異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト

文字の大きさ
上 下
44 / 335

カラスとか烏とか鴉とか

しおりを挟む
 夕焼けの照らす東京の街を、カラスの群れが飛んでいた。

「待っていろ、必ず駆除してやる」

 その群れの中を、白いカラスが飛んでいた。その目は爛々と赤く光っている。その嘴が開き、発された言葉は紛れも無い人の言葉だった。

「……主様」

 主の命を受けた白いカラスは忠実に任務を遂行すべく、報告のあった場所に全力で向かっていた。

「ここら辺だと聞いていたが……」

 ビルとビルの間にある何もない暗い空間。そこに降り立った白いカラス。その背後から、黒い影が起き上がる。


「――――オレを探してるんだろ、白いの」


 慌てて振り向く白いカラス。

「ここら辺を縄張りにしてるんだってな。オレ達は普通、群れの長なんてのを持たないんだが……お前は差し詰め、カラスの女王ってところか?」

「……そういう貴様は、何だ」

 白いカラスは赤い目で現れたカラスを見た。

「さぁな。ただのカラスだ」

「私の縄張りを探り回っているカラスが居ると聞いたが……まさか、人間の言語を解すとはな。貴様にも主が居るのだろう?」

「さぁな? だが、その口ぶりじゃお前には居るらしいな」

 白いカラスは黒いカラスを睨みつける。

「……名を名乗れ」

「そういう時はそっちから名乗るのがマナーらしいぜ? 人間の中ではな」

 飄々とした態度を取り続ける黒いカラスに、白いカラスは溜息を吐く。

「シロだ」

「そのまんまだな」

 シロは黒いカラスを睨みつける。

「そういう貴様は何だ」

「オレはカラスだ」

「……ふざけているのか?」

「いや、カラスって名前のカラスだ」

 シロは一瞬、硬直した。

「……貴様の方がよっぽどそのまんまだろうが。そもそも、それは名前が無いのと同じだろう」

「違うな。まぁ、そのまんまってのはそうだが……人間の中ではオレ達を勝手にカラスって呼んでるらしいからな。その響きが気に入ってこの名前にしたんだよ。オレ達の中じゃ、オレ達はカラスじゃなくてただのオレ達だろ? 言葉もそうだが、よっぽど人間の中での常識が馴染んでるらしいな」

 シロとカラスが睨み合う。シロが連れて来た群れは、その様子を囲んで見守っている。

「……人の言葉を話すのは貴様も同じだろう」

 シロの言葉に、カラスは首を振る。

「お前みたいに直接発声してる訳じゃない。カラスの体は人の言葉を話せる構造じゃねぇ。本来な」

「ふん、当然だ。主様の手で直接作って頂いた私は、貴様らのようなただの鳥とは違うのだ。まぁ……見たところ、貴様はただの鳥のようだがな?」

 挑発するように言うシロを、カラスはハッと笑い飛ばした。

「安心しろよ。ペラペラと何も考えずに喋るお前も、十分オレ達と同じ鳥頭だ」

 カラスの言葉に、シロはカラスを睨みつけたまま黙り込む。

「……警告しておいてやろう」

 シロから発せられる殺気も気にせず、カラスは首を傾げる。

「貴様の主に関する情報を吐いてこの街から失せろ。でなければ、この群れ全員で食い殺す」

「やってみろ。但し、オレが勝ったらこの群れは貰う。良いな?」

 白と黒、二匹のカラスが睨み合った。

「吠えたなッ、鳥風情がッ!」

「ハッ、鳥は吠えねえよ」

 シロが大きく鳴き声を上げた。それを号令に大量のカラスが……鴉が飛来する。

「穴だらけにしてやれッ!」

 シロの前で動こうとすらしないカラスを、鴉の群れが嘴で貫き、啄み、穴だらけの死体に変えていく。

「……ふん、呆気ないな」

 言いつつも、少し不安に思い死体を確認するシロ。しかし、鴉の群れが退いた場所には何も残っては居なかった。


「――――ここから先は、正当防衛だな?」


 背後、現れた黒いカラス。その姿に傷は無く、全く平気そうにしている。

「何だ、貴様……何の力だ」

「さぁな。ただ……もう、お前に数の有利は無いぞ?」

 カラスの言葉と同時に、大量の鴉がここに飛んでくる。周囲をビルに囲まれたこの空間には、もう百匹以上の鴉が集まっていた。

「……ふん、数の不利が無くなった程度で自慢げだな」

 動揺を見せずに言うシロに、カラスは溜息を吐く。

「全く、随分と気の強いメスだな」

「主様はオスが嫌いだからな。私もメスとして作られただけだ」

「良いさ、オレは気が強いくらいが好みだからな」

 カラスの言葉を、シロは鼻で笑う。

「残念だが、貴様のような野蛮な鳥は恋愛対象外だ。私の理想はただ主様にのみある」

「そいつは残念だな。ところで……お前の自慢の仲間たちは全員負けたみたいだが」

 カラスの言葉に、シロは急いで周囲の様子を確認する。すると、カラスの言葉通り自分の群れの鴉達が全員押さえつけられている光景が目に入った。

「……馬鹿な」

今までシロにあった余裕が、崩れた。

「有り得ない……全員が全員負けるなど、同じ鴉なら有り得な……待て、よ」

 シロは何かに気付いたように注意深く全体を観察した。

「数が……完全に、同じだと?」

 抑え付けられている鴉と、抑え付けている鴉。その余りが一匹も居ない。完全に同じ数だ。

「いや、そもそも……貴様、その群れ……どこから連れて来た?」

 シロの問いに、カラスは笑う。

「さぁな?」

 笑いながら言うカラス、シロの体に怖気が走る。

「……なるほど、な。貴様はどうやら、言葉を話せるだけが取り柄じゃないらしい」

「じゃなきゃ、あんなに自信満々に勝負を仕掛けたりはしねぇよ」

 突き返される正論を無視し、シロは両翼を広げた。


「――――許可が下りた」


 その体から生える羽根の一本一本が、細長い紙へと変化していく。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

ダンジョン配信スタッフやります!〜ぼっちだった俺だけど、二次覚醒したのでカリスマ配信者を陰ながら支える黒子的な存在になろうと思います〜

KeyBow
ファンタジー
舞台は20xx年の日本。 突如として発生したダンジョンにより世界は混乱に陥る。ダンジョンに涌く魔物を倒して得られる素材や魔石、貴重な鉱物資源を回収する探索者が活躍するようになる。 主人公であるドボルは探索者になった。将来有望とされていたが、初めての探索で仲間のミスから勝てない相手と遭遇し囮にされる。なんとか他の者に助けられるも大怪我を負い、その後は強いられてぼっちでの探索を続けることになる。そんな彼がひょんなことからダンジョン配信のスタッフに採用される。 ドボルはカリスマ配信者を陰ながら支えようと決意するが、早々に陰謀に巻き込まれ危険な状況に陥る。絶体絶命のピンチの中で、ドボルは自分に眠る力を覚醒させる。この新たな力を得て、彼の生活は一変し、カリスマ配信者を陰から支え、奮闘する決意をする。果たして、ドボルはこの困難を乗り越え、配信を成功させることができるのか?

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

処理中です...