異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

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仕える者

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 舞台の上で相対するのはステラと、小麦色の狐の尾と耳を生やした巫女のような装いの少女だ。

「こんにちは、私はステラです。対戦よろしくお願いします」

「……ふん」

 少女はそっぽを向き、鼻を鳴らした。

「どうやら、貴方にも仕える主が居るようですが……玉藻様には敵いません」

「こうして相対しているのです。先ずはご自分の実力で語るべきかと思いますが?」

 少女の顔に赤みが差し、少女はキッとステラを睨みつけた。頭の上の狐耳もピンと張り、威嚇しているようだ。

「それに……主の実力でも負けているとは思えませんね」

「ッ! あのボーっとした人間が大妖怪である玉藻様よりも上であるとは到底思えませんがッ!」

 俺がステラの主であることは知ってるのか。まぁ、席的には近い位置で喋ってたからな。そりゃバレるか。

「ところで、お名前は? 私は名乗りを上げたつもりですが……大妖怪様の配下は、このような場で最低限の礼儀も知らないようですね」

「ッ!! き、貴様……ッ!!」

 最早殴り掛からん勢いの少女だが、自身の行いが玉藻の格を下げることに繋がると思ったのか、深呼吸をして落ち着きを取り戻し、切り替えるように咳払いをした。

「私は妖狐の弥胡やこ、玉藻様にお仕えさせて頂いております」

 弥胡、そう名乗った少女は綺麗な所作で頭を僅かに下げた。

「えぇ、よろしくお願いします」

「……さっさと始めましょう」

 弥胡は少し苛立ったような表情で言い、懐から小さい札を取り出した。

「『展開』」

 札から文字が抜け出し、その文字は薙刀に変化する。弥胡は薙刀を構え、刃先をステラに向けた。

「では、私も……」

 ステラは片腕をすらりと横に伸ばした。

「『形態変化フォームチェンジ大刃ギガブレイド』」

 その腕が二メートル程もある銀色の刃に変化する。ステラはその刃の先を薙刀の先端に合わせた。

「いつでも構いませんが?」

「そう、ですかッ!」

 弥胡は薙刀の先端で大刃を弾き、距離を詰めながら薙刀を振り回す。

「『合金装甲オリカルクム』」

「ッ!?」

 ステラの全身が青い光沢を放つ金属の皮膚に変化し、打ち付けられた薙刀を正面から弾いた。

「お前のようなが本物を超えられる筈がないと思っていましたが……存外、やるものですね」

「適当に生まれただけの存在と、完璧に作り上げられた存在。比ぶべくも無いかと思いますが」

 毅然と言い放つステラに、弥胡は眉を顰める。

「ならば……」

 弥胡の体から妖力と、そして霊力が溢れる。

「『解けよ、金妖の戒』」

 弥胡の尾や耳が黄金色に染まり、光を放つようになった。

「これならば、どうですかッ!」

 一瞬でステラの眼前に迫り、薙刀を振り下ろした弥胡。ステラはそれを回避することは叶わず、肩に一撃を受け……大きく凹んだ。

「ッ、中々の威力ですね……」
「ッ!? どんな耐久力ですか……!」

 同時に驚く二人は互いに飛び退き、睨み合う。

「一定以上の性能を確認、制限を解除します」

 ステラの言葉に嫌な予感を感じたのか、弥胡は再び距離を詰めた。

「『魔力活性マナスティム』」

 異世界の素材によって作られた疑似筋肉に魔力が駆け巡り、素材本来の力を引き出せる程に活性化する。そのステラの頭をかち割らんと迫る薙刀を、銀の刃が受け止める。

「『完全戦闘形態フルバトルフォーム』」

 条件が整ったことで魔力炉が起動し、希少な金属や素材を惜しまずに作られたホムンクルスの性能が百パーセント発揮されることになる。

「その魔力……ッ!」

 ステラから溢れる魔力。一歩下がろうとする弥胡だが、それより早くステラの大刃が振り下ろされる。

「ぐッ」

 回避しようとするが間に合わず、その刃が弥胡の肌を切り裂いた。

「舐め、るなッ!!」

 黄金色の光が強まり、止めを刺そうとしていたステラの大刃を薙刀が弾き返した。

「出力が不安定ですね……まだ自分の力を扱い切れていないのでは?」

「ッ、私もそのくらい分かっていますッ!」

 ぶつかり合う薙刀と大刃。しかし、押しているのは明らかにステラだ。傾いていく均衡の果て、また弥胡の体を刃が切り裂いた。

「『魏隴郭ぎろうかく、護りし御陵ごりょう』」

 後ろに跳び退きながら手印を結ぶ弥胡、ステラはそれを追いかけるように飛び掛かる。

「『天蒙居てんもうい』」

 弥胡を中心に黄金色の輝きを放つ結界が展開され、ステラの刃を受け止める。

「それは……陰陽道ですか」

「『彌到御殺みとうみさつ』」

 ステラの問いに答えることなく、弥胡は札を懐から放り投げた。宙を舞う札が焼き焦げながら霊力の波動を光線のように放つ。

「『形態変化フォームチェンジ大盾ギガシールド』」

 銀の刃と化していた腕が変化し、ステラの身を覆い隠す程の盾となる。その盾は迫っていた霊力の波動を受け止め、表面をガリガリと削られる。

「『彩る錦、五行の空』」

 盾を通常の腕に戻したステラは、詠唱する弥胡に即座に手の平を向けた。

「『銀粒砲アルゲントゥム』」

 詠唱中の弥胡に、銀色に煌めく金属粒子の奔流が放たれた。
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