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終話
新しい旅立ち
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「王様お髭が痛いですっ」
ぎゅうううっとされて頬ずりされまくってます。
「シスぅ、行かんでおくれ」
「また帰ってきますから」
「何年も先じゃろ? ワシはもう死んでおらんかもしれんではないか」
いえいえ。殺しても死にそうに無いので長生きするでしょう。
「さ、オヤジは放っておいて。ユシュア君待ってるわよ」
お姫様の救いの手が差し伸べられて、やっと王様から解放された。
「本当にお世話になりました。遠い空より聖王のご息災をお祈りしております。それでは行って参ります」
「おお、そんな大人びた事が言える様になったのじゃのぅ」
跪いて頭を下げると、王様はくすんくすん鼻を鳴らしてる。いいおじさんが泣かないの。
お城の門の所で、皆が待ってた。
「遅いぞ、シス」
リンドさん。
「どうせフェドル王に捕まってたんでしょう」
「まったく、今生の別れみたいに」
マルクさんとラルクさん。
「にもつ、積んだよ」
ジンデさん。
「考え直すなら今だぞ」
何故かフィランさんまでいますね。いや、只今即位に向けて余所の国で勉強してこいとキノアのアキレア王に放り出されてトトイに来てるんだけどね。
あれから二年。僕は十六に、ユシュアさんは二十歳になった。
旅の資金を貯める為に、ユシュアさんは昔の理学療法士の知識を生かしてリハビリの治療院をやったり、呼ばれれば魔物退治に出かけたりしていっぱい働いた。
僕はユシュアさんと一緒に住んで毎日お城に通い、読み書きを習ったりしながら動物の世話をするお仕事をもらった。言葉がわかるからとても重宝がられた。
生活するにもお金がいるので、思ったより長くかかってしまったが、やっとしばらく旅に出られるくらいのお金が溜まった。
お金の心配などしなくても出してやるのにと王様は言ってくれた。だけど、やはり人に頼る事無く、自分達でなんとかしないと将来心配だし。それに何かとお姫様やリンドさん、双子には助けてもらう事が多かった。何だかんだで僕達はこの世界の事をあまり知らないままだったから。
育った巣にルイドに連れて行ってもらった時、お母さんは新しい卵を抱いていた。半年程で孵るから、今頃は可愛い弟か妹のお世話に大忙しだろう。僕の長い髪を大事に大事にしてくれてたのが嬉しくて、ちょっと泣いちゃったよ。
ルイドは今年の繁殖期に崖に帰った。あれから半年。無事に卵が孵ってパパになってるかな?
「いいか、ちゃんと食事は抜かずに食べるんだぞ」
リンドさん、まるっきりお父さんみたいになってるね。大丈夫、もう貧血で倒れたりしないよ。背だって少しは……ううっ、ほんの少しだけど大きくなったし、靴だって嫌がらずに履いて歩けるようになったし。結構大人になったんだからね。
「知らない人に声を掛けられてもついて行っちゃ駄目だよ」
「そうそう。ちゃんと肌を隠してね。無意識に誘惑しちゃうんだから」
マルクさん、ラルクさん……何ですかそれは。
「大丈夫よね。ユシュア君が守ってくれるから。あ~いいなぁ。私もまた旅に出たいわぁ」
お姫様、あなた跡継ぎとして認定されたんでしょう? 駄目ですよフラフラしてちゃ。早くいい人見つけて王様に孫を見せてあげてください。
「にーちゃ、無理、ダメ。わかる?」
ジンデさんはこの頃いっぱい喋れる様になった。お姫様の正式な従者として引き取られ、お城でもとても可愛がられている。
「嫌になったら何時でも帰って来るんだよ。おい、ユシュア。この子を泣かせる様な事があったら僕が許さないぞ」
フィラン王子は、まだ僕に対するのとユシュアさんに対するのと喋り方が全然違うねぇ。心配しなくても僕は泣かされたりしないから。
「ああ、そうだ。キノアには寄るでしょ?」
お姫様が言うのに、ユシュアさんが頷く。
「ええ。アトス王子の様子を見てきます。少し右手が動く様になったと手紙をいただきました。残念ですね、もう少し早くに気がついていれば立てる位になっていたかも知れないのですが」
落馬で背骨を傷めた事が原因の全身の麻痺でも、片手が動く事を知ったユシュアさんはリハビリを勧めた。この世界では治しようも無かったのだが、寝たきりにせずにもっと早くに適切な訓練をしていれば筋力の低下を抑えられたかもという事だった。交通事故などで不随になった人でも、訓練しだいで歩けるようになる。少しでもと方法を王室医師に教えて毎日訓練した結果、右の手も少し上がる様になったとのこと。生きる気力も沸いて、少し元気になったみたい。
「兄上に半年したら帰ると伝えてくれ」
「わかった。帰ったら、訓練とマッサージを毎日してあげてくれ」
「ああ」
何だかんだでフィランさんとユシュアさんは仲いいんだけどね。フィランさん曰く、理由は僕の好きな人は弟と同じだからだそうだ。
……小姑か、あんたは……僕の婿ですか、ユシュアさんは。
一人ずつハグしてお別れの挨拶をした。
「リンドさん、泣かないよね?」
「お、おお。もっ、勿論だっ」
泣いてるよ……いつまで経っても涙腺の弱い人だ。またいきなり追いかけて来そうで怖いよ。
「私がよーく見張ってますから。シスは安心して」
マルクさん。ふふふ、知ってるよぉ。もう既にリンドさんの嫁状態だよね。しかも尻に敷くタイプだとみた。幸せになってね。
「行こう。竜馬が早くしろって騒いでるよ」
「それでは、行ってきます」
「皆、元気でね!」
「絶対に帰って来るんだよ!」
手を振ってお別れ。
僕達は旅に出る。何年かかるかわからないけど、海を越え、世界中を見てまわるんだ。
大翼鳥の雄は旅に出る。それと同じ。
僕には大翼鳥みたいに翼は無いけれど、大好きな人と一緒なら何処にだって行ける。何処に行ってもきっと笑っていられる。
これが本当の巣立ちなのかもしれない。
「おーい! シスーっ!」
トトイのお城を離れてしばらくして声が掛かった。
ん? 空から?
「お、お兄ちゃん?」
なぜか崖に帰ったはずのルイドがいた。
「置いてけぼりは酷いぞ」
「だって、つがいは……」
「ふふん、無事卵か孵ったぞ! 俺はお父さんだからな」
すっごい得意げに言ってますけど。
「おめでとう! すごいじゃない」
「そういうワケで俺も旅に出るから」
むう……そうだった。大翼鳥の雄は卵か無事孵ったら旅に出るんだ。
嫌でももう離してあげない、一緒に行こうって前に言った気がする。
「ユシュアさん、ルイドも一緒に行く気満々だけど。どうしよう?」
「いいじゃない。賑やかで」
二人っきりの時間が減っちゃうけど……ま、いいか。
「俺に乗れば海だって越えられるぞ」
「二人も?」
「おおう。もういっちょ前の大人だからな」
そうだね。二年で一回りは大きくなって成熟した大人の大翼鳥になったからね。綺麗な真っ白の羽根は変わらないけど、顔つきもちょっと大人っぽくなったかな?
そして僕達は旅に出た。
二人と一羽。
どんな事が待っているかは……わからない。
ぎゅうううっとされて頬ずりされまくってます。
「シスぅ、行かんでおくれ」
「また帰ってきますから」
「何年も先じゃろ? ワシはもう死んでおらんかもしれんではないか」
いえいえ。殺しても死にそうに無いので長生きするでしょう。
「さ、オヤジは放っておいて。ユシュア君待ってるわよ」
お姫様の救いの手が差し伸べられて、やっと王様から解放された。
「本当にお世話になりました。遠い空より聖王のご息災をお祈りしております。それでは行って参ります」
「おお、そんな大人びた事が言える様になったのじゃのぅ」
跪いて頭を下げると、王様はくすんくすん鼻を鳴らしてる。いいおじさんが泣かないの。
お城の門の所で、皆が待ってた。
「遅いぞ、シス」
リンドさん。
「どうせフェドル王に捕まってたんでしょう」
「まったく、今生の別れみたいに」
マルクさんとラルクさん。
「にもつ、積んだよ」
ジンデさん。
「考え直すなら今だぞ」
何故かフィランさんまでいますね。いや、只今即位に向けて余所の国で勉強してこいとキノアのアキレア王に放り出されてトトイに来てるんだけどね。
あれから二年。僕は十六に、ユシュアさんは二十歳になった。
旅の資金を貯める為に、ユシュアさんは昔の理学療法士の知識を生かしてリハビリの治療院をやったり、呼ばれれば魔物退治に出かけたりしていっぱい働いた。
僕はユシュアさんと一緒に住んで毎日お城に通い、読み書きを習ったりしながら動物の世話をするお仕事をもらった。言葉がわかるからとても重宝がられた。
生活するにもお金がいるので、思ったより長くかかってしまったが、やっとしばらく旅に出られるくらいのお金が溜まった。
お金の心配などしなくても出してやるのにと王様は言ってくれた。だけど、やはり人に頼る事無く、自分達でなんとかしないと将来心配だし。それに何かとお姫様やリンドさん、双子には助けてもらう事が多かった。何だかんだで僕達はこの世界の事をあまり知らないままだったから。
育った巣にルイドに連れて行ってもらった時、お母さんは新しい卵を抱いていた。半年程で孵るから、今頃は可愛い弟か妹のお世話に大忙しだろう。僕の長い髪を大事に大事にしてくれてたのが嬉しくて、ちょっと泣いちゃったよ。
ルイドは今年の繁殖期に崖に帰った。あれから半年。無事に卵が孵ってパパになってるかな?
「いいか、ちゃんと食事は抜かずに食べるんだぞ」
リンドさん、まるっきりお父さんみたいになってるね。大丈夫、もう貧血で倒れたりしないよ。背だって少しは……ううっ、ほんの少しだけど大きくなったし、靴だって嫌がらずに履いて歩けるようになったし。結構大人になったんだからね。
「知らない人に声を掛けられてもついて行っちゃ駄目だよ」
「そうそう。ちゃんと肌を隠してね。無意識に誘惑しちゃうんだから」
マルクさん、ラルクさん……何ですかそれは。
「大丈夫よね。ユシュア君が守ってくれるから。あ~いいなぁ。私もまた旅に出たいわぁ」
お姫様、あなた跡継ぎとして認定されたんでしょう? 駄目ですよフラフラしてちゃ。早くいい人見つけて王様に孫を見せてあげてください。
「にーちゃ、無理、ダメ。わかる?」
ジンデさんはこの頃いっぱい喋れる様になった。お姫様の正式な従者として引き取られ、お城でもとても可愛がられている。
「嫌になったら何時でも帰って来るんだよ。おい、ユシュア。この子を泣かせる様な事があったら僕が許さないぞ」
フィラン王子は、まだ僕に対するのとユシュアさんに対するのと喋り方が全然違うねぇ。心配しなくても僕は泣かされたりしないから。
「ああ、そうだ。キノアには寄るでしょ?」
お姫様が言うのに、ユシュアさんが頷く。
「ええ。アトス王子の様子を見てきます。少し右手が動く様になったと手紙をいただきました。残念ですね、もう少し早くに気がついていれば立てる位になっていたかも知れないのですが」
落馬で背骨を傷めた事が原因の全身の麻痺でも、片手が動く事を知ったユシュアさんはリハビリを勧めた。この世界では治しようも無かったのだが、寝たきりにせずにもっと早くに適切な訓練をしていれば筋力の低下を抑えられたかもという事だった。交通事故などで不随になった人でも、訓練しだいで歩けるようになる。少しでもと方法を王室医師に教えて毎日訓練した結果、右の手も少し上がる様になったとのこと。生きる気力も沸いて、少し元気になったみたい。
「兄上に半年したら帰ると伝えてくれ」
「わかった。帰ったら、訓練とマッサージを毎日してあげてくれ」
「ああ」
何だかんだでフィランさんとユシュアさんは仲いいんだけどね。フィランさん曰く、理由は僕の好きな人は弟と同じだからだそうだ。
……小姑か、あんたは……僕の婿ですか、ユシュアさんは。
一人ずつハグしてお別れの挨拶をした。
「リンドさん、泣かないよね?」
「お、おお。もっ、勿論だっ」
泣いてるよ……いつまで経っても涙腺の弱い人だ。またいきなり追いかけて来そうで怖いよ。
「私がよーく見張ってますから。シスは安心して」
マルクさん。ふふふ、知ってるよぉ。もう既にリンドさんの嫁状態だよね。しかも尻に敷くタイプだとみた。幸せになってね。
「行こう。竜馬が早くしろって騒いでるよ」
「それでは、行ってきます」
「皆、元気でね!」
「絶対に帰って来るんだよ!」
手を振ってお別れ。
僕達は旅に出る。何年かかるかわからないけど、海を越え、世界中を見てまわるんだ。
大翼鳥の雄は旅に出る。それと同じ。
僕には大翼鳥みたいに翼は無いけれど、大好きな人と一緒なら何処にだって行ける。何処に行ってもきっと笑っていられる。
これが本当の巣立ちなのかもしれない。
「おーい! シスーっ!」
トトイのお城を離れてしばらくして声が掛かった。
ん? 空から?
「お、お兄ちゃん?」
なぜか崖に帰ったはずのルイドがいた。
「置いてけぼりは酷いぞ」
「だって、つがいは……」
「ふふん、無事卵か孵ったぞ! 俺はお父さんだからな」
すっごい得意げに言ってますけど。
「おめでとう! すごいじゃない」
「そういうワケで俺も旅に出るから」
むう……そうだった。大翼鳥の雄は卵か無事孵ったら旅に出るんだ。
嫌でももう離してあげない、一緒に行こうって前に言った気がする。
「ユシュアさん、ルイドも一緒に行く気満々だけど。どうしよう?」
「いいじゃない。賑やかで」
二人っきりの時間が減っちゃうけど……ま、いいか。
「俺に乗れば海だって越えられるぞ」
「二人も?」
「おおう。もういっちょ前の大人だからな」
そうだね。二年で一回りは大きくなって成熟した大人の大翼鳥になったからね。綺麗な真っ白の羽根は変わらないけど、顔つきもちょっと大人っぽくなったかな?
そして僕達は旅に出た。
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どんな事が待っているかは……わからない。
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