俺が上に向けて蒼い魔力の矢を放つと、それは天井付近で破裂し、無数の蒼い魔力の矢に分裂して玉藻に落ちる。
「ッ!」
玉藻は青白い炎の霊体となって高速で移動し、矢の雨を回避した。
「もう一つ――――」
「『一魂消費』」
玉藻の体から溢れる青白い炎、その勢いが強まり、九本の尾と狐の耳より放たれる黄金色の輝きも強まる。
「『扇王刀』」
玉藻の扇子を妖力が覆い、細く鍔の無い反りのある刀に変化した。
「近接戦、出来るのか?」
「大妖狐、玉藻前を舐めるでないッ!」
俺が剣を振り下ろすと、玉藻はそれに合わせて綺麗に刀を振り上げる。
「あぁ、確かに出来るな」
「そうじゃろうッ!」
俺は踏み込みながら、剣を振り上げる。玉藻はそれに合わせて刀を振り下ろし……
「だが、綺麗すぎるな」
「ッ!?」
剣は軌道を変え、振り下ろされる刀の刃を滑りながら、玉藻の体を切り裂いた。だが、死には至っていない。
「逃げたか」
玉藻が青白い炎となって消え、離れた場所に立って現れた。さっきの魔術を警戒しているのか、飛ぶ気は無いらしい。
「『西へ東へ、揺れる魂』」
「『魔女は去った。騎士も去った』」
詠唱する玉藻を見て、俺も詠唱を始めた。
「『西へ東へ、獣のように』」
「『残った小屋には何がある』」
足元に兜と剣を転がし、その上から粉を撒く。
「『西へ東へ、散らしてしまえ』」
「『魔術の残滓、忠誠の跡』」
玉藻の妖力が強まる。同時に、俺の術も完成に近付く。
「『散方転解』」
「『魔女術・魔導騎士』」
風が吹き、鉄の音が鳴った。
「……やられたな」
「……何じゃ、それは」
障壁が解体された。隣で鋼鉄の騎士が起き上がる。中身の無い、全身鎧の魔導騎士だ。
「あぁ、最初からこれを狙っていたのか」
「ふん、当たり前じゃ。吾が効かぬとも知らずに攻撃を続ける無様を犯すとでも思うたか」
威勢の良い玉藻だが、その目には深い警戒が滲んでいる。恐らく、その対象は俺の隣の騎士だ。
「それで、何じゃ……その鋼の騎士は」
俺は騎士の足元に転がったままの兜と剣を拾いながら答えた。
「ウィッチクラフト、俺は余り使わないんだが……この術だけは便利でな。良く、使っていた」
魔術やら呪術やら奇跡やら、色々と盛り込まれたウィッチクラフトは俺には少しややこしい術法で敬遠していたんだが、この魔導騎士だけは別だ。
術式だけで動く鋼の騎士、その身に起きたことの全ては記録され、次の作成時に記録を引き継ぐ。つまり、何があろうと復活可能な成長するゴーレムだ。
「使い魔の類いを呼び出すのはルール上怪しいが、その点この騎士は問題ない」
俺が地面を指差すと、その地面が蠢いて起き上がり、人の形を取った。
「これと同じ、ただのゴーレムだ。中に魂は無く、ただ術式によって自動制御されるだけだ」
実は、魂が無いというのも一つの利点だ。魂という存在は使い魔を作る上ではとても便利だが、それは当然弱点となり得る。心が芽生えればノイズが発生し、魂を破壊されればそのまま死に至る。だが、このゴーレムは……決して、死なない。死の概念が存在していない。
「言ってしまえば、勝手に動くだけの武器だな」
術式だけ記録していれば、どれだけ酷い目に遭おうと俺が再度作成できる。まぁ、召喚の触媒となる兜と剣は保持しておく必要があるが。
「……魂が無いことなど、見れば分かる。故に、それは何じゃと言ったのじゃ」
「あぁ、この類のものは見たことが無かったか」
「それに近しいからくり人形は幾度か見たことがあるんじゃが……そこまで高度なものは、見たことも無い」
実際、これは高度なロボットのようなものだしな。成長する人工知能のようなものが仕込まれたロボットだ。記録の集積体。そのデータが無数に集まれば、人に近付き、いつかは人を超える。当然の話だ。
「……どうやら、障壁を復活させるのは厳しそうだな」
「当然じゃろうが。小賢しい奴め」
話している間、色々と試行錯誤をしてみたが、背理の城塞の復活にはかなりの時間を要することになりそうだ。諦めて、全部避けるか防ぐことにしよう。
「始めるか」
「うむ。ここからが、本番じゃ」
第二ラウンド。後、四回殺すだけだ。
「そっちか」
後方、天井付近。現れた炎は玉藻となり、こちらを睨みつけた。
「『一魂消費』」
瞬間、玉藻の体から青白い炎が溢れ、その服に纏わりつきながらたなびく。その身から溢れる妖力は倍以上に膨れ上がっている。
「……そういう使い方もあるんだな」
「其方は、何者じゃ」
呟く俺に、玉藻は問いかけた。
「今は、何者でも無いな」
「……今は、か」
玉藻は空中からゆっくりと扇子をこちらに向けた。
「『集雷連雨』」
瞬間、扇子が青白い光を放ち、空気がピリッと痺れた。
「その程度じゃ、無駄だ」
数秒の間に何十発もの雷が落ちる。その全ては俺に命中したが、同時に障壁に阻まれた。背理の城塞だ。
「『妖炎轟襲』」
巨大な青白い炎が左右から迫り、轟音を上げて俺を焼き尽くそうとする。
「それでも、足りないな」
しかし、ただの火力じゃ俺は殺せない。この障壁は超えられない。
「『点尖金針』」
妖力を纏う黄金の針が高速で射出され、障壁に突き刺さる。適応障壁まで貫通したそれは、背理障壁に受け止められる。
「惜しいな」
俺は剣を空中の玉藻に向ける。
「『虚落天崩』」
玉藻の体が一気に浮力を失い、凄まじい重力に襲われたかのように一瞬で地面に叩き付けられる。
「『蒼穹の矢』」
俺が上に向けて蒼い魔力の矢を放つと、それは天井付近で破裂し、無数の蒼い魔力の矢に分裂して玉藻に落ちる。
「ッ!」
玉藻は青白い炎の霊体となって高速で移動し、矢の雨を回避した。
「もう一つ――――」
「『一魂消費』」
玉藻の体から溢れる青白い炎、その勢いが強まり、九本の尾と狐の耳より放たれる黄金色の輝きも強まる。
「『扇王刀』」
玉藻の扇子を妖力が覆い、細く鍔の無い反りのある刀に変化した。
「近接戦、出来るのか?」
「大妖狐、玉藻前を舐めるでないッ!」
俺が剣を振り下ろすと、玉藻はそれに合わせて綺麗に刀を振り上げる。
「あぁ、確かに出来るな」
「そうじゃろうッ!」
俺は踏み込みながら、剣を振り上げる。玉藻はそれに合わせて刀を振り下ろし……
「だが、綺麗すぎるな」
「ッ!?」
剣は軌道を変え、振り下ろされる刀の刃を滑りながら、玉藻の体を切り裂いた。だが、死には至っていない。
「逃げたか」
玉藻が青白い炎となって消え、離れた場所に立って現れた。さっきの魔術を警戒しているのか、飛ぶ気は無いらしい。
「『西へ東へ、揺れる魂』」
「『魔女は去った。騎士も去った』」
詠唱する玉藻を見て、俺も詠唱を始めた。
「『西へ東へ、獣のように』」
「『残った小屋には何がある』」
足元に兜と剣を転がし、その上から粉を撒く。
「『西へ東へ、散らしてしまえ』」
「『魔術の残滓、忠誠の跡』」
玉藻の妖力が強まる。同時に、俺の術も完成に近付く。
「『散方転解』」
「『魔女術・魔導騎士』」
風が吹き、鉄の音が鳴った。
「……やられたな」
「……何じゃ、それは」
障壁が解体された。隣で鋼鉄の騎士が起き上がる。中身の無い、全身鎧の魔導騎士だ。
「あぁ、最初からこれを狙っていたのか」
「ふん、当たり前じゃ。吾が効かぬとも知らずに攻撃を続ける無様を犯すとでも思うたか」
威勢の良い玉藻だが、その目には深い警戒が滲んでいる。恐らく、その対象は俺の隣の騎士だ。
「それで、何じゃ……その鋼の騎士は」
俺は騎士の足元に転がったままの兜と剣を拾いながら答えた。
「ウィッチクラフト、俺は余り使わないんだが……この術だけは便利でな。良く、使っていた」
魔術やら呪術やら奇跡やら、色々と盛り込まれたウィッチクラフトは俺には少しややこしい術法で敬遠していたんだが、この魔導騎士だけは別だ。
術式だけで動く鋼の騎士、その身に起きたことの全ては記録され、次の作成時に記録を引き継ぐ。つまり、何があろうと復活可能な成長するゴーレムだ。
「使い魔の類いを呼び出すのはルール上怪しいが、その点この騎士は問題ない」
俺が地面を指差すと、その地面が蠢いて起き上がり、人の形を取った。
「これと同じ、ただのゴーレムだ。中に魂は無く、ただ術式によって自動制御されるだけだ」
実は、魂が無いというのも一つの利点だ。魂という存在は使い魔を作る上ではとても便利だが、それは当然弱点となり得る。心が芽生えればノイズが発生し、魂を破壊されればそのまま死に至る。だが、このゴーレムは……決して、死なない。死の概念が存在していない。
「言ってしまえば、勝手に動くだけの武器だな」
術式だけ記録していれば、どれだけ酷い目に遭おうと俺が再度作成できる。まぁ、召喚の触媒となる兜と剣は保持しておく必要があるが。
「……魂が無いことなど、見れば分かる。故に、それは何じゃと言ったのじゃ」
「あぁ、この類のものは見たことが無かったか」
「それに近しいからくり人形は幾度か見たことがあるんじゃが……そこまで高度なものは、見たことも無い」
実際、これは高度なロボットのようなものだしな。成長する人工知能のようなものが仕込まれたロボットだ。記録の集積体。そのデータが無数に集まれば、人に近付き、いつかは人を超える。当然の話だ。
「……どうやら、障壁を復活させるのは厳しそうだな」
「当然じゃろうが。小賢しい奴め」
話している間、色々と試行錯誤をしてみたが、背理の城塞の復活にはかなりの時間を要することになりそうだ。諦めて、全部避けるか防ぐことにしよう。
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