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五柱の公爵
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♦……side:竜殺し
栃木に発生した漆黒の結界。戦場と化したその結界の中心に居るのは、生物のように脈打つ赤黒い鎧を纏った騎士だ。その背からは竜の翼を生やし、両手にはそれぞれ別の剣を持っている。
「ふん、どっちが悪魔か分からんな」
本気を出し、あらゆる秘宝の力を解放した竜殺しを見て、蒼褪めた馬に乗った男。バティンが言った。
「いい加減死ねやァ! 竜殺しィィッ!!」
赤い装束と甲冑を纏い、炎を全身から噴き出させた悪魔。ゼパルが真紅の剣を竜殺しに突き出す。
「見えている」
「ぐォッ」
速度では劣る竜殺しだが、突き出される先に予め置いていた怒りの魔剣でゼパルの剣をギリギリ受け止め、もう片方の剣で悪魔の腹部を貫いた。
「……ッ!」
突然、焦ったようにその場を離れようとする竜殺し。しかし、その逃げ道を塞ぐように蒼褪めた馬を駆る男、バティンが転移で現れる。
「どうした、何が見えた? 随分と焦っているようだな」
バティンがその手を向けると、青白い炎が渦を巻きながら竜殺しに放たれる。それは空気を焦がし、燃やしながらどんどんと広がって竜殺しに迫る。
「ッ、不味い……!」
青白い螺旋状の炎を何とか回避するも、そこには紫のローブを纏った体格の良い男……グシオンが待っていた。
「正に、その通りだ。お前は今、不味い状況にある」
グシオンの拳が竜殺しの横腹に突き刺さり、竜殺しはその場で膝を突きそうになりながらも、何とか反撃でグシオンの腕を斬り落とした。
「未来が見えるおぬしなら分かるだろう。もう、詰んでおるのよ」
剣を振り上げた体勢の竜殺し、その背後から槍の穂先が迫るが、振り返りもしないままもう片方の剣でそれを受け止めた。
「ぐッ!?」
瞬間、竜殺しの首筋に矢が突き刺さった。
「時間を掛けすぎだ。いい加減、さっさと終わらせろ」
それを為した狩人のような悪魔……バルバトスは弓を置き、木にもたれかかる体勢で眼を瞑った。
「動きが鈍いぜェ、竜殺しィッ!!」
もう回復したらしいゼパルの赤い剣が迫り、防御姿勢を取ろうとする竜殺しの剣を強く弾いた。
「隙あり、じゃ」
竜殺しの腹部に突き刺さるのは、鋭い旗の先端。風に揺れる旗が噴き出した血で濡れる。
「ふん、もう碌に動けんか。ならば、終わりだな」
バティンが向けた指先から青白い炎が光線のように放たれ、竜殺しの心臓を貫き、燃やした。
「心臓は燃えたか。後は、頭蓋だな」
グシオンの大きな手が、竜殺しの頭を掴み……そして、ぐちゃりと潰した。
「『――――終わりなき英雄譚』」
瞬間、死体と化していた竜殺しの体が巻き戻るように再生していく。砕け、歪んでいた鎧も元の形へと巻き戻る。
「それはもう知ってんだァッ!」
「再生しながら燃えるが良い」
だが、再生する肉体に刺し込まれたゼパルの炎が竜殺しの肉体を内側から焼き爛れさせ、バティンの指が触れた鎧は一瞬で青白い炎に呑まれて溶ける。
「まだ準備は終わらんのか、グシオン」
「もう直ぐだ。封印で良いんだな? 完全消滅も不可能ではないが」
「要らぬ。ここらの人類を滅ぼせば封印を解くものなど居らんからな」
「そうか。一応、厳重にやっておくぞ」
グシオンがぐちゃぐちゃに溶けている竜殺しに近付き、手を向けた。
♦……side:老日
栃木に発生したという大結界。破壊は難しく、中には大量の悪魔が居るという話だ。寧ろ、破壊しない方が良いだろうな。結界から大量の悪魔が解き放たれることと同義だからだ。
それに、見られる心配の少ない空間の方が俺としても、好都合だ。外から中に入るのはそう難しくないらしい。結界の性質として、外から内と内から外の両方を硬くすると弱いからな。
「行くか」
山の中、ドーム状に形成された漆黒の結界。俺は躊躇なくその内側へと入り込んだ。真っ暗だな、暗視の魔術を使うか。
「……初っ端から、鬱陶しいな」
入った瞬間、大量の蝙蝠や蛇が俺に向かってきた。触れられるよりも早く、全員を切り刻む。恐らく、召喚されたとか生み出されたとかそういう類だろう。
「それに、今回は……今までとは話が違いそうだ」
気配がする。悪魔の強い気配だ。数も多いな。それに、死体も多い。殆どが悪魔かその眷属の死体だが。
「おぉっと、見えんが居るな。救援だろ? 行かせんよぉ! 行かせん――――」
カラスの姿をした悪魔。ラウム、だったか。一応、ソロモン七十二柱は全員暗記している。こいつに関しては二度と蘇らないからな、思い出すことも無いだろうが。
「おぉ、ラウムが瞬殺かね。私はアンドラス。死んでもら――――」
黒いフクロウ頭の全裸の天使という中々に気持ち悪い姿で黒い狼に跨っていたが、死んで貰った。跨られていた黒い狼は靄になって消え去った。
「竜殺しが居ると聞いたんだが……」
その気配が無いな。山を覆うほどの大きさは無いから見つけるのはそう難しくないと思っていたんだが。
「まぁ良い、代わりに悪魔の気配を辿ろう」
そこらの木っ端悪魔とは違う気配だ。こいつらから情報を抜けば何が起きているかも分かるだろう。
「転移で良いか」
俺は公爵級はあると思われる悪魔の傍に転移した。
入れ替わる視界。そこには一本の剣を囲む四体の悪魔と、それを遠くから見ている狩人の悪魔の姿があった。
「ッ、誰だ?」
透明化しているとはいえ、流石に一瞬で気付かれたか。五体の悪魔が全員こちらを見る。
「『姿を現せ』」
紫のローブを纏った体格の良い悪魔、グシオンが呟いた。
「誰だ、貴様?」
「竜殺しを助けに来たのかァ? 残念だったなァ、もう封印されちまったぜェ?」
赤い装束と甲冑の悪魔、ゼパルが笑う。その横を通り過ぎ、一本の矢が俺に迫った。矢を回避し、それを放った悪魔を見る。
「殺せ」
灰色のマントを纏い、緑の帽子を被った狩人の悪魔……バルバトスが言った。
「殺せ。早くしろッ!」
鬼気迫る様子のバルバトスに、他の悪魔が怪訝そうな顔をした。
栃木に発生した漆黒の結界。戦場と化したその結界の中心に居るのは、生物のように脈打つ赤黒い鎧を纏った騎士だ。その背からは竜の翼を生やし、両手にはそれぞれ別の剣を持っている。
「ふん、どっちが悪魔か分からんな」
本気を出し、あらゆる秘宝の力を解放した竜殺しを見て、蒼褪めた馬に乗った男。バティンが言った。
「いい加減死ねやァ! 竜殺しィィッ!!」
赤い装束と甲冑を纏い、炎を全身から噴き出させた悪魔。ゼパルが真紅の剣を竜殺しに突き出す。
「見えている」
「ぐォッ」
速度では劣る竜殺しだが、突き出される先に予め置いていた怒りの魔剣でゼパルの剣をギリギリ受け止め、もう片方の剣で悪魔の腹部を貫いた。
「……ッ!」
突然、焦ったようにその場を離れようとする竜殺し。しかし、その逃げ道を塞ぐように蒼褪めた馬を駆る男、バティンが転移で現れる。
「どうした、何が見えた? 随分と焦っているようだな」
バティンがその手を向けると、青白い炎が渦を巻きながら竜殺しに放たれる。それは空気を焦がし、燃やしながらどんどんと広がって竜殺しに迫る。
「ッ、不味い……!」
青白い螺旋状の炎を何とか回避するも、そこには紫のローブを纏った体格の良い男……グシオンが待っていた。
「正に、その通りだ。お前は今、不味い状況にある」
グシオンの拳が竜殺しの横腹に突き刺さり、竜殺しはその場で膝を突きそうになりながらも、何とか反撃でグシオンの腕を斬り落とした。
「未来が見えるおぬしなら分かるだろう。もう、詰んでおるのよ」
剣を振り上げた体勢の竜殺し、その背後から槍の穂先が迫るが、振り返りもしないままもう片方の剣でそれを受け止めた。
「ぐッ!?」
瞬間、竜殺しの首筋に矢が突き刺さった。
「時間を掛けすぎだ。いい加減、さっさと終わらせろ」
それを為した狩人のような悪魔……バルバトスは弓を置き、木にもたれかかる体勢で眼を瞑った。
「動きが鈍いぜェ、竜殺しィッ!!」
もう回復したらしいゼパルの赤い剣が迫り、防御姿勢を取ろうとする竜殺しの剣を強く弾いた。
「隙あり、じゃ」
竜殺しの腹部に突き刺さるのは、鋭い旗の先端。風に揺れる旗が噴き出した血で濡れる。
「ふん、もう碌に動けんか。ならば、終わりだな」
バティンが向けた指先から青白い炎が光線のように放たれ、竜殺しの心臓を貫き、燃やした。
「心臓は燃えたか。後は、頭蓋だな」
グシオンの大きな手が、竜殺しの頭を掴み……そして、ぐちゃりと潰した。
「『――――終わりなき英雄譚』」
瞬間、死体と化していた竜殺しの体が巻き戻るように再生していく。砕け、歪んでいた鎧も元の形へと巻き戻る。
「それはもう知ってんだァッ!」
「再生しながら燃えるが良い」
だが、再生する肉体に刺し込まれたゼパルの炎が竜殺しの肉体を内側から焼き爛れさせ、バティンの指が触れた鎧は一瞬で青白い炎に呑まれて溶ける。
「まだ準備は終わらんのか、グシオン」
「もう直ぐだ。封印で良いんだな? 完全消滅も不可能ではないが」
「要らぬ。ここらの人類を滅ぼせば封印を解くものなど居らんからな」
「そうか。一応、厳重にやっておくぞ」
グシオンがぐちゃぐちゃに溶けている竜殺しに近付き、手を向けた。
♦……side:老日
栃木に発生したという大結界。破壊は難しく、中には大量の悪魔が居るという話だ。寧ろ、破壊しない方が良いだろうな。結界から大量の悪魔が解き放たれることと同義だからだ。
それに、見られる心配の少ない空間の方が俺としても、好都合だ。外から中に入るのはそう難しくないらしい。結界の性質として、外から内と内から外の両方を硬くすると弱いからな。
「行くか」
山の中、ドーム状に形成された漆黒の結界。俺は躊躇なくその内側へと入り込んだ。真っ暗だな、暗視の魔術を使うか。
「……初っ端から、鬱陶しいな」
入った瞬間、大量の蝙蝠や蛇が俺に向かってきた。触れられるよりも早く、全員を切り刻む。恐らく、召喚されたとか生み出されたとかそういう類だろう。
「それに、今回は……今までとは話が違いそうだ」
気配がする。悪魔の強い気配だ。数も多いな。それに、死体も多い。殆どが悪魔かその眷属の死体だが。
「おぉっと、見えんが居るな。救援だろ? 行かせんよぉ! 行かせん――――」
カラスの姿をした悪魔。ラウム、だったか。一応、ソロモン七十二柱は全員暗記している。こいつに関しては二度と蘇らないからな、思い出すことも無いだろうが。
「おぉ、ラウムが瞬殺かね。私はアンドラス。死んでもら――――」
黒いフクロウ頭の全裸の天使という中々に気持ち悪い姿で黒い狼に跨っていたが、死んで貰った。跨られていた黒い狼は靄になって消え去った。
「竜殺しが居ると聞いたんだが……」
その気配が無いな。山を覆うほどの大きさは無いから見つけるのはそう難しくないと思っていたんだが。
「まぁ良い、代わりに悪魔の気配を辿ろう」
そこらの木っ端悪魔とは違う気配だ。こいつらから情報を抜けば何が起きているかも分かるだろう。
「転移で良いか」
俺は公爵級はあると思われる悪魔の傍に転移した。
入れ替わる視界。そこには一本の剣を囲む四体の悪魔と、それを遠くから見ている狩人の悪魔の姿があった。
「ッ、誰だ?」
透明化しているとはいえ、流石に一瞬で気付かれたか。五体の悪魔が全員こちらを見る。
「『姿を現せ』」
紫のローブを纏った体格の良い悪魔、グシオンが呟いた。
「誰だ、貴様?」
「竜殺しを助けに来たのかァ? 残念だったなァ、もう封印されちまったぜェ?」
赤い装束と甲冑の悪魔、ゼパルが笑う。その横を通り過ぎ、一本の矢が俺に迫った。矢を回避し、それを放った悪魔を見る。
「殺せ」
灰色のマントを纏い、緑の帽子を被った狩人の悪魔……バルバトスが言った。
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