僕に翼があったなら

まりの

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旅の空

朝の水浴び

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 匠君、僕ね、君に秘密にしてた事があったんだよ。
 同じクラスじゃないのに、いつも休み時間も帰るのも一緒だったでしょ。最初の頃は女の子達に色々言われたんだよ。羨ましいって。ズルイって。いつからか言われなくなって、当たり前みたいに一緒にいたけど、ちょっと恥ずかしかった。
 後ね、他の男子もあんまり相手にしてくれなかった。君が休みだった時、勇気を出して他の人に一緒にお弁当食べようって言ったら、
「ごめんな、本当は一緒したいけど、後で小早川に叱られるから」
 そう言われた。悲しくて、少し恨んだりしたんだよ。
 旅行で一緒にお風呂に入ったよね。あの時、同じ歳とは思えない男らしい体を見て、僕すごく羨ましかったし、ちょっと嫉妬した。なのに君は
「他の奴に晶の体見せちゃ駄目だよ」
 そう言ったよね。そんなに僕は情けない体だったんだろうか。しばらく落ち込んだんだよ。
 君の行動と言葉で、喜んだり悲しんだり、結構大変だったんだから。それが僕の秘密。

 夢から覚める間際のふわふわした時間、僕はどうしていつも彼の夢ばかり見るんだろうと思う。他にもいっぱい思い出がある筈なのに。
 でも完全に目が覚めたら名前も顔も忘れてしまう。とてもとても大事な事なのに、逆に他の事は時々はっきり思い出せるのに。



「シス、朝だぞ」
 頭をかしかしってされて目がさめた。
「お兄ちゃんおはよ」
「寝ぼすけだな、お前は。もうとっくに日が昇ってるんだぞ。ほら、赤いの、忙しそうにしてるぞ」
 赤いの……ああ、ユシュアさんだね。そういえば一緒だったんだ。
 次の村に行く前に、見つけた小さな水辺の側で昨夜は休んだ。珍しく人が住んでない水辺。雨が降った数日だけしか水が無いからだよってユシュアさんが言ってた。そういえば先昨日の朝、遠くの空が黒かった。この辺に雨が降ったんだね。
 年に数回しか降らない雨で、土の中で眠った草が慌てて目を覚ましたのか、うっすら緑に覆われた地面は足の裏に気持ちいい。
 ルイドの羽根の中から出て、ユシュアさんのテントの方に走る。
「おはよう。よく眠れた?」
 素敵な声にドキッとする。
 ユシュアさんの赤い髪が朝の光に透けてとても綺麗。
「朝ごはん作るから待ってて」
「あ、僕もお手伝いする!」
 いつもお世話になってばかりじゃ、いらないって言われそうで怖いもん。でも悲しい事に、僕料理もした事ないし何も出来無い。
「じゃあ、水を汲んできてくれる?」
「うん!」
 御用を言ってもらうと嬉しい。
 渡された皮の大きな袋を持って水を入れる。うわ、重いっ!
「わわわっ!」
 ばしゃん。ううっ、僕ってどうしてこうドジなんだろうか。自分がはまってどうするんだ。しかも頭から。
 ルイドが向こう岸で嘴を大きく開けて首を振ってる。笑ってるね。
 ユシュアさんが慌てて走って来た。
「大丈夫か?」
「うん……ゴメンなさい」
 浅いから溺れる心配は無いけど、びちゃびちゃ。とりあえず水の袋をユシュアさんに渡す。
 何? ぼうっと僕の事見てる。少し顔赤いよ。
「す……透けて……ぴったり……か、髪が……」
 何かブツブツ呟いて、くるりと背を向けたユシュアさんがフラフラと行ってしまった。ううっ、きっと何てドジなんだって呆れてるんだ。
 わーん、見捨てないで。他で頑張るから!
 大慌てで走って、次の御用を言ってくれるかなと思って側に行くと、ユシュアさんはぷいっと顔を背けてしまった。
「お、怒ってる?」
「怒ってないが……そんな姿を見せないでくれ……裸よりヤバイ」
 がーん。
 そうだよね、こんなのカッコ悪いよね。しくしく。
「服、絞って乾かすから。その間オレの着るかテントにでも入ってて」
「はあい……」
 仕方なく脱ぐけど、水で張り付いててなかなか脱げない。
「全く、世話が焼ける弟だな」
「お兄ちゃんありがとね」
 ルイドに手伝ってもらって何とか脱いで、ユシュアさんの所に聞きに行った。いいよね、一瞬だしこのままで。
「どこに干せばいい?」
「うっ……!」
 突然、鼻を押さえてユシュアさんがテントの方に走って行った。何か赤いものが見えた気がするけど、大丈夫だったんだろうか。

 作ってもらった朝ごはんを食べて、服を借りて、どよーんと落ち込んでると、ルイドが水に入ってバシャバシャやってるのが見えた。気持ち良さそうだね、お兄ちゃん。
 いいなぁ、僕も一緒に遊びたいなぁ。でもユシュアさんに叱られそうだし。そういえば何で鼻血出してたんだろう。
 コッチに歩いてくるユシュアさんが目に入った。良かった、もう怒ってないみたい。でも何だか恥ずかしくて、今度は僕が目を逸らしてしまった。
「お兄さん楽しそうだよ。もう服も乾くから、お風呂の代わりに一緒に水浴びしてくれば? その……オレ、絶対見ないから」
「いいの?」
 わーい。嬉しいなぁ! 絶対見ないって言うのが気になるけど。
「ルイド! 僕も行っていい?」
「来い来い! 赤いのも一緒にどうって誘ってやれよ」
 そっか。それはいい考えだ。
「お兄さん何か言ってた?」
「ユシュアさんも一緒に来いって。お風呂はいろ?」
「き、君と? オレも脱ぐの?」
「うん! すっきりしてから行こうよ」
 へへへ、ちょっとね、僕、今悪い子。他の人の裸見てみたいの。変かな? よく考えたら僕の裸は結構見られてるけど、他の人のって見る機会少ないじゃない。マトモに見たのって双子と王様くらいだし。特にユシュアさんのは見てみたい。
「皆裸のほうが恥ずかしくないって言われたよ」
 しばらく考え込む様に俯いて間があったが、ユシュアさんは覚悟を決めた様に顔を上げた。
「……よしっ!」
 がばっとユシュアさんが服を脱ぎ捨てた。早っ! ってか待ってっ!
 僕も慌てて脱いで後を追う。浅い水に一緒に飛び込むと、とっても気持ちよかった。
「生き返るな」
 日の光を浴びて浮かんだユシュアさんの後姿はすごく綺麗だった。引き締まってて筋肉ついてて。背中の線が素敵。十八歳で、僕と四つしか違わないのにこの差は何だろう。嫉妬してしまう。
 僕、じっと見惚れてたと思う。突然、ばしゃっと水を掛けられた。ルイドの仕業だった。
「何ぼけっとしてんだ?」
「ん……ユシュアさん素敵だよね。僕ってこんな白くてへにょへにょだからみっともないなと思って……」
「何言ってんだ。シスは綺麗だぞ」
「慰めてくれてありがとう、ルイド。あ、そうだ。ユシュアさんのアレ、つついちゃ駄目だよ」
「……うん、我慢する」
 ユシュアさんがこっちも向かずに尋ねた。
「何話してたの?」
「ユシュアさんのをつついちゃ駄目だよって言ってたの」
「はっ! そう言えばそんな話を……」
 ユシュアさんは慌てて前を押さえながら沈んでしまった。
 もっと裸見たかったのに。ってか前も見たいのに。絶対こっち向いてくれないんだね。
「シス、君の体、他の人に見せちゃだめだよ」
 がーん。
 地味に沈んだ僕だった。

 そういえば、昔もそんな事言われた事ある気がする。

『他の奴に体見せちゃ駄目だよ』

 あの人に。夢の中の彼に。
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