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三話 父side
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父side
シェリルを愛していた。だから無理に出産をしなくてもいいと思った。
けれど、彼女は生むと決心していた。たとえ自分がどうなろうとも。
生まれた子はとても可愛い女の子だった。昼間は仕事が忙しくなかなか会いに行けないが、毎日、夜には会いに行った。
もっとも、寝顔しか見ることは出来ない。本当は抱っこしてみたいが、せっかく気持ちよさそうに眠っているのに起こしてしまってはかわいそうだと思い、見ているだけにとどまった。今はそれで精一杯だった。
愛しいこの子を守ろうと思った。シェリルの願いを叶えていこうと思った。
しかし、そんなある日、息子のアイザイアから衝撃の事実を知らされた。
コーデリアの体にあざがあると。しかも服に隠れて見えないところに。
私は一体何を見ていたんだろうか。忙しいからと自己満足に寝顔を見るだけで。使用人に任せっきりで、普段のこの子の様子は報告のみで知ったつもりになっていた。
最愛の妻の最後の願いも叶えることができずに……
すぐさま調べるように専属執事に申しつけた。彼は古くからの付き合いであるし、公爵家としてではなく私個人で雇っているから信頼できる。さすがに私自ら聞いて回ったりなどできないからな。まぁたとえ出来たとしても、私に正直にいうはずもなし。彼に任せれば大丈夫だろう。
***
「おい、調査結果がでたぞ」
「ずいぶん早かったな」
「まぁな。それにそう望んでいただろう」
「あぁ」
「やっぱりあいつだったよ」
「……そうか、彼女はシェリルに心酔していたものな。シェリルが生きている頃も多少やり過ぎなことがあったが、まだ苦笑い程度で済んだんだがな。あんなにシェリルに心酔していた彼女がどうしてその娘を……コーデリアはシェリルに似ているのだがなそれがどうしてこうなるんだか。彼女がどうしてもと世話係に立候補したし、シェリルに心酔していた彼女ならコーデリアも大切にしてくれると思っていたのにな」
「そうはならなかったね。結局、奥様だけしかみていないし、いらないってことでしょ。それ以外認めないってこと。実際そう言ってたし」
「認めないとはずいぶん傲慢だな。一体どの立場からものを言っているのか。確かに私もこれまでに散々な物言いをされたことがあったな。だが、シェリルも信頼してるみたいだからと受け流していたが……娘に手を出すほど愚かだったとはな」
「もう、奥様に遠慮しないでさっさと処分しちゃえばよかったのに」
「……今更だ」
「……そうだね」
「それで彼女は?」
「地下に」
「わかった。あとはこちらでしよう。それとこれを機に大掃除もするとしようか」
「仰せのままに」
***
カツッ、カツッ、カツッ……
石畳の階段を降りて行く革靴の音が響く。
「やぁ、パッツィご機嫌いかがかな?」
「旦那様!これは一体どういうことですか?忠実に仕えている私が、由緒正しき子爵家のこの私がなぜこのような場所に入れられなければならないのですか?早くお出しくださいませ!シェリル様も私がこんな目にあっていると知ったらどんなに悲しむことか。まったく相変わらず旦那様は配慮が足りませんわ。それにコーデリア様の元には私が参らないと行けませんもの」
そう言って女は全く悪びれもせず、私に宣った。どうやら何をしたのか自覚がないようだ。いや、それともバレてないとでも思っているのか。
「旦那様!聞いていらっしゃるのですか!」
「黙れ」
その一言でようやく私の怒りを悟ったのか、女がびくりとした。
「お前のしたことはもう調べがついている。よくも私の可愛い娘に、シェリルが命懸けで残してくれた娘にあのような酷いことをしてくれたな。しかも、仕えるべき公爵家の娘だぞ」
「あっ、あぁ……いえ、あれは違うんです」
「言い訳は結構だ。まったくあれだけシェリルに心酔していたのによくその娘を虐げる真似ができるものだな。今までも私に対する不敬が度々あったが、シェリルがいたから不問としていたがどうやらまちがいだったようだな」
「あっあっあぁ……」
「お前の実家に此度のことを報告したらお前は除籍する故、子爵家は関係ない、その娘は好きにして構わないとの事だ」
「う、嘘よ、あっあぁあああ。そんなこと……」
「そういうことだ」
「あああああああああああああぁぁ、申し訳ありません。申し訳ありません。申し訳ありません」
「もう遅い」
シェリルを愛していた。だから無理に出産をしなくてもいいと思った。
けれど、彼女は生むと決心していた。たとえ自分がどうなろうとも。
生まれた子はとても可愛い女の子だった。昼間は仕事が忙しくなかなか会いに行けないが、毎日、夜には会いに行った。
もっとも、寝顔しか見ることは出来ない。本当は抱っこしてみたいが、せっかく気持ちよさそうに眠っているのに起こしてしまってはかわいそうだと思い、見ているだけにとどまった。今はそれで精一杯だった。
愛しいこの子を守ろうと思った。シェリルの願いを叶えていこうと思った。
しかし、そんなある日、息子のアイザイアから衝撃の事実を知らされた。
コーデリアの体にあざがあると。しかも服に隠れて見えないところに。
私は一体何を見ていたんだろうか。忙しいからと自己満足に寝顔を見るだけで。使用人に任せっきりで、普段のこの子の様子は報告のみで知ったつもりになっていた。
最愛の妻の最後の願いも叶えることができずに……
すぐさま調べるように専属執事に申しつけた。彼は古くからの付き合いであるし、公爵家としてではなく私個人で雇っているから信頼できる。さすがに私自ら聞いて回ったりなどできないからな。まぁたとえ出来たとしても、私に正直にいうはずもなし。彼に任せれば大丈夫だろう。
***
「おい、調査結果がでたぞ」
「ずいぶん早かったな」
「まぁな。それにそう望んでいただろう」
「あぁ」
「やっぱりあいつだったよ」
「……そうか、彼女はシェリルに心酔していたものな。シェリルが生きている頃も多少やり過ぎなことがあったが、まだ苦笑い程度で済んだんだがな。あんなにシェリルに心酔していた彼女がどうしてその娘を……コーデリアはシェリルに似ているのだがなそれがどうしてこうなるんだか。彼女がどうしてもと世話係に立候補したし、シェリルに心酔していた彼女ならコーデリアも大切にしてくれると思っていたのにな」
「そうはならなかったね。結局、奥様だけしかみていないし、いらないってことでしょ。それ以外認めないってこと。実際そう言ってたし」
「認めないとはずいぶん傲慢だな。一体どの立場からものを言っているのか。確かに私もこれまでに散々な物言いをされたことがあったな。だが、シェリルも信頼してるみたいだからと受け流していたが……娘に手を出すほど愚かだったとはな」
「もう、奥様に遠慮しないでさっさと処分しちゃえばよかったのに」
「……今更だ」
「……そうだね」
「それで彼女は?」
「地下に」
「わかった。あとはこちらでしよう。それとこれを機に大掃除もするとしようか」
「仰せのままに」
***
カツッ、カツッ、カツッ……
石畳の階段を降りて行く革靴の音が響く。
「やぁ、パッツィご機嫌いかがかな?」
「旦那様!これは一体どういうことですか?忠実に仕えている私が、由緒正しき子爵家のこの私がなぜこのような場所に入れられなければならないのですか?早くお出しくださいませ!シェリル様も私がこんな目にあっていると知ったらどんなに悲しむことか。まったく相変わらず旦那様は配慮が足りませんわ。それにコーデリア様の元には私が参らないと行けませんもの」
そう言って女は全く悪びれもせず、私に宣った。どうやら何をしたのか自覚がないようだ。いや、それともバレてないとでも思っているのか。
「旦那様!聞いていらっしゃるのですか!」
「黙れ」
その一言でようやく私の怒りを悟ったのか、女がびくりとした。
「お前のしたことはもう調べがついている。よくも私の可愛い娘に、シェリルが命懸けで残してくれた娘にあのような酷いことをしてくれたな。しかも、仕えるべき公爵家の娘だぞ」
「あっ、あぁ……いえ、あれは違うんです」
「言い訳は結構だ。まったくあれだけシェリルに心酔していたのによくその娘を虐げる真似ができるものだな。今までも私に対する不敬が度々あったが、シェリルがいたから不問としていたがどうやらまちがいだったようだな」
「あっあっあぁ……」
「お前の実家に此度のことを報告したらお前は除籍する故、子爵家は関係ない、その娘は好きにして構わないとの事だ」
「う、嘘よ、あっあぁあああ。そんなこと……」
「そういうことだ」
「あああああああああああああぁぁ、申し訳ありません。申し訳ありません。申し訳ありません」
「もう遅い」
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