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カラスとか烏とか鴉とか
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夕焼けの照らす東京の街を、カラスの群れが飛んでいた。
「待っていろ、必ず駆除してやる」
その群れの中を、白いカラスが飛んでいた。その目は爛々と赤く光っている。その嘴が開き、発された言葉は紛れも無い人の言葉だった。
「……主様」
主の命を受けた白いカラスは忠実に任務を遂行すべく、報告のあった場所に全力で向かっていた。
「ここら辺だと聞いていたが……」
ビルとビルの間にある何もない暗い空間。そこに降り立った白いカラス。その背後から、黒い影が起き上がる。
「――――オレを探してるんだろ、白いの」
慌てて振り向く白いカラス。
「ここら辺を縄張りにしてるんだってな。オレ達は普通、群れの長なんてのを持たないんだが……お前は差し詰め、カラスの女王ってところか?」
「……そういう貴様は、何だ」
白いカラスは赤い目で現れたカラスを見た。
「さぁな。ただのカラスだ」
「私の縄張りを探り回っているカラスが居ると聞いたが……まさか、人間の言語を解すとはな。貴様にも主が居るのだろう?」
「さぁな? だが、その口ぶりじゃお前には居るらしいな」
白いカラスは黒いカラスを睨みつける。
「……名を名乗れ」
「そういう時はそっちから名乗るのがマナーらしいぜ? 人間の中ではな」
飄々とした態度を取り続ける黒いカラスに、白いカラスは溜息を吐く。
「シロだ」
「そのまんまだな」
シロは黒いカラスを睨みつける。
「そういう貴様は何だ」
「オレはカラスだ」
「……ふざけているのか?」
「いや、カラスって名前のカラスだ」
シロは一瞬、硬直した。
「……貴様の方がよっぽどそのまんまだろうが。そもそも、それは名前が無いのと同じだろう」
「違うな。まぁ、そのまんまってのはそうだが……人間の中ではオレ達を勝手にカラスって呼んでるらしいからな。その響きが気に入ってこの名前にしたんだよ。オレ達の中じゃ、オレ達はカラスじゃなくてただのオレ達だろ? 言葉もそうだが、よっぽど人間の中での常識が馴染んでるらしいな」
シロとカラスが睨み合う。シロが連れて来た群れは、その様子を囲んで見守っている。
「……人の言葉を話すのは貴様も同じだろう」
シロの言葉に、カラスは首を振る。
「お前みたいに直接発声してる訳じゃない。カラスの体は人の言葉を話せる構造じゃねぇ。本来な」
「ふん、当然だ。主様の手で直接作って頂いた私は、貴様らのようなただの鳥とは違うのだ。まぁ……見たところ、貴様はただの鳥のようだがな?」
挑発するように言うシロを、カラスはハッと笑い飛ばした。
「安心しろよ。ペラペラと何も考えずに喋るお前も、十分オレ達と同じ鳥頭だ」
カラスの言葉に、シロはカラスを睨みつけたまま黙り込む。
「……警告しておいてやろう」
シロから発せられる殺気も気にせず、カラスは首を傾げる。
「貴様の主に関する情報を吐いてこの街から失せろ。でなければ、この群れ全員で食い殺す」
「やってみろ。但し、オレが勝ったらこの群れは貰う。良いな?」
白と黒、二匹のカラスが睨み合った。
「吠えたなッ、鳥風情がッ!」
「ハッ、鳥は吠えねえよ」
シロが大きく鳴き声を上げた。それを号令に大量のカラスが……鴉が飛来する。
「穴だらけにしてやれッ!」
シロの前で動こうとすらしないカラスを、鴉の群れが嘴で貫き、啄み、穴だらけの死体に変えていく。
「……ふん、呆気ないな」
言いつつも、少し不安に思い死体を確認するシロ。しかし、鴉の群れが退いた場所には何も残っては居なかった。
「――――ここから先は、正当防衛だな?」
背後、現れた黒いカラス。その姿に傷は無く、全く平気そうにしている。
「何だ、貴様……何の力だ」
「さぁな。ただ……もう、お前に数の有利は無いぞ?」
カラスの言葉と同時に、大量の鴉がここに飛んでくる。周囲をビルに囲まれたこの空間には、もう百匹以上の鴉が集まっていた。
「……ふん、数の不利が無くなった程度で自慢げだな」
動揺を見せずに言うシロに、カラスは溜息を吐く。
「全く、随分と気の強いメスだな」
「主様はオスが嫌いだからな。私もメスとして作られただけだ」
「良いさ、オレは気が強いくらいが好みだからな」
カラスの言葉を、シロは鼻で笑う。
「残念だが、貴様のような野蛮な鳥は恋愛対象外だ。私の理想はただ主様にのみある」
「そいつは残念だな。ところで……お前の自慢の仲間たちは全員負けたみたいだが」
カラスの言葉に、シロは急いで周囲の様子を確認する。すると、カラスの言葉通り自分の群れの鴉達が全員押さえつけられている光景が目に入った。
「……馬鹿な」
今までシロにあった余裕が、崩れた。
「有り得ない……全員が全員負けるなど、同じ鴉なら有り得な……待て、よ」
シロは何かに気付いたように注意深く全体を観察した。
「数が……完全に、同じだと?」
抑え付けられている鴉と、抑え付けている鴉。その余りが一匹も居ない。完全に同じ数だ。
「いや、そもそも……貴様、その群れ……どこから連れて来た?」
シロの問いに、カラスは笑う。
「さぁな?」
笑いながら言うカラス、シロの体に怖気が走る。
「……なるほど、な。貴様はどうやら、言葉を話せるだけが取り柄じゃないらしい」
「じゃなきゃ、あんなに自信満々に勝負を仕掛けたりはしねぇよ」
突き返される正論を無視し、シロは両翼を広げた。
「――――許可が下りた」
その体から生える羽根の一本一本が、細長い紙へと変化していく。
「待っていろ、必ず駆除してやる」
その群れの中を、白いカラスが飛んでいた。その目は爛々と赤く光っている。その嘴が開き、発された言葉は紛れも無い人の言葉だった。
「……主様」
主の命を受けた白いカラスは忠実に任務を遂行すべく、報告のあった場所に全力で向かっていた。
「ここら辺だと聞いていたが……」
ビルとビルの間にある何もない暗い空間。そこに降り立った白いカラス。その背後から、黒い影が起き上がる。
「――――オレを探してるんだろ、白いの」
慌てて振り向く白いカラス。
「ここら辺を縄張りにしてるんだってな。オレ達は普通、群れの長なんてのを持たないんだが……お前は差し詰め、カラスの女王ってところか?」
「……そういう貴様は、何だ」
白いカラスは赤い目で現れたカラスを見た。
「さぁな。ただのカラスだ」
「私の縄張りを探り回っているカラスが居ると聞いたが……まさか、人間の言語を解すとはな。貴様にも主が居るのだろう?」
「さぁな? だが、その口ぶりじゃお前には居るらしいな」
白いカラスは黒いカラスを睨みつける。
「……名を名乗れ」
「そういう時はそっちから名乗るのがマナーらしいぜ? 人間の中ではな」
飄々とした態度を取り続ける黒いカラスに、白いカラスは溜息を吐く。
「シロだ」
「そのまんまだな」
シロは黒いカラスを睨みつける。
「そういう貴様は何だ」
「オレはカラスだ」
「……ふざけているのか?」
「いや、カラスって名前のカラスだ」
シロは一瞬、硬直した。
「……貴様の方がよっぽどそのまんまだろうが。そもそも、それは名前が無いのと同じだろう」
「違うな。まぁ、そのまんまってのはそうだが……人間の中ではオレ達を勝手にカラスって呼んでるらしいからな。その響きが気に入ってこの名前にしたんだよ。オレ達の中じゃ、オレ達はカラスじゃなくてただのオレ達だろ? 言葉もそうだが、よっぽど人間の中での常識が馴染んでるらしいな」
シロとカラスが睨み合う。シロが連れて来た群れは、その様子を囲んで見守っている。
「……人の言葉を話すのは貴様も同じだろう」
シロの言葉に、カラスは首を振る。
「お前みたいに直接発声してる訳じゃない。カラスの体は人の言葉を話せる構造じゃねぇ。本来な」
「ふん、当然だ。主様の手で直接作って頂いた私は、貴様らのようなただの鳥とは違うのだ。まぁ……見たところ、貴様はただの鳥のようだがな?」
挑発するように言うシロを、カラスはハッと笑い飛ばした。
「安心しろよ。ペラペラと何も考えずに喋るお前も、十分オレ達と同じ鳥頭だ」
カラスの言葉に、シロはカラスを睨みつけたまま黙り込む。
「……警告しておいてやろう」
シロから発せられる殺気も気にせず、カラスは首を傾げる。
「貴様の主に関する情報を吐いてこの街から失せろ。でなければ、この群れ全員で食い殺す」
「やってみろ。但し、オレが勝ったらこの群れは貰う。良いな?」
白と黒、二匹のカラスが睨み合った。
「吠えたなッ、鳥風情がッ!」
「ハッ、鳥は吠えねえよ」
シロが大きく鳴き声を上げた。それを号令に大量のカラスが……鴉が飛来する。
「穴だらけにしてやれッ!」
シロの前で動こうとすらしないカラスを、鴉の群れが嘴で貫き、啄み、穴だらけの死体に変えていく。
「……ふん、呆気ないな」
言いつつも、少し不安に思い死体を確認するシロ。しかし、鴉の群れが退いた場所には何も残っては居なかった。
「――――ここから先は、正当防衛だな?」
背後、現れた黒いカラス。その姿に傷は無く、全く平気そうにしている。
「何だ、貴様……何の力だ」
「さぁな。ただ……もう、お前に数の有利は無いぞ?」
カラスの言葉と同時に、大量の鴉がここに飛んでくる。周囲をビルに囲まれたこの空間には、もう百匹以上の鴉が集まっていた。
「……ふん、数の不利が無くなった程度で自慢げだな」
動揺を見せずに言うシロに、カラスは溜息を吐く。
「全く、随分と気の強いメスだな」
「主様はオスが嫌いだからな。私もメスとして作られただけだ」
「良いさ、オレは気が強いくらいが好みだからな」
カラスの言葉を、シロは鼻で笑う。
「残念だが、貴様のような野蛮な鳥は恋愛対象外だ。私の理想はただ主様にのみある」
「そいつは残念だな。ところで……お前の自慢の仲間たちは全員負けたみたいだが」
カラスの言葉に、シロは急いで周囲の様子を確認する。すると、カラスの言葉通り自分の群れの鴉達が全員押さえつけられている光景が目に入った。
「……馬鹿な」
今までシロにあった余裕が、崩れた。
「有り得ない……全員が全員負けるなど、同じ鴉なら有り得な……待て、よ」
シロは何かに気付いたように注意深く全体を観察した。
「数が……完全に、同じだと?」
抑え付けられている鴉と、抑え付けている鴉。その余りが一匹も居ない。完全に同じ数だ。
「いや、そもそも……貴様、その群れ……どこから連れて来た?」
シロの問いに、カラスは笑う。
「さぁな?」
笑いながら言うカラス、シロの体に怖気が走る。
「……なるほど、な。貴様はどうやら、言葉を話せるだけが取り柄じゃないらしい」
「じゃなきゃ、あんなに自信満々に勝負を仕掛けたりはしねぇよ」
突き返される正論を無視し、シロは両翼を広げた。
「――――許可が下りた」
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