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Perfume2.過去への疑問と子供の感情。
11. 広瀬さんっております?
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イノウエが瓶の棚に手を伸ばしていると、見覚えのない、このクリニックで用いている瓶とは違うものがあることに気が付いた。
「blue rose……青いバラ? あら珍しい」
見たことのない青いバラがどのようなものかを想像しつつそれではない目的の瓶を手に取る。
そして診療室に向かう途中、クリニックの前にカラフルに染められたTシャツとスキニーパンツを着た女性が中を覗き込んでいるのを見た。
朝の光を反射するくらい金色の、腰まであるストレートヘアをきゅっとポニーテールに束ねている、目鼻立ちのはっきりした美人だった。
診療室から出た後も、彼女は同じ場所にいた。
ドアを開けて、「なにかご用ですか?」と尋ねると、女性はにっこりと笑って言った。
「こちらに広瀬さんっております?」
「ええ、いますよ。お呼びしますか?」
「呼ばなくてええです。ただ、彼に『ミサワミカゲが来た』って伝えておいてください。では!」
“ミカゲ”と名乗ったその女性は、すぐに走って行ってしまった。
なんだか嵐のような人だとイノウエは思った。
昼食の時間に弁当の焼き魚を頬張るヒカルに「ミサワミカゲさんっていう女性が来た」と伝えたのだが、彼はあまりぴんときていない様子だった。
「覚えがないの?」
「はい、知り合いの女性ではないような……」
ヒカルが弁当の白米を少し口に追加したとき、モモンガが飛んできた。
それは赤いマントを羽織っている。
病院からの連絡だ。
すぐに箸を置き2人で外へ飛び出し、括られている手紙を確認すると、“火事によって火傷を負った10名を搬送したい”旨が書いてあった。
午前中最後の患者を診察していたマコトが診療室から出て来るのを見計らって、イノウエは10名もの患者が搬送されてくることを伝え、2人は先に受け入れる準備をしていたヒカルに合流した。
「アロエの液体をできるだけ多くのガーゼとマスクに染み込ませて! あとはベッドの用意を!」
ヒカルの指示でそれぞれが必死に動いていたが、ベッドとマスクの用意は出来たものの、ガーゼを必要な枚数用意する時間はなくサイレンを鳴らした救急車が到着した。
程度は様々だが、搬送された患者誰もが身体の皮膚がめくれ、やけに綺麗なピンク色の肉が見えている。
痛みに呻《うめ》く声がたちまちクリニックに流れ込む。
救急隊員とともにベッドに患者らを移し、出来る限り涼しくした部屋に運び込んだ。
火傷による皮膚の炎症に効果的なアロエの香りを吸収させたマスクを全員に着け、さらにアロエのガーゼを炎症部に貼る。
ひどい火傷には、嗅覚による内部からの治療と、ガーゼによる外部からの治療を合わせる必要があった。
痛い痛いと叫ぶ声がヒカルたちの治療の手を躊躇《ためら》わせたが、止めるわけにはいかない。
マコトが急いで次々とガーゼに液体を染み込ませていると、親指、人差し指、薬指に重ねて金色の指輪をしている手が視界に入った。
その手がタバコの香りを残しながら瓶を奪っていく。
「アロエだけやなくて、それぞれの性別の香りも含ませて! 女性にはバニラ、男性にはオレンジ」
その不自然な関西弁を話す女性に誰かを尋ねる前に彼女はセラピストのみに渡されるエンブレムを見せた。
「セラピスト、専門は皮膚です」
たしかにマコトは皮膚の専門ではないので、基礎的な知識しかなかった。
「俺なんの匂いかわかります?」
「ローズ。セラピストって信じてくれるやろ?」
詳しくその女性について知らないので信用するか悩んだが、今は緊急事態だ。
これで早く患者の傷が癒えるなら、と、信じることを決めた。
「イノウエさん、追加でお願いします」
マコトはイノウエに女性が言う通りの指示を出した。
ヒカルに見知らぬセラピストのこと、新しく指示を出したことを伝えると、
「良い判断だと思う」
と親指と人差し指で丸をつくった。
「blue rose……青いバラ? あら珍しい」
見たことのない青いバラがどのようなものかを想像しつつそれではない目的の瓶を手に取る。
そして診療室に向かう途中、クリニックの前にカラフルに染められたTシャツとスキニーパンツを着た女性が中を覗き込んでいるのを見た。
朝の光を反射するくらい金色の、腰まであるストレートヘアをきゅっとポニーテールに束ねている、目鼻立ちのはっきりした美人だった。
診療室から出た後も、彼女は同じ場所にいた。
ドアを開けて、「なにかご用ですか?」と尋ねると、女性はにっこりと笑って言った。
「こちらに広瀬さんっております?」
「ええ、いますよ。お呼びしますか?」
「呼ばなくてええです。ただ、彼に『ミサワミカゲが来た』って伝えておいてください。では!」
“ミカゲ”と名乗ったその女性は、すぐに走って行ってしまった。
なんだか嵐のような人だとイノウエは思った。
昼食の時間に弁当の焼き魚を頬張るヒカルに「ミサワミカゲさんっていう女性が来た」と伝えたのだが、彼はあまりぴんときていない様子だった。
「覚えがないの?」
「はい、知り合いの女性ではないような……」
ヒカルが弁当の白米を少し口に追加したとき、モモンガが飛んできた。
それは赤いマントを羽織っている。
病院からの連絡だ。
すぐに箸を置き2人で外へ飛び出し、括られている手紙を確認すると、“火事によって火傷を負った10名を搬送したい”旨が書いてあった。
午前中最後の患者を診察していたマコトが診療室から出て来るのを見計らって、イノウエは10名もの患者が搬送されてくることを伝え、2人は先に受け入れる準備をしていたヒカルに合流した。
「アロエの液体をできるだけ多くのガーゼとマスクに染み込ませて! あとはベッドの用意を!」
ヒカルの指示でそれぞれが必死に動いていたが、ベッドとマスクの用意は出来たものの、ガーゼを必要な枚数用意する時間はなくサイレンを鳴らした救急車が到着した。
程度は様々だが、搬送された患者誰もが身体の皮膚がめくれ、やけに綺麗なピンク色の肉が見えている。
痛みに呻《うめ》く声がたちまちクリニックに流れ込む。
救急隊員とともにベッドに患者らを移し、出来る限り涼しくした部屋に運び込んだ。
火傷による皮膚の炎症に効果的なアロエの香りを吸収させたマスクを全員に着け、さらにアロエのガーゼを炎症部に貼る。
ひどい火傷には、嗅覚による内部からの治療と、ガーゼによる外部からの治療を合わせる必要があった。
痛い痛いと叫ぶ声がヒカルたちの治療の手を躊躇《ためら》わせたが、止めるわけにはいかない。
マコトが急いで次々とガーゼに液体を染み込ませていると、親指、人差し指、薬指に重ねて金色の指輪をしている手が視界に入った。
その手がタバコの香りを残しながら瓶を奪っていく。
「アロエだけやなくて、それぞれの性別の香りも含ませて! 女性にはバニラ、男性にはオレンジ」
その不自然な関西弁を話す女性に誰かを尋ねる前に彼女はセラピストのみに渡されるエンブレムを見せた。
「セラピスト、専門は皮膚です」
たしかにマコトは皮膚の専門ではないので、基礎的な知識しかなかった。
「俺なんの匂いかわかります?」
「ローズ。セラピストって信じてくれるやろ?」
詳しくその女性について知らないので信用するか悩んだが、今は緊急事態だ。
これで早く患者の傷が癒えるなら、と、信じることを決めた。
「イノウエさん、追加でお願いします」
マコトはイノウエに女性が言う通りの指示を出した。
ヒカルに見知らぬセラピストのこと、新しく指示を出したことを伝えると、
「良い判断だと思う」
と親指と人差し指で丸をつくった。
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