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悪魔の王
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漆黒の空間の中、ソロモンの背後に六つの魔法陣が開き、そこから六体の悪魔が現れる。
「紹介してやろう。左からバラム、アスモデウス、プルソン、ベレト、パイモン、バエルだ」
熊に跨り牡牛と牡羊の角を生やした、燃えるように真っ赤な両目を持つ悪魔。
地獄の竜に跨り、軍旗と槍を持つ羊と人と牛の頭を持つ悪魔。
トランペットを持ち、獅子の頭をした男の悪魔。
猫の頭を持ち、背から白い羽を生やした悪魔。
ラクダに跨り、王冠を被っている女の顔の悪魔。
王冠を被った褐色の肌の男の悪魔。
「……なるほどな」
これだけの悪魔を使役していれば、世界を征服出来ると思ってしまうのも分からなくはない。六体の王の悪魔は、一人残らず強力だ。そして、それよりも強いルキフグスとソロモン……これは、中々だな。
「殺せ、悪魔共よ」
竜の咆哮とトランペットの音色が混じり合い、漆黒の空間に響いた。
♢
漆黒の空間の中、俺は圧倒的な人数不利を背負いながら戦っていた。
「八対一、か」
改めて声に出すと絶望的な差だ。しかも、全員が最低でも王級の悪魔の強さを持っている。幸い……と言うべきか分からないが、アスモデウスとルキフグス以外はソロモンの傍に固まり、護衛をしながらの遠距離攻撃に努めている。魔術的な支援はあるが、実際に斬り合うのは二体のみということだ。
「ッ」
全方位から迫る鷹の群れ。濃い魔力を纏うそれらは付与された貫通の魔術によって俺の障壁を破ろうと突撃してくる。
「バラムの鷹……貫通の魔術はソロモンか?」
俺は剣を振るい、全方位に向けて無数の斬撃を放つ。が、全ての斬撃に被さるように障壁が発生し、鷹を守った。
「ソロモン……魔術の腕は確かだな」
音速より速く飛来する斬撃の全てに障壁を合わせるのは、中々戦い慣れていないと難しい筈だ。
「『転がる銭に貴賤は――――ッ』」
鳴り響くプルソンのトランペットの音色。詠唱を消されたな。
「……魔術は無理か」
遂に到達する鷹の群れ。それらは俺の障壁に爪を突き立て、ガリガリと音を立てながら削っていく。
「ぬぅんッ!!」
「アスモデウスか」
竜の背に乗った三つの面を持つ悪魔。突き出された槍は背理の城塞の回生障壁を超え、検知障壁を超え、停留障壁まで突き破った。
「この壁は中々に硬いようだな……!」
検知障壁で集積した情報を基に適応障壁は最低限の魔力だけで槍を受け止めている。これを破られれば、残す障壁は一枚となる。
「俺を忘れたか?」
「ッ、ルキフグスか」
アスモデウスの槍を弾こうとした俺の剣をチャクラムが受け止める。
「最初よりも力が強いな」
「八対一だ。強化には事欠かん」
ソロモンや他の悪魔からバフを受けているのか、力が拮抗している。鍔迫り合いの状態から動かすのも難しいな。
「不味いな」
俺の障壁の性質が少しずつ解析されているのか、鷹も次々に停留障壁を突破し、適応障壁まで迫っている。この分だと、魔力の消費の方が早くなるな。
「悪いが、人間……我とて命令に逆らうことは出来んのだ」
俺に死が近付いて来ていることを察したのか、槍を突き立てているアスモデウスがそう言った。こいつはどうやら悪徳に染まった悪魔ではないらしい。
「仕方ない」
この空間で使うのは少しだけ不安だが、これ以上は渋っても死ぬだけだ。
「――――戦闘術式、肆式」
瞬間、身体中に激痛や不快感が走り、精神を乱す衝動が幾つも溢れると共に、俺の体から莫大な魔力が溢れた。
「ッ、これは……!」
呼吸のようなペースでドクドクと放たれる魔力の波。それだけで俺の周囲に居た鷹は死滅し、アスモデウスは戦慄の表情を浮かべ、ルキフグスと共に下がった。
「これが、お前の本気という訳か?」
「まぁ、大体そうだ」
ルキフグスの問いに応え、俺は深呼吸をする。戦闘術式には幾つかのモードのようなものがある。その中でも、肆式は最大の出力と性能を誇る代わりに代償も多い。
その内の一つは、苦痛だ。身体中に刻まれた呪印や禁術、後は単純に肉体に掛かる負荷が限界を超過することによるダメージ、これらによって尋常じゃない苦痛が俺の身を襲うことになる。単なる痛みや苦しさだけでなく、破壊衝動や殺人衝動なんかの精神を乱すようなものもあるせいで、味方にまでリスクが掛かる。
「凄まじい魔力であるな……」
感嘆するアスモデウス。だが、それはこの肆式が抱える欠点の一つでもある。
「ふぅ……慣れてきたな」
肆式が通常の戦闘術式と違うのは、主に魔力炉の存在だ。俺の体に植え付けられた七つの魔力炉全てを起動することで体内のみで完結した魔力の生成が可能になり、周囲の魔力の吸引など他の機能とも合わせると最大で通常時の百倍を超える魔力を操ることが可能になる。
「……どうする、ソロモン」
「まだ余裕はある、が……不味くなればアレを使え、ルキフグス」
だが、その莫大な魔力の生成はロスも大きく、余剰分は外に吐き出される。体から漏れ出る魔力とかではなく、もう完全に魔力が噴き出してるって感じだ。お陰で、遠くからでも一瞬で存在がバレる上に、相手が手練れならば俺の状態を魔力の波だけで特定される。そして、この状態はどう足掻いても痕跡が残る。こういう、特殊な領域の中に居る場合を除いてだが。
「そういえば、武器や防具には気を使って無かったな」
俺は指を一つ鳴らし、私用空間に接続した。
「紹介してやろう。左からバラム、アスモデウス、プルソン、ベレト、パイモン、バエルだ」
熊に跨り牡牛と牡羊の角を生やした、燃えるように真っ赤な両目を持つ悪魔。
地獄の竜に跨り、軍旗と槍を持つ羊と人と牛の頭を持つ悪魔。
トランペットを持ち、獅子の頭をした男の悪魔。
猫の頭を持ち、背から白い羽を生やした悪魔。
ラクダに跨り、王冠を被っている女の顔の悪魔。
王冠を被った褐色の肌の男の悪魔。
「……なるほどな」
これだけの悪魔を使役していれば、世界を征服出来ると思ってしまうのも分からなくはない。六体の王の悪魔は、一人残らず強力だ。そして、それよりも強いルキフグスとソロモン……これは、中々だな。
「殺せ、悪魔共よ」
竜の咆哮とトランペットの音色が混じり合い、漆黒の空間に響いた。
♢
漆黒の空間の中、俺は圧倒的な人数不利を背負いながら戦っていた。
「八対一、か」
改めて声に出すと絶望的な差だ。しかも、全員が最低でも王級の悪魔の強さを持っている。幸い……と言うべきか分からないが、アスモデウスとルキフグス以外はソロモンの傍に固まり、護衛をしながらの遠距離攻撃に努めている。魔術的な支援はあるが、実際に斬り合うのは二体のみということだ。
「ッ」
全方位から迫る鷹の群れ。濃い魔力を纏うそれらは付与された貫通の魔術によって俺の障壁を破ろうと突撃してくる。
「バラムの鷹……貫通の魔術はソロモンか?」
俺は剣を振るい、全方位に向けて無数の斬撃を放つ。が、全ての斬撃に被さるように障壁が発生し、鷹を守った。
「ソロモン……魔術の腕は確かだな」
音速より速く飛来する斬撃の全てに障壁を合わせるのは、中々戦い慣れていないと難しい筈だ。
「『転がる銭に貴賤は――――ッ』」
鳴り響くプルソンのトランペットの音色。詠唱を消されたな。
「……魔術は無理か」
遂に到達する鷹の群れ。それらは俺の障壁に爪を突き立て、ガリガリと音を立てながら削っていく。
「ぬぅんッ!!」
「アスモデウスか」
竜の背に乗った三つの面を持つ悪魔。突き出された槍は背理の城塞の回生障壁を超え、検知障壁を超え、停留障壁まで突き破った。
「この壁は中々に硬いようだな……!」
検知障壁で集積した情報を基に適応障壁は最低限の魔力だけで槍を受け止めている。これを破られれば、残す障壁は一枚となる。
「俺を忘れたか?」
「ッ、ルキフグスか」
アスモデウスの槍を弾こうとした俺の剣をチャクラムが受け止める。
「最初よりも力が強いな」
「八対一だ。強化には事欠かん」
ソロモンや他の悪魔からバフを受けているのか、力が拮抗している。鍔迫り合いの状態から動かすのも難しいな。
「不味いな」
俺の障壁の性質が少しずつ解析されているのか、鷹も次々に停留障壁を突破し、適応障壁まで迫っている。この分だと、魔力の消費の方が早くなるな。
「悪いが、人間……我とて命令に逆らうことは出来んのだ」
俺に死が近付いて来ていることを察したのか、槍を突き立てているアスモデウスがそう言った。こいつはどうやら悪徳に染まった悪魔ではないらしい。
「仕方ない」
この空間で使うのは少しだけ不安だが、これ以上は渋っても死ぬだけだ。
「――――戦闘術式、肆式」
瞬間、身体中に激痛や不快感が走り、精神を乱す衝動が幾つも溢れると共に、俺の体から莫大な魔力が溢れた。
「ッ、これは……!」
呼吸のようなペースでドクドクと放たれる魔力の波。それだけで俺の周囲に居た鷹は死滅し、アスモデウスは戦慄の表情を浮かべ、ルキフグスと共に下がった。
「これが、お前の本気という訳か?」
「まぁ、大体そうだ」
ルキフグスの問いに応え、俺は深呼吸をする。戦闘術式には幾つかのモードのようなものがある。その中でも、肆式は最大の出力と性能を誇る代わりに代償も多い。
その内の一つは、苦痛だ。身体中に刻まれた呪印や禁術、後は単純に肉体に掛かる負荷が限界を超過することによるダメージ、これらによって尋常じゃない苦痛が俺の身を襲うことになる。単なる痛みや苦しさだけでなく、破壊衝動や殺人衝動なんかの精神を乱すようなものもあるせいで、味方にまでリスクが掛かる。
「凄まじい魔力であるな……」
感嘆するアスモデウス。だが、それはこの肆式が抱える欠点の一つでもある。
「ふぅ……慣れてきたな」
肆式が通常の戦闘術式と違うのは、主に魔力炉の存在だ。俺の体に植え付けられた七つの魔力炉全てを起動することで体内のみで完結した魔力の生成が可能になり、周囲の魔力の吸引など他の機能とも合わせると最大で通常時の百倍を超える魔力を操ることが可能になる。
「……どうする、ソロモン」
「まだ余裕はある、が……不味くなればアレを使え、ルキフグス」
だが、その莫大な魔力の生成はロスも大きく、余剰分は外に吐き出される。体から漏れ出る魔力とかではなく、もう完全に魔力が噴き出してるって感じだ。お陰で、遠くからでも一瞬で存在がバレる上に、相手が手練れならば俺の状態を魔力の波だけで特定される。そして、この状態はどう足掻いても痕跡が残る。こういう、特殊な領域の中に居る場合を除いてだが。
「そういえば、武器や防具には気を使って無かったな」
俺は指を一つ鳴らし、私用空間に接続した。
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