異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

文字の大きさ
上 下
161 / 328

成仏

しおりを挟む
 地面に倒れたメイアの体がゆっくりと接合され、そして起き上がる。その周囲で砕け散った骨達が白い炎に浄化されて消えていく。

「……勝った、か」

 舞台の上に残されたのは、メイアと一本の白い骨の刀だけだった。

「待てよ、アレ大丈夫なのか?」

「ん、何がかな?」

 瓢が呑気な顔で尋ね返す。

「あの、がしゃどくろ……消滅してないか?」

「……そうかもね」

 瓢は玉藻の後ろに控える白沢に視線を向けた。

「白沢、どう思う?」

 白沢は、首を振った。

「治せませんし、治す必要も無いでしょう。彼らは、死霊に近い妖でした。それが成仏出来たのですから……無理に呼び戻すこともありません」

 それも、そうだな。

「取り敢えず、だ」

 メイアは呼び戻すべきだな。アレ以上は、流石に無理だろう。

「白沢、メイアを治してやってくれ」

「棄権させるということですね?」

 白沢の問いに俺が頷くと、白沢は直ぐに舞台に飛んだ。

「……これで、残すところ四体だな」

 玉藻を抜けば三体、か。

「じゃあ、行ってくるぜ」

「あぁ、頑張れ」

 カラスがパタパタと飛び、舞台に向かって行った。

「しかし、この分だと俺が出る必要も無さそうだな」

「そうとは限らんぞ」

 俺の言葉を霧生が否定する。

「まだ、肝心の玉藻前が残っている。儂はその強さを良くは知らぬが……見たところ、尋常の強さでは無いぞ」

「アンタじゃ勝てないのか?」

 霧生は深く息を吐いた。

「あんなことがあった手前……好き勝手に本気を出す訳にはいかんからな」

「……なるほどな」

 天照の力は封印して戦うつもりか。まぁ、その方が良いかもしれない。

「少し、ほんの少しなら使うかも知れんが……あの時ほどの死闘を繰り広げるつもりは無い」

「そうだな。それが良い」

 老い先少ないその身の未来を少し引き延ばしてやったんだ。折角ならば、長く生きれば良いだろう。その方が、御日も喜ぶ筈だ。

「主様」

 近付いて来た気配に視線を向けると、メイアが立っていた。

「如何でしたか?」

 にこりと微笑みを湛えたメイア。

「あぁ、良かったぞ。メイアらしい戦い方だった」

「ふふ、それは誉め言葉と受け取っても?」

 俺は頷いた。人を褒めるのは得意じゃないが、喜んでそうな顔をしているので良いだろう。

「では……褒美として血を頂いても?」

「あぁ、後でな」

 メイアには定期的に血を飲ませているが、こうして特別に血を飲ませることもある。まぁ、人というか妖怪の多いここで血を吸わせはしないが。

「ところで、このようなことになったのですが……」

 メイアが腕を掲げると、その手の平から白い骨の刀が伸び、メイアの手に握られる。恐らく、がしゃどくろの消滅後、舞台の上に残されていたものだろう。

「使え、という意思を強く感じます」

「まぁ、そんな感じはするが……使いたいなら使えば良いんじゃないか?」

 呪いの刀って雰囲気だが、実際のところ悪い呪いではないように見える。使っても問題は無いだろう。

「何というか、最後に遺された物なので使いたい気持ちはあるのですが……」

 メイアは難しい顔で刀を見る。

「刀は扱えないか?」

「いえ、扱い方は握っただけで伝わって来るんです。ただ……」

 メイアがずぶりと刀を体内に納めた。

「使う理由が、無いんです」

「……そっちか」

 そもそもの性能的な話か。

「それ、見せてくれ」

「はい」

 メイアの腕から現れた骨の刀を受け取り、じっくりと観察する。

「……なるほどな」

 恐らく、この刀を握っている間はあの骸骨の剣術を扱えるんだろう。それプラス、この刀に籠められた霊力を使えると言ったところだろうか。

「分かった。少し弄っておく」

 俺の専門分野では無いが、少しくらいなら出来るだろう。

「ありがとうございます、主様」

 にっこりと微笑んで頭を下げるメイア。俺は刀を虚空に放り込み、舞台に視線を向けた。

「既に役者は揃ってるな」

 片方は当然、カラスだ。

「次の相手は……アイツか」

 目元を髪で隠した子供だ。腕がやけに長く、その口元はにやけている。

「あはは、こんにちは!」

「よぉ、誰だ?」

 無邪気に挨拶する子供に、カラスは気さくに片羽を上げる。

「僕は……うーん、決まった名前は無いんだ」

「あー、そうか。オレはカラスだ」

 俺は瓢の方を向く。

「誰だ、アレは?」

「あの子は……隠し神だね」

 何だそれ、誰なんだ一体。

「簡単に言えば、そうだね……人を攫う妖怪さ」

「何の為に攫うんだ?」

 俺が尋ねると、瓢は首を振った。

「さぁね。僕はあんまり彼のことは知らないから……ただ、聞いた話だと子供を攫ってるらしいね」

「悪い奴なのか?」

 瓢は首を振る。

「さぁ? 知らないとしか言えないよ」

 まぁ、そうか。

「それで、アイツは何が出来るんだ?」

「さぁ、僕も良く知らないんだよね」

 さてはこいつ、全然知らないな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...