僕に翼があったなら

まりの

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全てを一つに

水辺の出会い

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 新しい旅は歩き旅。荷物は竜馬に載せて引っ張って行く。
 かさかさ、って爪を鳴らしながら体をゆさゆさ揺すって歩くお兄ちゃんは、動きが面白くて可愛い。大翼鳥は歩くのはそんなに得意じゃないけど、大きいから意外と早い。
「ルイド、無理しちゃ駄目だよ」
「絶対早くちゃんと飛べる様になってやるっ」
 花も咲いてる緑の草原の中の道は、長閑で風が気持ちいい。でも頭がちょっと暑い。髪が見えないように頭に布を巻いてもらって……ターバンっていうんだったっけ? みたいな格好になっちゃってるから。
「そういうのも似合うよ」
「うなじが見えて心臓に悪いから首も隠しておいて」
 暑いのにぃ。なんでうなじが見えると心臓に悪いのかはわからないのでお断りしておいた。
 リンドさんと、それぞれ竜馬の手綱を引いてる双子は、何だかお疲れなんだろうか、そろりそろりと歩いてる様に見える。
「どうしたの? あんまり元気ないね」
「ん……寝不足なだけ」
「ちょっと腰が痛くて」
 寝不足なんだ。色々心配掛けちゃったしな。でもなんで腰痛いの? 皆揃って転んだのって訊いたら、何となく誤魔化された。
「ねえ、ついて来てる人って言ってたでしょ? 誰?」
「……姫様」
 あ、そういえば双子がここにいるのに、お姫様がいないのは不思議だったんだよね。聞くと途中の村で置いてきちゃったらしい。酷いなぁ。
「ルイドがいいって言ってるし、僕ももう怒ってないからって言いたかったのに」
「ほら、鳥やら王子やら色々と問題もあるのに、その上に姫様のお守りまでとなると厄介だし」
 厄介って……酷い事言われてますよぉ、お姫様。
 ユシュアさんと別れた村からゆっくりノンビリ歩いてるけど、灰色の大翼鳥も王子の弓矢も何事も無く進んで、もうすぐ日が暮れる。今日は野原でテントの野宿になるだろう。
 さっき野原にいたキツネみたいな動物がこの先に泉があるって言ってたから、そこまでがんばろうという事になった。
「どうしてシスは動物の言葉がわかるんだろう」
 ラルクさんが不思議そうに言ったけど、僕にもわからない。便利といえば便利なんだけど。ルイドもうんうんって頷いてる。僕の言葉が通じたから食べられなくて済んだんだったよね。
「きっと誰かが昔シスに魔法をかけたのですよ」
 マルクさんがちょっと意味深に笑った。
 魔法かぁ。そういえばお姫様は魔法が得意だったよね。ルイドに人間の言葉がわかるように魔法をかけたんだから、他の誰かにも僕と同じ様に、動物の言葉がわかるように出来るんじゃないのかな? 皆にわかったら素敵なのにね。
「水のニオイがしてきた」
 ルイドと竜馬達の足がちょっと速くなった。
 トトイでは水のあるところには人が住んでたけど、潤ってるこの国ではわりと普通にあるんだね。
 泉が見えて来たとき、先客がいるのに気がついた。
 水辺の傍の木に竜馬が繋いである。
 髪の長い、背の高い男の人が立っていた。
 泉に足元の石ころを拾って投げて、手を叩いている。わっかに波紋が広がるのが面白かったのかな? 何かのおまじないなのかな?
「変わった人だね」
 薄茶色の髪に褐色の肌。手足も長いし肩幅も広くてとてもがっしりした強そうな人。
「こんにちは」
 声を掛けると、その人が振り返った。優しげな顔は、驚いたのか紫の綺麗な色の目を見開いてる。
「驚かせてすまん。泉で水を汲みたいのだが」
 リンドさんが進み出ると、何も言わずに男の人が後ずさった。
 まあ、誰のものでも無い泉だから、遠慮する事も無いだろう。ルイドも喉が渇いてたのか、双子が竜馬の背中から水を汲む器を出す前に、男の人の前を横切って、とととっと水辺に向かった。
 じいっとその人は水を飲んでるルイドを見てる。珍しいよね、確かにこんなに人の近くで平気にしてる大翼鳥なんて。
「トリさん……」
 男の人はいきなりルイドの首にがしっと抱きついた。ええっ、何?
「ぎゃ~っ! 何だぁこいつ!?」
 頬をすりつけてナデナデしてる所をみると、悪意は無いようで、純粋に好きってわかるんだけど、ルイドが怖がってじたばたしてる。
「あのっ、お兄ちゃん怪我してるからあまり乱暴にしないであげて」
 僕が慌てて駆け寄ると、その人はルイドから手を離して僕の方を見た。思いきり見られてるけど、僕はルイドほど珍しくは無いと思うよ?
 なに? 何か嬉しそうにニッコリ笑ったね。
 そして、次の瞬間には今度は僕ががっしり捕まってた。
「え?」
 突然ナニっ? ぐえぇ、すっごい力。
 ってか、ルイドと同じですりすりナデナデされてるんですがっ!
「こらっ! 貴様何をするっ!」
「シスを放せっ!」
 リンドさんと双子が引き離そうと必死になってる。お兄ちゃんも男の人をつつきまわしてる。
「イタタイっ」
 お尻をつつかれて、悲鳴を上げて男の人が僕を放した。
 ぷうっと頬を膨らませて、紫の綺麗な目に涙を溜めてるのを見たら、なんだか違和感がじわじわと込み上げてきた。
「かわい、かわいする、ダメ?」
 こてん、と首を傾げてたどたどしい言葉で訊かれても。
 えっとぉ……何と答えていいんでしょうか。この人、すごく立派な大人に見えるけど、ちっちゃな子供みたい。
「ああ、ひょっとしてこの方は『天の子』なのでは?」
 マルクさんとラルクさんが肩を竦めた。
「そうみたいだな。だったら警戒しなくていいな。私はまた王子の手の者では無いかと肝を冷やしたぞ」
 リンドさんもほっとしたみたいに納得してる。だけど『天の子』って何?
 マルクさんの説明では、トトイでは体や知能に障害がある人の事をそういうらしい。神様に気に入られて、神様の所に色々預けたまま生まれて来ちゃったからなんだって。そういう考え方って何か素敵。
「君は一人? 誰か連れがいるのかな?」
「んーと……」
 リンドさんの言葉がよくわからなかったのか、その人は首を傾げただけだった。大きいのに何だか可愛いと思う僕って変? さっき抱っこされた時も力が強くてびっくりしただけで、そんなに怖いと思わなかったし。
「んー、ダメ?」
 ルイドを指差してまた首をこてん。触りたいみたいだね。
「怖い人じゃないんだって」
「ならいいけど……」
 お兄ちゃんも雰囲気で何かわかったみたい。元々ルイドは世話好きで小さい子が好きみたい。今度はルイドから擦り寄って行った。
「優しくナデナデしてあげてね」
「ん!」
 わあ、すっごい嬉しそう。
 皆がテントの用意をしてる横で、ルイドと戯れてるその男の人を微笑ましく見てたら、遠くから竜馬の駆ける足音が近づいて来た。
「あ、いたいた。ジンデ! 先に一人で行っちゃ迷子に……」
 後ろから高めの声が掛かった。
 振り返ると、帽子を目深に被った人が竜馬から飛び降りた。背丈は僕と同じくらい。剣を腰に下げて、皮のズボンを履いてる。男の子?
「ああっ! あんた達っ!」
 男の子が僕達の方を見て、驚いた様に声を上げた。
「知り合い?」
 リンドさん達は揃って首を振った。
 ルイドをナデナデしてた男の人が、すごく嬉しそうに笑ってるのをみると連れなんだね。
「誰?」
 この大きな子供みたいな人じゃないけど、皆が首を傾げると、男の子はつかつかと近寄ってきて、がばっと帽子を脱いだ。
「この顔を見忘れたとは言わせないわよ」
 帽子から溢れた黒い長い髪。
「げっ!」
「フレネイア様……」
 わあ、お姫様だぁ。
 早々に追いつかれてるじゃん。
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