僕に翼があったなら

まりの

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全てを一つに

嫌われてしまうといい

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 もうすぐお姫様達が帰って来るって、マルクさんとジンデさんが迎えに行った。色々報告もあるみたいだし、二人はとっても嬉しそう。
 念のためリンドさんは僕の傍にいてくれるし、ルイドもいる。今日は大丈夫みたいと思ってたら……甘かった。
 ちょっと散歩して、ルイドの羽根をふかふかしてると、体がふわふわしてきた。
 まずいな、またおかしくなりそう。
「シスひょっとしてまた……?」
 リンドさんは気がついたみたい。
「ルイド、僕が変になったらつついてもいいから止めてね」
「え? 何それ」
 お姫様まだかな。やっぱりまだ外に出ちゃいけなかったかな。
 何とか意識のはっきりしてる内に、部屋に戻って……そう思ったけど、ぼうっとする間も無く体が動かいう事をきかなくなった。
 段々と魔法の効きが強くなって来たのかもしれない。

 『おいで、おいで。早く……』

 声も段々はっきりして来た。
 ああ、駄目だ。足が勝手に歩く。お日様の方向と逆に。
「行ったら駄目だ!」
 僕を止めようとリンドさんが掴まえたが、自分でもびっくりするくらいの力でそれを振り切った。どんっと突き飛ばしてリンドさんを倒すと足は止まらずに動き続ける。
「お兄ちゃん、シスを止めてくれ!」
 リンドさんの声が聞こえる。
 ルイドが一旦飛び上がったのか、僕の目の前に降りて羽根を広げた。
とっても大きいから白い壁ができたみたい。
 お兄ちゃんまで傷付けたくないのに、僕の体はそれを退けようと蹴っ飛ばす。お願い、つついてでもいいから止めて。
「シス、何やってんだよ!?」
 僕にもわからないよ!
 リンドさんが走ってきてまた僕を眠らせようとしたけど、一瞬早くかわしてしまった。いつもはあんなにトロいのが、こんなに俊敏に動かなくてもいいのに。
 ルイドが僕の服の裾を咥えて止めてるけど、その嘴をばしばし叩いて離す。痛いね、ゴメンなさいお兄ちゃん!
「シスは操られてるんだ。行かせちゃ駄目だ!」
 ルイドがふわっと舞い上がって僕の前から消えたと思ったら、上から獲物を獲る時みたいに足で僕を掴んで、そのまま地面に倒した。
 大きな足は枷の様に僕を地面に繋ぎとめる。少し爪が食い込んで痛いけど、逃れようとする体は抵抗をやめない。
「すまん、こうでもしないと……」
 いいの。ありがとう。痛くてもいいからこうやって押さえてて。

 『まったく、皆で邪魔をするね。……そうだ。いい事を思いついたよ』

 頭の中に響く声に笑みが篭った気がする。
 もがいてた体がぴたりと止まった。でもまだ自由は利かない。何だかとても嫌な予感がする。
 ああっ、やっぱり!
 また手の感触が。前より激しくいきなり股間を鷲掴みされた。
 びくっとしたけど、やんわり責められるよりは感じなかった。これなら耐えられるかなと思ったけど、次の瞬間には温かい湿ったものの感触が僕を包んだ。
 え? この感じ……何?
 水っぽい、温かいものがぬるぬるって滑る。この感じは舌?
 咥えられてる? 舐められてる?
「シス?」
 暴れるのをやめた僕からルイドが足を離したけど……よりによってお兄ちゃんの目の前で!
 やっぱり駄目だ、マルクさん。仕方ないって思っても、他の人やルイドを傷付けるよりはマシだってわかってても耐えられないよ。
 少しづつ体が熱くなってくるのがわかる。ゾクゾクするような、どうしようもなく気持ちいいのが強くなってくる。見られてるのわかってても、昂ぶっていくこの身体。
「はぁっ……」
 熱く湿った息が漏れる。
 固くなってくのがわかる。ちゅぽって舐められる度、軽く吸い上げられる度に、どうしようもなく気持ちよくて。
「あっ、あぁん」
 声が裏返る。
 執拗に一番感じる部分を舐められて、あっという間にギリギリまで追い詰められて、もう少しで――――。
 突然見えない愛撫が消えた。
 そんなっ……こんな状態で放置って!
 切迫したものが焦らされて、されてる最中よりも辛い。出したいのに、もう見られててもいいからせめて……お願い。

 『恥ずかしい姿を皆に見せてあげなさい。嫌われてしまうといいよ』

 酷い……こんなの。
 僕の体は勝手に動いて、手が自分のズボンの紐を解く。
 ギンギンに張り詰めてる物が顔を出すのがわかった。
「シス……お前……」
 ルイドが信じられない物を見る目で僕を見てる中、僕の手は自分自身を慰める様に動きはじめる。
「ん、んんっ」
 情けなくて、恥ずかしくて、でも切羽詰まってて。この手の動きがもどかしくて……腰が浮いて揺れる。
「待たせてゴメンなさい。あらシスもいるのね」
 近づいて来るのはお姫様の声。
「あ、にーちゃ」
 ジンデさんも! イヤ、こんな姿を絶対に見られたく無い!
「来ないで下さい姫様!」
「えっ?」
 リンドさんが止めてくれたみたいだけど、一瞬お姫様と目が合った。でも手も腰も動きが止まらない。あああ、もう、もう駄目……。
「見ないでやってくれ!」
 ルイドが羽根を広げて僕を隠すように包んで身を屈めてくれた。
「ん……ああっ!」
 白い羽根のカーテンで覆われた中で、僕は声を上げて放った。

 いつから自分の体が動く様になってたのかもわからない。
 達してしまった直後はもう身体は自由になってた。ひょっとしたらもっと早くに解放されてたのかもしれない。だったら自分で……。
 ルイドはあれから何も言わない。
 ジンデさんも僕と目を合わせない。他の皆も黙ったまんまで、どこか余所余所しく感じる。僕は全員の前で醜態を晒したのだ。
「……言ったでしょ? 君のせいじゃ無いから……」
 マルクさんが言ってくれたが、多分最後の方は自分でやってたという自覚があるだけに気まずい。
 ラルクさんとジンデさんにルイドを見ててもらい、帰って来たお姫様とマルクさん、リンドさんと僕の四人で宿で話をした。
「まったく酷い術だわ。最悪なのが他人では解けないのよ、これ」
「そんな……」
 絶望の声を上げたのは誰だっただろう。マルクさんかリンドさんか。僕かもしれない。助かるかもと思っていた望みは早々に絶たれた。
「色々調べてみたら、犯人は王子に間違いないわ。城に乗り込むつもりで行ったんだけど、残念ながら本人に会う事は出来なかった」
 お姫様はそこまでやってくれてたんだ。
「でもね、行く途中で鳥が説明してくれたわ。シスとお兄ちゃんを襲った灰色の鳥。彼もすごく悩んでるのよ、王子を止めてって」
 あの大翼鳥が……。
「鳥との約束で詳しい事は話せないけど、何があってもシスを王子の手に渡しはしないからね。絶対に会ってはいけない相手なの」
 秘密めいたお姫様の言い方に疑問は残ったが、約束が大事なのは身に染みてわかっているから。
「……でもこのままじゃ……」
 リンドさんが苦々しく言った。僕もだけど、他の人達の精神的にも辛いと思う。本当にいっそ、さっきの声じゃないけど嫌われてしまったら楽なのかもしれない。でも、こんな事言ったらまたマルクさんに泣かれるし。
「盗られた髪を取り戻さない限り術は解けない。でもラルクと街に行って術を跳ね返す道具を買ってきたから」
 そう言って、お姫様は掛けてた鞄からキラキラ光る物を出した。
「災難よけの鏡よ。小さいけど私の魔力をこめておいたわ」
「おお、さすがは姫様」
 紐のついた小さな鏡を首から掛けてもらった。
 わあ、すごく嬉しい。でも……。
「もう少し早かったら良かったのにね」
 その一言が胸に突き刺さった。
 既に、僕は色々と失ってしまった。
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