Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの

文字の大きさ
上 下
28 / 42
星龍の章 第一部

しおりを挟む

「はじめまして。貴方がカイ・リーズさん?」
 その女は妖艶に笑った。半分だけ。
 うん、そら怯えるわな、本部長でも。
 なんちゅうか、その……人間なのか? この人。
 燃える様な真っ赤な髪、海の様な青い目、形のいい唇、白い肌。完璧すぎるほどの美人……左半分だけ。
 残りの右半分はどこからどう見ても機械だし。それもわざと中身が見えるような、無骨な造りのものだ。
 目なんて、カメラのレンズみたいに突き出てて照準がついてる。頬のあたりに配線とかギアとか剥き出しに見えてるし。耳の場所にはスピーカーみたいなのがあるし。
 左半分が超美人だけに、一層不気味に見える……ってか、握手するのに差し出された手って、すでに手の形すらしてない、工場のマニピュレーターってカンジだし。
 うぉっ、肘の辺りに小さなドリルと丸いノコギリまで見えるぞ! 伸びるのか、あれ。
 女性に外見で嫌な顔を見せては失礼かと思い、オレは平静を装って冷たくて硬い手と握手した。
うう、人間離れしたA・Hは見慣れているとはいえ、こういうのは初めてだ……。
「あなたは?」
「申し遅れました。私はデリア・アルブレヒト。外科医です」
 外科医……この手で? 想像するだに恐ろしい手術をしそうだ。ドリルに丸ノコ。
「あの、オレに何の用でしょう?」
「私を助けて頂きたいと思いまして」
「はぁ?」
 彼女は部屋をせわしなく見渡した。おお、目がうぃーんって伸びたぞ。すげぇ。
「監視はいませんね」
「前にちっこい監視用ロボットが入り込んでから、この建物内の警備を厳しくしています。大丈夫だと思いますよ」
 それを聞いて彼女は話し始めた。
「私は命を狙われているのです。実はある手術をしてから……」
 Drアルブレヒトの話は興味深い内容だった。
 奇跡の腕を持つ脳外科医として、その道ではちょっとした有名人の彼女。半年程前のある時、謎の組織に囚われたのだという。
 解放の条件として、ある手術をして成功させることを告げられ、やむなく引き受けた。内容は先天性の脳疾患で意識も無く、動かない患者の体に、別人の脳を移植するというもの。
「法的、倫理的に問題があるのは知っています。でも……」
「あなたも命が掛かっていますからね、仕方がないと思います」
「受け入れ先の体の脳は、脳幹以外ほぼ機能していませんでしたから、私も少しは気が楽だったのですが―――」
 う~ん、何でオレにこんな話をって思うんだけど、記憶のどこかで引っかかるんだよな。オレもまんざら無関係でも無さそうな気さえする。何だったかな……。
「無事手術も終わって解放されたのも束の間、先日今度はもう一度違う体に移せと言われて。流石に今度は断りました。受け入れ先が健康な体ですから」
「えっと、何故警察にでは無くG・A・N・Pに?」
「先の手術、二回目の依頼、どちらも移植先の体がA・Hだったからです」
 ……なんかとんでもない話だが、確かにここの管轄だわな。
「それはG・A・N・Pとしても無関係では無いので、あなたのお力になりたいとは思いますが……で、断ったがために命を狙われていると?」
「はい。意外とあっさり断りに応じてくれたのですが、自宅は常に監視されているのを感じますし、周囲で異常な事故などもほぼ毎日」
 そこで、オレが一番気になっていたことを訊いてみる。
「あの、でもなんでオレ名指しなんですか? 誰に名前を?」
「G・A・N・P極東支部長のシンディ・ロズウェルさんの紹介ですわ。シンディさんとは昔からお友達ですの。彼女に相談したら、貴方ならきっと私の力になってくれると」
 こら、キツネ女! あんたは何を考えてるんだよ! 面倒ごとはいつもオレか?
「私の姿を見て顔色を変えなかったのは貴方だけですわ。大概皆怖がりますけど。シンディさんが貴方を押した訳がわかります」
 いや、内心ものすご~く動揺しておりますが? ポーカーフェイスが得意なだけで。しっかし、えげつない友達がいるんだな、シンディ姉さん。
「失礼かと思いますが、何故そのような姿に?」
「事故ですわ。昔、実験用の濃硫酸を浴びまして。溶けてしまったのです、半分」
 ひぃいい~~! すっげぇ怖い話ぃ! 訊かなきゃよかったぁ。今晩眠れない。
 想像しそうになってビビりまくっているオレに、Drアルブレヒトは妙にのんびり言う。
「でも職業柄、これも結構便利なんですよ。私は気に入っているのですが」
「た、確かに便利そうですね」
 ドリルに丸ノコだもんなぁ……。
 しかし、さぞや元は美しい人だったんだろう。機械にするにも、もうちょっと造詣に拘れるだろう。技術も進んでいるのだし、人間と区別がつかないアンドロイドもいるくらいだ。こんな風に機能重視にしなくてもいいはずなのに、その開き直りっぷりがちょっと素敵に思えてきた。どうも人間の半分も天然さんっぽいな。
 とりあえず話を進めよう。
「えっと、相手がわからないとこちらも保護しようがないので、あなたを拉致した相手について何か覚えてる事がありましたら、教えていただきたいのですが」
 尋ねると、Drアルブレヒトは少し難しい顔……半分だけ……で答える。
「それが全くといって覚えが無いのです。行きも帰りも眠らされていましたので。連れて行かれた場所がどこなのかも。でも、設備は大病院よりも揃っている場所でした。それにクランケの顔なら覚えてますわ。移植先の方ですけど」
「どんな人でした?」
「とても背が高くて、ハンサムな若い男性でした。髪は黒。瞳は薄いブルーでしたね」
 あっ! それってひょっとして……。
「あの、一緒に来てもらえますか?」
「はあ……いいですけど、ちょっと待ってください」
 Drアルブレヒトは、バッグから大きな布を取り出した。流石に外では半分ヴェールで隠してるようで、頭から布を被った瞬間にミステリアスな美女に早代わりだ。
「私は一向に構わないのですが、他の方が怖がられますので」
 確かにそうだな。心臓に悪い。ってかさ、オレの前でも最初から被っていて欲しかったよ。
 オレはDrアルブレヒトを連れて医療センターに行った。説明するより見せた方が早いかなと思ったから。
「あら、カイ。フェイとルイはさっき着替えを取りに帰ったわよ」
 廊下でいつもの女医さんとすれ違った。
「そちらは……あらやだ、デリアじゃないの!」
「まあ、エリザベスさん。こちらにいらっしゃいましたの?」
 おいおい、知り合いか。顔広いな、この女。それより、先生はエリザベスっていうんだな。名前初めて知ったぞ。そういやフェイがリズ先生って呼んでたな。
「急ぐので、再会の挨拶は後で」
 女医さんにそう言って、Drアルブレヒトを連れて先を急ぐ。
 オレは一刻も早く真相を知りたい。
 目的の部屋の前に着き、驚かせてはいけないので細心の注意を払ってドアを開ける。
 あ、眠ってる。
「耳がいいので静かにお願いしますね」
 そっとベッドに近づいて、Drアルブレヒトがベッドの上の人物を覗き込んだ。
「髪の色は違うけど、こんな顔してませんでした?」
「ええ! そっくりですわ」
 声デカイって。起こしちゃうだろ!
 間違いない……これでロンの謎が解けたぞ。この人じゃないけど、半分だけ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Wild in Blood ~episode Zero~

まりの
SF
Wild in Bloodシリーズの外伝。ディーン・ウォレスがG・A・N・P本部に移籍する前、『Wild in Blood』へと続く若き日の記録。

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

狼さんの眼鏡~Wild in Blood番外編~

まりの
SF
Wild in Bloodの番外編。G・A・N・Pの研究班に所属する学者のマルカは美人で頭が良いが自覚の無い天然さん。ちょっとしたミスから「憧れの彼」とデート?する事に。運の悪い彼を殺さずに、無事一日を終わる事ができるのか。★本編で一人称だと主人公の容姿や顔がわかりづらかったので、違う視線から見てみました。女性主人公です

医療惑星フォボスでの新米ヒーラーの奮闘記

M-kajii2020b
SF
新米ヒーラーのクイは、医療惑星フォボスのどん詰まり谷と呼ばれる医療施設に赴任するが、そこには、一癖も二癖もある患者と白魔導士の様な病院長がいて彼らの我がままをとりなす任務が始まる。

時空超越少年

シンマヨ
SF
アニメ感覚で簡単に読めるのがウリの小説! 時空超越少年 現代と未来を融合させたファンタジー。 気が付けば見知らぬ土地、何が待ち受けているのか。

Wild in Blood

まりの
SF
宇宙・極地開拓の一端として開発が進んだ、動植物の能力遺伝子を組み込んだ新人類A・H。その関連の事件事故のみを扱う機関G・A・N・Pに所属する元生物学者ディーン・ウォレスは狼のA・Hに自らを変え、様々な事件に挑みながら自分から全てを奪った組織への復讐の機会を待っていた――約二十年書き続けているシリーズの第一作。(※ゲームやVRの要素は全くありません)

龍の錫杖

朝焼け
SF
バイオテクノロジーの研究者として普通の家庭を築き普通の人生を送っていた普通の男、花咲 九山。 彼が長い眠りから覚めるとそこは謎の巨大建造物を中心とした広大な未来都市、「龍の錫杖」だった。 大切な家族と五十年間の記憶を失い狼狽する九山が何故か携えていたのは最強の改造人間「青鬼」に変身する力! 未来都市で暴れまわる規格外の化物「害獣」をその青鬼の力で打ち倒す! ハードSF&バトルアクション!!

王冠の受難

まりの
SF
Dragon maze~Wild in Blood 2~の番外編というより後日談。 元闇市場のボスであるレイとロンになってしまったルーの優雅なのかどうなのかわからない日常

処理中です...