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星龍の章 第一部
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しおりを挟む「はじめまして。貴方がカイ・リーズさん?」
その女は妖艶に笑った。半分だけ。
うん、そら怯えるわな、本部長でも。
なんちゅうか、その……人間なのか? この人。
燃える様な真っ赤な髪、海の様な青い目、形のいい唇、白い肌。完璧すぎるほどの美人……左半分だけ。
残りの右半分はどこからどう見ても機械だし。それもわざと中身が見えるような、無骨な造りのものだ。
目なんて、カメラのレンズみたいに突き出てて照準がついてる。頬のあたりに配線とかギアとか剥き出しに見えてるし。耳の場所にはスピーカーみたいなのがあるし。
左半分が超美人だけに、一層不気味に見える……ってか、握手するのに差し出された手って、すでに手の形すらしてない、工場のマニピュレーターってカンジだし。
うぉっ、肘の辺りに小さなドリルと丸いノコギリまで見えるぞ! 伸びるのか、あれ。
女性に外見で嫌な顔を見せては失礼かと思い、オレは平静を装って冷たくて硬い手と握手した。
うう、人間離れしたA・Hは見慣れているとはいえ、こういうのは初めてだ……。
「あなたは?」
「申し遅れました。私はデリア・アルブレヒト。外科医です」
外科医……この手で? 想像するだに恐ろしい手術をしそうだ。ドリルに丸ノコ。
「あの、オレに何の用でしょう?」
「私を助けて頂きたいと思いまして」
「はぁ?」
彼女は部屋をせわしなく見渡した。おお、目がうぃーんって伸びたぞ。すげぇ。
「監視はいませんね」
「前にちっこい監視用ロボットが入り込んでから、この建物内の警備を厳しくしています。大丈夫だと思いますよ」
それを聞いて彼女は話し始めた。
「私は命を狙われているのです。実はある手術をしてから……」
Drアルブレヒトの話は興味深い内容だった。
奇跡の腕を持つ脳外科医として、その道ではちょっとした有名人の彼女。半年程前のある時、謎の組織に囚われたのだという。
解放の条件として、ある手術をして成功させることを告げられ、やむなく引き受けた。内容は先天性の脳疾患で意識も無く、動かない患者の体に、別人の脳を移植するというもの。
「法的、倫理的に問題があるのは知っています。でも……」
「あなたも命が掛かっていますからね、仕方がないと思います」
「受け入れ先の体の脳は、脳幹以外ほぼ機能していませんでしたから、私も少しは気が楽だったのですが―――」
う~ん、何でオレにこんな話をって思うんだけど、記憶のどこかで引っかかるんだよな。オレもまんざら無関係でも無さそうな気さえする。何だったかな……。
「無事手術も終わって解放されたのも束の間、先日今度はもう一度違う体に移せと言われて。流石に今度は断りました。受け入れ先が健康な体ですから」
「えっと、何故警察にでは無くG・A・N・Pに?」
「先の手術、二回目の依頼、どちらも移植先の体がA・Hだったからです」
……なんかとんでもない話だが、確かにここの管轄だわな。
「それはG・A・N・Pとしても無関係では無いので、あなたのお力になりたいとは思いますが……で、断ったがために命を狙われていると?」
「はい。意外とあっさり断りに応じてくれたのですが、自宅は常に監視されているのを感じますし、周囲で異常な事故などもほぼ毎日」
そこで、オレが一番気になっていたことを訊いてみる。
「あの、でもなんでオレ名指しなんですか? 誰に名前を?」
「G・A・N・P極東支部長のシンディ・ロズウェルさんの紹介ですわ。シンディさんとは昔からお友達ですの。彼女に相談したら、貴方ならきっと私の力になってくれると」
こら、キツネ女! あんたは何を考えてるんだよ! 面倒ごとはいつもオレか?
「私の姿を見て顔色を変えなかったのは貴方だけですわ。大概皆怖がりますけど。シンディさんが貴方を押した訳がわかります」
いや、内心ものすご~く動揺しておりますが? ポーカーフェイスが得意なだけで。しっかし、えげつない友達がいるんだな、シンディ姉さん。
「失礼かと思いますが、何故そのような姿に?」
「事故ですわ。昔、実験用の濃硫酸を浴びまして。溶けてしまったのです、半分」
ひぃいい~~! すっげぇ怖い話ぃ! 訊かなきゃよかったぁ。今晩眠れない。
想像しそうになってビビりまくっているオレに、Drアルブレヒトは妙にのんびり言う。
「でも職業柄、これも結構便利なんですよ。私は気に入っているのですが」
「た、確かに便利そうですね」
ドリルに丸ノコだもんなぁ……。
しかし、さぞや元は美しい人だったんだろう。機械にするにも、もうちょっと造詣に拘れるだろう。技術も進んでいるのだし、人間と区別がつかないアンドロイドもいるくらいだ。こんな風に機能重視にしなくてもいいはずなのに、その開き直りっぷりがちょっと素敵に思えてきた。どうも人間の半分も天然さんっぽいな。
とりあえず話を進めよう。
「えっと、相手がわからないとこちらも保護しようがないので、あなたを拉致した相手について何か覚えてる事がありましたら、教えていただきたいのですが」
尋ねると、Drアルブレヒトは少し難しい顔……半分だけ……で答える。
「それが全くといって覚えが無いのです。行きも帰りも眠らされていましたので。連れて行かれた場所がどこなのかも。でも、設備は大病院よりも揃っている場所でした。それにクランケの顔なら覚えてますわ。移植先の方ですけど」
「どんな人でした?」
「とても背が高くて、ハンサムな若い男性でした。髪は黒。瞳は薄いブルーでしたね」
あっ! それってひょっとして……。
「あの、一緒に来てもらえますか?」
「はあ……いいですけど、ちょっと待ってください」
Drアルブレヒトは、バッグから大きな布を取り出した。流石に外では半分ヴェールで隠してるようで、頭から布を被った瞬間にミステリアスな美女に早代わりだ。
「私は一向に構わないのですが、他の方が怖がられますので」
確かにそうだな。心臓に悪い。ってかさ、オレの前でも最初から被っていて欲しかったよ。
オレはDrアルブレヒトを連れて医療センターに行った。説明するより見せた方が早いかなと思ったから。
「あら、カイ。フェイとルイはさっき着替えを取りに帰ったわよ」
廊下でいつもの女医さんとすれ違った。
「そちらは……あらやだ、デリアじゃないの!」
「まあ、エリザベスさん。こちらにいらっしゃいましたの?」
おいおい、知り合いか。顔広いな、この女。それより、先生はエリザベスっていうんだな。名前初めて知ったぞ。そういやフェイがリズ先生って呼んでたな。
「急ぐので、再会の挨拶は後で」
女医さんにそう言って、Drアルブレヒトを連れて先を急ぐ。
オレは一刻も早く真相を知りたい。
目的の部屋の前に着き、驚かせてはいけないので細心の注意を払ってドアを開ける。
あ、眠ってる。
「耳がいいので静かにお願いしますね」
そっとベッドに近づいて、Drアルブレヒトがベッドの上の人物を覗き込んだ。
「髪の色は違うけど、こんな顔してませんでした?」
「ええ! そっくりですわ」
声デカイって。起こしちゃうだろ!
間違いない……これでロンの謎が解けたぞ。この人じゃないけど、半分だけ。
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