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今と昔、妖と人。
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起きてしまったらしい御日は、瓢を見て当然の疑問を口にした。
「やぁ、僕はぬらりひょん。瓢って呼んでおくれよ」
「……うん」
御日はただ頷き、そのまま霧生の方に視線を移した。
「妖怪?」
「そうだ。儂の古い知り合いだ」
「あれ、友のようなものですら無くなっちゃった?」
にこにこと話す瓢に胡散臭さを感じ取ったのか、御日は俺の背後に身を移した。
「あぁ、それで……何だ? 九尾の狐だったか?」
「そうとも。あの伝説の大妖怪、玉藻前が蘇ったのさ。これは中々大事だと思ってね、急いで義鷹にも伝えに来たんだ」
九尾の狐、流石に俺も聞いたことくらいはある。が、詳細は全く知らない。
「それで言うなら、アンタも大妖怪じゃないのか? 百鬼夜行のリーダーとかどうとか聞いたことがあるが」
「あはは……百鬼夜行を率いてたのは本当だけど、別に僕は大妖怪じゃないさ。ただ、人の家に上がり込んでお茶を飲むだけのしがない妖怪だからね」
瓢はひらひらと手を振ってそう答えた。
「刀の人……何の話?」
御日が問いかけて来たので、俺は瓢に視線を向けた。
「九尾の狐、玉藻前が蘇ったのさ。彼女について簡単に言えば……まぁ、凄く強くて、力のある妖怪だね」
瓢の説明に、御日は無表情のままこくこくと頷いた。
「話して良かったのか?」
「良いさ。義鷹の孫みたいだからね」
それも、見れば分かるのか。自分では謙遜しているようだが、やはりただの妖怪では無いだろうな。俺の力を見抜いたと言うのもある。
「瓢。お前はただ伝えに来ただけか? それとも……」
霧生の言葉を遮るように瓢は首を振った。
「助力を求めて来たのさ。僕は、彼女を止めたいと思ってるから」
「……止める、か」
厄介そうな言葉に、霧生は深い息を吐いた。
「彼女はね、どうやら自由に生きたいらしいのさ。今まで通りの気楽な生き方が出来ないようなこの世の中に、縛られたくはないらしくてね」
「……つまり、どういう話だ?」
瓢は笑みを消し去って、言った。
「彼女は、今の社会を壊そうとしてる」
なるほど、中々なことを言ってるな。
「今の堅苦しくて息苦しい世の中が、彼女には気に入らないらしいね。まぁ、それに関しては僕も同意なんだけどさ」
堅苦しくて、息苦しい、か
「それに、今の時代……妖怪は魔物と同じ、存在自体が社会に受け入れられないのさ」
「……逆に、昔は受け入れられてたのか?」
俺の問いに、瓢は笑顔で答えた。
「そこそこさ。ただ、昔は良い妖怪だとか悪い妖怪だとかの分別があった。一部じゃ精霊扱いされてるような子も居たし、人間に敵対しない限りは受け入れられてたよ。勿論、妖怪にも人権があったなんてことは言わないけどね。ただ、良き隣人くらいの関係は築けてたんじゃないかな」
確かに、その時代と比べると息苦しく感じるだろうな。
「玉藻も同じように、自分が妖怪だってことを隠しては居なかった。常日頃から尻尾は出していたし、周囲の認識でも鳥羽上皇の寵姫にして式神みたいなものだったから、咎められることも無かった」
あぁ、人に化けて誑かしてた訳では無いんだな。俺の印象だと、そういう感じの悪女なんだが。
「だけど、今は全く別さ。さっきも言ったけど、妖怪は魔物さ。国民の一人一人には受け入れられても、国自体には受け入れられない。尻尾を出しながら大手を振って歩くなんてことは出来ないね。今の日本は、僕らみたいな法の外側の存在を許容出来ないのさ」
まぁ、そうかも知れないな。良く分からない変な奴が居たら、先ず捕獲されて収容されるところから始まるだろうな。そして、そこから繋がるのは倫理を考慮しない実験や研究かも知れない。
「とは言え、それが社会の変化さ。仕方ないことだって割り切って、僕は人間のフリをして暮らしてる。他の妖怪たちも、山や異界の中でひっそり暮らしてたりするみたいだね」
だけど、と瓢は続けた。
「玉藻は、その生き方を許容出来なかった。彼女らしいと言えばそうなんだけどね、彼女は妖怪であろうと認められる世の中に変えるつもりだ」
「……なるほどな」
確かに、彼女からすれば理不尽な話かも知れない。目覚めたら、自分という存在が排斥される社会になっていたなんて話だ。
「彼女はね、悪い子じゃない。だけど……少し、性格に難がある。一言で言えば、彼女は傲慢だ。全てが自分の思い通りに行くと思ってるし、思い通りに行かなければ無理やり道筋を変えようとする」
「今回も、そうって訳か」
瓢は神妙な顔で頷いた。
「今は皇居に侵入することも難しいし、総理大臣に接触しても大して意味は無い。それに、彼女という存在は絶対に怪しまれるから……彼女お得意の籠絡も使えないだろうからね。力尽くで意思を通して来るんじゃないかな」
「……それで、アンタは何でそこまで色々と知ってるんだ?」
噂ってレベルじゃない量の情報だが。
「そりゃ、本人と直接話してきたからね」
「……そうか」
まさかの事情聴取済みか。まぁ、事件が起きるのは今から何だが。
「それで、具体的に何をしてくるかってのは分かってるのか?」
「他の妖怪にも呼び掛ける、みたいなことは言ってたね」
随分、明け透けに語るんだな。玉藻前。
「……今から事件を起こす奴の言葉なんだろう? 信じて良いのか?」
「良いのさ。言っただろう? 彼女は傲慢だって」
驕ってるってことか。まぁ、嘘じゃないなら良いか。
「それで、最終的にはどのくらいの勢力になるのか、予想は付いてるのか?」
「いや、全く?」
何だこいつ。
「やぁ、僕はぬらりひょん。瓢って呼んでおくれよ」
「……うん」
御日はただ頷き、そのまま霧生の方に視線を移した。
「妖怪?」
「そうだ。儂の古い知り合いだ」
「あれ、友のようなものですら無くなっちゃった?」
にこにこと話す瓢に胡散臭さを感じ取ったのか、御日は俺の背後に身を移した。
「あぁ、それで……何だ? 九尾の狐だったか?」
「そうとも。あの伝説の大妖怪、玉藻前が蘇ったのさ。これは中々大事だと思ってね、急いで義鷹にも伝えに来たんだ」
九尾の狐、流石に俺も聞いたことくらいはある。が、詳細は全く知らない。
「それで言うなら、アンタも大妖怪じゃないのか? 百鬼夜行のリーダーとかどうとか聞いたことがあるが」
「あはは……百鬼夜行を率いてたのは本当だけど、別に僕は大妖怪じゃないさ。ただ、人の家に上がり込んでお茶を飲むだけのしがない妖怪だからね」
瓢はひらひらと手を振ってそう答えた。
「刀の人……何の話?」
御日が問いかけて来たので、俺は瓢に視線を向けた。
「九尾の狐、玉藻前が蘇ったのさ。彼女について簡単に言えば……まぁ、凄く強くて、力のある妖怪だね」
瓢の説明に、御日は無表情のままこくこくと頷いた。
「話して良かったのか?」
「良いさ。義鷹の孫みたいだからね」
それも、見れば分かるのか。自分では謙遜しているようだが、やはりただの妖怪では無いだろうな。俺の力を見抜いたと言うのもある。
「瓢。お前はただ伝えに来ただけか? それとも……」
霧生の言葉を遮るように瓢は首を振った。
「助力を求めて来たのさ。僕は、彼女を止めたいと思ってるから」
「……止める、か」
厄介そうな言葉に、霧生は深い息を吐いた。
「彼女はね、どうやら自由に生きたいらしいのさ。今まで通りの気楽な生き方が出来ないようなこの世の中に、縛られたくはないらしくてね」
「……つまり、どういう話だ?」
瓢は笑みを消し去って、言った。
「彼女は、今の社会を壊そうとしてる」
なるほど、中々なことを言ってるな。
「今の堅苦しくて息苦しい世の中が、彼女には気に入らないらしいね。まぁ、それに関しては僕も同意なんだけどさ」
堅苦しくて、息苦しい、か
「それに、今の時代……妖怪は魔物と同じ、存在自体が社会に受け入れられないのさ」
「……逆に、昔は受け入れられてたのか?」
俺の問いに、瓢は笑顔で答えた。
「そこそこさ。ただ、昔は良い妖怪だとか悪い妖怪だとかの分別があった。一部じゃ精霊扱いされてるような子も居たし、人間に敵対しない限りは受け入れられてたよ。勿論、妖怪にも人権があったなんてことは言わないけどね。ただ、良き隣人くらいの関係は築けてたんじゃないかな」
確かに、その時代と比べると息苦しく感じるだろうな。
「玉藻も同じように、自分が妖怪だってことを隠しては居なかった。常日頃から尻尾は出していたし、周囲の認識でも鳥羽上皇の寵姫にして式神みたいなものだったから、咎められることも無かった」
あぁ、人に化けて誑かしてた訳では無いんだな。俺の印象だと、そういう感じの悪女なんだが。
「だけど、今は全く別さ。さっきも言ったけど、妖怪は魔物さ。国民の一人一人には受け入れられても、国自体には受け入れられない。尻尾を出しながら大手を振って歩くなんてことは出来ないね。今の日本は、僕らみたいな法の外側の存在を許容出来ないのさ」
まぁ、そうかも知れないな。良く分からない変な奴が居たら、先ず捕獲されて収容されるところから始まるだろうな。そして、そこから繋がるのは倫理を考慮しない実験や研究かも知れない。
「とは言え、それが社会の変化さ。仕方ないことだって割り切って、僕は人間のフリをして暮らしてる。他の妖怪たちも、山や異界の中でひっそり暮らしてたりするみたいだね」
だけど、と瓢は続けた。
「玉藻は、その生き方を許容出来なかった。彼女らしいと言えばそうなんだけどね、彼女は妖怪であろうと認められる世の中に変えるつもりだ」
「……なるほどな」
確かに、彼女からすれば理不尽な話かも知れない。目覚めたら、自分という存在が排斥される社会になっていたなんて話だ。
「彼女はね、悪い子じゃない。だけど……少し、性格に難がある。一言で言えば、彼女は傲慢だ。全てが自分の思い通りに行くと思ってるし、思い通りに行かなければ無理やり道筋を変えようとする」
「今回も、そうって訳か」
瓢は神妙な顔で頷いた。
「今は皇居に侵入することも難しいし、総理大臣に接触しても大して意味は無い。それに、彼女という存在は絶対に怪しまれるから……彼女お得意の籠絡も使えないだろうからね。力尽くで意思を通して来るんじゃないかな」
「……それで、アンタは何でそこまで色々と知ってるんだ?」
噂ってレベルじゃない量の情報だが。
「そりゃ、本人と直接話してきたからね」
「……そうか」
まさかの事情聴取済みか。まぁ、事件が起きるのは今から何だが。
「それで、具体的に何をしてくるかってのは分かってるのか?」
「他の妖怪にも呼び掛ける、みたいなことは言ってたね」
随分、明け透けに語るんだな。玉藻前。
「……今から事件を起こす奴の言葉なんだろう? 信じて良いのか?」
「良いのさ。言っただろう? 彼女は傲慢だって」
驕ってるってことか。まぁ、嘘じゃないなら良いか。
「それで、最終的にはどのくらいの勢力になるのか、予想は付いてるのか?」
「いや、全く?」
何だこいつ。
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