つがいなんて冗談じゃない

ちか

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なんて幸せな神子

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 泣いたおかげか、わたしの気持ちも、少しだけすっきりし、わずかに落ち着きを取り戻せた。

 そこで意を決して質問してみることにした。

「ぁっあの!」

 緊張し過ぎて声が裏返り、思ったよりも大きな声が出た。

 さっきまでの喧騒が嘘のようにその場がしんっとしてたくさんの目がぎょろっとこちらに向いた。その視線に一瞬怯んだがなけなしの勇気を振り絞って続けた。言えるうちに全て言ってしまおうと一気に言いたいことをぶちまけた。

「あのっ、いきなり結婚とか考えられないです。そんな年齢でもないですし。それに神子と言われても全然意味わかんないっ……です。みこって一体なんなんですか?何かするんですか?ツガイもよくわかんないですし……この指の印はなんですか?それにここは一体どこなんですか?わたしは日本に帰れるんですか?」

 一度言い出した言葉は次から次へと溢れ出た。もう何が言いたのかわからなくなってきて、支離滅裂になりながらもなんとかわたしは言い切った。でも後半は再び涙が溢れてしまい、うまく言葉になっていたかもわからない。

 わたしの様子に呆気に取られたのか、一瞬間が空いたが、先ほど紹介された宰相がハッとして聞いて来た。

「たっ確かに、神子様はとても幼く見受けられる。結婚出来る年ではないというのは?失礼ですが、おいくつですか?」

 宰相のその質問に周囲もざわついていた。

「まさか、未成年か?」

「確かにまだ幼い顔をしていらっしゃる」

「未成年では方に触れるのでは?」

「まさか子供に手を出してしまったのか?天罰が下るのでは?」

「まだ花が咲く時期も迎えてはいないのではないか」
 
 そんなざわめきの中、

「じゅっ十六才です」

 そう答えると、宰相はとてもホッとした様子だった。

「あぁ、よかった十六才ですか、なら大丈夫ですよね?」

「神子様はお若く見えるからこちらも少し不安になりましたが一安心ですな」

「どうして結婚出来ないなどと?」

「あのわたしのいた国ではちがうので……」

「ならご安心ください。神子様のいらした国では多少違ったかもしれませんが、我が国では成人とみなされ結婚出来る年齢です。何の憂いもありません。番である殿下との結婚という幸福を存分にお受け取りください。殿下が罪を犯してしまうなどとご不安になられなくとも大丈夫ですよ」

 ゴアンシンクダサイ?ケッコントイウコウフク?そういうことじゃ……

 「コホン、えぇ、あとはそうですね。番に関してでしたかな?神子様もご存知かと思いますが、遣わされた際に混乱されてしまったのでしょうかな?改めてご説明させていただきますと番というのは互い惹かれ合い、愛し合う存在のことで子宝にも恵まれ易いと言われています。番との愛こそが真実の愛とされています。そしてそんな番と出会い結婚することがこの国では何よりも尊く幸せなこととされています」


 真実の愛……?

 それに何かこう説明がふわっとしていてイマイチ飲み込めない……

 次に塔でわたしに水晶玉を触らせてわたしをと判断した神官が続けた。

「それと神子様についてでしたかな。神子様とは神より選ばれた存在でこの国を豊かにしてくださる方のことです。神子様は何もなさらなくて良いのです。ただ存在してくださるだけで良いのです。神子様が幸せに暮らしていただければそれで役割は果たせているのです」

「何かお仕事みたいなことはしないのですか?」

「とんでもございません。尊き神子様にお仕事など。神子様はただ安寧にお過ごし頂ければいいのです。それだけで国を豊かにすることが出来るのです。強いて言えば、そのようにお過ごしいただくことこそがお仕事と思っていただければと」

 何それ?タダ飯ぐらいしてニコニコしていればいいの?本当にそんなことってある?

「そうです神子様。それに神子様はメレヴィス公爵殿下と番だというではありませんか。番と結ばれる以上の幸福はありますまい」

「それだけもう幸せに過ごされることは間違いないな。番といること以上の幸福などありますまい」

「これでもう国が豊かになる未来しかみえないな」

「何と幸運なんだ」

「いやはや、何という運命の導きか」

 と大臣たちが次々に言う。

 いきなり見ず知らずの人と結婚が幸せ?高校生になったばかりだったのにもう結婚?そんなの出来る年齢じゃないから考えたこともなかったのに。

 そんなことを思っていると神官が更なる事実を告げた。

「それに申し訳ないのですが、ニホン?とおっしゃったかな?そちらへと帰す方法はありません。我々にもなぜ神子様が我が国へ遣わされるのかわからないのです。それに大神のなさることに我々が疑問を持ち、調べるなど大変恐れ多いことでございます。それこそ神のみぞ知るということなのです」

「それにそんな聞いたこともない小国におられるより、我が国におられる方が神子様も幸せでしょう」

 嘘……帰れないの……?お父さん、お母さん、お兄ちゃん…

 わたしは帰れないと言われたショックでもう後半は何を言われたのか聞こえていなかった。

「またこれもご存知のこととは思い恐縮ですが、その薬指の印は番同士の婚姻の儀が成立した証です。番同士の婚姻の儀ではどちらかが亡くなるまで解消はできないのです」

 帰れないショックを受けている間に薬指の印の意味が聞こえて来た。

「そっそんな……」

「それは当たり前のことですな、神子様。普通、番が別れることなど死以外にあり得ぬことではありませんか。番とはそれだけ離れ難い存在なのです」

「ご安心なさいませ。私が番の貴方を必ず幸せにしますから」

 わたしのはそう言ってにっこり微笑んだ。その笑みはきっと大多数の女性が虜になるような見惚れる笑みなのだろうが今のわたしには何も響かなかった。

 そして先の話はもう終わりとばかりに次の話題へと流れて言った。

「これで神子様の憂いは全て解消されただろう。ギルフォード……」

「はい。わかっています」

「神子様、我が弟ギルフォードをよろしくお願いします」

 わたしの動揺も訴えた気持ちはちっとも伝わらなかった。

 わたしの中の何かにヒビが入った音がした。

そんなわたしが戸惑って動けない間にギルフォード殿下はわたしをすばやく抱き上げてドアの方へ歩き始めた。あまりの情報量にパニックになっていたわたしは抵抗する気力もなくなり、もはやわたしはただされるがままになっていた。

 後ろからは王様たちは結婚をいつ国民に公表するか、式はいつにするかなどの話し合いが続けられていた。


 わたしのことに関する話し合いなのにわたしがいなくても話は進められていく。







*花が咲く時期を迎えるとはこの世界の中での初めての月のものが始まることを意味します。異世界感を出したかったのでこんな言い回しをしています。
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