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ゴブリンの群れ
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青木の表情は、驚愕から怪訝そうなものに変わる。
「なっ、そんな訳……ていうか、なんでそんなことが分かるんですか」
「何故なんてのはどうでもいい。それより、どうするんだ? あっちから来るぞ」
俺が指をさした方を見て青木は目を細めた。
「……本当だ。来てる」
音を聞いたか、何かを見たか、それとも気配を感じたか、青木は真剣な表情になった。
「皆さん、避難を……無理だ。間に合わない」
数秒黙った後、青木は血に塗れた槍を構えた。
「皆さん、ゴブリンの群れが来ます。逃げられません。なので、ここで応戦します」
「む、群れ? 大丈夫なんですか?」
小戸が少し怯えながら聞くが、青木は首をどちらにも振らなかった。
「分かりません。ただ、戦うしかないというだけです。ある程度固まって、死角を無くして戦います。乙浜さん、塩浦さん、老日さん、どの程度戦えますか?」
「はいっ、運動神経には自信あります!」
「私は……弓道はやってるから弓は持ってきたけど、大群相手だとどの程度力になれるか分からないわ」
「……戦闘経験はある」
青木はここまで一切の戦力を見せなかった三人からそれぞれの答えを聞き、頷いた。
「自分、野島さん、砂取さん、老日さん。一旦この四人を前衛とします。塩浦さんと杖珠院さんは後衛。乙浜さんと小戸さんは二人を護衛しつつ前衛が崩れかけたらカバーに入って下さい」
「はいっ、何だかワクワクしますねこういうの!」
青木は冷静に作戦を纏め、直ぐそこに迫るゴブリンの群れを睨んだ。乙浜は相変わらず緊張感が無いが、小戸のようにガチガチに固まっているよりはマシだ。
「来るぞ」
野島が低い声で告げると同時に、ゴブリンの群れがその頭を見せた。
「『大火球』」
直径二メートルくらいの火球が群れの先頭集団に着弾する。が、同時に森が燃え始める。
「黄鋳ちゃんっ、消火しないと!」
「いや、問題ないです。ここの森は燃え広がることはありません。理屈は分かりませんが、異界なので」
「だったら、もっと燃やした方が良さそう」
そう言ってまた杖珠院は杖を掲げ、魔力の光を放つ。
「抜けて来ます!」
だが、次の魔術が放たれるよりも早く燃え盛る炎の両脇をゴブリンの群れが抜けてきた。
「オラァッ! ハ、ハハッ、どうよっ! オレも結構やるっしょォ!?」
「そうですね! 悪くない動きです!」
「ハッ、生意気な評価じゃんねぇ!」
青木の槍が血気迫る表情で向かってくるゴブリンの首を突く、胸を突く、頭を突く。砂取の金属棒が滅茶苦茶に振り回され、次々にゴブリンの脳漿をぶちまけさせる。
「……何だ?」
百を超える量のゴブリン達。しかし、彼らは別に俺たちに襲い掛かってきている訳ではない。ただ、走り抜けているだけのようだ。こういうこと、向こうでも何度か覚えがあった。
「そういうことか?」
居るのか? 何かが。この量のゴブリンが恐れて逃げ出すような、何かが。
「青木」
「ッ、何です……かッ!」
ぐちゃり、頭が潰れるゴブリン。
「こいつらの背後、恐らく何か居るぞ」
「何かって、何ですッ!?」
俺は脇に一匹抜けてきたゴブリンの首を斬り落とす。
「この量の群れが逃げ出すような何かだ。じゃないと、こんなことは起きない」
「……確かに、そうですね」
青木はゴブリンの首を槍の穂先で掻っ捌き、迫る群れの向こうを見た。
「あぁ、見つけた」
「ッ、何をですか?」
魔術や闘気に頼らない生物としての感覚のみによる感知範囲に、それが入った。
「原因だ」
速いな。もう少しで到達する。なるほどな、これならゴブリンの群れが逃げ出していても不思議じゃない。
「原因ッ、何ですか!?」
「来るぞ」
燃え盛っている木が、バタリと倒れ……火が消えた。
「――――弱いな、弱い火だ」
しかし、空間に満ちる熱は消えていない。その原因は、あの男だ。
「久方ぶりの顕現。ここがどこかも分からんが、居るのは獣や雑魚ばかり……漸く人を見つけたと思えば、この下らん魔術の火よ」
炎を纏う筋肉質の体、その隙間から見える褐色の肌、手にした長槍は赤く輝き、赤い双眸は宝石のように美しい。そして、彼の体は炎の翼によって浮き上がっている。
「……貴方は、誰ですか?」
真面目に問いかける青木を見て、男は鼻で笑った。
「お前、よもや俺が人間だとでも思っているのか?」
「ッ、だったら……だったら、お前は、何だ」
ゴブリンは全て逃げ去り、最早この場には居ない。青木は警戒心を最大にして槍を向ける。
「悪魔だ」
躊躇いなく言ってのけた男に青木は気圧され、一歩後ろに下がる。
「炎の悪魔、アウナス。アミーとも呼ばれるがな」
自慢げに告げたアウナスは浮き上がっていた体を地面に下ろした。
「……ソロモン七十二柱」
「ほう、知っているか。魔術に詳しいようには見えんが」
名前を上げた塩浦に、アウナスは目を細めた。しかし、ソロモン七十二柱か。俺でも名前くらいは知っている。
「別に、そのくらい知ってる奴は知ってるわよ。ネットで調べたら一瞬で出てくるわ」
「ネット……魔導書のようなものか」
少し驚いたような表情をしたアウナスだったが、直ぐに元の表情に戻った。
「まぁ良い、知っているのならば……契約するか? 得られるは力、知恵、宝。どれも素晴らしいものを保証しよう」
「嫌よ。代償に生命力をせびられるんでしょう」
刺激しない為か、弓を下ろしたまま話す塩浦だが、契約する気は無いらしい。
「ふむ、ならば……」
「――――あ、あのッ、俺とッ、俺と契約しませんかッ!?」
声を上げたのは、小戸だった。
「なっ、そんな訳……ていうか、なんでそんなことが分かるんですか」
「何故なんてのはどうでもいい。それより、どうするんだ? あっちから来るぞ」
俺が指をさした方を見て青木は目を細めた。
「……本当だ。来てる」
音を聞いたか、何かを見たか、それとも気配を感じたか、青木は真剣な表情になった。
「皆さん、避難を……無理だ。間に合わない」
数秒黙った後、青木は血に塗れた槍を構えた。
「皆さん、ゴブリンの群れが来ます。逃げられません。なので、ここで応戦します」
「む、群れ? 大丈夫なんですか?」
小戸が少し怯えながら聞くが、青木は首をどちらにも振らなかった。
「分かりません。ただ、戦うしかないというだけです。ある程度固まって、死角を無くして戦います。乙浜さん、塩浦さん、老日さん、どの程度戦えますか?」
「はいっ、運動神経には自信あります!」
「私は……弓道はやってるから弓は持ってきたけど、大群相手だとどの程度力になれるか分からないわ」
「……戦闘経験はある」
青木はここまで一切の戦力を見せなかった三人からそれぞれの答えを聞き、頷いた。
「自分、野島さん、砂取さん、老日さん。一旦この四人を前衛とします。塩浦さんと杖珠院さんは後衛。乙浜さんと小戸さんは二人を護衛しつつ前衛が崩れかけたらカバーに入って下さい」
「はいっ、何だかワクワクしますねこういうの!」
青木は冷静に作戦を纏め、直ぐそこに迫るゴブリンの群れを睨んだ。乙浜は相変わらず緊張感が無いが、小戸のようにガチガチに固まっているよりはマシだ。
「来るぞ」
野島が低い声で告げると同時に、ゴブリンの群れがその頭を見せた。
「『大火球』」
直径二メートルくらいの火球が群れの先頭集団に着弾する。が、同時に森が燃え始める。
「黄鋳ちゃんっ、消火しないと!」
「いや、問題ないです。ここの森は燃え広がることはありません。理屈は分かりませんが、異界なので」
「だったら、もっと燃やした方が良さそう」
そう言ってまた杖珠院は杖を掲げ、魔力の光を放つ。
「抜けて来ます!」
だが、次の魔術が放たれるよりも早く燃え盛る炎の両脇をゴブリンの群れが抜けてきた。
「オラァッ! ハ、ハハッ、どうよっ! オレも結構やるっしょォ!?」
「そうですね! 悪くない動きです!」
「ハッ、生意気な評価じゃんねぇ!」
青木の槍が血気迫る表情で向かってくるゴブリンの首を突く、胸を突く、頭を突く。砂取の金属棒が滅茶苦茶に振り回され、次々にゴブリンの脳漿をぶちまけさせる。
「……何だ?」
百を超える量のゴブリン達。しかし、彼らは別に俺たちに襲い掛かってきている訳ではない。ただ、走り抜けているだけのようだ。こういうこと、向こうでも何度か覚えがあった。
「そういうことか?」
居るのか? 何かが。この量のゴブリンが恐れて逃げ出すような、何かが。
「青木」
「ッ、何です……かッ!」
ぐちゃり、頭が潰れるゴブリン。
「こいつらの背後、恐らく何か居るぞ」
「何かって、何ですッ!?」
俺は脇に一匹抜けてきたゴブリンの首を斬り落とす。
「この量の群れが逃げ出すような何かだ。じゃないと、こんなことは起きない」
「……確かに、そうですね」
青木はゴブリンの首を槍の穂先で掻っ捌き、迫る群れの向こうを見た。
「あぁ、見つけた」
「ッ、何をですか?」
魔術や闘気に頼らない生物としての感覚のみによる感知範囲に、それが入った。
「原因だ」
速いな。もう少しで到達する。なるほどな、これならゴブリンの群れが逃げ出していても不思議じゃない。
「原因ッ、何ですか!?」
「来るぞ」
燃え盛っている木が、バタリと倒れ……火が消えた。
「――――弱いな、弱い火だ」
しかし、空間に満ちる熱は消えていない。その原因は、あの男だ。
「久方ぶりの顕現。ここがどこかも分からんが、居るのは獣や雑魚ばかり……漸く人を見つけたと思えば、この下らん魔術の火よ」
炎を纏う筋肉質の体、その隙間から見える褐色の肌、手にした長槍は赤く輝き、赤い双眸は宝石のように美しい。そして、彼の体は炎の翼によって浮き上がっている。
「……貴方は、誰ですか?」
真面目に問いかける青木を見て、男は鼻で笑った。
「お前、よもや俺が人間だとでも思っているのか?」
「ッ、だったら……だったら、お前は、何だ」
ゴブリンは全て逃げ去り、最早この場には居ない。青木は警戒心を最大にして槍を向ける。
「悪魔だ」
躊躇いなく言ってのけた男に青木は気圧され、一歩後ろに下がる。
「炎の悪魔、アウナス。アミーとも呼ばれるがな」
自慢げに告げたアウナスは浮き上がっていた体を地面に下ろした。
「……ソロモン七十二柱」
「ほう、知っているか。魔術に詳しいようには見えんが」
名前を上げた塩浦に、アウナスは目を細めた。しかし、ソロモン七十二柱か。俺でも名前くらいは知っている。
「別に、そのくらい知ってる奴は知ってるわよ。ネットで調べたら一瞬で出てくるわ」
「ネット……魔導書のようなものか」
少し驚いたような表情をしたアウナスだったが、直ぐに元の表情に戻った。
「まぁ良い、知っているのならば……契約するか? 得られるは力、知恵、宝。どれも素晴らしいものを保証しよう」
「嫌よ。代償に生命力をせびられるんでしょう」
刺激しない為か、弓を下ろしたまま話す塩浦だが、契約する気は無いらしい。
「ふむ、ならば……」
「――――あ、あのッ、俺とッ、俺と契約しませんかッ!?」
声を上げたのは、小戸だった。
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