頑張れない悪役令嬢

ちか

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一話 転生

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 ぼやぼやした視界。うまく発音できない。妙に高い声。

 足を伸ばす、縮める。手を開く握る。

 そんな動きしか出来ない。

 聞き慣れない、誰かの声。

 ここはどこで私はどうなったんだろう?

 その答えはここで過ごすうちに少しずつ分かっていった。

 しばらくして周りの人達の言う内容で自分の置かれた状況が分かった。
 それによると私はコーデリアという名前で、映画で見るような中世のヨーロッパのような貴族の家に生まれた赤ちゃんらしい。



 でも……




 私は絶望感に襲われた。




 せっかく全て終わったつもりだったのに、また新しい人生を生きなくては行けないのかと……

 なんでこんなことになったのか……人間になんて生まれたくなかったのに……

 次第に目がぼやぼやしつつも近くのものは見えるようになり、近づいてきた男性の顔、少年の顔を見て、あぁきっとこの人達が父と兄なのだろうと思った。
 母らしき女性は見当たらなかった。近づいてくる女性たちは服装や話し方の違いからおそらく乳母とか侍女とかメイドという人達なんだろうと思う。

 父らしき人と兄らしき人の顔を見比べて、その兄が成長したらこんな大人になるんだろうなと思った。そしてその似たような顔を見て気がついた。

 クラスで流行っていたアニメのキャラのビジュアルに似ていると。

 もしそのキャラの妹なら私はきっと悪役令嬢だ。

 そして同時に思った。よくある悪役令嬢転生モノでどうしてみんな、断罪回避のためにあんなに頑張れたのかと。

 こういう異世界転生モノが好きでよく息抜きに図書館で読んでいた。だからセオリーは知っている。だけど……




 今の私にそんな気力はなかった。




 そもそも私はそのアニメを見たことがない。キャラを見たことあるのも同じクラスの女子がそのキャラのことをグッズを見せながら語っていたからだ。
 さらにその時うっかりその女子がグッズを落としてしまい、私の近くに転がってきたから拾って渡そうとしたら「触んな! あんたが触ったら穢れる! 」って言われて印象に残っていただけ。
 だからそれを先回りしてなんとかしようとするほどの知識もないし、そこまでの能力が自分にあるとは思えない。

 そして別に異世界といっても知識チートや内政チートができるほど文明は遅れてもいなそうだし、生前ただの学生だった私にそこまでの専門的な知識はない。


 何かをしたいと思えない。それが今の私の気持ちだ。
 心が疲れている。

 それに今の私にとっては前世になるが、その今までの経験からどうしても他人を信じるということが出来なかった。

 だからこのまま全て受け入れてまた全てを終わらせたらいいかと思った。

 だってこの悪役令嬢は生まれた時から、疎まれているみたいだから……

 私を産んでから母親は産後の肥立ちが悪く亡くなってしまったらしい。母は父と兄にとても愛されていたし、使用人たちにも慕われていたようだ。

 父は私が生まれてからろくに私の様子を見に来ようとはしなかったし、兄は来る度に私のこと睨みながらみて、「お前が生まれたせいで」など恨み言を言っていた。

 私の世話係の使用人もお前を妊娠なんかしたからと蔑んだ目で見られ、服で隠れて見えないところに痣をつくられた。
 その上、私がろくに泣きも笑いもしない赤ん坊だったせいで使用人達に余計に気味悪がられ、嫌悪された。

 きっとみんな母の死因になった私を憎まずにはいられないんだろうと思った。

 やっぱり、私はいらない子なんだと思った。いなくなれば丸く収まるんだと思った。
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