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どうせ、次は無い。
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みっともなく身をよじり、逃れようとするネビロスを男は冷たい目で見た。
「奪うことはアンタ達の得意分野だろ。今までやってきたことだ。自分がされても、文句は言えないな?」
「やめろッ、やめろッ、やめろッ!! これでは、蘇っても……意味が無いッ!」
ネビロスの言葉に男は首を振る。
「どうやら勘違いしてるらしいが、そもそもアンタに次は無い。だから、安心して全て忘れれば良い」
「ぐッ、アァアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
剣が引き抜かれ、青い光が煌めいた。苦悶の叫びをあげた後、ネビロスは糸が切れたように静かになった。死んではいない筈だが、その虚ろな瞳はもう光を映すことすらしない。
「……なるほどな。今度は収穫があったな」
男はそう呟き、刃に光を纏わせた。神聖な雰囲気を感じさせるその光はそのままネビロスを細切れにし、そして灰も残さず消滅させた。続けて、虚空に向けて剣を振ると透明化していたグラシャラボラスが消滅し、体を完全に再生させて逃げ出そうとしていたイポスは放出された光の刃によって消滅した。
「……ぁ」
ネビロスが死んだ。その光景を見て安心した私は思わず前のめりに倒れこ……もうとして、肩を支えられた。
「呪われてるな」
顔を覗き込んだ男。歳は二十歳くらいだろうか。
「消しておく」
男は私の頭に手を乗せた。じんわりと暖かい魔力が伝わってくるのを感じ、それと同時に臓器が締め付けられる感覚と肌が引き裂ける感覚が消え失せていく。
「今、異常はあるか?」
「……いえ、無いです」
答えると、男は無言で隣のカーラさんの頭に手を乗せた。
「どうもありがと。ところで、貴方。何者なの?」
「今は、何者でもないな」
男はそう答え、カーラさんの呪いも解き終えた。
「さて、悪いが顔を見られた以上はやることがある」
男の言葉に私は思わず身構えたが、殺すつもりなら呪いを解いてくれるはずがない。つまり、別のアプローチだ。
「何をする気かしら? 場合によっては、恩人と言っても戦わざるを得ないけど」
カーラは立ち上がり、指輪に嵌めこまれた宝石をきらめかせた。
「それは……あぁ、それより先にすることがあるな」
男が振り向いた。その視線の先。この店の奥から一人の若い男が寝ぼけたような様子で現れた。
「……んー、そろそろ終わったかなぁ? ナベリウス」
若い男は目を擦りながらこちらに歩き、そして立ち止まった。
「あ、あれ、どこに行ったのかな。僕の悪魔は」
「消滅した。もう、どこを探しても見つからないな」
若い男に剣が向けられる。
「ひっ、ちょ、ちょっと待ってよ! 僕らは同じ人間だよ!? ていうか、悪魔をどうやって殺したのさ!?」
「同じ人間を大量に殺そうとしたのはアンタだろ」
剣がその首筋に触れ、ちろりと血が垂れる。
「ッ、や、やめろ……ほ、本当に殺す気か!? お、お前、犯罪者になるぞッ!」
「あぁ、犯罪者が言うと説得力があるな」
若い男は悲鳴を上げ、尻もちをつき、後退る。
「アンタの背後に居るのはソロモンだろ。答えろ」
「そ、ソロモン? ち、違う……僕は鍵を開きし者とか名乗ってる陰気そうな奴に悪魔の契約法を教えてもらったんだ。それで、沢山殺して魂を集めたらまた新しい力を授けるって言われたから……」
「……なるほどな。あの結界は、ソレか」
会話が成立していることに安心したのか、若い男はへらへらと気持ち悪い笑みを浮かべ始めた。
「じゃ、じゃあ僕は行くから……」
がくがくと揺れる足で出口に急いだ若い男の襟首が掴まれる。
「こいつは任せても良いか?」
「はい。任せて下さい」
私はこちらに投げられた若い男の首に腕を回し、そのまま締めて気絶させた。
「……それで、私達をどうするつもりなの?」
「あぁ、それだが……」
男はこちらに手を向けた。
「俺が誰だったか、どんな人物だったかを思い出せなくする。つまり、俺の身体的特徴や服装に関する記憶の一切を忘却させる」
そんな魔術、存在するのか。私は思わず疑ってしまったが、これまでのことを思い出してこの男なら可能だろうと納得した。
「……分かりました。ここまでのご協力、感謝致します。」
「まぁ、そのくらいなら良いわ。私からもありがとね。あのままじゃ流石に死んでたかも」
男は首を振った。
「気にするな。じゃあ、消すぞ」
脳に直接干渉されたような感覚。それと同時に私は揺れる視界の中で意識を失った。
♦
今日、三体の悪魔を滅した。七十二柱居るらしいので、残りは六十八柱ということになるな。まぁ、あの感じならこっちの世界でも倒せる奴は倒せるだろう。ぶっちゃけ、黒岬ならネビロスにも勝てるはずだ。舐めプせずに戦えばという前提は付くが。
「……さて」
記憶を吸い出すのはかなりの労力がかかる上に、ひどく気持ち悪い感覚を味わうことになる。おまけに頭痛も凄いので積極的に使いたい魔術ではない。今回みたいに、対象が悪魔の場合はそれが倍以上ひどくなるのでかなり最悪だった。
「とはいえ、無駄ではなかったな」
あの悪魔、ネビロスからはかなりの情報を得ることが出来た。ネビロスの記憶では詳細なことまでは分からなかったが、今回ネビロス達が召喚された際のコストは通常よりも多く、その余剰分はどこかへと流れているらしい。
「恐らくだが、その流出先は……ソロモンだ」
俺の読みが正しければ、ソロモンの復活は完全じゃない。
「奪うことはアンタ達の得意分野だろ。今までやってきたことだ。自分がされても、文句は言えないな?」
「やめろッ、やめろッ、やめろッ!! これでは、蘇っても……意味が無いッ!」
ネビロスの言葉に男は首を振る。
「どうやら勘違いしてるらしいが、そもそもアンタに次は無い。だから、安心して全て忘れれば良い」
「ぐッ、アァアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
剣が引き抜かれ、青い光が煌めいた。苦悶の叫びをあげた後、ネビロスは糸が切れたように静かになった。死んではいない筈だが、その虚ろな瞳はもう光を映すことすらしない。
「……なるほどな。今度は収穫があったな」
男はそう呟き、刃に光を纏わせた。神聖な雰囲気を感じさせるその光はそのままネビロスを細切れにし、そして灰も残さず消滅させた。続けて、虚空に向けて剣を振ると透明化していたグラシャラボラスが消滅し、体を完全に再生させて逃げ出そうとしていたイポスは放出された光の刃によって消滅した。
「……ぁ」
ネビロスが死んだ。その光景を見て安心した私は思わず前のめりに倒れこ……もうとして、肩を支えられた。
「呪われてるな」
顔を覗き込んだ男。歳は二十歳くらいだろうか。
「消しておく」
男は私の頭に手を乗せた。じんわりと暖かい魔力が伝わってくるのを感じ、それと同時に臓器が締め付けられる感覚と肌が引き裂ける感覚が消え失せていく。
「今、異常はあるか?」
「……いえ、無いです」
答えると、男は無言で隣のカーラさんの頭に手を乗せた。
「どうもありがと。ところで、貴方。何者なの?」
「今は、何者でもないな」
男はそう答え、カーラさんの呪いも解き終えた。
「さて、悪いが顔を見られた以上はやることがある」
男の言葉に私は思わず身構えたが、殺すつもりなら呪いを解いてくれるはずがない。つまり、別のアプローチだ。
「何をする気かしら? 場合によっては、恩人と言っても戦わざるを得ないけど」
カーラは立ち上がり、指輪に嵌めこまれた宝石をきらめかせた。
「それは……あぁ、それより先にすることがあるな」
男が振り向いた。その視線の先。この店の奥から一人の若い男が寝ぼけたような様子で現れた。
「……んー、そろそろ終わったかなぁ? ナベリウス」
若い男は目を擦りながらこちらに歩き、そして立ち止まった。
「あ、あれ、どこに行ったのかな。僕の悪魔は」
「消滅した。もう、どこを探しても見つからないな」
若い男に剣が向けられる。
「ひっ、ちょ、ちょっと待ってよ! 僕らは同じ人間だよ!? ていうか、悪魔をどうやって殺したのさ!?」
「同じ人間を大量に殺そうとしたのはアンタだろ」
剣がその首筋に触れ、ちろりと血が垂れる。
「ッ、や、やめろ……ほ、本当に殺す気か!? お、お前、犯罪者になるぞッ!」
「あぁ、犯罪者が言うと説得力があるな」
若い男は悲鳴を上げ、尻もちをつき、後退る。
「アンタの背後に居るのはソロモンだろ。答えろ」
「そ、ソロモン? ち、違う……僕は鍵を開きし者とか名乗ってる陰気そうな奴に悪魔の契約法を教えてもらったんだ。それで、沢山殺して魂を集めたらまた新しい力を授けるって言われたから……」
「……なるほどな。あの結界は、ソレか」
会話が成立していることに安心したのか、若い男はへらへらと気持ち悪い笑みを浮かべ始めた。
「じゃ、じゃあ僕は行くから……」
がくがくと揺れる足で出口に急いだ若い男の襟首が掴まれる。
「こいつは任せても良いか?」
「はい。任せて下さい」
私はこちらに投げられた若い男の首に腕を回し、そのまま締めて気絶させた。
「……それで、私達をどうするつもりなの?」
「あぁ、それだが……」
男はこちらに手を向けた。
「俺が誰だったか、どんな人物だったかを思い出せなくする。つまり、俺の身体的特徴や服装に関する記憶の一切を忘却させる」
そんな魔術、存在するのか。私は思わず疑ってしまったが、これまでのことを思い出してこの男なら可能だろうと納得した。
「……分かりました。ここまでのご協力、感謝致します。」
「まぁ、そのくらいなら良いわ。私からもありがとね。あのままじゃ流石に死んでたかも」
男は首を振った。
「気にするな。じゃあ、消すぞ」
脳に直接干渉されたような感覚。それと同時に私は揺れる視界の中で意識を失った。
♦
今日、三体の悪魔を滅した。七十二柱居るらしいので、残りは六十八柱ということになるな。まぁ、あの感じならこっちの世界でも倒せる奴は倒せるだろう。ぶっちゃけ、黒岬ならネビロスにも勝てるはずだ。舐めプせずに戦えばという前提は付くが。
「……さて」
記憶を吸い出すのはかなりの労力がかかる上に、ひどく気持ち悪い感覚を味わうことになる。おまけに頭痛も凄いので積極的に使いたい魔術ではない。今回みたいに、対象が悪魔の場合はそれが倍以上ひどくなるのでかなり最悪だった。
「とはいえ、無駄ではなかったな」
あの悪魔、ネビロスからはかなりの情報を得ることが出来た。ネビロスの記憶では詳細なことまでは分からなかったが、今回ネビロス達が召喚された際のコストは通常よりも多く、その余剰分はどこかへと流れているらしい。
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