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Perfume1.アロマセラピストは幸せ?
7. コーヒー飲む?
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白と黒の家具で統一された部屋。
ふわふわしたプードルのような絨毯《じゅうたん》を、暖色の柔らかい照明が照らす。
ガラス窓が四方に不規則に配置されていて、13階建てマンションの10階にあるこの部屋からはトウキョウの高いビル群と、それらの窓から漏れ出す輝く光が望める。
ヒカルは黒いソファに腰掛けて部屋の隅々まで視線を巡らせた。
今度はコーヒーのカップを両手に持ってリビングに戻ってきたマコトをじっと見た。
「なに?」と言いたげな表情で首を傾げる彼にヒカルは言った。
「いつ見てもマコトの部屋って豪華だよね。立地も良いし、同じ給料と思えないよ」
そう言われたマコトはカップをガラステーブルに置いて、部屋の一面にある大きな本棚から1冊のノートを持って来た。
無言でそれを開き、とあるページを見せる。
それは家計簿の先月のページだった。
支出の欄が……ほとんど空欄。
「俺の趣味、節約だからな。これくらいのワンルームは平気なんだ。って何度も言ってるだろ」
「たしかにそうかもしれないけど、そこまで節約できるマコトすごいよ」
特売品の食材を求めてスーパーを巡ったり、服は元はそこそこ値が張るものでもセールを待って購入したりといったことを苦に思わない彼は何度かヒカルにもそういった節約術を教えたが、ヒカルはそれを実践できる気がしなかった。
彼は仕事のときに限らずマメな性格なのだ。
2人はコーヒーを味わいながら、録画してあった映画を鑑賞した。
エイリアンが世界を襲うストーリーで、主人公とその友人がセラピストという設定のため、2人は彼らに異常なほど感情移入していた。
緊迫した戦闘シーンが終わり、この部屋にもリラックスした雰囲気が漂う。
「このコーヒー、美味しいね。新しい豆?」
「うん、フクシマで買った。旅行の度に豆買ってるからかなり溜まってるんだよね」
コーヒー好きのマコトは、豆から買ってきて家で挽いて淹れている。
常に彼の部屋にはコーヒーの芳ばしい香りが満ちていてヒカルはその香りが好きだった。
さらに彼はお香好きでもあり、今日は白檀《びゃくだん》というお香が焚いてある。
白檀は和風らしい木の香りで、心が休まるような気がするのだ。
そしてコーヒーを飲み終わり、ここに来る途中に買った缶ビールを開けた。
プシュっと空気の抜けるような音が重なり、2人は静かに乾杯をして飲み始めた。
ヒカルはビールが好きでよく飲むがあまり強くなく、マコトはたまに飲む程度だが何杯飲んでも変わらないほど強い。
理不尽だよな、とヒカルはよく言っていた。
コーヒーやお香について会話しているうちに、ビールの空き缶は増え続け、映画はクライマックスを迎えた。
無言で息をするのも忘れて見入る2人。
主人公の友人がエイリアンによって致命傷を負う。
周りの人は薬を用いて治してきたが、友人はセラピストなので使えず、そのまま友人は命を落とす……『なんでだよ、なんでだよ!』主人公が大声で叫ぶ……。
ヒカルたちのビールを飲む手は止まっていた。
というより、すべての動きが止まっているようだった。
静かな時間が続き、エンドロールが終わってからやっとマコトが沈黙を破った。
「ヒカルはセラピストに産まれて幸せって思う?」
マコトはそう言うと一気にビールを飲み干した。
ヒカルはもうかなり顔が赤くなっていて、いつもより脳が回りづらいのを感じながらどうにか思考する。
だが思考がまとまらず、「マコトは?」と聞き返した。
マコトは立ち上がり、それには答えずにキッチンへ向かった。
「最後に一杯、コーヒー飲む?」
「うん」
コーヒーの香りがヒカルの脳まで漂っていき、彼の脳はカフェインによって少し目覚めさせられた。
ふわふわしたプードルのような絨毯《じゅうたん》を、暖色の柔らかい照明が照らす。
ガラス窓が四方に不規則に配置されていて、13階建てマンションの10階にあるこの部屋からはトウキョウの高いビル群と、それらの窓から漏れ出す輝く光が望める。
ヒカルは黒いソファに腰掛けて部屋の隅々まで視線を巡らせた。
今度はコーヒーのカップを両手に持ってリビングに戻ってきたマコトをじっと見た。
「なに?」と言いたげな表情で首を傾げる彼にヒカルは言った。
「いつ見てもマコトの部屋って豪華だよね。立地も良いし、同じ給料と思えないよ」
そう言われたマコトはカップをガラステーブルに置いて、部屋の一面にある大きな本棚から1冊のノートを持って来た。
無言でそれを開き、とあるページを見せる。
それは家計簿の先月のページだった。
支出の欄が……ほとんど空欄。
「俺の趣味、節約だからな。これくらいのワンルームは平気なんだ。って何度も言ってるだろ」
「たしかにそうかもしれないけど、そこまで節約できるマコトすごいよ」
特売品の食材を求めてスーパーを巡ったり、服は元はそこそこ値が張るものでもセールを待って購入したりといったことを苦に思わない彼は何度かヒカルにもそういった節約術を教えたが、ヒカルはそれを実践できる気がしなかった。
彼は仕事のときに限らずマメな性格なのだ。
2人はコーヒーを味わいながら、録画してあった映画を鑑賞した。
エイリアンが世界を襲うストーリーで、主人公とその友人がセラピストという設定のため、2人は彼らに異常なほど感情移入していた。
緊迫した戦闘シーンが終わり、この部屋にもリラックスした雰囲気が漂う。
「このコーヒー、美味しいね。新しい豆?」
「うん、フクシマで買った。旅行の度に豆買ってるからかなり溜まってるんだよね」
コーヒー好きのマコトは、豆から買ってきて家で挽いて淹れている。
常に彼の部屋にはコーヒーの芳ばしい香りが満ちていてヒカルはその香りが好きだった。
さらに彼はお香好きでもあり、今日は白檀《びゃくだん》というお香が焚いてある。
白檀は和風らしい木の香りで、心が休まるような気がするのだ。
そしてコーヒーを飲み終わり、ここに来る途中に買った缶ビールを開けた。
プシュっと空気の抜けるような音が重なり、2人は静かに乾杯をして飲み始めた。
ヒカルはビールが好きでよく飲むがあまり強くなく、マコトはたまに飲む程度だが何杯飲んでも変わらないほど強い。
理不尽だよな、とヒカルはよく言っていた。
コーヒーやお香について会話しているうちに、ビールの空き缶は増え続け、映画はクライマックスを迎えた。
無言で息をするのも忘れて見入る2人。
主人公の友人がエイリアンによって致命傷を負う。
周りの人は薬を用いて治してきたが、友人はセラピストなので使えず、そのまま友人は命を落とす……『なんでだよ、なんでだよ!』主人公が大声で叫ぶ……。
ヒカルたちのビールを飲む手は止まっていた。
というより、すべての動きが止まっているようだった。
静かな時間が続き、エンドロールが終わってからやっとマコトが沈黙を破った。
「ヒカルはセラピストに産まれて幸せって思う?」
マコトはそう言うと一気にビールを飲み干した。
ヒカルはもうかなり顔が赤くなっていて、いつもより脳が回りづらいのを感じながらどうにか思考する。
だが思考がまとまらず、「マコトは?」と聞き返した。
マコトは立ち上がり、それには答えずにキッチンへ向かった。
「最後に一杯、コーヒー飲む?」
「うん」
コーヒーの香りがヒカルの脳まで漂っていき、彼の脳はカフェインによって少し目覚めさせられた。
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