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教会

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 最後に俺が向かったのは、街の外れにある教会だった。周辺を空き地で囲まれたその場所は周辺一帯に人の影も無く、明らかに怪しかった。

「……何だ?」

 教会に近付くにつれて俺が感じたのは、強烈な血の匂いだ。そして、死者の気配。間違いなく、かなり最近人が殺されている。それに、何人も。

「行くか」

 透明なまま、教会の壁をすり抜けて中に入り込んだ俺は、中の様子を見て眉を顰めた。

「酷い有様だな」

 教会の地面には血まみれの死体が沢山転がっていた。老若男女問わず、皆殺しだ。

「何があったのかは分からんが……」

 地下に幾つか気配がある。取りあえず、行ってみるか。

 地下へと繋がる階段を降り、暗い廊下を歩いて先へと進んだ。

「……どういう状況だ?」

 廊下の先の扉をすり抜けた先には、やけに偉そうな服を纏った男や、ローブに身を包んだ者達が地面に倒れていた。死んだのはついさっきだろう。俺が感じた気配はこいつらだからな。
 そして、気配を極限まで消して部屋に散乱した資料を漁る濃紺色の装束を纏ったまるで忍者のような格好の男が居た。隠形の技術は素晴らしいな。俺でも、一瞬気付かなかった。

「……何奴」

 忍者はこちらを見ると、そう呟いた。どうやら見えているらしい。薄く静かな気配だが、こいつはそれなりに強いな。

「俺はただのハンターだが……アンタこそ、何だ? 忍者か?」

 声を聞こえるにして問いかけると、忍者は頷いた。

「然り」

 ……そうか。忍者か。

「この殺戮はアンタがやったのか?」

「然り」

 頷き、そして忍者は反りの無い短めの直刀……忍刀を俺に向けた。

「拙者の質問にも答えて貰おう」

「……拙者?」

 俺が思わず尋ねると、忍者は頷いた。

「拙者、忍者故」

「そうか」

 まぁ、深くは突っ込まないでおこう。

「良いから、ここに来た理由を話すでござる」

「……ござる、か」

 忍者だからな。しょうがないだろう。

「……この教会の連中がソロモンと関与している疑いがあった。だから、俺は調査に来たんだ」

「どの筋からでござるか?」

「言う訳が無いだろう」

 ふむ、と忍者は顎に手を当てた。

「国直属の依頼では無かろう。そうであれば、拙者と鉢合わせる訳も無い」

 つまり、こいつは国直属の命令で動いてるって訳か。ブラフの可能性もあるが。

「まぁ、何でも良いだろう。兎に角、ここが既に片付いてるなら俺がやることは何もない」

「待つでござる」

 去ろうとしたところを引き留められた。

「流石に、ここまで怪しげな男を放置は出来んでござるよ」

「そう言われてもな。だが、俺が教会側なら透明化してここに来る必要も無い上に、アンタには速攻を仕掛けている筈だ」

 ふむ、と忍者は頷いた。

「一応、国には報告させて貰うでござる。拙者は顔を覚えるのは得意故、貴殿がハンターなら照合は簡単でござるからな」

「……嫌なんだが」

「そう言われても、こっちも仕事でござるゆえ」

 困ったな。流石に、このレベルの魔術を使えることを直接報告されるのは面倒だ。

「契約しないか?」

「……何を」

 俺は忍者に向けて手を差し出した。

「俺が勝てばアンタは俺のことを誰にも話さない。アンタが勝てば俺は自分の素性を話す。ざっくり、そんな感じだ」

「……ふむ」

 忍者は少し俯いて考え、そして顔を上げた。

「勝負の形式はどうするでござる」

「じゃんけんでもコイントスでもくじ引きでも何でも良いが」

 俺が言うと、忍者は眉を顰めた。

「何ゆえ、そう運に絡めた勝負ばかり提示するのでござるか」

「別に、他意は無いが」

 百パーセント勝てる上に、一瞬で終わるからな。

「貴殿も男でござろう? となれば、これで決める他あるまいよ」

 忍者はそう言って忍刀を見せた。

「……まぁ、良いが」

 俺が答えると、忍者はフッと笑った。

「成立にござるな」

 忍者は俺の手を握った。

「しかし、どう契約するつもりでござるか。流石に魔術契約書なんて持っておらんでござる」

「いや、契約の魔術は俺が使える。それで、条件だが……」

 相手が国だからな。俺は細かいところまで条件を詰めることにした。



 ♢



 契約は締結され、俺達はお互いに教会内で距離を取り合った。勝負の条件はお互いを殺さないことと、この教会の敷地から出ないこと。試合終了まではお互い外部と連絡を取り合わないこと。そして、距離を取った状態で始めること。それだけだ。

「さて、時間だな」

 スマホを見て、開始の時間になったことを確認する。

「向こうから来るか?」

 俺は教会に並ぶ椅子の一つに座って時間を待っていた。そして、気配がこちらに近付いて来ていることに気付いた。

「来たか」

 振り向くと、忍者が飛び掛かって来ていた。振り下ろされる忍刀を剣で受け止めようとして……気付いた。

「フェイクか」

 俺は偽物の攻撃を回避しつつ、真上から襲い掛かってきた忍者の忍刀を弾いた。さっきの隠形と比べて気配が分かりやす過ぎると思ったが、そっちはフェイクで本物は気配を消して俺の頭上を取っていた訳だ。

「凄いな。気配をそこまで自然に消せるのか」

「貴殿も相当であろう。気配を完全に消せるなど、達人の域を超えているでござる」

「その上に透明化までしてるって言うのに、最近はバレることも多くてな。困ってる」

「気配を完全に消す以上、ぽっかりと空間に穴が空いているような違和感が生まれてしまうでござるからな。無がある、と言うのが正しいでござろうか」

 忍者と俺の隠形の技術は別物だ。俺のが気配を完全に消し去ってしまうものだとすれば、忍者の隠形は空間に溶け込む技術だ。自身の気配を薄く薄く拡散し、空気に馴染むというやり方だ。

「来い」

 話が終わり、生まれた沈黙。俺は静かにそう告げた。
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