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果実か、それとも。

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 俺は蹲る忍者の首筋に剣を添えた。

「どうする?」

 忍者は頭を上げ、俺を睨んだ。

「どうするもこうするも、もう無理でござるよ。亜空結界封印から自力で出て来るとか、もう本当に意味が分からんでござる。中では魔術も使えない上に、物理的に障壁を破壊することも不可能な筈でござる……意味不明でござるッ!」

「まぁ、世界は広いってことだ。それじゃ、俺の勝ちで良いな?」

 俺は忍者の嘆きを受け流し、剣を退けた。

「良いでござる。まさか、本当に負けるとは思わなかったでござるが……」

「俺もここまで追い込まれるとは思っていなかった」

 結構ショックを受けている様子の忍者だが、もう用は無いだろう。

「これでも、日本国最強クラスの秘匿戦力を自負していたでござるよ。拙者」

 そうか。まぁ、確かに強かった。

「何でも良いが、契約はこれで成立した」

「ござぁッ!」

 鳴き声を上げた忍者に背を向け、俺はその場を去った。





 ♦……side:忍者



 負けたでござる。

 もうほぼ壊れている教会を去っていく男の背。本当にあの男は何だったのか分からんでござる。しっかり魔術の痕跡を残さず帰ったでござるな。クソでござる。

「やらかしたでござる……」

 拙者以上に強い戦力を発見したのに、国に何の報告も出来ないのはヤバ過ぎでござる。いとやばし、と言ったところでござるか。

『服部。そろそろ任務は終わったか?』

 やばい、通信が来てしまったでござる。

『ござぁ』

『……服部?』

 拙者の情けない声を聞いて不安そうにしているでござるな。

『ござぁ!!』

『……おい、どうした服部』

 はぁ、もう嫌になるでござるよ。

『任務は成功した。これより帰還する』

『ござるはどうした?』

『こちら、一切の問題無し。これより帰還する』

『おい、服部? お前、何かおかしいぞ』

『目標、オールクリア。これより帰還する』

『……分かったから、取りあえず帰って来い』

 修行で七日連続死にかけた時くらいのテンションになってるでござるな。良くないでござる。

『了解でござる』

『服部。お前も偶には休めよ』

『そんな余裕、今の日本には無いでござろう』

『……そうだな』

 さて、今日のとこは全部忘れて帰るとするでござるか。





 ♦……side:老日



 今日、俺は焼肉屋に来ていた。理由は、七里に話があると誘われたからだ。

「んー、やっぱ焼肉が最高だよな。寿司よりよ」

「別に、俺はどっちも好きだが」

 そういえば、こっちに帰って来てからまだ寿司食ってないな。急に寿司が食いたくなってきたが、流石にここで言ってもしょうがないな。

「それで、話って何だ?」

 手始めにタン塩を頂きつつ、俺は問いかけた。

「蒼がお前のこと探ってるみたいだぜ?」

「……あぁ」

 アイツか。

「まぁ、俺が調べてみろって言ったからな」

「蒼と何かあったのか?」

「例の事件の時に遭遇して、少し疑いをかけられた。あの時みたいに姿を消していたからな」

「……なるほどな」

 俺が透明化を使えることは知っている筈だ。異常個体の発生時にバレたからな。

「ま、ぶっちゃけ話はそれだけだ。飯食おうぜ」

「……メールで済む話だったな」

 まぁ、良いが。焼肉もいつかは食いたいと思っていたからな。

「ただ、最近色々きな臭いのは事実でよ。そこら辺なんか知ってることねぇか聞きたかったってのもあるぜ」

「ソロモンについては知ってるか?」

「あぁ、ちょっとはな」

「そいつが、もう直ぐ復活する……かも知れない」

 七里は目を細め、肉を掴んでいた箸を空中で止めた。

「マジか?」

「かも、だがな。信頼度は……まぁ、五から六割程度だろうな」

 一応はソロモンの直接の配下だった奴の言葉だからな。少しは信用しても良いだろう。

「五、六割か。結構高ぇじゃねえかよ。やべぇな」

「あぁ、ヤバいぞ」

「つっても、どうしようもねぇしな」

 まぁ、そうだろうな。対処の仕方なんて無い。

「……お前、マジか。焼きパインなんて食うのか? 焼肉屋だぞここは」

 俺が焼きパインを食っていると、七里は白い目で俺を見た。

「意外といけるぞ。食ったことも無いだろ?」

「まぁ、ねえけどな。俺も後で頼むか……つーか、パイナップルは食うのに野菜は食わねえのか?」

 七里の問いに、俺は首を振った。

「焼肉で野菜は食わないと決めてるからな。俺は」

「それに関しちゃ俺もそうなんだが……野菜と果物って似たようなもんじゃねえのか」

「俺は焼きパインを果物として食ってる訳じゃないからな」

 七里は微妙そうな顔をした後、それからハッとしたようにバッグを漁り出した。

「ん、そういえば……この前言ったろ? 今度会った時、直接俺から報酬を渡すってな」

 七里は膨らんだ封筒を俺に渡した。

「無くすなよ?」

「当たり前だ」

 ニヤニヤと笑う七里から封筒を受け取り、鞄に入れた。

「ありがとう」

「良いんだよ。俺は金だけは無駄にあるからな。元々、酒と飯にしか金は使わねえタチだからな」

「ギャンブルとかやらないのか?」

「……良く賭けとか好きそうだって言われるがな、俺は分の悪い賭けはしねえタチなんだよ」

 そうか、意外だな。

「次は……レバーでも頼むか」

 美味いな、焼肉。
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