異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

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性能試験

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 ゴーレムの胴体を貫くステラの腕。それから一瞬の内にステラは腕を引き抜き、横に飛んだ。直後、ゴーレムの太い腕がステラの居た地面を窪ませる。

「形状は自由、ですか」

 ゴーレムの胸に開いた穴が一瞬で塞がり、何事も無かったかのようにゴーレムはステラの方を見る。

「となれば、核がどこかに……」

 ステラは目を凝らしてゴーレムを観察し、そして眉を顰めた。

「核が無い? いや……全てが核、ですか」

 飛び退くステラ。そこをゴーレムの腕が通り過ぎ、空気を薙いだ。

「有り合わせの素材だけでこのレベルのゴーレムを作れるとは、流石マスターです」

「あぁ、腕の良い魔術士から習った」

 いや、アイツはどっちかと言えば錬金術師か。アイツならもっと上等なゴーレムを同時に五体は作ってるだろうな。

「小さい石の核は攻撃に合わせて素早く体内を移動する……タネが割れれば、対処は難しく無いですね」

 ゴーレムが手を地面に叩き付けると、地面が隆起してステラに襲い掛かる。

「終わらせます」

 自分の足元が隆起する寸前、ステラは真上に高く跳躍し、その手を地上のゴーレムに向けた。

「『銀粒砲アルゲントゥム』」

 手の平からに魔力が集まり、銀色に煌めく粒子が生まれ、束のように放たれる。

「ッ!」

 発射と同時に跳躍するゴーレム。ビームのように放たれたそれはゴーレムに当たることは無く、背後にあった木々を貫き、薙ぎ倒していく。
 その様子を見下ろしながら、ゴーレムは背の高い異界の木々を超えて天高く舞い上がる。

「見た目からは想像出来ない動きですね……」

 ステラは自分より上に飛び上がっていったゴーレムを見上げ、手を伸ばした。

「『銀粒砲アルゲントゥム』」

 再び放たれた砲撃。魔力に満ちた金属の粒子の集まりは、空中で逃げ場の無いゴーレムを狙うが……直撃するよりも先にゴーレムの胴体に穴が開き、ビームに合わせて穴が動くことでビームは完全に回避された。

「即効性の無い攻撃は無意味なようですね」

 木の上に乗ったゴーレムはステラを見下ろすと、腕を振り上げて木の上から飛び降りる。

「今度こそ、終わりにします」

 飛び降りたゴーレムの真下から動くことなく、ステラは片腕を横に真っ直ぐ伸ばした。

「『形態変化フォームチェンジ大刃ギガブレイド』」

 その腕が二メートル程もある銀色の刃に変化していく。明らかにアンバランスな武装だが、ステラは体勢を崩す様子も無くゴーレムを見上げ……

「戦闘、終了です」

 振り下ろされたゴーレムの腕をすり抜け、銀色に輝く巨大な刃を振り上げた。

「対象の沈黙を確認。性能試験を終了します」

 ゴーレムの体が真っ二つに分かれ、刃に纏われた魔力がゴーレムの切断面を浸蝕し、再生を阻害して崩壊させた。ただの土に戻ったゴーレムは再び地面に還っていく。

「……思ったんだが」

 ステラが腕を元に戻し、こちらを見た。

「その、沈黙がどうとかって言う意味あるのか?」

 見た目的には似合う台詞だが、態々言う必要性は感じない。

「カッコいい以上の理由はありませんが?」

「……そうか」

 凛とした顔で言うステラ。こいつ、意外とこういうところあるよな。

「しかし、一度本気を試しておきたいという気持ちもありますが」

「あぁ、そうだな」

 確かに、フルパワーを一度も出さずに実戦に赴くのは不安かも知れない。

「……丁度良いな。全員呼ぶか」

 カラスもメイアも呼ぼう。魔素の増加と魔術の定着によって容量に空きが出来ている筈だ。新しく魔術を植え付けられるだろう。

「全員集まって調整を済ませたら、実力を試し合えば良い」

「良い考えですね。お互いの性能を深く理解出来る良い機会です」

 俺は頷き、使い魔達に声をかけた。



 ♢



 異界の森の中、俺達は認識を阻害する結界の中で集合していた。

「カラスもメイアも、二つは増やせるが……どうする?」

 カラスは本来三つ分の容量が空いていたが、人化の魔術を与えたので二つ分となった。

「オレはタネがバレたら割と終わりだからな……二つあるなら、一つは逃亡か生存に特化した能力が良いな。もう一つは攻撃能力だな。今のところ、オレの持つ手札じゃ決め手に欠ける」

「あぁ、分かった」

 生存と逃亡、それに決め手になり得る攻撃能力か。まぁ、行けるだろう。

「メイアはどうする?」

「私は……単純に身体能力をもう少し上げる手段が欲しいですね」

 身体能力か。それくらいなら幾らでもあるな。

「先ずはカラスから弄るか」

 俺はこちらを見上げるカラスの頭に手を乗せた。
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