異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

文字の大きさ
上 下
88 / 328

蘆屋の占い教室

しおりを挟む
 蘆屋と異界の中で落ち合った俺は人払いの結界を張り、早速ソロモンの魔力を伝えることにした。

「手を出せ」

 黙って手を出した蘆屋。その手を握り、完全に記憶した魔力の波長と性質を共有する。

「ん……」

 数秒もすれば共有は完了し、俺は手を離した。

「恐らく、それがソロモンの魔力だ。余り外れたことの無い俺の勘がそう言ってる」

「勘なんかで信じるのはアレだけど……やってみる」

 蘆屋は土の地面に正座し、両手を合わせ、目を瞑った。

「『ふうの老木、なつめの木。人に似て天にあり、神鳴りて地を穿つ。日輪示す天将、天地表す十二の獣。星は知り、門は指す』」

 蘆屋の周囲に風が吹き、ピリピリと空気が痺れるような感触がした。

「『六壬八門侙式占りくじんはちもんちょくしきせん』」

 風が止んだ。蘆屋が、目を開いた。

「……どうしよう」

 その額を冷たい汗が伝っていくのが見えた。

「失敗したか?」

 ふるふると、蘆屋は首を振った。

「あと、三日……」

 蘆屋は強張った笑みを浮かべ、俺の表情を見た。

「三日後から五日後の間に、北陸地方から現れるって……どうする?」

 流石に自分の知ってしまった事実に恐怖を覚えたのか、少し怯えたように尋ねる蘆屋。

「まぁ、何とかなるだろう。取りあえず、陰陽師の連中に報告はしておいてくれ。俺の名前は出来るだけ出さないようにな」

「……信じて貰えるかなぁ」

 不安そうに言う蘆屋。その背後から、一人の男が颯爽と現れた。


「――――話は聞かせて貰ったでござる」


 濃紺色の装束を纏った男。細い目出し穴から見える目がじろりと俺を見た。

「ッ、やばい! 聞かれちゃった……ど、どうする? こいつ、やっちゃう?」

「いや……その必要は無い」

 立ち上がり、札を構える蘆屋の腕を下ろした。

「盗み聞きとは趣味が悪いな。何で居るんだ? 忍者」

「盗み聞きは忍者の嗜みにござる。何故ここに居るかと言えば、素行調査のようなものでござる。誰にも話せぬとはいえ、貴殿程の力を持った男を調べもせずに放置する訳にはいかんでござるからな。無いとは思うでござるが、ソロモン側の可能性もあるでござるから」

 まぁ、一理あるな。

「流石に家の中には入っていないゆえ、安心して欲しいでござる。それに、こうして姿を現したことが何よりの誠意でござるよ。この会話で疑いが晴れたというのもあるでござるが」

「だが、ただ盗み聞きとストーカーの報告をしに来たわけじゃ無いんだろう?」

 俺の言葉に、忍者は頷く。

「さっきの話、国と陰陽寮に共有するのは拙者に任せて欲しいでござる。実力も忠誠心も国には信頼されているでござるゆえ、拙者の言葉なら素直に信じて貰えるでござろう」

「……えと、誰?」

 蘆屋は忍者本人ではなく、俺に尋ねた。

「忍者だ。強いぞ」

「情報量、少ないんだけど」

 と言っても、確定してる情報はそれくらいだからな。

「国直属のエージェントとか、そんな感じだろうな、多分。少なくとも、ソロモン側じゃないことは確かだ」

「ふーん、信頼できるの?」

 俺は顎に手を当て、俯いた。

「え、嘘。出来ないの?」

「微妙なところだな。だが、悪人ではない筈だ」

 俺が嫌悪するようなタイプの人間と対峙すると、ぞわりと嫌な感じがする。勿論、それだけで悪人と決めつけはしないが、その感覚がしたときは大体クソ野郎だ。

「契約は使えるのでござろう? それで拙者の言葉の真偽を確かめれば良いでござるよ」

「そうだな。なら、今からは真実だけを話せ」

 俺が言うと、忍者は目を細めた。

「範囲広すぎでござる。今から、いつまでが決められた話で無いと流石に契約する気になれんでござるよ。仕事柄、嘘を吐く必要だってあるんでござるからな」

「冗談だ。今から、俺達が別れるまでは全て真実を話せ」

「相分かった」

 俺が差し出した手を忍者は掴み、契約は成立した。

「ならば、改めて……拙者、十九代目服部半蔵、名を正忠。こそこそと付け回した詫びはこの名で免じて頂きたい」

「服部半蔵か。結構、有名どころだったんだな」

 サインでも書いてもらった方が良いかもしれない。サインを見せても信じる奴なんて一人も居ないだろうが。

「先ず、最初に……アンタは俺達の敵か?」

「違うと思うでござるよ。潜在的にそうである可能性はあるかも知れないでござるが、少なくとも現時点では敵ではないと思っているでござる。それに、敵対する予定も無いでござるな」

 欲しかった答えが得られた俺は頷いた。

「じゃあ、国に所属しているってのは本当か?」

「本当でござる。他の組織に潜入する為に所属したりもしてるでござるが、拙者が忠誠を誓うのはこの日ノ本のみよ」

「一応聞いておくが、さっきまでの話で俺達に一つでも嘘を吐いたか?」

「多分吐いてないでござる」

 国に忠誠を誓ってるっていうのは本当みたいだな。それに、さっきまでの話で嘘を吐いてないなら国が忍者を信頼しているというのも本当だろう。
 まぁ、実力的に信頼されていなければおかしいとは思うが。

「そうだな。俺はこのくらいで良いと思うが……お前は何かあるか?」

「僕? んー……忍者って分身の術とか使えるの?」

 忍者はニヤリと笑い、手を組んだ。

「「「当然でござる」」」

 三人に増えた忍者が言うと、蘆屋はぱちぱちと手を叩いた。ここは忍者体験教室か何かか?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...