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聖剣
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聖剣を右手に、そしてバルバリウスを左手に呼び戻し、俺は少し先に居るソロモンを見た。
「……もう、アンタを起こすことは無いと思ってたんだがな」
『そうだね、僕もそう思ってたよ。諸悪の根源たる邪神を滅ぼしたって言うのに、まだ聖剣が必要になるなんてね。どうやら、どこの世界も邪悪で満ちてるらしい』
俺が話しかけている相手は、ウィル。聖剣に宿る初代勇者の魂そのものだ。彼は魔王を倒した後、女神に創らせた剣に入り込み、その力の全てを聖剣に宿しながら、世界が救われるその日まで各代の勇者に力を貸してきたのだ。
俺が邪神を殺したことで、漸くその役目から解き放ってやることが出来たと思ったんだが……また、眠りを覚ますことになるとはな。
「本当に、悪い。約束したってのにな」
『全然構わないよ。寧ろ、僕はまた君と戦えて嬉しいくらいさ』
こいつは、本当に根っからの善人だな。流石、唯一後から勇者と呼ばれた奴なだけはある。二代目からの勇者は、勇者としてあの世界に呼び出された勇者だが、ウィルは偶然あの世界に転移し、女神の協力の上で魔王を倒した天然モノの勇者だ。
「……アンタと話してると、自分が嫌いになりそうだ」
『あはは、もっと胸を張りなよ。老日勇、文句なしに歴代最強の勇者なんだ』
「聖剣のシステム的に、最新の勇者が一番強いのは当たり前のことだ」
『そういう意味じゃないさ。君は善人で、聖人で、優しいけど……僕たちに無い物を持ってた』
「冷酷さ、とかな」
『あはは、それもそうだけど、一番は自分自身に対する倫理観の無さかな』
褒めてるようで貶してるだろ、こいつ。
「まぁ、話はこれくらいにして……行くぞ、ウィル」
『うん、行こう』
俺は離れた場所で俺を観察……いや、解析しているソロモンの眼前まで転移した。
「ッ!? 馬鹿な、結界を素通りだとッ!?」
「あぁ、魔術だ」
意志の聖剣。それは、名前の通り意志を引き継ぐ力を持つ。その代の勇者が出会った者達から、意志と力を一つだけ継ぐことが出来る。
ある者は、その本人しか使えない筈の固有魔術を。ある者は、もう使うことのない膨大な魔力を。ある者は、底なしの闘気を。皆、俺に預けてくれた。
「知り合いの魔術だ。良い出来だろう?」
当然、先代の勇者達が人々から受け継いできた力を俺が使うことは出来ないが、勇者達本人の力は連綿と受け継がれている。故に、最新の勇者が理論上は最も強いという訳だ。
「何だ、何だ……その、力は……ッ!」
ソロモンは俺から滲み出る銀のオーラを見て叫んだ。魔力、闘気、霊力、呪力、神力、あらゆるものが混ざり合った力だ。
「俺一人の力じゃないからな。強いのは、当たり前だ」
「……だ、が……だが、一人の力で無いのは我も同じだ……天の力よッ、我に従えッッ!!」
ソロモンは翠緑の剣を掲げ、白い光を放った。
「『裁きを下す天の剣』」
振り下ろされる剣を弾くように、聖剣を振るった。衝突の瞬間、悲鳴のような音が鳴り響いた。
「……ば、かな」
翠緑の輝きと共にソロモンの剣は粉々に砕け散り、聖剣は勝ち誇るように光を放つ。
「悪いな」
俺は一言告げて、呆然とするソロモンの前で聖剣を振り上げた。
「止まれ、人間ッ!」
「止まるのはアンタだ」
俺を囲む三体のルキフグス。チャクラムを振り回す彼らの姿が空中で制止し、像のように固まった。今、アイツの時間の流れは止まっている状態だ。
「止まったままで悪いが……」
バルバリウスがルキフグスの魂を刈り取り、赤い宝石の中に蓄えた。
「『神雷槍』ッ!!」
背後から雷の槍が投擲され、雷速で迫り……消滅した。
「ッ!? 我が槍を……ヤグルシュをどこへやったッ!!」
「没収だ」
悲痛の叫びを上げるバエルの目の前まで転移し、バルバリウスで斬り上げる。
「アンタの魂ごとな」
「がぁああああああッッ!!?」
バエルの体が消滅し、魂は宝石の中へと吸い込まれていく。下に転がった棍棒も回収だ。
「まぁ、丁度良いし周りからやるか」
『これで良いかな?』
ウィルの言葉と同時に、バラム、プルソン、ベレトの全身を黄金色に光る鎖が拘束する。
「あぁ、助かる」
俺はバルバリウスを振り上げ、バラムの前に転移した。
「ぐぉぉッ、や、やめ――――」
次は、プルソン。
「な、ななな――――」
そして、ベレトだ。
「た、助けてにゃ――――」
赤い宝石が歓喜するように輝き、三体の悪魔を吸収する。残すところは……
「アンタだけだな」
俺はソロモンに振り向き、バルバリウスを向けた。
「……何なのだ……何なのだ、貴様はッ!! 老日勇ッ!!」
嘆きか、怒りか、その両方か。悲痛な叫びを上げ、ソロモンは両手を俺に向けた。
「死ねッ、ここで……死ねッ!!」
展開される無数の魔法陣。経った一瞬で千を超える魔法陣が開き、その全てから竜すら殺せるような魔術が放たれる。
「数で攻めても無意味だ」
しかし、無慈悲にもその魔術達は俺に触れるよりも早く、球状に俺を囲む銀の障壁に触れて消えていく。
「ならばッ、これでどうだッ!!」
ソロモンが手を掲げ、振り下ろした。
「『滅魔の天裁』」
頭上に半径数キロにも及ぶ巨大な魔法陣が開き、そこから眩い白光が轟いた。
「冷静じゃないな」
銀の障壁が光を防いだ。この魔術は飽くまでも魔に対する特効を持つ攻撃だろう。俺の障壁は単なる魔術では無いし、俺自身も魔に類するものじゃない。つまり、大して意味は無い。
「終わりだ、ソロモン」
「……こう、なればッ!」
魔術を行使するソロモン。しかし、何も発動することは無い。
「転移も……転移も出来んだとッ!?」
「あぁ、この空間は既に俺が掌握してる」
そして、この空間内での転移は禁じている。俺を除いて、ではあるが。
「有り得ん……有り得んぞ……馬鹿な……」
「悪魔は兎も角……人の魂は、良いか」
俺はバルバリウスではなく聖剣を構えた。
「……最後に、答えてくれ」
最早諦めたように動きすらしないソロモン。俺は振り上げていた聖剣をゆっくりと下ろした。
「老日勇、貴様は……一体、何なのだ」
最早、慣れ親しんだこの問いに、俺は少し悩んだ。
「いつもなら……ただのハンターだとか言うところなんだが」
聖剣を抜いた以上は、そう答える訳にもいかないだろう。
「そうだな、俺は……」
聖剣を再度振り上げ、ソロモンを見下ろした。
「――――元勇者だ」
振り下ろされた聖剣は、ソロモンの肉体と魂を完全に消滅させた。
「……もう、アンタを起こすことは無いと思ってたんだがな」
『そうだね、僕もそう思ってたよ。諸悪の根源たる邪神を滅ぼしたって言うのに、まだ聖剣が必要になるなんてね。どうやら、どこの世界も邪悪で満ちてるらしい』
俺が話しかけている相手は、ウィル。聖剣に宿る初代勇者の魂そのものだ。彼は魔王を倒した後、女神に創らせた剣に入り込み、その力の全てを聖剣に宿しながら、世界が救われるその日まで各代の勇者に力を貸してきたのだ。
俺が邪神を殺したことで、漸くその役目から解き放ってやることが出来たと思ったんだが……また、眠りを覚ますことになるとはな。
「本当に、悪い。約束したってのにな」
『全然構わないよ。寧ろ、僕はまた君と戦えて嬉しいくらいさ』
こいつは、本当に根っからの善人だな。流石、唯一後から勇者と呼ばれた奴なだけはある。二代目からの勇者は、勇者としてあの世界に呼び出された勇者だが、ウィルは偶然あの世界に転移し、女神の協力の上で魔王を倒した天然モノの勇者だ。
「……アンタと話してると、自分が嫌いになりそうだ」
『あはは、もっと胸を張りなよ。老日勇、文句なしに歴代最強の勇者なんだ』
「聖剣のシステム的に、最新の勇者が一番強いのは当たり前のことだ」
『そういう意味じゃないさ。君は善人で、聖人で、優しいけど……僕たちに無い物を持ってた』
「冷酷さ、とかな」
『あはは、それもそうだけど、一番は自分自身に対する倫理観の無さかな』
褒めてるようで貶してるだろ、こいつ。
「まぁ、話はこれくらいにして……行くぞ、ウィル」
『うん、行こう』
俺は離れた場所で俺を観察……いや、解析しているソロモンの眼前まで転移した。
「ッ!? 馬鹿な、結界を素通りだとッ!?」
「あぁ、魔術だ」
意志の聖剣。それは、名前の通り意志を引き継ぐ力を持つ。その代の勇者が出会った者達から、意志と力を一つだけ継ぐことが出来る。
ある者は、その本人しか使えない筈の固有魔術を。ある者は、もう使うことのない膨大な魔力を。ある者は、底なしの闘気を。皆、俺に預けてくれた。
「知り合いの魔術だ。良い出来だろう?」
当然、先代の勇者達が人々から受け継いできた力を俺が使うことは出来ないが、勇者達本人の力は連綿と受け継がれている。故に、最新の勇者が理論上は最も強いという訳だ。
「何だ、何だ……その、力は……ッ!」
ソロモンは俺から滲み出る銀のオーラを見て叫んだ。魔力、闘気、霊力、呪力、神力、あらゆるものが混ざり合った力だ。
「俺一人の力じゃないからな。強いのは、当たり前だ」
「……だ、が……だが、一人の力で無いのは我も同じだ……天の力よッ、我に従えッッ!!」
ソロモンは翠緑の剣を掲げ、白い光を放った。
「『裁きを下す天の剣』」
振り下ろされる剣を弾くように、聖剣を振るった。衝突の瞬間、悲鳴のような音が鳴り響いた。
「……ば、かな」
翠緑の輝きと共にソロモンの剣は粉々に砕け散り、聖剣は勝ち誇るように光を放つ。
「悪いな」
俺は一言告げて、呆然とするソロモンの前で聖剣を振り上げた。
「止まれ、人間ッ!」
「止まるのはアンタだ」
俺を囲む三体のルキフグス。チャクラムを振り回す彼らの姿が空中で制止し、像のように固まった。今、アイツの時間の流れは止まっている状態だ。
「止まったままで悪いが……」
バルバリウスがルキフグスの魂を刈り取り、赤い宝石の中に蓄えた。
「『神雷槍』ッ!!」
背後から雷の槍が投擲され、雷速で迫り……消滅した。
「ッ!? 我が槍を……ヤグルシュをどこへやったッ!!」
「没収だ」
悲痛の叫びを上げるバエルの目の前まで転移し、バルバリウスで斬り上げる。
「アンタの魂ごとな」
「がぁああああああッッ!!?」
バエルの体が消滅し、魂は宝石の中へと吸い込まれていく。下に転がった棍棒も回収だ。
「まぁ、丁度良いし周りからやるか」
『これで良いかな?』
ウィルの言葉と同時に、バラム、プルソン、ベレトの全身を黄金色に光る鎖が拘束する。
「あぁ、助かる」
俺はバルバリウスを振り上げ、バラムの前に転移した。
「ぐぉぉッ、や、やめ――――」
次は、プルソン。
「な、ななな――――」
そして、ベレトだ。
「た、助けてにゃ――――」
赤い宝石が歓喜するように輝き、三体の悪魔を吸収する。残すところは……
「アンタだけだな」
俺はソロモンに振り向き、バルバリウスを向けた。
「……何なのだ……何なのだ、貴様はッ!! 老日勇ッ!!」
嘆きか、怒りか、その両方か。悲痛な叫びを上げ、ソロモンは両手を俺に向けた。
「死ねッ、ここで……死ねッ!!」
展開される無数の魔法陣。経った一瞬で千を超える魔法陣が開き、その全てから竜すら殺せるような魔術が放たれる。
「数で攻めても無意味だ」
しかし、無慈悲にもその魔術達は俺に触れるよりも早く、球状に俺を囲む銀の障壁に触れて消えていく。
「ならばッ、これでどうだッ!!」
ソロモンが手を掲げ、振り下ろした。
「『滅魔の天裁』」
頭上に半径数キロにも及ぶ巨大な魔法陣が開き、そこから眩い白光が轟いた。
「冷静じゃないな」
銀の障壁が光を防いだ。この魔術は飽くまでも魔に対する特効を持つ攻撃だろう。俺の障壁は単なる魔術では無いし、俺自身も魔に類するものじゃない。つまり、大して意味は無い。
「終わりだ、ソロモン」
「……こう、なればッ!」
魔術を行使するソロモン。しかし、何も発動することは無い。
「転移も……転移も出来んだとッ!?」
「あぁ、この空間は既に俺が掌握してる」
そして、この空間内での転移は禁じている。俺を除いて、ではあるが。
「有り得ん……有り得んぞ……馬鹿な……」
「悪魔は兎も角……人の魂は、良いか」
俺はバルバリウスではなく聖剣を構えた。
「……最後に、答えてくれ」
最早諦めたように動きすらしないソロモン。俺は振り上げていた聖剣をゆっくりと下ろした。
「老日勇、貴様は……一体、何なのだ」
最早、慣れ親しんだこの問いに、俺は少し悩んだ。
「いつもなら……ただのハンターだとか言うところなんだが」
聖剣を抜いた以上は、そう答える訳にもいかないだろう。
「そうだな、俺は……」
聖剣を再度振り上げ、ソロモンを見下ろした。
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