36 / 86
旅の空
朝の水浴び
しおりを挟む匠君、僕ね、君に秘密にしてた事があったんだよ。
同じクラスじゃないのに、いつも休み時間も帰るのも一緒だったでしょ。最初の頃は女の子達に色々言われたんだよ。羨ましいって。ズルイって。いつからか言われなくなって、当たり前みたいに一緒にいたけど、ちょっと恥ずかしかった。
後ね、他の男子もあんまり相手にしてくれなかった。君が休みだった時、勇気を出して他の人に一緒にお弁当食べようって言ったら、
「ごめんな、本当は一緒したいけど、後で小早川に叱られるから」
そう言われた。悲しくて、少し恨んだりしたんだよ。
旅行で一緒にお風呂に入ったよね。あの時、同じ歳とは思えない男らしい体を見て、僕すごく羨ましかったし、ちょっと嫉妬した。なのに君は
「他の奴に晶の体見せちゃ駄目だよ」
そう言ったよね。そんなに僕は情けない体だったんだろうか。しばらく落ち込んだんだよ。
君の行動と言葉で、喜んだり悲しんだり、結構大変だったんだから。それが僕の秘密。
夢から覚める間際のふわふわした時間、僕はどうしていつも彼の夢ばかり見るんだろうと思う。他にもいっぱい思い出がある筈なのに。
でも完全に目が覚めたら名前も顔も忘れてしまう。とてもとても大事な事なのに、逆に他の事は時々はっきり思い出せるのに。
「シス、朝だぞ」
頭をかしかしってされて目がさめた。
「お兄ちゃんおはよ」
「寝ぼすけだな、お前は。もうとっくに日が昇ってるんだぞ。ほら、赤いの、忙しそうにしてるぞ」
赤いの……ああ、ユシュアさんだね。そういえば一緒だったんだ。
次の村に行く前に、見つけた小さな水辺の側で昨夜は休んだ。珍しく人が住んでない水辺。雨が降った数日だけしか水が無いからだよってユシュアさんが言ってた。そういえば先昨日の朝、遠くの空が黒かった。この辺に雨が降ったんだね。
年に数回しか降らない雨で、土の中で眠った草が慌てて目を覚ましたのか、うっすら緑に覆われた地面は足の裏に気持ちいい。
ルイドの羽根の中から出て、ユシュアさんのテントの方に走る。
「おはよう。よく眠れた?」
素敵な声にドキッとする。
ユシュアさんの赤い髪が朝の光に透けてとても綺麗。
「朝ごはん作るから待ってて」
「あ、僕もお手伝いする!」
いつもお世話になってばかりじゃ、いらないって言われそうで怖いもん。でも悲しい事に、僕料理もした事ないし何も出来無い。
「じゃあ、水を汲んできてくれる?」
「うん!」
御用を言ってもらうと嬉しい。
渡された皮の大きな袋を持って水を入れる。うわ、重いっ!
「わわわっ!」
ばしゃん。ううっ、僕ってどうしてこうドジなんだろうか。自分がはまってどうするんだ。しかも頭から。
ルイドが向こう岸で嘴を大きく開けて首を振ってる。笑ってるね。
ユシュアさんが慌てて走って来た。
「大丈夫か?」
「うん……ゴメンなさい」
浅いから溺れる心配は無いけど、びちゃびちゃ。とりあえず水の袋をユシュアさんに渡す。
何? ぼうっと僕の事見てる。少し顔赤いよ。
「す……透けて……ぴったり……か、髪が……」
何かブツブツ呟いて、くるりと背を向けたユシュアさんがフラフラと行ってしまった。ううっ、きっと何てドジなんだって呆れてるんだ。
わーん、見捨てないで。他で頑張るから!
大慌てで走って、次の御用を言ってくれるかなと思って側に行くと、ユシュアさんはぷいっと顔を背けてしまった。
「お、怒ってる?」
「怒ってないが……そんな姿を見せないでくれ……裸よりヤバイ」
がーん。
そうだよね、こんなのカッコ悪いよね。しくしく。
「服、絞って乾かすから。その間オレの着るかテントにでも入ってて」
「はあい……」
仕方なく脱ぐけど、水で張り付いててなかなか脱げない。
「全く、世話が焼ける弟だな」
「お兄ちゃんありがとね」
ルイドに手伝ってもらって何とか脱いで、ユシュアさんの所に聞きに行った。いいよね、一瞬だしこのままで。
「どこに干せばいい?」
「うっ……!」
突然、鼻を押さえてユシュアさんがテントの方に走って行った。何か赤いものが見えた気がするけど、大丈夫だったんだろうか。
作ってもらった朝ごはんを食べて、服を借りて、どよーんと落ち込んでると、ルイドが水に入ってバシャバシャやってるのが見えた。気持ち良さそうだね、お兄ちゃん。
いいなぁ、僕も一緒に遊びたいなぁ。でもユシュアさんに叱られそうだし。そういえば何で鼻血出してたんだろう。
コッチに歩いてくるユシュアさんが目に入った。良かった、もう怒ってないみたい。でも何だか恥ずかしくて、今度は僕が目を逸らしてしまった。
「お兄さん楽しそうだよ。もう服も乾くから、お風呂の代わりに一緒に水浴びしてくれば? その……オレ、絶対見ないから」
「いいの?」
わーい。嬉しいなぁ! 絶対見ないって言うのが気になるけど。
「ルイド! 僕も行っていい?」
「来い来い! 赤いのも一緒にどうって誘ってやれよ」
そっか。それはいい考えだ。
「お兄さん何か言ってた?」
「ユシュアさんも一緒に来いって。お風呂はいろ?」
「き、君と? オレも脱ぐの?」
「うん! すっきりしてから行こうよ」
へへへ、ちょっとね、僕、今悪い子。他の人の裸見てみたいの。変かな? よく考えたら僕の裸は結構見られてるけど、他の人のって見る機会少ないじゃない。マトモに見たのって双子と王様くらいだし。特にユシュアさんのは見てみたい。
「皆裸のほうが恥ずかしくないって言われたよ」
しばらく考え込む様に俯いて間があったが、ユシュアさんは覚悟を決めた様に顔を上げた。
「……よしっ!」
がばっとユシュアさんが服を脱ぎ捨てた。早っ! ってか待ってっ!
僕も慌てて脱いで後を追う。浅い水に一緒に飛び込むと、とっても気持ちよかった。
「生き返るな」
日の光を浴びて浮かんだユシュアさんの後姿はすごく綺麗だった。引き締まってて筋肉ついてて。背中の線が素敵。十八歳で、僕と四つしか違わないのにこの差は何だろう。嫉妬してしまう。
僕、じっと見惚れてたと思う。突然、ばしゃっと水を掛けられた。ルイドの仕業だった。
「何ぼけっとしてんだ?」
「ん……ユシュアさん素敵だよね。僕ってこんな白くてへにょへにょだからみっともないなと思って……」
「何言ってんだ。シスは綺麗だぞ」
「慰めてくれてありがとう、ルイド。あ、そうだ。ユシュアさんのアレ、つついちゃ駄目だよ」
「……うん、我慢する」
ユシュアさんがこっちも向かずに尋ねた。
「何話してたの?」
「ユシュアさんのをつついちゃ駄目だよって言ってたの」
「はっ! そう言えばそんな話を……」
ユシュアさんは慌てて前を押さえながら沈んでしまった。
もっと裸見たかったのに。ってか前も見たいのに。絶対こっち向いてくれないんだね。
「シス、君の体、他の人に見せちゃだめだよ」
がーん。
地味に沈んだ僕だった。
そういえば、昔もそんな事言われた事ある気がする。
『他の奴に体見せちゃ駄目だよ』
あの人に。夢の中の彼に。
1
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
倉橋 玲
BL
**完結!**
スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。
金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。
従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。
宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be
※この作品は他サイトでも公開されています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心
たかつじ楓
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。
幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。
人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。
彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。
しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。
命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。
一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。
拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。
王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。
人見知り伯爵の運命の番
紅林
BL
幼少期に重い病気にかかり大切に育てられてきたハルミトンは極度の人見知りだ。病気の特効薬が開発され病気が治り、ベットから出られるようになった今でも家族以外とまともに喋ることは出来ない。
伯爵である父はハルミトンが18歳になると同時に息を引き取りそれを追うように母も亡くなった。伯爵位を継いだハルミトンは家の倉庫で見つけた銀色の仮面を被らなければ人前に出ることは出来なくなっていた
そんな時に現れたのが獣王国の若き国王であった
【完結】【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~
ちゃっぷす
BL
Ωであることを隠して生きてきた少年薬師、エディ。
両親を亡くしてからは家業の薬屋を継ぎ、細々と生活していた。
しかしとうとう家計が回らなくなり、もっと稼げる仕事に転職することを決意する。
職探しをしていたエディは、β男性対象で募集しているメイドの求人を見つけた。
エディはβと偽り、侯爵家のメイドになったのだが、お仕えする侯爵令息が極度のΩ嫌いだった――!!
※※※※
ご注意ください。
以下のカップリングで苦手なものがある方は引き返してください。
※※※※
攻め主人公(α)×主人公(Ω)
執事(β)×主人公(Ω)
執事(β)×攻め主人公(α)
攻め主人公(α)×主人公(Ω)+執事(β)(愛撫のみ)
モブおじ(二人)×攻め主人公(α)
猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…
えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。
キスから始める恋の話
紫紺(紗子)
BL
「退屈だし、キスが下手」
ある日、僕は付き合い始めたばかりの彼女にフラれてしまった。
「仕方ないなあ。俺が教えてやるよ」
泣きついた先は大学時代の先輩。ネクタイごと胸ぐらをつかまれた僕は、長くて深いキスを食らってしまう。
その日から、先輩との微妙な距離と力関係が始まった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる