上 下
18 / 94
Episode3.距離だった。

孤独感である。

しおりを挟む
「ただいま~」

そう部屋の中に向かって呼びかけるも、返答はなし。
真っ暗なリビングの電気を点けて入り口付近にバッグを置く。
以前はここにバッグや帽子を掛ける棒があったのだが、お兄ちゃんが彼女と同棲している家に勝手に持って行ってしまったようだ。

この部屋の中にはテレビ、テーブルぐらいしか家具という家具もなく、他の部屋に私の勉強机やキッチンがあるだけだ。
ちょっと広めのマンションの一室に住んでるとはいえ、ここでほとんどの時間を私1人で過ごすので持て余す。
でも広いのに越したことはないから良い。

……今までは広くて良いと思っていたが、私はどうしたんだ。
この広い空間の中にぽつんと一人きり。
うっすら耳鳴りのような音が聞こえるが、それは騒がしい人の声だと気付く。
びくっとして周りを見渡すも誰もおらず、たぶん人の声のするところにいたから耳に残ってしまったのだろう。

「ただいま!」

もう1度この一人きりの部屋に向かって叫ぶ。
なぜかこの声が震え始めていた。
視界はぼやけ、頬がどんどん濡れていく。
顎まで伝った水は床に零れ落ちそうになったが急いで手の甲で拭う。
それから止めどなく流れてくる水はハンカチを1枚だめにしたのでお風呂に入ってしまおうと思った。
やっと気が付いた、今着ているのは楓のワンピース。
さらに自己主張する涙を抑え込み、綺麗に畳んでお風呂場の前に置いておいた。

「……うぅ、うぇっ。ひっく……」

どうせ浴槽に満たしたお湯に私の涙を配合してもわからない。
安心して大量の涙をひどい嗚咽とともに排出する。
自分の体に手を巻き付け抱えるようにして右手でゆっくりとんとんしたり腰のくびれの辺りを優しくさする。
小さい頃泣いている私にお母さんがしてくれたことだった。

ひとしきり泣き、落ち着いた頃に目を冷水に浸ける。
明日腫れて泣いたことがばれないようにするためだ。
だが結局は腫れてしまうのだ……が、私のことをそんなに気にかける人もいないので別に腫れても構わない。

未だ食事を済ませていない腹は正直で、今度は腹の泣き声が聞こえる。
聞いたのは私だけだがどこか恥ずかしいので焦って風呂から上がっていつものジャージ、おさげ、眼鏡という姿に戻り、冷凍のラザニアを解凍して食べる。

「いただきます」

一応そうつぶやくのが癖になっている。
普段は料理も作るが、今日は疲れたので手抜きで済ませた。

やり残した今日の自分で定めたノルマを達成するために疲れていないと暗示してシャーペンの芯を出して握る。
英語をすらすら書くのは楽しいがやっぱり睡魔は私を襲う。
最近いろいろな変化が訪れて疲れが半端ではなかった。

頑張って意識を留めていたが、気が付けばもう夢の世界へ引きずりこまれていた。

こんなにも孤独感を感じながら過ごす時というのは久々だ。
その寂しさに心が音を上げて涙が復活してくる。
もう自分の服なので袖に顔を埋めて再び泣く。
これを繰り返しているうちに朝を迎え、ベランダでは鳥たちが私を起こしに来て、隣のおばさんは布団干しという仕事に取り組んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...