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翼蛇の章 前編
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しおりを挟む2133年 バンコク
何、この緊張感。
仕事あがりに誘われて飲み屋って、もっとこう砕けたカンジだろ、普通。
「カイ、お前ももっと飲めよ」
「そのくらいにしておかないと、また医局送りですよ」
「……もういいんだ、どうでも」
ヤケになってるなぁ。ま、気持ちはわからなくもないけどさ。
白い頬には赤く手の跡。思い切り平手を喰らったんだな。
ったく、ちょっとは加減しろよ、フェイ。夫婦喧嘩じゃあるまいし。
「きゃあ、可愛い!」
「ちっちゃ~い」
日本から本部に連れて帰ると、ルイは早速皆のアイドルと化したが……
「でも、この子、どこかで見たような?」
やはり、二言目には皆が同じ感想を漏らした。
オペレーションルームでトーキョーの事件の報告を済ませ、オレとフェイは医局に預けてあったルイの元に行く。丁度ルイは裸にされて健康チェックの真っ最中だった。
「いいわねぇ、健康そのものって感じね。月齢どおりで体の発育状態も問題ないわ」
美人だが隊員には怖い女医さんが、珍しく笑顔で診断してた。
「問題ないって……あの、それお尻に生えてるのは……」
「尻尾だけど?」
先生、わかってるよそんな事は! 服で見えなかったけど、ルイってふさふさの尻尾があったんだな。耳と同じ薄いグレーの毛の生えた尻尾だ。
「前にもあるよぉ~」
ルイ、そんなちっちゃいのを自慢げに見せなくていい。間違いなく男の子だとよくわかった。でもフェイ、なぜ赤くなる?
「異種合成なんでしょ? 尻尾程度なら異常とも呼べないわよ。可愛いじゃない」
先生に頭を撫でられてルイはニコニコだ。
「ほめられた~」
おお、ふりふりしてるな、尻尾も。ご機嫌さんだな。
「知能指数はこの歳の子の三倍以上。天才といえるくらいのとても頭のいい子だわ。でも、一つだけ大きな問題があるんだけど、あなた達知ってた?」
「え?」
「この子、目はほとんど見えてないわよ」
な、なにぃ?!
「光と色、形をぼんやり認識できる程度ね。頭がいいから、空気で人の感情や表情まで読めるし、耳はとてもいい。おまけに反響測定を使えるから全くといっていいほど困っていないけど、嗅覚は人並だし、目がこれじゃ、この先ちょっと可哀想かもね」
「だから、ママがよくわからなかったのか……」
「ま、研究部の方で矯正の方法を考えているから、しばらく様子みてて。遺伝子情報も解析中よ。親をみつけられるかもしれないわ」
そんなわけで、ルイはまたしてもフェイにひっついたままなので、しばらく中庭で遊ばせて、その後カフェに連れて行った。
「アイスぅ!」
嬉しそうにパクついてる様子からは、目がほとんど見えていないなんて信じられない。余程感覚が優れているのだろう。
「やぁん、可愛い」
ここでもまた人が集まってきた。
「お、カイの子か?」
「ぶっ!」
後ろから海難事故処理班のヒューイに声を掛けられ、コーヒーを噴いた。
「ば、馬鹿言うなっ! この子は……」
誰の子だろうな?
「なあ、ルイのパパってどんな人かママに聞いたか?」
本人にさらっと聞いてみた。
「えっとねぇ、G・A・N・Pの人だって。ねえ、ママ、ここにはいるかなぁ?」
おーい、今ものすごい事が聞えたけどぉ?
「ルイ、どうしてそういう大事なことを早く言わない?」
「ママが知ってるし」
「だから、僕はママじゃ……」
言いかけてフェイは口を押さえた。また大泣きされると困るからな。
「ほうほう、面白い。やっぱお前の子じゃないのか?」
「そういうあんたはどうなんだよ?」
ヒューイはこのG・A・N・P本部でたぶん一番の遊び人だ。きっとあちこちのお花畑に花の種を撒いてきたに違いない。
「そんなヘマしないし。ってかさぁ、この子、誰かに似てるよな」
「やっぱ、そう思うだろ?」
「何となく目元はフェイにも似てるかな。でももっと誰か似てるのが……」
皆の視線がルイに集まる中、ルイ本人はご機嫌でアイスを食べている。
その時、先ほどの医局の先生がやってきた。
「まだ試作品で調整が必要だけど、ちょっと合わせてみて」
そう言って、先生は後ろからルイに小さな眼鏡を掛けた。
「わ、なんか見える!」
「ああぁ~~~っ!!」
ルイが声を上げたのと、オレを含めたこの場の全員が声を上げたのとは同時だった。
この子の父親って……。
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