僕に翼があったなら

まりの

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旅の空

きっと上手く行く

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 色んな事が頭の中をぐるぐるしてて眠れない。
 ルイドとリンドさんの告白も、弓矢の事も、ユシュアさんと一緒にいられなくなるかもって事も。
 でも、今一番気になるのはユシュアさんにナデナデされた時に、誰を思い出しそうになったんだろうって事。それは僕にとって、多分すごくすごく大事な事なんだって思う。
 一つだけわかっているのは、いつも夢で見るあの人だという事。でも夢から覚めたら顔も名前も忘れてしまう、あの人。
 一生懸命思い出そうとすると、また苦しくなってきた。
『まだ早い』
 誰かが心の中で箱の蓋を閉めてしまう。
 また酷く頭が痛くなって枕に顔を埋めた。声を出したら折角寝てる皆を起してしまうといけないから。
「シス?」
 誰かがそっと僕の肩に手を触れた。顔を上げると、双子のどっちか……たぶんマルクさんの方だった。
「起こしちゃった? ゴメンなさい……」
「眠って無かったよ。どうしたの? また苦しいの?」
「ううん……大丈夫……」
 一応言ってみたけど、ホントは結構キツイ。それはマルクさんにはお見通しだったみたい。ラルクさんとリンドさんをうかがう様に見渡してから、そっと僕のベッドに入って来た。
「あまり思い詰めちゃ駄目だよ」
 細い指が僕の髪を梳くように撫でる。とても気持ちいい。
「大事な事……思い出しそうなの。でももう少しのところで頭が痛くなる。まだ早いって誰かに言われてるみたいに……」
 小さな小さな声でお話しする。こうやって誰かの体温が傍にあると落ち着く気がする。
「まだ早いって事は、その時が来れば思い出せるって事だよ。だから今は少し忘れてた方がいいんだよ。ね? 君が苦しむのは見たくないよ」
 そっか……そうだよね。そう言われると何だかすぅっと楽になった。言ってみるものだね。
「ねえ、シスはあの人の事本当に好きなんだね?」
「ユシュアさん?」
「うん。正直に言うとね、君が誰かに恋をしたってわかった時……私はちょっと面白くなかった。とても悲しい君の声が聞こえたから」
「悲しい?」
 僕の声が聞こえたんだ。マルクさんがそういう力があるのを知ってるから今更驚かないし、別に嫌じゃ無いけど……僕は心の中で悲しんでいたんだろうか。
「君を悲しませるなんて、どんな奴なだろうってすごく心配したけど、今はあの人なら許せる気がする。とてもいい人みたいじゃない。あの人もシスの事とっても好きだよ。なのに何故、叶わない恋だって思うの? 何が悲しいの?」
「うーん……それは……」
 どうしようかと思ったけど、眠くもならないし後の二人も寝てるみたいだから、二人でベッドの上に座って、ユシュアさんの事を話した。
 夜になったら変身しちゃうから触れられない事、その呪いを解くために色んな事をしながら旅をしてる事、運命の人を探してるという事。
「……僕がその運命の人なら良かったのにって思ったら悲しくなって……今は傍にいるだけで幸せだけど、その人が見つかったときにはお別れしなきゃいけないかもって……だから」
 窓から差し込む月の光で、ぼんやり浮かんだマルクさんの綺麗な顔が少し悲しげに見えた。
「シス、ぎゅってしていい?」
「うん。して」
 優しくぎゅってされると、ほっとする。何ていうのかな、ルイドやお母さんといる時みたいな感じ。
「やっぱり許せないかも。可愛い君をこんなに悩ませるなんて」
「でも仕方ないもん……」
「わかってるよ。邪魔したりしない。大好きだからね、シス。私もラルクも恋とは違って君が好き。言ったでしょう? お兄ちゃんだから。それにね、何て言ったらいいのかな、私はいつか全てが上手く行くような気がする。不思議とね」
 ふふっと小さな声でマルクさんが笑った。
「慰めじゃないけど……一つだけ教えてあげる。あの人……前はシスと同じ世界の人だったのかも。似てるよ、君達は」
「え?」
「だから諦めないで。今すぐでなくても、きっと上手く行くよ。大事な記憶も時が来れば思い出せる。本当に君があの人の運命の人かもしれないのだから」
 嘘でも嬉しい。もしそうなら……ありがとう、マルクさん。心のつかえがほんの少し軽くなった様な気がする。
 その後も少しお話してて、知らない間に僕は眠ってたみたい。
 寝てると思ってた後の二人も実は起きてて、ずっと聞き耳を立てて、リンドさんなんか泣いてた事、ユシュアさんとルイドもあんな事があったからほとんど寝てない事を知ったのは朝になってからだった。


 皆揃って寝不足の朝。
 正直食欲も無いけど、とりあえず朝食に食堂に行くと、ユシュアさんが待ってた。笑顔が眩しいよぉ。
「あれから変わった事は無かった?」
「うん。そっちは大丈夫だった?」
「何も無かったよ。お兄さんはもう少し寝かせておいてあげて」
 何時もは日暮れと共に眠くなって、日が昇ると同時に起きるルイドが夜寝ないほど緊張してたんだね。ゴメンね、みんな……。
 昨夜宿のおばさんに聞いた弓矢の犯人らしき人の正体を話すと、ユシュアさんの笑顔が消えた。
 そしてやっぱりリンドさん達と同じ事を言った。
「この国から出た方がいいかもな」
「……私達もそう言ったのだが……」
 リンドさんが困ったように僕の方を見る。
「シスはあなたと離れたくないんですよ」
 マルクさんが僕の代わりに言ってくれた。
「オレだって……でもシスを危ない目に遭わせるのはもっと嫌だ。出来ればトトイに連れて帰ってやって欲しい」
「そんなのって……!」
 せっかく一緒に居たい、諦めないって思ったばっかりなのに。
「ずっとじゃ無くてもいいから。きっと向こうも諦めると思うんだ」
「……でも……」
 うう、なんか涙出そうになってきた。
 皆に迷惑を掛けないためには、そうすれば一番いいんだってわかってるけど、でもでも……いま離れたらもう二度と会え無い気がする。
 もしもその間に探してる人がみつかったら?
「な、泣かないでくれよ」
 ユシュアさんがすごく慌ててる。
「泣いてないもんっ」
「思いきり泣いてる顔だよ、シス」
 双子が呆れている。
 僕泣いてなんかいないのに……わあん、やっぱり涙出てるぅ。
「じゃあ、こうしよう。皆でシスを守るって言うのはどう?」
 リンドさんが意見を出した。
「ユシュア君の邪魔はしない。私達は離れてついて行くから」
「見守る会ですからね。あと会員はお兄ちゃんもいるし」
 それは、このまま一緒にいてもいいって事なの?

 でも、見守る会って何?
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